ASTD国際会議

ヒューマンバリューは、1992年からASTD国際会議へ視察ツアーを実施しています。本ホームページには、1998年からの参加報告レポートを掲載しています。

ASTD2000 概要


ASTDについて

ASTD(American Society for Training & Development=米国訓練開発協会)は、米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置く、1944年に設立された非営利団体で、約160の支部と65,000人の会員を持つ(会員には20,000を超える企業や組織の代表が含まれる)、訓練・開発・パフォーマンスに関する、世界第一の会員制組織です。
ASTDは、トレーナーやトレーニング・マネージャーたちに専門的な開発材料やサービスを提供し、職場における学習促進を援助し、世界中の政府・企業等、各種組織に属する従業員や役員たちのコンピテンス・パフォーマンス・充足感を高める手助けをすることを使命としています。


ASTD2000

今回参加した『ASTD2000(2000年度ASTD国際会議&EXPO)』は、2000年5月21日〜5月25日の間、米国テキサス州ダラスのDallas Convention Centerにおいて開催されました。
この大会は53年前に始められたもので、人的資源開発に関する世界最大の会議&EXPOとして知られています。この会議には、世界中のHRD管理者・専門家が12,000人以上出席し、EXPOには、訓練開発に携わる550社のブースが立ち並んで、世界の最新の動向がつかめます。
会議は、5日間にわたって催される約140のセッションと、29のフォーラムと、数々のイベントから成っており、プレゼンターは、ベルリッツ社、マサチューセッツ工科大学、ヒューレット・パッカード、フェデラルエクスプレス、AT&T、メリルリンチ、フォード、ファイザー等々、世界のトップ企業や大学において訓練開発に携わっている人々が中心です。


ASTD2000の参加国・参加者数

本年の参加国数と参加者数は以下の通りとなっています。

参加者総数

11,832名

一般参加者

約10,000名

EXPO出展者

2,000名弱

海外参加者

2,306名

参加国数

85カ国

国外からの参加者が多い順

カナダ:336名
韓国:171名
日本:153名
ブラジル:146名
オランダ:143名

ASTD2000の参加国・参加者数


ASTD2000の主要テーマ

ASTD2000は、次の9つのテーマを中心に展開されました。

1.キャリアディベロップメント

CAREER DEVELOPMENT

2.グローバル問題

GLOBAL ISSUES

3.ヒューマン・パフォーマンス改善

HUMAN PERFORMANCE IMPROVEMENT

4.トレーニングの測定と評価

MEASURING AND EVALUATING TRAINING AND PERFORMANCE

5.トレーニング・学習機能の管理

MANAGING THE TRAINING/LEARNING FUNCTION

6.組織開発

ORGANIZATION DEVELOPMENT

7.学習テクノロジー

LEARNIG TECHNOLOGIES

8.トレーニングの基本

TRAINING BASICS

9.職場問題

WORKPLACE ISSUES


ASTD2000のキーワード

本年のASTD大会におけるキーワードとしては以下のようなものが挙がっていました。

  • E-ラーニング(e-Learning)
  • WBT
  • リーダーシップ
  • トレーニングの効果測定(evaluation)
  • パフォーマンス・コンサルタント
  • リテンション
  • ジェネーレションX・Y
  • 信頼
  • リンクまたはネットワーキング
  • プロジェクト・マネジメント

E-ラーニングという言葉は、前回の会議では見られなかったもので、今年になって突然全てがE-ラーニング一色になってしまった印象です。会議のオープニングの事務局によるプレゼンテーションでも、セッションの中でも、またEXPOの展示物もこの言葉になっています。聞くところによると、この1年の間にケープラーンでカンファレンスがあり、そこでE-ラーニングに関する議論が行われ、皆でこの言葉を使おうと決まり諸方面に呼びかけがあったそうです。
何をE-ラーニングというのかまだ明確に定義はされていないようですが、WBT(ウエッブ・ベースド・トレーニング)のことを言っている例もあれば「WBTからE-ラーニングへ」というような使われ方もしていました。要するにインターネットを使ったラーニングを指していることは間違いがありません。EXPO会場ではE-ラーニングやWBTの展示が80%位のシェアを占めていました。大手のトレーニングファームであるDDIなどもE-ラーニングに全面的に力を入れているのが伺えました。E-ラーニングの技術的レベルは、日本と差はないというのがITに詳しい日本からの参加者の共通した認識でした。しかし、E-ラーニングの会社が新規にどんどん設立されていて、それぞれに数十億円の売上があり、中国やシンガポールにまで進出しているのを見ると、果たしてコンテンツレベルでは日本と同じレベルにあるのかは疑問だという声もありました。セッションではE-ラーニングの技術的な紹介だけでなく、これでクラスルーム(集合研修)は無くなるのかという学習環境の変化の議論や、トレーニングやラーニングの業界に会計事務所やIT関係の会社やコンサルタント会社などの参入が増えて競争相手が無数になった という認識が語られていました。
例年と今年の特徴的な違いは、リーダーシップという言葉がでてきたことです。なぜ今更リーダーシップという言葉が出てきたのかが興味深いところです。理由としては3つ考えられます。1つは各企業が継続的に成長を続けるために次世代・次々世代のリーダーを育成するニーズがでてきたことです。2つ目は、意思決定のスピードをあげ、メンバーをエナジャイズするために、企業の全ての部門や階層の至る所にリーダーが必要になってきていることでしょう。そして3つ目には、リーダーシップチームといわれるトップマネジメント層が変化に対応できずに、組織の阻害要因になってきていることがあげられると思います。そういったニーズに応えるリーダーシップ開発の考え方やプログラムが提示されていました。
昨年同様、トレーニングの効果測定というテーマが注目されていました。昨年までは効果測定をどのように考えるべきかという議論が中心で、そこに若干具体的な方法論の提示があった段階でしたが、今年は具体的な方法が提示され、事例も豊富にでてきました。トレーニングの効果を計測するのは一般的な傾向になると思われます。
イバリュエーション(測定)と同様に定着したのがパフォーマンス・コンサルタントという言葉です。3年から4年前に出始めて、今年はますます明確なデータとプロセスや具体的な方法論が提示されてきています。この動きが、米国企業内のHR部門の役割を実際に変化させている事例も紹介されていました。パフォーマンス・コンサルティングはパフォーマンス(結果・成果)にフォーカスを当てます。パフォーマンスを上げるのは人なので、人にフォーカスを当てることでパフォーマンスを出していくプロセスのことをパフォーマンスコンサルティングといいます。従来のスキルトレーニングのように単一のスキルを100%教えても、実際の応用率は30%以下しかないというデータがあります。そこでプロセスに焦点を当てて、多数の解決策を組合わせたやり方で成果を出していこうというものです。
リテンションという言葉が随所にでてくるようになりました。従業員をいかに辞めさせないように守るかという問題です。知識が人に付属している時代になると優秀な人が流出するということは企業にとって致命的なことだという認識が高まっています。これはジェネレーションXとかYといわれる新しい世代で特に問題になっていました。Xというのは22歳から35歳ぐらいをいうそうですが、ベビーブーマーとは行動や価値観が全く違っており、従来のやり方ではリテンションができなくなっているということでした。彼らは、お金だけでは動かない人たちなのでストックオプションを出すだけでは効果がなく、自分の能力が高まることなどの他の魅力を企業が提供できないと流出してしまうということです。
また、信頼という言葉が強調されるようになってきています。当たり前のことを何を今更と思われる方もいるかもしれませんが、M&Aやダウンサイジング(リストラ)を行ってきた企業は、従業員からの信頼を全く失うという事実があります。最近の学習型組織の研究グループからのデータでは、組織の中に信頼感がないと変革は成功しないし、その結果パフォーマンスも出てこないということが明らかにされています。そこで変革などのいろいろなモデルの中で信頼を形成するという要因が重要視されるようになってきています。これは綺麗事を言っているのではなく、信頼を本気で作ろうとしている傾向が注目に値すると思います。
同様に、組織の変革を成功させるには、人々のネットワーキングがうまくいっていなければならないということが明確になってきています。そして、異質なものがリンクしていくことによって新しい知識が生成されていきますので、知的資本に目を向けている企業はネットワーキングを重要な要因として考えるようになっています。
7〜8年前からリザルツやアウトカムを出すには、プロセスが大事だと言われ続けてきました。コンピテンシーが流行したのもそうですが、ここ数年こういったプロセスを管理する方法論が明確化されてきています。仕事の進め方も、部門(サイロ)を超えてパートナーシップを組んでプロジェクトチームを作りコラボレーション(協働)するようになってきています。そういった中でパフォーマンスを高めるための具体的方法論をねらっているのか、今年はプロジェクトマネジメントという言葉をよく見受けました。
以上の言葉の他に、当然ながら「変化」という言葉は、ベースとして頻繁にでてきますが、しかしここ数年に比べるとキャッチフレーズとして前面に打ち出されてはいませんでした。今回は、変化を変化させるといったニュアンスで、本当に変化を実践しようといったメッセージが出ていました。所々で「Walk the Talk」(言っていることを行っている)という言葉が見受けられました。
日本でも流行っているコンピテンシーという言葉は完全に一般用語として使用されていて、特別な言葉ではなくなっていました。従来混在していたコンピタンスという使い方は見られませんでした。各セッションの中では、その仕事を行うためのコンピテンシーを説明するのプレゼンのパターンとして一般的になっている感じがするほどでした。面白いのは、日本ではほとんど使用されていないコア・コンピテンシーという使い方が今年から多く見受けられたことです。

ASTD2000のキーワード


ASTD2000の全体的な傾向

本年のASTD大会の全体的な傾向としては、次のようなものがうかがえました。
今回は例年に比べると会議への参加者がやや少なく、基調講演に参加している人数を見ると80%から70%に減っているのではないかと思われます。
例年ですと、セッションに立ち席でも入れないケースが続出するのですが、今回はごく一部のセッションを除いて各セッションに余裕がありました。
参加者が減少したのは、開催地がダラスという観光的には何も魅力がない都市であったという理由か、ASTDのように幅広いテーマを扱うカンファレンスに対して、最近はリンケージ社が開催するようなテーマ別の数百人から2000人規模のカンファレンスが著しく増加しているために、専門的な興味を持っている人はそちらに流れているという理由によるのかもしれません。また、韓国などが従来は300人規模で来ていたのが、景気の影響で激減しているなどの理由も考えられます。
しかし、日本からの参加者は年々増加しており、各企業個別に200人位の人が来ているように感じました。また中国本土からもかなりの人数がきているようです。
EXPOの出展者は、増加の傾向にあり600社以上が参加しています。EXPOの会場を歩いている人の数は、例年よりも多い印象がありました。これはWBTに対する関心の高さによるのかもしれません。
オープニングの基調講演が始まる際には、例年ですとかなり趣向を凝らして観客を驚かすような演出(楽団入りの出し物など)があるのですが、今年はそういったものが全くなく地味にスタートしました。しかし我々参加者も、それに不自然さを感じなかったところから、ASTDに対する参加者の期待が、お祭り騒ぎではなく、コンテンツや実質的なネットワークづくりなどに変わってきていることに気づかされました。個別の会場でも、面白く派手な演出で毎年人気を呼んでいたセッションが今年は観客が減少していたようです。これは米国のトレーニング部門の置かれた状況の厳しさ(成果を出さないとアウトソーシングされて職を失う)から、成果といったパフォーマンスに結びつかないものに人々が反応しなくなっている傾向があるのかもしれません。
今回からASTDはミレニアムに向けて、イメージを変えました。従来、ASTDはアメリカ・トレーニング&デベロップメント協会という略称でしたが、今年からASTDが正式名称になりました。(法律的には従来の呼称のままです)マークも長年親しんできたトーチから、人々が協力して喜んでいるような図を表したものに変わりました。そして、キヤッチフレーズが「ASTDは人々と学習とパフォーマンスをつなぎます」(Linking People, Learning & Performance)というものです。この言葉からも分かるように、ASTDは今後、学習とパフォーマンスにフォーカスしてテーマを括っていこうとしているのが理解できます。
今回、ASTDの事務局側からのメッセージは、E-ラーニングという言葉とASTDのメンバー自らも変化しようということでした。
一昨年のワシントンDCでの大会は、会全体のメッセージ性が非常に高かったのですが、昨年のアトランタではメッセージ性を失っていました。今年はイメージチェンジを図ろうとしている意図は見えるものの、昨年大会初日に配られた全セッションのハンドアウトのCD-ROMが今年は間に合わなかったり、プログラムの背表紙タイトルが誤植になっていたり、登録者カードの参加者名がでたらめだったりというように会全体のパフォーマンスは下がっている印象を受けました。
今後ASTDがどういった人々を対象として、どのような情報やネットワークの機会を提供していくのかが問われるようになると思います。
今まで、ASTDは年々規模を拡大しながらも、マーケティングや会計や生産技術や人事労務のテーマを大会から外してきました。現在は参加者12000人を集めて、ラーニングとパフォーマンスにフォーカスをしていますが、その中でも入門レベルから専門レベルまでを幅広く扱っています。それは玉石混交の市場のようになり、ありきたりのおみやげ品を売っている商人と秘蔵されたお宝を売っている商人とが何百人もいるような状態です。参加者にとって、あまりにも多いセッションの中から新しい動向や自分に役立つ知識を見付けるのは並大抵のことではなくなっています。しかし細心の注意をしてみると、そのカオスの中に未来の動向の片鱗があったり、すばらしいベストプラクティスがでているのがASTDではないかと思います。また世界の動向のベンチマーキングをするには格好の場所として効用があるのではないでしょうか。
そういった意味で今年はやや地味なバザールの印象はありましたが、トレーニングの効果測定、パフォーマンスコンサルティングなどの確かな使える方法論がいくつか収穫でき、また自分達が行っている組織の変革やラーニングの押さえるポイントを確認できる大会だったと思います。

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