ASTD国際会議

ASTD2009 International Conference & EXPOが、2009年5月31日~6月3日に米国ワシントンD.C.にて開催されます。このコンファレンスは、職場における学習・訓練・開発・パフォーマンスに関する世界最大の会員制組織であるASTDが毎年開催しているものです。

このコンファレンスでは、世界中から集った先駆的企業や教育機関・行政体のリーダーたちが、現在直面している諸問題にどのように取り組んでいるかを企業の枠を越えて学び合います。世界における人材開発の最新動向に触れながら、これからの組織・人材開発のあり方について多くの人との情報交換や課題の探求をしていく最高の場であるといえます。

本レポートでは、ASTD2009公式ホームページに掲載されている内容をもとに、今年のコンファレンスではどのようなことがテーマになるのか、どのような人が講演を行うのかといった見所をコンファレンスに先立ってご紹介していきたいと思います。

ASTD2009の統一テーマ

ASTDではその年のコンファレンスのテーマを掲げています。昨年行われたASTD2008のテーマは「Destination:Information(到着地:情報)」でした。このテーマの意味合いについては、日本から参加した人々の間でも色々な議論がありました。私どもでは、複雑性が増大した結果、何が正解か、何をすべきかということを鮮明に打ち出すことが難しくなった今日、ASTDにあるのは情報であり、それをもとに参加者自ら考えて欲しいというASTD側のメッセージがあるのではないかと推察しました。

ASTD2009のテーマは「A Learning Engagement(ラーニング・エンゲージメント)」と発表されています。ASTDにそのようなテーマを掲げた背景を尋ねてみたところ、ラーニング・エンゲージメントとは、コンファレンスに参加することを通して、いかに「関係」が深まるかということを表しているそうです。

つまり、このコンファレンスは、「理論」と「実践」が出会い優れた理論からいかにベスト・プラクティスが生まれるかを学ぶ場であり、「公的機関」と「私企業」が出会い相互作用する場であり、「アイデア」と「リアリティ」が出会い学んだアイデアを仕事に戻って活かす場であるなど、多くのものが出会って関係性を深めるということを指しているとのことでした。

これらから、ラーニング・エンゲージメントとは、日本語に訳すと、「学習の紐帯」「学習の関係」「学習を生み出す結びつき」「学習への主体的関係づけ」「学習の互恵関係」「学習を結びつける」などの意味があると考えられます(この言葉の意味合いや真意については、コンファレンスの中でもさらに探究していきたいと思います)。ASTD2009に参加することを通して、様々な異質なものに出会い、自身の枠組みを外して眺め、主体的に意味を構築することで、これまでにはない学習が起きることを期待したいと思います。

主要テーマとセッションの見所

ASTD2009は例年と同様に以下の9カテゴリーを中心に展開されます。

  • Career Planning and Talent Management
    (キャリア・プランニングとタレント・マネジメント)
  • Designing and Delivering Learning(ラーニングをデザインし、デリバリーする)
  • E-Learning(Eラーニング)
  • Facilitating Organizational Change(組織変革をファシリテートする)
  • Leadership and Management Development
    (リーダーシップとマネジメント開発)
  • Learning as a Business Strategy(ビジネス戦略としてのラーニング)
  • Measurement, Evaluation, and ROI(測定、評価、ROI)
  • Performance Improvement(パフォーマンス改善)
  • Personal and Professional Effectiveness(個人的および職業的効果性)

経済危機における人材・組織開発のあり方

各テーマの見所に入る前に、昨年から今年にかけての、組織・人材開発を取り巻く状況について、確認してみたいと思います。
昨年(2008年)のASTDでは、「タレント・マネジメント」が最も大きなテーマのひとつとして取り上げられていました。その背景には、企業の競争力の源泉は人材であることから、人材の採用、育成、配置、リテンション、サクセッションプランなどを統合的に取り組むことで優位に立っていこうというニーズがあると思われます。また、「タレント」という言葉の意味も、一部のエリートだけではなく、全ての従業員を指す傾向が高まってきていました。すべての人はそれぞれ固有のタレント(才能)をもっており、それを大切に育てていこうという認識が高まっていたといえます。

しかしながら、2008年9月のリーマン・ショック以降、組織・人材開発を取り巻く環境は大きく変わりました。CNNなどを聞いても、一時期は毎日のように大規模なレイオフのニュースが流されていましたし、AIG幹部のボーナス受け取りの問題では、多くの国民が怒りをあらわにしていました。また、英エコノミスト誌にも、経済危機の混乱によって、企業は従業員を人材ではなく、頭数としか見なくなるだろうといった見解が掲載されたりしています。

ではASTDは現在の状況をどのように捉え、どんなメッセージを発信しているのでしょうか。ASTDの公式ページを見ると、ASTD Economic Survival Guideというものが掲載されています。これは、困難な時代に、人材・組織開発に携わる人々がどうあるべきかという指針がいくつかのアクションプランという形でまとめられたものです。参考までに、その冒頭のメッセージを要約して以下にご紹介してみます。

  • 困難な時代に生き残り繁栄するには(メッセージの要約)
    • 悪天候に耐え、景気が上向いたとき繁栄したいなら、企業は自分たちにとって重要なタレントを保護し、開発しなければならない。構成員を使い捨てとみなす古い枠組みを捨て払わなければならない
    • 経済危機に対して、揺らぎはするものの、崩壊していない企業は人的資本の価値を既に理解している
    • ASTDとI4CPがまもなく発表する「Learning in a Down Economy(低迷する景気における学習)」という調査においては、38%の企業が、この景気の低迷の時期において、学習により重点を置こうとしていることが示されている
    • 現在の経済危機の中で、最も困難なチャレンジのひとつは、次に何が起こるのか、いつ景気が回復するのかといったことがわからないなかにおいて、企業が行動しなければいけないということである。しかし、ひとつだけ確かなことがある。古い枠組みで物事を進めることは戻ってこないということである
    • 今や多くのシステムが壊れ、再構築する変革の時期にあるといえる。学習を、ビジネスのインフラを革新するためのリーダーとしていこう
(http://www.astd.org/ASTD/aboutus/Economic-Survival-Guide/)

この冒頭メッセージの後に続く、アクションプランなどを見ても、ASTDでは、困難な状況だからこそ、学習の重要性が増しており、今までとは異なるやり方で、人材・組織開発に携わるものたちは学習に貢献していかなければならないといったメッセージを強く発信しているように見受けられます。

ASTD2009のセッションの中でも困難な時代における人材・組織開発のあり方を話し合うことを具体的なテーマとして挙げているものが見受けられます。たとえば、「M203:View From the CLO:Leading the Learning Function During Very Challenging Times」では、様々な企業のCLOが集い、この困難な時代においてラーニング部門や部門を率いるCLOの役割や責任は何かということをテーマにパネル・ディスカッションを行います。
また、「M323:Financial Services Roundtable:Working Through Change, Challenges and Crisis」では、最も大きな困難に直面している金融サービス業界におけるトレーニング部門の価値について、AIG United Guaranty社のChris Hagan氏らを始めとした金融業界で働いている人たちが中心となって議論します。

今年(2009年)のコンファレンスでは、こうした厳しい状況の中で、世界各国の人材・組織開発に携わる人々が、この危機をどう捉え、どう乗り越えようとしているのかを理解し、探究することが、ひとつのポイントとなってくるかもしれません。

タレントへのフォーカス

ここからは各テーマ別の見所を紹介していきたいと思います。
今年のセッション概要を見ると、昨年以上に、数多くのセッションに「タレント」という言葉がキーワードとして使われています。タレントをテーマに取り上げているセッションの特徴として、そのカテゴリーが「Career Planning and Talent Management(キャリア・プランニングとタレント・マネジメント)」に限られないことが挙げられます。 リーダーシップ開発や学習戦略構築、パフォーマンス改善など幅広いカテゴリーの中で使われています。

また、上述したように、「タレント」という言葉の意味も、一部のエリートだけではなく、全ての人がもつ固有のタレント(才能)を指す傾向も見受けられます。たとえば、リーダーシップ開発に関する権威であるCenter for Creative Leadership(CCL)は、昨年は「Talent Sustainability」というコンセプトについてのセッションを行い、現在と未来の組織の成功のために必要とされる能力とコミットメントをもった人々を、継続的にひきつけ、開発し、保持する組織的能力を高めていくことの重要性を訴えていました。

今年は、「TU214:Democratizing Leadership Development:Unlocking Leadership Potential at the Base」というセッションを行います。セッションの概要を見ると、リーダーシップ開発をマネジメント職に就いているものや一部のハイポテンシャル層に限るのではなく、全ての人が効果的に協働できるようにリーダーシップを「民主化する」(Democratizing Leadership)ことをテーマとして挙げているようです。
こうしたことからも、人材・組織開発の大きな方向性の一つとして、組織で働く一人ひとりがもつ固有のタレント(才能)を、あらゆる手段や方法を使って、見出し、育てていくことにあると考えられます。

解放する(Unleash、Unlock)

今年のセッション全体の中でよく使われている言葉に「Unleash(束縛を解く、解放する)」や「Unlock(錠をあける)」といったキーワードが挙げられます。たとえば上述したCCLのセッションでは、「Unlocking Leadership Potential(リーダーシップのポテンシャルを解放する)」というように使われています。厳しい環境の中で、一人ひとりがもつタレントや真価を開花させていこうとしたときに、従来から使われているような「Improve(改善する)」や「Develop(開発する)」といった表現以上に時代にフィットしているのかもしれません。

CCLのセッション以外にも、「TU302:Dance Like Nobody's Watching: Awesome Ways to Unleash Your Personal Pizzaz Power」では、マネジメントや恐れ、企業文化など様々なものが人々の活力を抑制している中で、個人の力を解放するためのBig Four Dance Card(「恐怖心を持たない」「創造性」「技術専門性」「劇/活気」)の原理が、JIMPACT Enterprise社のJim Smith氏によって紹介されます。

また、Unleashという言葉は直接的に使われていませんが、「TU102:From Passive to Passionate: The Impact of Inspirational Leadership」では、Zenger Folkman社のJohn H. "Jack" Zenger氏が、チームやパフォーマンスをInspire(鼓舞する、刺激する)するリーダーのあり方についてセッションを行っています。

その他にも、真価を解放するアプローチとして、人や組織の強みや価値を最大限に発揮するアプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)や、ストーリーテリングを扱ったセッションも見受けられます。たとえば「W315:Storytelling and Appreciative Inquiry Unleash Innovation and Build Strength-Focused Organizations」では、DFM Consulting社のDeborah Maher氏とSTORIES THAT WORK社のGerry Lantz氏が、AIとストーリーテリングを活用したイノベーションについてのセッションを行います。
また、「M310:Unleashing Communication: Story-Based Strategies and Tools」では、MAKINGSTORIES.net社のTerrence Gargiulo氏が、ストーリーに基づいた取り組みによってコミュニケーションのあり方を解放させていくことをテーマとして扱っています。こうしたポジティブ・アプローチ系の人材・組織開発のあり方にも注目してみたいところです。

エンゲージメント

タレント・マネジメントに関するセッションの中では、これまで同様「エンゲージメント」がキーワードの一つとして挙げられます。
エンゲージメントに関する権威であるBeverly Kaye氏は、「TU101:Keeping the Keepers: The How-Tos of Engagement and Retention」の中で、時間に余裕のないリーダーたちが、いかにメンバーが学習し、成長し続ける環境を創ることができるかについての戦略やベスト・プラクティスを紹介します。また「SU309:In Search of Passion: The Personal Side of Engagement」では、The Effectiveness Group社のCris Wildermuth氏が、どんな厳しい環境でもエンゲージメントできる個人の特性をリサーチに基づいて紹介するなど従来とは違ったアプローチも出てきています。

その他にも「TU313:Sustaining Engagement & Succession Planning Through Intergenerational Conversations」では、キャリア・コンサルタントのAnnabelle Reitman氏らが、NPOにおけるエンゲージメントやサクセッション・プランニングについてセッションを行います。概要の中では、「Intergenerational Conversations(世代を超えた会話)」を連続的に行うことが、各世代の特徴を理解し、若手からシニアまでのタレントを保持することに貢献するといったことが述べられており、興味深いといえます。 また、世代間を越えたコミュニケーションを図り、エンゲージメントを高める上で、近年メンタリングについても改めて注目度が高まっています。今年も、「M110:Effective Mentoring Paths: Utilizing a Portfolio of Mentoring Methods in Particular Career Junctions」などメンタリングをテーマにしたセッションも複数行われているようです。

ベビー・ブーマー退職後に向けたタレントの活用

近年タレント・マネジメントに関するセッションの中で、ベビー・ブーマー退職後に向けて、組織内の知をどう保持し、高めていくかといったものが目立つ傾向にあります。たとえば、「M209:Transferring Critical Skills and Knowledge of Your Baby Boomers Before they Leave」や「M305:Flash Mentoring: Transferring Knowledge and Experience in a Busy World」など、数多くのセッションでいかにベビー・ブーマーから若い世代に知識を移行していくのかといったことを取り扱っており、日本のものづくりの現場が直面しているのと同じようなテーマを課題意識として持っていることが伺えます。

また、「SU308:Going Once…Going Twice…Gone!」では、Platinum Performance Group社のMason Holloway氏が、Human Performance Improvement(HPI)の手法を使って、組織内の重要なパフォーマンスのファクターが失われてしまう前に特定するアプローチについて紹介しています。
こうしたテーマは、雇用情勢とも密接に関わってくることが考えられます。現在の厳しい経済環境の中で、若手から退職者まで含めた働き方や学習のあり方についてどんなメッセージが発信されているのかにも注目してみたいところです。

グローバル化に向けた人材・組織開発のあり方

ASTDインターナショナル・ジャパンが運営する組織開発委員会(2008年6月~12月)で行われた議論の中では、経営を取り巻く環境が、インターナショナルからマルチナショナルへ、そしてグローバルへと変化してきたことが大きなテーマとして取り上げられました。つまり、各国の独自性を尊重していたマルチナショナルの時代から、今や世界各国で働く多様な人々が、物理的な距離や文化の壁を越えてグローバルというあたかも一つの国の社員であるかのようにチームを編成したり、仕事のオポチュニティを求めて異動したりすることが当然になってきているということです。

そうした背景の中、IBM社のように、多くの企業で、仕事のやり方や業務プロセス、評価制度などが全世界で標準化されていくことが考えられます。今後の人材・組織開発のあり方として、グローバルのレベルで人材がパフォーマンスを発揮できるような環境作りを行うことが必要となってきます。ASTD2009においても「グローバル」という言葉は、重要なキーワードとして多くのセッションで活用されていました。

グローバルレベルでのタレント・マネジメントやリーダーシップ開発

セッションで発表されている各企業の取り組みを見ると、「グローバル・タレント・マネジメント」や「グローバル・リーダーシップ・ディベロップメント」というように「グローバル」という言葉が冒頭についたものが例年以上に多いように見受けられます。
たとえば、「TU204:Using Evaluation to Drive Strategic Change in Leadership Development」では、Dell社においてDell Global Talent Management(GTM)が開発し、グローバルの規模で展開したフロントライン向けのリーダーシップ・プログラムについて紹介しています。
同様に「W103:Improving the Transition Into Management With a Large-Scale Development Process」では、Medtronic社におけるGlobal Leadership Development strategyに基づいて開発された、「Being a Medtronic Manager(BAMM)」に関する事例が紹介されています。

また、「SU304:Developing Frontline Management Talent: A Global Challenge」では、Hollister社のJohn McCarthy氏らが、自社の取り組みを紹介するとともに、「グローバルの参加者に向けたクオリティの高いトレーニングをどのように企画し、実施し、測定するのか?」「英語を母国語とせず、異なる地域で働くマネジャーたちをどのように集めるのか?」といった様々な質問について探究していきます。

その他にも、「M304:Global Change Driving Business Results: The Lenovo Case Study」では、Lenovo社の事例が取り上げられています。IBM社のコンピュータービジネスを買収し、Lenovo社となった同社において、いかに新しい企業文化を創っていったか、その中でどのように経営幹部を巻き込んでいったのか、ブラジルやヨーロッパ、シンガポールなどのキーとなる地域においていかにコアチームを形成していったかといったことが紹介されます。
世界規模での組織変革のプロセスやポイントにも注目してみたいところです。

グローバルレベルでの大規模な取り組みが数多く紹介される一方で、プロジェクトや職場におけるチーム単位での組織開発をどう行っていくかといったことをテーマに挙げているセッションも複数見受けられました。
上述したASTDインターナショナル・ジャパンの組織開発委員会の中でも、「働いている人にとって『自分の組織』というとどこを指しているのかわからないが、『自分のチーム』というとイメージが明確になる」といったことが指摘されていましたが、日常的にプロジェクトチームやタスクフォースチームの一員として仕事を進める形態が増える中、チームをいかに活性化していくかといったことの重要性が高まっている可能性が考えられます。

具体的なセッションとしては、「M317:Great Business Teams at Mars Inc.: What Did It Take and How Did HR Contribute?」では、Mars Incorporated社の取り組みが紹介されています。同社はハイパフォーマンスなチームを創ることを通して組織変革を行ってきており、そこにHRがいかに貢献していったかについて述べています。
また、「SU122:Desperately Seeking Synergy」においては、People Dynamic Development社のNiel Steinmann氏が、チーム内でシナジーを生み出す原理について紹介しています。

グローバルレベルでのトレーニングのデリバリー

人材・組織開発をグローバルレベルで進めていく際に、そのデリバリーのあり方をテーマに掲げたセッションが多く見受けられました。たとえば、「SU204:Building Partnerships: Delivering Learning to Global Audiences」では、Textron社のMaurice Rondeau氏が、外部のプロバイダーと効果的なパートナーシップを組みながらグローバルにトレーニングをいかに展開していくかについて述べています。

また、「TU117:Globetrotting: Training Trainers in Multi-National Organizations」では、米国、ヨーロッパ、アジア、メキシコなど世界各国で28年間に渡ってトレーナーとしての経験を持つTRANE社のJohn Lake Jr.氏が、自身の体験に基づいたベスト・プラクティスを紹介してくれます。グローバルレベルでトレーニングを展開していくことを考えている人にお勧めのセッションです。

世界各国の取り組みから学ぶ

昨年のASTDでは、参加者の2割以上が海外からの参加となっていました。参加形態も、開催国である米国の取り組みを受身的に学ぼうというのではなく、たとえば、デンマーク人の開催するセッションに南米やアフリカ諸国の人が参加するというように、相互に学びあうことが当たり前のように起きています。ASTDもグローバルのレベルで人材の相互学習が起きるプラットフォームへと変化していると言えます。

今年も各国の参加者が様々なテーマでセッションを行っています。たとえば「SU205:Promoting Women in Leadership in Norway - Leadership and Mentoring Program」では、男女平等が進むスカンディナビア半島において、企業と政府の両者が女性の昇進やリーダーシップ開発を促進するというゴールに向けて、どのようなイニシアチブを取っているのかを具体的なプロジェクトを通して紹介されます。

また、「W116:Exploring Brazilian Creativity: How to Develop It in Young Global Leaders」では、若手のグローバル・リーダーを育てたり、イノベーションの品質や数を高めるために、ブラジル人に特有の創造性のスタイルを応用することがテーマとして取り上げられています。このように各地域の強みや特性に合わせたセッションも開催されています。

日本からもInstructional Design社の中原孝子氏とGenex Partners社の丸正生氏が「TU122:Pool Innovative Seeds and Talent」というタイトルでセッションを行う他、複数のセッションが開催されています。
その他にも中国やメキシコ、インドなど多くの地域から発表がなされるようであり、各国の人材・組織開発のあり方から多くを学べるものと考えられます。

ジェネレーションの違いによる学習戦略

ここ数年のASTDの傾向として、トラディショナリスト、ベビーブーマー、ジェネレーションX・Yなど、ジェネレーションの違いを取り扱ったセッションが多いことが挙げられます。昨年のASTDにおいてもジェネレーションの違いによって、就業感や学びの位置づけ、学び方が異なるため、それに合わせた学習戦略や世代間の関係性を構築していく必要があるとの議論が様々なセッションで繰り広げられていました。そして今年もその傾向は継続しているようです。
たとえば「TU211:RU offering the best training for Gen Y? Getting the most effectiveness from Gen-Y employees - training 2 meet the skills and needs of the next generation leaders」では、ジェネレーションY世代(アメリカ合衆国において1970年代後半から1980年代に生まれた世代)の力を最大限に発揮して組織のニーズに応えていくためのキャリアや学習機会の提供の仕方について、Price Consulting Group社CEOのKella Price氏が話します。

また、Web2.0到来にあわせて学習の媒体も大きく変化してきており、昨年はセカンドライフ上でのトレーニングを取り扱ったセッションが大きな話題を集めていました。今年も関連したセッションが多く、たとえば「TU114:Training a New Generation of Techno-Loving Learners」では、YouTubeやiPod、セカンドライフ、フェイスブックなどに慣れ親しんだ「デジタル・ネイティブ」たちが職場の大半を占める中、そうしたテクノロジーを使って、学習者を熱中させる学習体験を提供するための実践的な戦略をいかに構築していくかということがテーマとして取り上げられています。
また、「M114:KAPOW! ZOK! BOOM! Using Interactive Serious Gaming For Experiential Leaning in the Transportation Industry」では、Fedex社の事例が取り上げられています。Fedex社では、危険物の取り扱いに関する学習を以前までは伝統的なEラーニングで学ぶアプローチを取っていましたが、近年はWiiの入力装置を使って体を動かしながらゲーム感覚で学ぶアプローチに変更したとのことです。体を使った新しい学習形態に注目したいところです。

その他にも様々なセッションがジェネレーションや学習形態の変遷について取り上げています。日本でもゆとり世代の入社に関する議論が始まっているように思いますが、そうしたジェネレーションの違いによって、人事・人材開発に携わるものが何を考える必要があるのかを検討したい人にお勧めのテーマといえるかもしれません。

インフォーマル・ラーニングの効果測定

効果測定についても、例年同様多くのセッションがテーマとして取り上げています。今年の特徴として、これまであまり効果測定の範疇に入っていなかったインフォーマル・ラーニング的な学習の効果を測定していこうという動きがあることが挙げられます。

たとえば「TU303:View from the CLO: Hitchhikers Guide to the New Learning Ecosystem」では、サンマイクロシステムズ社の事例が紹介されています。発表者である同社のCLO、Karie Willyerd氏や、CTOのCharles Beckham氏によると、伝統的なインストラクショナル・デザインではなく、より学習者中心の学習が求められる中、ラーニング・マネジメント・システムなどはもはや学習の中心ではなくなってきており、ソーシャル・ネットワーキングやインフォーマル・ラーニングがより重要な位置づけになってきているとのことです。

そして、インフォーマル・ラーニングの価値をどのように測定していくかに踏み込んでいるところが興味深いです。その他にも、「SU113:Measuring Success:Using Kirkpatrick to Evaluate Synchronous Training」では、同期型トレーニングの権威として様々な書籍を出版しているJennifer Hofmann氏が、同期型トレーニングの効果測定について言及しています。こうした効果測定の新しい動きにも注目してみたいところです。

セールス・トレーニングを扱ったセッションの増加

セッション・アブストラクト全体を見てみると、今年の特徴として、セールス・トレーニングをテーマに扱ったセッションが例年より多いことが挙げられます。
代表的なセッションとしては、「TU107:The Future of Sales Training」などがあります。 このセッションは、セールス業界におけるリーダー4名が最新のトレンドや取り組み事例について紹介しながらパネル・ディスカッションを行い、セールスの現実に対する個人の責任について探究するものとなっているようです。その他にもセールス・コーチングやセールス部隊のタレント・マネジメントなど数多くのセッションが行われます。

セールス・トレーニングを扱ったセッションが増えた背景としては、あくまで仮説にすぎませんが、昨今の厳しい状況の中、より成果・業績に直結するトレーニングが求められていることや、そうした状況においてセールスのあり方を革新していく必要性が高まっているのかもしれません。そうした模索の中から新たな発見が生み出されると面白いと思われます。
 
ここまで、ASTD2009の見所について述べてきました。ASTD2009公式ページに掲載されているセッション概要は、コンファレンスの約1年前、つまり経済危機が顕在化する前に作成されたものが多いといえます。そのため、上述したセッション以外にも、掲載されているセッション概要の内容と、各セッションのスピーカーが環境が変わった現在の状況の中で話す内容やトーンとの間にも違いが出てくることが予想されます。そうした変化に関心を寄せてみるのも面白いかと思います。

特に、キーノート・スピーカーや、Ken Blanchard氏、Bob Pike氏などのレジェンド・スピーカーが、参加者に対してどのようなメッセージを発信するかは注目したいところです。その他にも、各セッションの中で、各国の参加者と積極的に会話してみることを通して、今後の人材・組織開発のあり方について探究を深めてみるのも面白いかと思います。

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