用語集

学習の三角形

HVDリポートVol.1 No.6より

ここでは、筆者が'98年の6月にロサンゼルス近郊にあるティモシー=ゴールウェイ氏のご自宅をお訪ねして、コーチングの話を伺った際に得た情報・知識を交えながら、彼の言う「インナー=ゲーム」についてのまとめを試みたいと思います。また今回は、スポーツを題材にした例え話が多く登場しますが、スポーツに限定しないさまざまなコーチング場面に「インナー=ゲーム」の理論を活用していただければ幸いです。

ゴールウェイ氏は、長年にわたるコーチングの経験とそこから得た発見から、学習には認識・信頼・選択の3つの要素が不可欠であるとして、次のような「学習の三角形」を提唱しています。

学習の三角形

認識とは内面的、外面的な現状の認識であり、信頼とは、自己の潜在能力に対する信頼を言います。また選択とは、ゴールに到達することを周囲から押しつけられるのではなく、自分から主体的に選択することです。ゴールウェイ氏は、選択した目標(ビジョン)を明確にし、現状をあるがままに認識すれば、私たちの潜在能力は現状を目標に近づける方向へと自然に働くものだと言っています。つまり、「学習の三角形」における「信頼」とは、自分の潜在意識や潜 在能力を成長への推進力を内包した非常にすばらしいものとして信頼することなのです。

このような学習における3つの要素の考え方が正しいものであることを説明する事例は無数にありますが、ここではゴールウェイ氏が好んで引き合いに出す話の1つを紹介しましょう。

ある時、テニスをやっている人が、「私はバックハンドのラケットの位置が高いので、これまで12人のプロのコーチから指導を受けましたが直りません。何とか助けて下さい。」とゴールウェイ氏のところにやって来ました。そこで彼は、「わかりました。それでは、ラケットがどのくらい高いか、そこの鏡を見ながらラケットを振って確認してご覧なさい。」とだけ言いました。すると、その人は「うわー! 本当に頭よりも高いじゃないか!」と驚いたというのです。

その人は、ラケットが高いのだということをゴールウェイ氏にも説明したほどですから、自分はラケットを高く構えてしまうということを情報としては知っていたのでしょう。しかし、実際にどれほど高いのかということは認識していなかったのです。

そこで、ゴールウェイ氏はその人にこうアドバイスしました。「ラケットの位置を降ろそうとは努力せずに、そのままバックハンドのスイングを続けて、1回毎にその時のラケットの位置を言って下さい。」その人は、ゴールウェイ氏に言われたようにスイングをしてはラケットの位置を確認しました。すると、「頭より上」「頭」「肩」「肩」「胸」「腹」「腰」「腰」「腰より下」「腰」「腰より下」「腰より下」 という具合に、ラケットの位置がどんどん下がっていったので、「ラケットの位置を下げようと努力してはいませんか?」と尋ねると、「いいえ先生、ラケットがひとりでに下がっていくのです!」という答えが返ってきました。

このような「うまくいっていないところを直そうと努力するのではなく、ただそこを認識して注意を向けるだけ」という指導法はスポーツに限りません。これは、ゴールウェイ氏の提唱するコーチング全般に用いられている非常に高い効果性を発揮する方法です。

ゴールウェイ氏は、AT&T社の全米の交換手20,000人に電話応対の教育を行ったときのことをこう振り返ります。「さまざまな場合における自分と相手の声の響きの質に注意を向けさせることだけで、交換手各自が次々と重要なことを学んで、利用者に喜ばれる対応の仕方を身につけていった」と。AT&T社で行ったゴールウェイ氏のコーチングは次のようなものでした。例えば、相手がイライラした声の場合、まずそのイライラの度合いを10段階でいうとどのくらいかを聞き取る。次 に、その人への自分の応対の仕方について声の優しさ、丁寧さの度合いも10段階で評価してみる。そしてまた、それに対する相手の声のトーンの変化の度合いに耳を傾ける。

このように、ゴールウェイ氏は自分と相手の声の感じに注意を向けさせたそうです。すると、交換手たちは特にこちらから「このような場合にはこう対応しなさい」というような指導は一切しなかったにも関わらず、電話でのやり取りのマナーや応対のノウハウを、個性あふれるやり方で身につけていったということです。

(1998/7/2)


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