人事システム検討・導入のレバレッジ(てこ)
第1のレバレッジ:人事哲学の確立
人事諸制度がバラバラにならないようにするためには、新しい人的資源管理を検討する際に、まず徹底的に人事哲学を詰める必要があります。それは、人事哲学の枠を超え、企業としての目的意識(何のためにわれわれは存在しているのか)、ビジョン(どこを、何を目指すのか)、行動基準(何を大切とするのか)といったところまでの検討を本気になって経営陣が考え、従業員の納得を得ることです。
そして、その本音の人事哲学をもとに、各制度の相互の影響関係に目を向けることが必要になります。この関係性での不整合が少なければ、たとえ個々の制度の完成度が低くても、全体としてのパフォーマンスは高くなります。また、個々の制度については、従業員の納得性と実現可能性(他の制度との矛盾点、従業員の認識)に着目しながら、数年をかけて手直しをすればよいわけです。
環境や企業の組織の変化が早い今日、検討段階で個別制度ごとの完成度を高めることを重視して、じっくりと机上で議論していることは得策ではありません。その間に制度が陳腐化してしまいます。それよりもむしろ、目的を明確にし関係性を押さえながら、ラフでも制度をスタートさせ、導入しながら2〜3年で変容させていくことが望まれます。
第2のレバレッジ:アカンタビリティとコンピテンシーに基づく人事システム
パフォーマンス(成果・性能)の追求が組織のミッション(使命)である以上、どういった人事哲学を用いるかにかかわらず、組織の構成員にパフォーマンスを出してもらえるようにすることが重要なのは言うまでもありません。
このとき、人事システムを成功させるには、各人の成果責任の明確化が不可欠になります。これまでのわが国の人事システムでは、職務記述書などによって職務内容を示していましたが、成果責任については示されていませんでした。また、今日の企業においてすべての従業員の職務を記述することは不可能ですし、職務記述書に示される職務内容もすぐに変わってしまうので役には立ちません。そこで最近は、「何をするか」ではなく「どういった成果が求められているか」を取り上げるようになりました。そこで出てきた言葉が「アカンタビリティ」と「コンピテンシー」です。
アカンタビリティとは、成果責任のことです。「どういった成果を出すことが自分の責任を果たしたことになるのか」ということを明確化し、目標化することであり、「期待役割」と呼ばれることもあります。
コンピテンシーとは、発揮能力のことです。「アカンタビリティを果たす上で貢献する具体的行動」を明確化し、それらの行動を発揮すれば、アカンタビリティが実現できるようにするもので、「成果行動」「期待能力」と呼ばれることもあります。
人事諸制度と業績をリンクさせるには、人事システムにアカンタビリティとコンピテンシーといった考え方を取り入れることが必要になります。
アカンタビリティが明確に設定されると、期末における業績考課は、このアカンタビリティの達成度で測ることとなります。もちろん、人事哲学のあり方によって、アカンタビリティの達成度に応じてどれだけ給与へ反映させるかのウェイトは変わります。
パフォーマンスを高めるために、アカンタビリティを明確化できたとしても、その達成に向けてどのように行動したらよいのかの判断尺度が必要です。また、アカンタビリティの達成のために自分がどういった能力を高めたらよいかの目安も必要となります。
このとき、コンピテンシーが必要になるのです。これまでわが国では、能力に関しては、職能要件表といったものが用いられてきました。しかし、職能要件表は「職務を遂行する上で必要な能力」という観点から作られているため、成果とリンクしていなかったり、静態的な記述で具体化されていなかったり、更新されておらずに陳腐化しているものが大半でした。したがって、昇進昇格の判断尺度や部下のどういった能力を高めたらよいかの目安として活用できるものではありませんでした。
コンピテンシーは発揮能力ですから、具体的行動で表されます。また、その水準も明らかにしていきます。さらに、ビジネスサイクルが早い今日の状況を受けて毎年更新されるものです。そして、最大のポイントはその職務に就いている人々によって内容を更新することです。
このコンピテンシーを用いて、従業員の能力開発課題を明確化し、現状の能力を棚卸し、その能力を高め、行動として獲得することで、より高い成果の達成を目指すわけです。
このプロセスを図に示すと次の図のようになります。
「アカンタビリティ」と「コンピテンシー」を用いた人事システムの運用プロセス

こうした運用プロセスの人事システムにしていくことが、第2のレバレッジとなります。
第3のレバレッジ:人事部門と人材開発部門との連携
上述のようなプロセスにすると、コンピテンシーの更新は、現場の人、しかも高いパフォーマンスを生み出している人々が、実際に行っている行動を聞き出して検討することが不可欠になります。そうした人々でないと、パフォーマンスに直結する具体的な発揮行動を知らないからです。
この検討は、これまでの人事部門と人材開発部門の枠組みを越えて、現場で高いパフォーマンスをあげているメンバーからのヒアリングに基づいて、彼らと協働作業を行うのが効果的です。そうすることによって、能力開発の方向性も、一般的に言われている「スキル研修」などを行うこと以上に、コンピテンシーに基づいて「どういった能力をどのレベルまで開発するか」を考えるようになります。なぜなら、そのほうがパフォーマンスに直接貢献できるからです。
このように考えると、人的資源管理をミッションとしてきた人事部門と社員の能力開発をミッションとしてきた能力開発部門は、ミッションは異なるかも知れませんが、それを実現するためのプロセスは重なり合うものとなります。そこで、お互いの強い連携が、成功させるために非常に重要な要素になります。それはお互いに人事哲学を検討し、共有し合うことから始めたいものです。
(1998/3/1)