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ヒューマンバリューは、1992年からASTD国際会議へ視察ツアーを実施しています。本ホームページには、1998年からの参加報告レポートを掲載しています。
◆M203 未来に貢献する:合併、買収、縮小における「トレーニング& 開発」の役割
ダイアン・M・ディートン、フークスト・マリオン・ルーセル社 リーダーシップ/教育/開発 責任者
ジョージ・N・ファーグソン、同社 同部 上級コンサルタント
ボールルームの広い会場に3割ぐらいの参加者が入っていた。おそらく300人ぐらいの人が参加していたと思われる。
講演者の方から、今回合併がテーマだが、自分達の会社も合併して、今はアベンティス・ファーマシューティカルに社名が変わっているという案内があった。
最初に、M&Aを体験したことがある人は挙手をするように言われたが、会場にいるアジア人を除くほぼ全員が手を挙げていた。ダウンサイジングを体験した人は50%、ダウンサイジングをされた人は10人ぐらい手を挙げていた。
こういった背景から、このセッションのM&Aやダウンサイジングの際に教育開発部門の役割といった問題は、米国人にとってかなり身近な問題であることが理解できた。
講演者は、同じ会社にいて90年から3回の合併と2回の大きなダウンサイジングと4回から6回のターゲットダウンサイジングを経験した。自分達の組織も15人いたのが現在3人になっており、今年中に講演者2人も退職するそうだ。その中で学習したことを伝えるのがこのセッションのねらいということだった。
誰もがM&Aやダウンサイジングは苦痛を伴うので、2度としたくないと思う。CMGサーベイの1999年の調査によると70%のCEOがダウンサイジングは将来も続くと言っている。フォーチュンの99年1月の発表によると、M&Aは68年にはGNPの1.4%で$59Bだったのが、89年には6.1%で$439B、98年には19.7%で$1.7trillion(1兆7千億ドル)になっている。AMAの調査では99年は98年の倍の規模になっているとのことだった。
M&Aはビジネスの成功を導きやすいといわれているが、実際はそうではない。フォーチュンの99年11月の発表ではM&Aで成功した企業は23%でしかない。またサンフランシスコビジネスタイムの97年1月の発表では、57%の企業がM&Aで失敗しているとのことだった。
しかし、現在もリストラクチャリングやダウンサイジング、ライトサイジングといったように名前を変えて首切りを行っている。これは苦痛の伴うプロセスだから言葉を変えようとしているのだそうだ。
こういったM&Aやダウンサイジングに遭遇したときに教育開発部門は何をしたらよいのかというのが、このセッションのコンテンツだった。
最初に5つのケースが提示された。座っている席でどのケースを考えるかが割り当てられ、周りの人とディスカッションを行った。ケースの内容は経営者からリストラをやるといわれたとか、15人の部門を3人にするように言われたとかがあるが、実はどれも講演者が実際に体験した実話のケースで、この後の説明で具体的に打った手が紹介されるものだった。
ダウンサイジングの際には、社員は弾が当たらないようにと考えてしまう。そしてそういったものは存在しないのだと思いこみたがる。そこで、実際に何が起きているのかを理解させるのが教育開発部門の役割である。
社員はショックを受け、怒り、落ち込んでしまう。そこで、不注意な首切りをしないように、従来のトレーニングはすべてストップさせてダウンサイジングに集中し、プロセスを設計した。
- 社員になぜダウンサイジングをするのかをできるだけ正確に、いろいろな計画を一つにまとめて分かりやすくし、きちんと説明することを、ダウンサイジングの前と最中と後に行う。
そこでのポイントは次のような点だった。
- スムーズに次の会社に就職できるように転職教育とカウンセリングを行った。
- 尊敬と尊厳を大切にする必要がある。エスコートすることではない。まず選択肢を与えること、例えば田舎に帰ってからそれから退職しようというように。
- 恨み言を言わせて聞いてあげなければならない。
- ビジネスケースを作り、首切りを社員にどのように伝えるかの原稿をつくり、マネジャーに対してロールプレイを行った。泣いた場合どうするか、怒りだしたらどうするか、呆然としたらどうするかなどである。
- 残った人にもカウンセリングを行った。生き残った人には罪悪感が残る。
一人が辞めてもチームは変わってしまうので、その後のお互いの信頼を築くのが難しい。メンバー間の信頼は回復できても、会社への信頼はないに等しい。経営者はさあビジネスをしようと思うが、社員は終わっていない。次は自分の番だと思うようになる。
M&Aにからんでトップから何かをやれといわれても、時間がないからできないというようなことは言わない方がよい。トレーニングはやらないよりはやった方がよいので、できることを探してやる。
M&Aの際に具体的に行った方法は次のようなものだった。
- チェンジマネジメントをやってみた。
- マネジャーに対して毎週ニュースレターを出した。これは曖昧な情報でも知っていることは全部出した方が上手く行く。
- ニュースレターで、マネジャーに戦略を与えた。
- 一般社員向けにQ&Aを作った。そのために組織の中から質問を吸い上げ、8万人の従業員がイントラネットのWEBでQ&Aが見られるようにし、またプレジデントフォーラムをWEBに開いた。インフラがないところには紙で配った。
- 人事関係のチームに参加し、ファシリテータを務め、文化とバリューの定義付けを行った。
- M&Aの際には、給与や保証をどうするかとか、Eメールやボイスメールをどうするのかといった検討が先行し、トレーニングは最後にでてくる。そうすると手遅れになるので、どのように研修プログラムを統合していくのかを考える。
- 色々なチームに積極的に参加し教育開発部門が役に立つことを訴え、各チームではリーダーシップをとっていった。
- メモリーズウイークというのを行った。昔の創業者の写真や製品を展示し、音楽を流して食事も出し、最後にお祝いをした。こういうことを行わないと人々は決別できない。
- メモリーボードを作って、社員に自由に思い出を書かせた。
- M&Aの際には皆が不信感に陥るので、トップの存在感を演出する必要がある。そこでトップのVTRを作った。
- M&Aを発表する際には、トップが社員に相対して直接一斉に話すことが必要。時間と場所を演出しなければならない。
このセッションを受けて感じたことは、M&Aやダウンサイジングによって、米国の企業の人々が遭遇している深刻な痛みだった。そういった中で、虐げられた人々を少しでも自信を失わずに生きていけるように、また残った人々が早く仕事に打ち込め、お互いや会社への信頼を回復できるように、予算も指示もないまま教育開発部門としての使命感に燃えて奮闘してきた姿に胸を打たれた。
今後日本の企業も合併やリストラに遭遇していくことが多いと思う。こういった中で日本人の感性がそれに耐えていけるのかは疑問である。気づかないところで取り返しのつかない大事なものを企業が失ってしまうのではないかと思う。共同体意識が米国よりも強い日本の企業こそ、彼らが行ってきた、ボランティア精神に近い細心のケア方法を学ぶべきであると感じた。


