用語集

前輪後輪理論

姿勢・態度の育成を可能にする『前輪後輪理論』

HVDリポートVol1. No.3(1998/4/1)より

では次に、セールスパースンに必要とされるスキルや能力をわかりやすくモデル化した『前輪後輪理論』を用いて、姿勢や態度の育成について具体的に考えていきます。

前輪とは

オートバイなどの車輪をイメージしてください。前輪は、顧客の領域に最初に踏み込んでいく部分です。これは従来のアプローチ部分にやや相当します。

CSの研究者達がここ数年で明らかにしたデータによると、顧客はセールスパースンが自分のことを理解してくれたなとか、いい人だな、話をしてもいいなと思わない限りは商品の選択に入らないということが明らかにされています。前輪はまさに顧客の気持ちと触れあい、心の壁を突破する部分です。この壁を突破しない限り、商品知識が豊富で、いくら提案力が高くても顧客はセールスの話を聴いてはくれません。前輪がうまく回って初めて、専門知識や質問力、提案力などの後輪部分が力を発揮してきます。そのため、セールスパースンのデータを解析してみると、前輪を構成するスキルが業績と高い相関を示していますが、後輪部分の相関はなかなか表面に出てこないのです。

それでは、どうすれば心の壁を破ることができるでしょうか。それは一言で言えば、熱心さを伝えることです。前輪は熱心さという態度、姿勢を核として回っています。これがうまく回ると顧客がファンとなり、顧客が新たな顧客を連れてくるという状況が起きます。例えば、ほとんど専門知識もなく、セールストークも下手な新人が顧客を獲得してくるときがあります。これは、前輪がうまく作用した結果です。新人の場合、熱心さや想いが強いため前輪が回りやすいのです。しかし、多くの新人は仕事に慣れるに従って当初の熱意が消えていき、前輪が徐々に回らなくなり、後輪部分に頼るようになります。そうすると、技術・知識が増えても売れないということになってしまいます。

競合各社の製品の機能や品質がほぼ一定になり、各社の差がほとんどなくなりつつある今、いかに顧客の心に響くように前輪をうまく回すかが、競合他社に差をつける鍵となります。

こうした前輪の育成を目的として考えられたものが「前輪後輪理論」ですが、この理論は2つの側面を有しています。1つは、次の項で示すように、セールスに関するスキル、態度、姿勢をモデル化したということです。もう1つは、前輪の育成を可能にした教育モデルであるということです。そこでは、受講者の自発的学習をベースとした態度の開発を行っています。

次に、前輪の各構成要素についてみていきましょう。

前輪の構成要素

前輪の構成は次のような4つの輪のディメンション(尺度)で構成されています。

〔図:1〕セールスの前輪後輪

Copyright 1998 HUMANVALUE

1.表現技術
前輪の最も外側にある輪が表現技術です。これは顧客に良い印象を与える姿、動作、話し方です。トレーニングでは目につきやすい部分ですが、この部分は前輪の核である態度や熱意からにじみ出てくるものなので、最初にここを直そうとしないのがコツです。
2.構成内容
表現技術の内側は構成内容です。構成内容とは、セールスの話の中身とその流れのことです。そこで大切なのは、顧客が納得できる話の流れをつくることと、自分の伝えたいことをしっかりと相手に伝えるメッセージ力です。この構成内容ができていないと、他の部分をトレーニングしても成果が出ません。それほど内容構成力はすべての基本となる重要なものですが、セールストレーニングをしてみると、半分近くのセールスパースンがこの部分に欠陥があります。それは話の構成について指導していない企業が多いからです。 この部分のトレーニングでは、トレーナーは最初にセールストークの流れを確認し、できていない部分を受講者とともに作り上げていくことが必要になります。
3.アンカリング
構成内容の内側にくる輪は「アンカリング」です。顧客の心の中に錨(いかり)を降ろしてくることをいいます。アンカリングでは、顧客に対してポジティブ・サジェスチョンを多用することと商品や自社、あるいは自分のストーリー(ドラマ)を伝えることによって、顧客に印象を与え、さらに顧客が他の人に語れるようなストーリーを残してくることが必要になります。アンカリングができないと、何の印象もストーリーも顧客の心に残らないため、顧客はその商品やサービスを検討する気になりません。また、顧客がセールスパースンや会社のファンになり、他の人に口コミや紹介をしてくれることも期待できないでしょう。 固有のストーリーをセールスパースンが心から信じて顧客に語ったとき、その言葉が相手の心に響いてきます。その結果、顧客はこのセールスパースンから何かを買ってみたい、このセールスパースンに協力したいと思うようになります。こういったストーリーは、人から教えられたものや出来合いのものをそのまま話しても、顧客には伝わりません。しかし、このことをセールスパースン自身は自覚していない場合が多いのです。 アンカリングをトレーニングしていくと、前輪の核である自分の態度のあり方や熱心さについて本人が自然に気づき、それを再構成して自己変容を図るという現象がおきます。それにつれて、表現技術も自然と変わっていきます。


前輪を伸ばしていくには

前輪部分のトレーニングを行う際、トレーナーには「教える」という姿勢ではなく、「本人が自分の力で生み出すのを援助していく」という姿勢が必要になります。それは、熱意や態度は他者が意図的に伸ばすことができないからです。

具体的には、トレーナーが顧客役になり、繰り返しロールプレイングを行っていきます。トレーナーは、顧客になりきって顧客としての感想や気持ちを正直にフィードバックします。

そのときに、一度にいろいろなことをあれこれ言わないようにしなければなりません。トレーナーは相手のどこを修正したらよくなるのかを考えて、相手が焦点を絞りやすいように、ポイントを指摘します。それも「こうしたら」という言い方ではなく、こういう事実があったために顧客として自分(トレーナー)はどのように感じたかを伝え、どうしたら良くなるのかを受講者とともに考えます。こうして、フィードバックを踏まえながら何度でもロールプレイングを試みるようにします。そして、ロールプレイングうまくいったら受講者とともに心から喜ぶことが大切です。

実際に、いくつかの企業でこのトレーニング方法を取り入れ、著しい成果を上げています。ある企業では、営業力の底上げを図ろうと、成績の低迷しているセールスパースンを集めて前輪を磨くトレーニングを行いました。その結果、前輪をクリアすることによって、ニーズ探索やプレゼンテーションもスムーズにできるようになったのです。成約率も飛躍的に伸び(1ヶ月間で1年分の売上)、今まで社内コンテストとは縁のなかった人々が、入賞するほどの成果が生み出されました。(1998/4/1)


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