ASTD国際会議

ヒューマンバリューは、1992年からASTD国際会議へ視察ツアーを実施しています。本ホームページには、1998年からの参加報告レポートを掲載しています。

ASTD2003 概要


ASTDについて

ASTDは、1944年に設立された非営利団体で、世界中の企業や政府等の組織における職場学習と、従業員と経営者の機能性の向上を支援することをミッションとした、訓練・開発・パフォーマンスに関する、世界第一の会員制組織です。米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置き、現在100以上の国々に70,000人余りの会員(会員には20,000を越える企業や組織の代表が含まれる)をもっています。
ASTDは国際的な企業と産業の訓練資源に対して比類ないアクセスをもち、この団体の事業は、世界の最高水準にあると認められています。
ASTDは、トレーナーやトレーニング・マネジャーたちに専門的な開発材料やサービスを提供し、職場における学習促進を援助し、世界中の政府・企業等、各種組織に属する従業員や役員たちのコンピタンス・パフォーマンス・充足感を高める手助けをすることを使命としています。


ASTD2003

今年で59回を迎えるASTDコンファレンス(ASTD2003)が、5月18日〜22日(プレコンファレンス5月15日〜5月17日)の期間、米国カリフォルニア州サンディエゴ市、サンディエゴ・コンベンション・センターにおいて開催されました。今年のセッションとワークショップの数は、約300開催され、また、エキスポでは約300ものブースが出展されました。


ASTD2003の参加国・参加者数

本年の参加国数と参加者数は、主催者側の発表では以下の通りとなっています。

参加者総数

約8,000名

参加国数

71カ国

米国外からの主な参加者

韓国:284名
カナダ:194名
日本:110名
南アフリカ:72名
ブラジル:71名
デンマーク:60名
中国:6名

ただし、日本人の人数に関しては、重複して登録されていた人や、事前登録だけを行ってキャンセルをした人の数も含まれているため、実際には、50〜60名前後であったのではないかと考えられる。他の諸外国や米国に関しても、同様のことがいえるため、トータルの参加者も、実際には公表されている人数よりも少なかったと考えられる。


ASTD2003の主要テーマ

ASTD2003は、次の10のテーマを中心に展開されました。

  1. Careers: Guiding Yours, Guiding Others
  2. E-Learning
  3. Leadership and Management Development
  4. Learning as a Business Strategy
  5. Innovation
  6. Measurement and Evaluation
  7. Organizational Change
  8. Performance Consulting
  9. Personal and Professional Effectiveness
  10. Training Fundamentals


ASTD2003の全体的傾向

今年はイラク戦争やSARSの影響もあってか、例年に比べ集客人数が減少していた。印象としては6,000人から7,000人の参加者ではなかったかと思う。毎年人数が多い台湾やシンガポールなどの中国語圏はさすがにSARSの影響でほとんどきておらず、韓国が200名以上来ていた。日本からは公式発表とは異なる数字になるが、50名から60名前後の人が参加していたと思う。その他の参加者は米国外が増えてきている。前年91名が参加したデンマークからは、今年も60名が参加していた。デンマークは、参加するだけではなく、自分たちで積極的にセッションを開催しており、テーマのユニークさから、多くのセッションが注目を集めていた。

ASTDの今年のキャッチフレーズとしては、ゲット・インスパイアド、ゲット・コネクテッド、ゲット・リザルツをかかげていた。内容的にはさほど際だって目新しいものはないと思われそうな地味な大会であり、HRD関係が壁にぶつかって行き詰まった中で、皆が模索をしているという印象を与えた。しかしその中にも、いくつかの新しい萌芽が見えていたと思う。今後のHRDが新しい局面に向かっていく方向性を暗示させるプレゼンテーションがあった。本年のASTD大会におけるヒューマンバリュー主催の情報交換会参加メンバーとの議論を踏まえ、全体的な傾向についての所感を以下のようにまとめてみた。


2003年のASTDのキーワード

2003年のASTDのセッションで比較的頻繁に使われていた言葉から、今後の方向性を示すと思われるキーワードを今回現地のマリオットホテルで開催したヒューマンバリューの情報交換会に参加された人々で選んでみた。
今回のキーワードとしては、以下の11個があげられる。

  1. イノベーション
  2. エンゲージメント
  3. コネクテッド
  4. コミュニティ・オブ・プラクティス
  5. ソーシャルパワー
  6. リーダーシップ・ジャーニー
  7. エグゼクティブ・コーチング
  8. ファシリテーション
  9. ローコスト・Eラーニング
  10. ブレンデッド・アプローチ

こういった言葉の意味やその背景をやや印象での独断になるが以下に整理してみた。こういった言葉の使われ方の変化を考察してみると、深層での見えない大きな変化が感じられるかもしれない。

1.イノベーション

今回からセッションのトラックとしてイノベーションが新たにとりあげられた。このトラックを追いかけた方に聞いてみると、とくに目新しいものは見かけず、HRDのテーマというよりも、R&Dをいかに推進するかという技術的なテーマが多かったということだった。しかし、イノベーションという言葉は他のセッションでも随所に語られていた。ちなみに基調講演者のフランシス・ヘッセルバイン氏もリーディング・フォー・イノベーションの著者である。逆にセッションの中のスピーチで消えた言葉がサステイン(維持)という言葉だそうだ。従来はこの維持成長という言葉が多用されていたが、現状を維持するという発想は消えてしまったのだろう。この低迷状態を打破していくにはいかにイノベーションをするかが課題になってきたわけだが、HRDの観点からはまだ新しいものが出せない状態にあるのかもしれない。

2.エンゲージメント

クロージング・セッションでの基調講演のジム・レイヤー氏の演題がザ・パワー・オブ・フル・エンゲージメントであった。このエンゲージメントという言葉は、セッションでやたらと使われており、今年の流行語という感じがした。この言葉が新しいコンセプトをもって定着をしていくのか、一時期のはやり言葉なのかは今後に注目していきたい。エンゲージメントの言葉の意味は、まだ共有化されておらず、スピーカーによって多少ニュアンスが異なって使用されているようだ。従来使用されていたコミットメントに代わる言葉として使用している例もあれば、ケン・ブランチャード氏のように両方を使い分けているケースもある。エンゲージメントは、フォーカスしているよりも中に入っている印象があるし、関係がフラットで手を携えてといった印象もある。組織における人と人との新しい関係を従来にはない言葉で表現しようとしている動きと思われる。

3.コネクテッド

コネクテッド・リーダーシップというコンセプトをリーダーシップのオーソリティであるCCL(センター・フォー・クリエイティブ・リーダーシップ)が今回のセッションで提示してきた。ASTDの今回のキャッチフレーズにもコネクテッドという言葉が使われている。この言葉は、組織の上司と部下の関係がフラットになり、1人ひとりのメンバーの主体性が高まったとき、人々の関係性が従来と異なったものとなることから、その新しい関係性の重要性を示唆する意味で使われ始めたと思われる。この言葉と同様に多く使われている言葉が、リレーションシップやインターパーソナルといった言葉だった。そこで語られる内容としては、インタラクションやトラストの重要性だった。

4.コミュニティ・オブ・プラクティス

コミュニティ・オブ・プラクティスという言葉もごく普通に使われるようになった。これを略してCOPsと表記するのも一般的になっている。1人々のメンバーが主体的に取り組んでいくようになり、指示命令で動く組織でなくなると、組織はコミュニティにならざるをえない。組織の壁を越えて、専門的な知識やスキルを持った人々が集まって問題解決に取り組んでいくフラットで出入り自由な集まりをCOPsと呼んでいる。このCOPsを改善活動や学習に積極的に活用している企業が増えてきている。

5.ソーシャル・パワー

初日の基調講演を行ったティッピングポイントの著者であるマルコム・グラッドウェル氏はイノベーションがいかに突然起こるのかを語った中で、普通の人がもっているパワーについて言及していた。他のセッションでもこのソーシャルパワーという言葉がよく使われていた。これは従来の金や地位による影響力ではなく、パーソナルパワーとして人々をつなげたり、引きつけたりする関係性を構築する力を言っているようだ。このソーシャルパワーを誰が持っているかは、なかなか分からない。それは社員食堂のウェイトレスだったり、目立たない社員かもしれない。こういったパワーの重要性を認識しようという提言が多かった。

6.リーダーシップ・ジャーニー

リーダーシップ開発は数年前から注目されていたが、今年は表現がやや異なってきた。従来はリーダーシップ開発コースというような表現だったが、ジャーニー(旅)という表現を使っている講演者が多かった。リーダーに求められる役割が変わってきた背景から、本当のリーダーシップを開発するのは長い時間がかかるということが認識されてきたためである。フラットな組織で多様性(ダイバーシティ)のある人々とのリレーションシップをとっていくには、本当に相手を理解してトラストを築けないとうまくいかないし、また最近よく言われているシュチュワードリーダーシップやサーバントリーダーシップも、リーダーの本質的な部分が変わらないと実践できないということがある。そこでリーダーはDOからBEへということもよく言われている。しかし、リーダーがちょっとセミナーを聞いたから変わるわけではない。まず、自分自身の内面を過去から振り返り、その時々の家族や周囲の人との関係を内省し、そこを変えていくことからはじめて、その結果現在の組織の人々との関係性を変えていくことができるというのである。そして、組織の人々との関係を築いていくにも長い時間がかかるといったことから、これをジャーニーと呼んでいるのだろう。

7.エグゼクティブ・コーチング

コーチングという言葉はもはや当たり前の言葉になったとともに、メンターという言葉も定着してきている。そういった中で今年特に目立ったのが、エグゼクティブコーチングである。エンロンの事件などの背景から、トップも学習し続けなければならないし、周りの人の意見を採り入れていかなければならないという認識が高まっていると思われる。新しいリーダーシップの開発が求められる中で、ではどうやってトップにアプローチするのかという1つの手段としてコーチングが注目されているのだろう。そしてその内容は、パフォーマンスにフォーカスするだけではなく、個人的な問題にまで関わらないとリーダーシップを育成できないところから、メンタリング的な要素もかねている傾向が伺えた。

8.ファシリテーション

ファシリテーションという言葉もよく使われるようになった。ファシリテーションはグループなどが問題解決を行っていくプロセスを支援することをいうが、今年のセッションでの言葉の使い方をみると、もう少し意味が拡大してきているようだ。ファシリテートの対象を小規模のグループから組織または会社全体のプロセスにまで広げて使い始めている傾向がある。

9.CLO

CLO(チーフ・ラーニング・オフィサー)という言葉が各セッションでよく使われていた。CLOの必要性を説くものから、CLOの役割を解説するものまであるが、いままたなぜCLOが注目されるのかが興味深い。今年の傾向としてラーニングを企業の戦略にリンクさせなければいけないという意見が多かったのも、CLOの必要性が言われる原因の1つだろう。またラーニングが全社的に行われるようになると、多数の部門で様々な試みが行われるようになる。ラーニングの手段も集合研修だけではなくWEBだったりメンターだったり、リオードシステムと連動したり、EPSSやナレッジマネジメントと連動するようになると、単独の部門ではラーニングを統合できなくなってきている。そこで、それらを統合するCLOが必要になってくるのではないだろうか。

10.ローコスト・Eラーニング

Eラーニングは相変わらずASTDの主要テーマになってきている。内容はEラーニングの必要性とかEラーニングとは何かというテーマはなくなり、いかにインプリメンテーション(実行)するか、さらにいかに統合するかに話題は移行してきている。具体的な新しいISD(インストラクショナル・システム・デザイン)の方法の解説や、ビジュアルの見せ方など、テーマは具体的かつ詳細になってきた。その中でも今年出てきたテーマがいかにコストを安くしてEラーニングを作るかという問題である。2001年は企業が多額の投資をEラーニングに対して行い、2003年はそれが一巡して大きな投資はなくなった状態になっている。そういった中で企業はより安く簡単に導入できるものを求める傾向が強くなり、それにベンダー側も応えざるをえない状況なのだろう。

11.ブレンデッド・アプローチ

Eラーニングでは、ブレンデッドで行うのが当たり前になったようだ。それも従来は、CD-ROMと集合研修などの組み合わせだったものが、より多様になってきている。ブレンデッドの意味も、複数の学習経験の組み合わせという使い方をしている場合もあれば、LMSやEPSS、LCMSなどとのシステム的な組み合わせという使い方をしている場合もある。


ASTD2003 エキスポジション

本年のエキスポの概要は以下のとおりであった。

出展社数

ASTDにより発行された2003年のプログラムガイドによると、EXPOの出展者数は、約300社であった。

展示日時

  • 5/19 月曜日 4:00p.m.−19:00p.m.
  • 5/20 火曜日 11:30a.m.−18:30p.m.
  • 5/21 水曜日 9:30a.m.−14:00p.m.

エキスポの内容

全体の印象

本年度のASTDのEXPOにおいては、300を超えるブースが出展された。例年同様、それぞれのブースでは、人々の学習とパフォーマンスの向上をサポートする様々な商品やサービスが、デモンストレーション等を通して紹介されていた。ブースのカテゴリーは、Leadership、Organizational Development、Coaching、Retention、E-learningなど多岐に渡り、ASTDのホームページによると、カテゴリーの総数は85にものぼっていた。(重複カテゴリーを含む)

ASTD2003EXPOの様子

ASTD2003EXPOの様子

全体的な印象としては、昨年と比較して、出展者数にさほど変化はないものの、各ブースの大きさが小さくなっているため、規模が小さくなっているように感じられた。カンファレンスにおけるEXPOの規模の縮小は、年々進んでおり、一時期のような、EXPOで派手に説明を行って、受注に結びつけるといったやり方をとるベンダーも少なくなってきていた。

テーマとしては、今年も例年同様Eラーニング関連のブースが多かったが、ベンダー全体に占めるEラーニングベンダーの割合は昨年と比較して明らかに減少しているようであった。
この原因としては、いくつか挙げられるが、まずはITバブル崩壊後のユーザー企業のIT投資削減により、ベンダー自身の経営環境が厳しくなってきていることが挙げられる。合併などにより全体的にEラーニングベンダーの数自体が減少していることも考えられた。特に今年は「ローコストEラーニング」といった言葉が多く聞かれるなど、エンタープライズワイドな大規模なものではなく、小規模なプラットフォームをいかに低コストで、自社にあった形で導入するかということにユーザーの関心も移ってきており、それにベンダーも応えざるをえない状況にある。そのような背景から、一時期はEXPOなどでも派手なブースを出していた、Sun、オラクル、IBMなど大手SIベンダーも、今年は、Sunが展示していたにとどまっていた。
また、その他には、Eラーニングそのものが既に当たり前のものとして認知されるようになったため、集合教育といった他の学習手段に対する相対的な注目度が低下していることも考えられた。
その中で、出展しているEラーニングベンダーの今年の傾向としては、各ベンダーが訴える自社のプラットフォームの売りに、あまり目新しさを感じられなくなってきたことが挙げられる。この理由としては、技術の成熟化にともない、新規性を確保しにくくなっていること、また合併などを通じて多くのベンダーはLMS、LCMS、及びバーチャルクラスルーム機能を兼ね備えたプラットフォームを提供しており、他社との差別化をはかることが難しくなってきていることが考えられる。

新規的なサービスが少ない中において、今回新しく登場してきたものとして、Analytics機能が挙げられる。Analyticsとは、教育を最適化するための分析ツールであり、LMSにストックされる様々な情報(受講履歴のトラッキング、パフォーマンス向上度合、資格の有無など)を分析して、最も効果的な教育の提供を行うことを目的としている。本年度4月より、Saba、Docentがそれぞれ、自社プラットフォームにオプションでこの機能をつけられるようになっているとのことであった。これらの機能が開発された背景としては、企業が教育投資に対して、よりシビアになってきており、そのニーズに対応するためとのことであった。
また、コンテンツの傾向としては、シミュレーションを使ったものが圧倒的に増えていることが挙げられる。スキルソフトのような大手ベンダーだけではなく、数多くの小さなベンダーが、ユニークなシミュレーションのデモンストレーションを行っていた。マーク・ローゼンバーグのセッションにおいては、Creativityを要するコンテンツの分野では、プラットフォームの分野ほど合併などが進まないであろうと指摘されており、今後もコンペリング・コンテンツのニーズの増加に伴って、各社がオリジナリティあふれるコンテンツを多く提供してくることが考えられる。しかしながら、現状では量質ともに、まだユーザーのニーズを満たすほどの充分なコンテンツが揃っておらず、全体的に試行錯誤の段階にあるように感じられた。
以下に、主なベンダーの紹介を掲載する。

主なベンダーの紹介

SABA

Saba社では、今回新しく「Saba Analytics」という機能を打ち出していた。「Saba Analytics」は、以下の7つの要素から構成されている。

SABA

  1. Catalog analysis
  2. Revenue and cost analysis
  3. Resource utilization
  4. Learning activity
  5. Compliance and certification
  6. Learning effectiveness
  7. Content utilization and effectiveness

これらを用いて、LMSにストックされる様々な情報(受講履歴のトラッキング、パフォーマンス向上度合、資格の有無など)を分析して、最も効果的な教育の提供を行うことができるとのことであった。

Docent

Docentにおいても、Saba同様「Docent Analytics」が提供されていた。機能としては、以下の5つが挙げられる。

Docent

  1. Docent Sales Performance Analysis
  2. Docent Channel Effectiveness Analysis
  3. Docent Training Analysis
  4. Docent Certification Analysis
  5. Docent Compliance Analysis

また、その他にも、コンテンツプロバイダーのninth houseと提携し、シミュレーションコンテンツを提供していた。

Customized Simulations

今年度の特徴として、多くの小さなコンテンツベンダーが独自のシミュレーションコンテンツを提供していたことが挙げられるが、Customized Simulationsもその1つである。同社は、汎用コンテンツを一切持たず、ユーザー企業独自の企業カルチャーや文脈に基づいたシミュレーションをカスタマイズで開発するというモデルをとっていた。

Docent

Industrial Training Zone

同社は、技術工向けのコンテンツ開発に特化しており、3Dグラフィックスを活用したシミュレーションコンテンツを豊富に取り揃えていた。

Industrial Training Zone

ページトップへ