学習を促進する会話
効果的なコーチングのために- 「学習を促進する会話」
学習が本人のコントロールによってのみ行われるとしたら、コーチングとは何をすればよいのでしょうか。ここでは、コーチングの具体的な進め方の一例をご紹介します。
実際の学習は、行動を起こし、結果を観察して、その後の行動を調整するというプロセスを通じて起こります。しかし、このプロセスはややもすると単なる経験に終始してしまい、学習体験にまで至らないことがあります。仕事の経験を学習体験に変えるには、前もって、ある特定の心構えが本人にできていることが重要です。その心構えとは、仕事による経験がもたらすさまざまな可能性をつかんでいるかどうかということです。
コーチングでは、このような可能性を気づかせ、心構えをしやすくすることが大切になります。ティモシー=ゴールウェイ氏はこの手法を「セットアップ会話」と呼んでいます。
たとえば、私たちが何か目標をもっている(例:目的地まで安全に運転する)とき、その目標の達成に関係する変数(例:今現在の車の速度)を感知する能力(例:速度計を見なくても、電柱等が後ろに移動する速さの度合いを感じたり、エンジン音を聞いて車の速度を感じ取る能力)を高めれば、目標の達成はより容易になります。「セットアップ会話」とは、効果的な学習を行いながら目標を達成するために、個人やチームの注意の焦点を絞ることを助けるような課題を与えたり、質 問をすることです。この会話は、コーチとの間だけでなく、学習する本人が1人で行うことができると言われています。
「セットアップ会話」は、企業内の研修現場においても具体的に展開されています。AT&T社が、全社にわたって新型コンピューターを導入した際に、26週間にわたる研修プログラムに参加することを社員たちに義務づけたことがあります。このプログラムは受講者12人に教官1人がついて教科書どおりに進められ、最初の2日間には800語を超える新しい用語が出てくるという大変なものでした。そのため、多くの受講者は研修に付いていけずについつい別なことを考えていたり、あ るいは逆にがんばって理解しようとするあまり、かえって学習の成果が上がらないという状態にありました。
AT&T社に研修の改善を依頼されたゴールウェイ氏は、まず受講者に「皆さんは何をしているのですか」と尋ねました。すると、「一生懸命に講義を理解しようとしているのです」という答えが返ってきました。「では、まず理解しようとするのをやめなさい」とゴールウェイ氏が言うと、皆は「何だって!じゃあ、いったい何をしろと言うんだ?」と驚いてしまいました。ゴールウェイ氏は、「理解しようとするのではなく、自分の理解の度合いをチェックしてみましょう。教 官がテキストの文章を読むので、よくわかった文章には(○)、少しだけわかった文章には(△)、まったくわからなかった文章には(×)をつけてください」と言って進めさせました。そして、切りのよいところで区切っては、そこまでの所でわからなかった点について受講者に質問をさせたそうです。すると、それまで質問もほとんどせずに、すぐにやる気を失っていた受講者はにわかに活気づき、受講者のモチベーションを高めるために多 大なエネルギーを費やしていた教官は、受講者の質問に答えるためのリサーチに追われるようになったということです。
また、われわれは仕事の最後にコーチと「結果報告の会話」をもち、学習をより深めることもできます。この会話を通して、学習された内容を「発掘」して、質問を「精錬」し、次の仕事の経験に持ち込むといったことが行われます。
こうした「セットアップ会話」や「結果報告の会話」を行うことによって、経験そのものが教師となり、そこから学習することができるのです。
(この内容は、1997年9月にワシントンで行われた「システム思考会議」におけるティモシー=ゴールウェイ氏と筆者との対談と、"The Systems Thinker"(米国ペガサス社刊)の1997年8月号に掲載された"The Inner Game of Work: Building Capability in the Workplace"(仕事のインナーゲーム:職場における能力構築)という記事の一部の要約が中心になっています。)
(1998/6/3)