用語集

システム思考と分析的思考(線的思考)の違い

HVDリポートVol.1 No.5より

システムという言葉自体は日常の生活の中で数多く使われています。しかし、実際にどういうものをシステムと呼び、システムにはどういった特性があるのかをあまり理解していないのではないでしょうか。現代社会はあらゆるものがシステムであるとも言えます。そして、システムとなっているものはシステムとして理解しないと、その働きを理解することはできません。つまり、私たちはシステムを見抜く目を養う必要があるのです。ここでは、システムを見抜く目を養うために、システム思考とこれまでの思考法である分析的思考の違いを明らかにしながら、システム的にものを捉えるとはどういうことかをみていきます。
システム思考と分析的思考の違いをまとめると次のようになります。


問題をより大きな問題の一部として考え、他の部分とのつながりを考える

分析的思考では、より精密に科学的に捉えることで物事を正しく捉えることができると考えます。一方システム思考では物事を精密に捉えるよりも、より大きな全体の一部として考え、他の部分との関連を考えていきます。例えば、ある会社でセールスパースンの専門知識が不足しているという問題があったとします。分析的思考では、商品知識という範囲に問題を限定して、分野ごと商品ごとにどういった知識が不足しているのか、どれくらい不足しているのかを分析します。その結果足りないとわかった知識を習得できるような手だてを講じて問題を解決しようとします。一方、システム思考では、単に専門知識の不足だけを問題視するのではなく、専門知識の活用方法はどうなのか、専門知識を提供するしくみはうまくいっているのかなど、より大きな全体としての視点から問題を捉え、他の部分との関連性から問題を位置づけて、トータルとして専門知識が向上する手だてを講じていきます。つまり、分析的思考では、専門知識という限定された領域で綿密に分析を行うことで、より正確に事実を捉えようとしますが、システム思考では、「セールスの専門知識」という領域を取り巻く全体の状況を捉え て、部分的な改善策ではなく、全体がうまくいくような解決策、つまりレバレッジを探していくのです。
「全体を部分の集合と考える」のか、「より大きな全体の一部として考える」のかという分析的思考とシステム思考の違いは、問題を捉える際の思考のプロセスだけではなく、問題を捉える際の世界観にも大きく影響します。分析的思考では全体は部分の集合にすぎません。そして、問題を細かく精密に分析しようとします。つまり分析的思考では、あらかじめ定められた問題という全体が存在しています。さらに考えてみると、問題の全体が限定されているため、細分化すれば必ず答えを見つけることができる。つまり、問題には必ず唯一絶対の正解があると考えているのです。
一方システム思考は、全体はより大きな全体の一部にしかすぎないとして考えるため、他の部分との関係を考えます。そこでは、一度より大きな全体を考えてみても、それよりもさらに大きな全体が存在するため、いつまでたっても問題の全体像を把握することはできません。言い換えれば、どのように問題を捉えるかによって、つまり、認識の仕方によって問題の全体像が異なってしまうということです。そこでは唯一絶対の正解は存在せずに、ある見方、ある認識の上に立った正解があるだけと考えます。


問題を動的に捉え、変化の過程の複雑さをみていく

分析的思考では、問題は静的で変化しないものと考えます。そのため、先に挙げたように問題を綿密に分析し、細部の複雑さを明らかにしようとします。一方システム思考は、問題を変化する動態的なものと捉え、どのように変化をするのかその変化の過程の複雑さを明らかにしていきます。例えば、会社の売上が低下しているという問題があったとします。分析的思考では、事業部ごと、営業所ごと、最終的には担当ごとに売上の状況を分析して、どこに原因があるのかを明らかにしていきます。一方システム思考では、事業部や、営業所、もしくは個人の売上がどのように変化しているのか、その変化の過程を明らかにし、その中から売上が低下している原因を探っていきます。つまり、分析的思考では、問題を静的に捉え、細部の複雑さを探求するのに対して、システム思考は、問題を動態的に捉え、変化の過程を捉えて、その中から問題の原因を探求するのです。


相互関連を捉えて、問題を循環する系として捉える

分析的思考では問題を「原因─結果」が常に直線的につながっていると考えます。そこではその直線をたどれば問題の原因を特定することができます。多くの問題解決手法はこのような形で問題を特定していきます。例えば、「売上が伸びないのは、営業力が低いからだ。営業力が低いのは、営業所長の指導力が低いからだ。営業所長の指導力が低いのは、所長に対する教育がなされていないからだ。つまり、営業所長の教育を行えば問題が解決する。」というように考えます。「風が吹けば桶屋が儲かる」という笑い話がありますが、これは因果関係を直線的につなげていって見当違いの結論に到達してしまう分析的思考の愚かさを風刺したものであるといえます。
一方、システム思考では、問題を循環する系と考えて、相互関連を捉えていきます。例えば、問題に関わるA、B、Cという3つの要因があったとします。分析的思考と同じようにA、B、Cの3つは因果関係で結ばれています。しかし3つは相互に影響を与え合う形で循環しているため、Aが変化するとBもCも変化し、それが再びAの変化を引き起こしてしまいます。そこではいくら直線的に因果関係をたどっていっても問題を究明することはできません。問題の相互関連を捉えて、問題を発生させている(変化を引き起こしている)メカニズムを明らかにしていく必要があるのです。この問題を発生させている(変化を引き起こしている)メカニズムがシステムということになります。

(1998/6/3)


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