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パフォーマンス・マネジメントの変革

NeuroLeadership Summit 2015

株式会社ヒューマンバリュー  主任研究員  川口  大輔
株式会社ヒューマンバリュー  研究員  霜山  元

近年、人事や人材開発、組織変革といった領域において、「ニューロサイエンス(神経科学)」の知見を生かそうとする取り組みが広がってきています。たとえば世界最大のタレント・ディベロップメントのカンファレンスであるATDにおいても、2014年からScience of Learning(ラーニングの科学)というトラックが設けられ、脳の機能と人間の学習や行動の関係についての研究成果が紹介され、実際の職場や日常業務への適用が模索されています。また、昨今広がっているパフォーマンス・マネジメントの見直しの動きの背景にも、ニューロサイエンスが寄与するなど、同分野への関心が急速に高まっているように思われます。

2015年11月4・5日にニューヨーク Millennium Broadway Hotelで開催された「NeuroLeadership Summit 2015」では、ニューロサイエンスやパフォーマンス・マネジメントに関する実践家や研究者が集い、最新の研究や実践事例についての議論や報告が行われました。本サミットに、ヒューマンバリューからも2名のメンバーが参加しましたので、以下にその概要を紹介させていただきます

サミットの概要

NeuroLeadership Summitとは

NeuroLeadership Summitは、ニューロサイエンス(神経科学)の知見を適用したリーダーシップ開発の実現を目指した研究機関&コンサルティング・ファームである、NeuroLeadership Institute(以下、NLI)が主催するカンファレンスであり、2007年から毎年継続して開催されています。
NeuroLeadership Instituteは、ATDの講演などでも著名なDavid Rock氏、Josh Davis氏、またコロンビア大学モチベーション・サイエンス・センター所長のHeidi Grant Halvorson氏らが中心となって運営しています。

今年のサミットには、22か国、279の組織、537名が参加しました。参加者は、企業でパフォーマンス・マネジメントの変革に取り組んでいる人事や人材開発の実践家の方、大学の研究者、コーチやコンサルタントなどが挙げられます。海外からの参加者の割合も高く、ドイツ、イギリス、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、シンガポール、オーストラリア、ドバイなど、多くの国の方と議論する機会がありました。

企業では、ギャップ、GE、ディズニー、トヨタ、グーグル、アメリカン・エキスプレス、シャネル、マイクロソフト、アクセンチュア、アマゾン、リンクド・イン、アドビなど、伝統的なグローバル企業から、新興企業まで多様な会社が参加していました。また、アカデミックからも、27の大学が参加していましたが、特にコロンビア大学やニューヨーク大学との結びつきが強いように感じられました。こうした大学の研究者と連携して、研究と実践を行っているところが本サミットのひとつの特徴といえます。
リピーターも多く、会場も熱気にあふれていて、同分野への関心の高さがうかがえました。

NLIのリサーチ・ディレクターのJosh Davis氏は、本サミットを、「Most Brain Friendly Summit in the World(世界で最も脳に優しいサミット)」にしたいと話していましたが、75分間のセッションが、2~3のチャプターで構成され、各チャプターでテーマや問いかけが投げられ、短い時間の発表とパネラーの対話形式で行われます。そして、各チャプターの間には、Digestion(消化、理解)の時間があり、参加者は隣同士でダイアログを行い、インサイトを得るなど、一方的に情報が詰め込まれるのではなく、探求が促進されるような形で進められていたのが印象的でした。

サミットの様子

ニューロサイエンスのトレンド

冒頭のオープニング・スピーチの中で、NLIのCEOのDavid Rock氏から、「パフォーマンス・マネジメントの変革について、数年前までは静かなノイズだったものが、今はムーブメントに変わってきています。今日では、50,000人以上の人々が脳を理解することの重要性を理解しており、これは世界に大きな影響を与えます」というメッセージが投げかけられました。

NLIの調査によると、パフォーマンス・マネジメントにおいて、従業員をレーティングして評価することを廃止した企業が、2007年の1社から、2015年には55社以上に増加しているとのことでした。そして、その背景には、伝統的なパフォーマンス・マネジメントがうまくいかない理由、特に数字を伝えるだけではなく、成長に向けた会話を行っていくことの必要性について、ニューロサイエンスの知見が裏付けを行ってきたことがあると伝えていました。

そして、ニューロサイエンスに関して、サミットで取り扱われるテーマも、年を重ねるごとに進化しているようです。2007年にサミットがスタートした当時は、「Announcing a New Field(新しいフィールドの発表)」というテーマのもと、新しい概念が紹介されました。次の3年間は、ニューロサイエンスで扱われる様々な言葉が確認され、同分野の基本となる土台が形成されました。

2011年くらいからは、「Adaptive Organizations(適応する組織)」「Leadership and the Collective(リーダーシップと集合体)」といったテーマで、組織やタレントに関するイシューが議論され始めました。そして、現在ニューロサイエンスが取り組む中心的なチャレンジとして、ダイバーシティ&インクルージョン、バイアス、組織的なグロース・マインドセット(Growth Mindset)の醸成、コンペンセーション、テクノロジーの活用が挙げられるなど、領域が広がっていることがうかがえます。

オープニングスピーチの様子

NeuroLeadership Summit 2015のテーマ

そして、今年のサミットでは、「Accelerate Leadership(リーダーシップを加速させる)」がテーマとして挙げられました。この背景には、この数年間、企業の中で、リーダーシップ開発を加速させることの重要性が特に増してきていることがあるとのことです。
このメインテーマを踏まえて、サミットでは、以下に示す、4つのキーノート・セッションと、3トラックに分かれてのブレイクアウト・セッションが開催されました。

キーノート・セッション

  • Pick Stars Early (スターを早く見つける)
  • Grow People Faster (人々を早く育てる)
  • Rethink Diversity & Inclusion (ダイバーシティとインクルージョンを再考する)
  • Accelerate Change (チェンジを加速させる)

ブレイクアウト・セッション

  • Inside the Organization (企業内の取り組み)
  • Core Research (リサーチ結果を基にした探求)
  • Beyond Corporation (学校教育や政治など、企業以外への適用)

主なセッションのサマリー

ここまでサミットの概要を紹介してきましたが、ここからは、サミットで行われた数多くのセッションの中から、主なセッションのサマリーを紹介し、どのような議論が行われていたのかを共有できればと思います。

Pick Stars Early (スターを早く見つける)

最初に行われたこのセッションでは、「組織を成功に導くリーダー(スター)をいかに早期に見つけるか」ということがテーマとして掲げられ、ニューロサイエンスのリサーチから導き出されたリーダーのポテンシャルに関するフレームワークが、コロンビア大学のKevin Ochsner教授から発表されました。

このリサーチの背景として、組織がフラット化し、リーダーになるまでの時間が短くなっているにもかかわらず、リーダーに求められることの難易度はますます高まっている環境変化があげられます。
以前のように長い時間をかけて、幅広い候補者の中からリーダーを選抜するということはできず、より少ない候補者に集中的に質の高い機会提供をする必要があるため、誰をリーダー候補として選ぶかということの重要性がこれまで以上に高まってきているということです。

こうした課題について、アメリカン・エキスプレスのKathleen McCarthy氏は「スターを見出すためのシステムやフレームは、アメリカン・エキスプレスも含めてほぼすべての大企業は既に持っている。しかし、本当にそれが正しく機能しているかというと、そうではないというデータが明らかになっている。これまでのモデルやフレームワークは現状のパフォーマンスしか捉えておらず、また本人やその上司のバイアスの影響を排除することができていないために、不適切な結果を招いていた。バイアスを超えて、リーダーとしてのポテンシャルを明らかにするモデルを見出したいと考えていた」と話しています。

このような課題を解決するために行われたリサーチに基づき、Ochsner教授はリーダーのポテンシャルに関するフレームワークとして4つのスキルを紹介しました。

リーダーのポテンシャルに関する4つのスキル

  • フォーカススキル
  • ラーニングスキル
  • パーソナルスキル
  • ソーシャルスキル

フォーカススキルとは、ノイズから正確な信号・パターン・情報を拾い出すように、様々な状況の中で自分がやるべきタスクに集中するといったスキルのことです。また、「木も見て、森も見る」といったように、大きな目的を考えたり、具体的な目の前のアクションを考えたりと、対象に対して柔軟にズームイン・ズームアウトするスキルも、フォーカススキルの主要な要素として強調されていました。

ラーニングスキルとは、いかに上手に学習できるかというスキルであり、ここで大事になってくるのはNLIが提唱するAGESモデルです。
AGESモデルとは、知識やスキルを学習するためには、テーマや物事に集中するAttention、学んでいることとこれまでの文脈を結び付けて意味やインサイトを生み出すGeneration、学習中にポジティブな感情を抱くEmotion、期間をあけて何回も学習するSpacingが重要になってくるというものです。
このAGESモデルに沿ったスキルを上手に活用できることを、ラーニングスキルとして紹介していました。

パーソナルスキルとは、自分がどういう人間で、何を望んでいるのか、そこにたどり着くためにはどうすればいいのかといったことをしっかりと理解できるスキルのことです。
大きくはSelf knowledge/awarenessとSelf regulationの2つの要素があり、Self knowledge/awarenessに関しては、自信過剰にならず、また前進する気力を失うほど自信喪失しない程度に、自己認知できることが大事な要素として紹介されていました。

こうした力をoptimal margin of illusion(自分に対する錯覚を最適化する力)と表現していました。また、Self regulationに関しては、情熱と上位の目的を追いかける忍耐力をもっていることが大事な要素として紹介され、そうした力をGrit(困難に立ち向かう気概)と表現していました。また、リンクド・インのPat Wadors氏は「シリコンバレーの文脈においてはGritが決定的な差を生み出す」とコメントしていました。

ソーシャルスキルは、他人の行動とその背景を察知し(Social Perception)、他者とつながりを築き、信頼を獲得する(Social Influence)力として紹介されていました。他者と感情を共有して、共感し、相手のことを正しく理解する。そのうえで、他人のことを助けるようなゴールを設定し、その解決に向けてコラボレーションして、自分の利益を超えた利益のために行動することが大事な要素として説明されていました。

紹介されたフレームワークは、現在使われている7つの主要なコンピテンシーを検証し、多くのニューロサイエンティストと意見交換をしながらアイディアを生成してきたものだそうです。
セッション中においては、それぞれのスキルにおいて、脳内でどのような反応が示されているのかといったデータも合わせて紹介されていました。
Ochsner教授によれば、現在も企業担当者やサイエンティストと検証を繰り返しており、このフレームワークの発展可能性や、実際にポテンシャルをどのように測っていくのかといったことを今後研究していく予定だということです。

4つのスキルのどの部分が重要になるかは、企業が置かれた状況や採用している戦略によって異なってきますし、ポテンシャルのアセスメントについてはまだ研究途上であるものの、現行のシステムに疑問を抱き、企業と研究者が協働しながら研究を進める姿勢はとても印象的でした。
紹介された4つのスキルも、日々の仕事の中で大事にされていることをメタ的に説明することができ、リーダーシップ開発の取り組みを整理する上で非常に有用だと感じました。

コロンビア大学のKevin Ochsner教授

Performance Management Report(パフォーマンス・マネジメント・レポート)

「パフォーマンス・マネジメント」をテーマに掲げたこのセッションでは、NLIのコンサルタントである、Beth Jones氏が、レーティングを廃止した企業33社に対して行ったインタビュー結果や、そこから得られた洞察が紹介されました。
その中では、パフォーマンス・マネジメントの動向を示すトレンドが、フィロソフィー、カンバセーション、エバリュエーションといった観点から提示されていました。

Beth Jones氏によって提示された16のトレンド

  1. Companies want better business performance from PM(企業はパフォーマンス・マネジメントを通して、より良いビジネスのパフォーマンスを望んでいる)
  2. Most companies are rebranding PM(多くの企業はパフォーマンス・マネジメントのリ・ブランディングを行っている)
  3. Structure isn't going away(構造がなくなったわけではない)
  4. Companies are streamlining significantly(企業は、きわめて簡素化の方向に向かっている)
  5. There's no "one size fits all" model(すべてに当てはまるモデルがあるわけではない)
  6. Change management matters(チェンジ・マネジメントが重要)
  7. More performance conversations are happening(より多くのパフォーマンス・カンバセーションが起きている)
  8. The conversations are more about growth(カンバセーションの内容は、成長に関するものがより多くなっている)
  9. Goals are getting more focus(ゴールに、よりフォーカスが当てられている)
  10. Both results and behaviors are being discussed(結果と行動の両者が議論されている)
  11. Low performers are still being robustly managed(パフォーマンスの低い人は、依然としてしっかりとマネジメントされる必要がある)
  12. Everyone still identifies top performers(トップ・パフォーマーの特定は依然としてすべての企業で行われている)
  13. Performance & comp. conversations are being separated(パフォーマンスの会話とコンペンセーションの会話は切り分けている)
  14. Pay for performance is alive and well(ペイ・フォー・パフォーマンスは存続していている)
  15. Pay differentiation is not at risk(ペイに差をつけることは危機にあるわけではない)
  16. Manager discretion is coming back(マネジャーの裁量権が取り戻されている)

Jones氏のレポートでは、多くの企業が、評価やレーティングに関するMyth(神話)を打ち破っており、トップ&ロー・パフォーマーを特定するといった構造を残しながら、パフォーマンスに関する継続的な会話を大幅に増やすことにつなげていることが報告されていました。

また、レポートに続く、パネル・ディスカッションでは、マイクロソフト、シアーズ、ロウズなどの企業で、パフォーマンス・マネジメントの変革に取り組んでいる担当者が、経験やインサイト、今後の展望等を共有し合いました。

たとえば、パフォーマンス・マネジメントの変革に先進的に取り組んでいるマイクロソフトのLisa Dodge氏は、自身の体験を振り返りながら、次のように語っていました。
「これまでは人々が恐れや懐疑心を持ちながらパフォーマンス・マネジメントを行っていました。しかし、現在では、かつてないほどチームとしての成果や協働が求められ、サイロを壊していく必要があります。私たちは、社員がもっとオープンになって、失敗についてもっと話してもらえるような、グロース・マインドセットのカルチャーを創りたいのです。この取り組みは、スプリントではなく、マラソンのようなもので、少しずつ進化させていきます。次に取り組むのは、フィードバックから恐れを取り除くことです。もっとダイレクトなフィードバックが行われ、お互いにエンカレッジされるような状態を実現していきたいのです」

また、シアーズのタレント・マネジメントのVP、Tiffany Morris氏は、次のように話しました。
「以前のパフォーマンス・マネジメントは、目指したいカルチャーに合っていませんでした。一度離れてみて、本当に何が必要なのかを一から考えました。展開にあたっては、2つのポイントを大切にしました。ひとつは、マネジャー・ドリブンではなく、アソシエイト・ドリブンの変革とすることです。アソシエイトが自分で、プライオリティを決めて、自分でフィードバックを頼んだり、会話もリードできるようにすることが重要です。もうひとつはテクノロジーです。誰が誰からフィードバックをもらったか、どれだけの人が行動を変えたのかなど、たくさんの情報を得ることができるのです。そして、取り組む中で、最も大きなチェンジが必要なのはHRです。HR自身が、ビジネスリーダーや従業員の前で完全に具現化できるようになることが重要です」

その他にも、企業の実践家の立場から、たくさんの体験や洞察が語られましたが、特に「パフォーマンス・マネジメントが何を目指しているのかの本質を追及しようとする姿勢」「会話を通してカルチャーを育てる」「社員の主体性を育む」「いきなり大きな変革を起こすのではなく、少しずつマインドセットを変えていく」といった点が重視されていることが印象に残りました。

マイクロソフトのLisa Dodge氏

Optimize Compensation(コンペンセーションを最適化する)

レーティングをなくしていくというトレンドの中で、コンペンセーションがどのように扱われるのかは、企業の実践家にとって関心が高いテーマです。
このセッションでは、「報酬とモチベーションのリンク」「報酬のタイプと最適化」「透明性」「今後の課題」といったテーマをもとに、脳科学・心理学の研究者、企業のリサーチャー、コンペンセーション担当のHR、コンサルタントらが、多様な観点からパネル・ディスカッションを行いました。

たとえばコロンビア大学Dean Mobbs博士からは、ドーパミンのシステムに関する様々な研究結果が共有され、「報酬を与えすぎて、ドーパミンが出すぎても、パフォーマンスは低下してしまう」「自分にプレゼントを買うのと、他者に買うのでは、他者に買う方がモチベーションが高くなるという調査もある」「外発的にモチベートされた人と比べて、内発的にモチベートされた人は、10年後、より多くの人が昇進したり、組織にとどまっているというArmyでの報告がある」など、ドーパミンと報酬、時間軸、社会的規範などの関係性が示されました。

また、CEBのエグゼクティブ・ディレクターであるBrian Kropp博士は、自社が行ってきた様々な調査をもとに「会社が行っているコンペンセーション戦略は、個人で完結するタスクには有効といえるが、今はそういう仕事は少なくなってきています。他者と協働したり、サイロを壊すような仕事に対しては、リワードはインパクトを及ぼしません。逆に、コラボレーションに対してペイしようとすると、コラボレーションは減ってしまいます」「多くの会社が、給料だけではなく、トータル・リワードで見ています。休暇のポリシーもあるし、最も大きなギフトは時間の柔軟性です。また、従業員はどんなリワードを得られるかを知らないことも多くあります。どんなリワードを与えるかと同様に、どうコミュニケーションをするかが重要です」といった観点が提示されました。

そして、マイクロソフトでコンペンセーションを担当するJ. Ritchie氏からは、モチベーションや報酬の透明性について、企業の実践家の立場から、次のようなコメントが投げかけられました。
「テクノロジーの領域で働く人々にとって、最も影響があるのは、内発的な動機です。彼らは目的を持って、この業界に入ってきました。自分たちが世界を変えられると思っていて、これが最も大きなモチベーターなのです」「レーティングのシステムから得られる透明性は不健全なものです。透明性というのは、他の人が何をやったかではなく、自分が何をやったかについてのものであるべきです。同僚との比較ではなく、昨年の自分との比較であるべきなのです。透明性という言葉が何を意味するかをマネージすることが大切です」

パネル・ディスカッションの一部を抜粋して紹介しましたが、コンペンセーションについて考える上でも、これまで当たり前に行われてきたリワードのあり方から脱却して、長期・短期の両面から、本当に人々のモチベーションに影響を与えるものは何なのか、そのために企業がサポートできることは何かといった本質を考え、マネジメントのポリシーに反映させたり、実験的な施策に取り組んでみるなどの議論が真剣に行われている様子が印象的でした。

パネルディスカッションの様子

Grow People Faster (人々を早く育てる)

本セッションでは、いかに人を早く育てるかというテーマについて、ニューロサイエンスの知見をもとに、大学の研究者、コンサルタント、企業のHRの方がパネル・ディスカッションを行いました。特に、人々の成長を促進する大きな要因のひとつとして、「ストレッチ・ゴール」がテーマといして掲げられ、その重要性や難易度、ポイントが探求されました。

NLIのJosh Davis氏は、次のように語ります。
「人が最も成長するのは、Tough Jobs(困難な仕事)を通してです。Tough Jobsとは、具体的には、ストレッチ・アサイメント、ストレッチ・プロジェクト、ストレッチ・プロダクトなどが挙げられます。こうしたストレッチな経験の中で、ストレッチ・ゴールを生むことが大切なのです。ストレッチ・ゴールは、チェックリストではありません。ストレッチ・ゴールの定義は、現状で達成できるレベルをはるかに超え、どのように到達できるかについて明確なアイデアが欠けているものであり、そのため、できそうもない、と受け止められがちなものなのです」

そして、New York UniversityのEmily Balcetis氏からは、ストレッチ・ゴールに確実に取り組んでいくための3つのポイントが挙げられました。
ひとつは、「Plan for obstacles(障害に向けて計画を立てる)」です。Balcetis氏は、理想の状態を示しただけのビジョン・ボード的な取り組みだけではうまくいかず、障害に向けて計画を立てることの重要性について述べました。実際に、Day DreamerとObstacle Plannersの血圧検査を行ったところ、前者は最高血圧が下がり、 後者は上がったといったという実験結果が紹介されていました。

2点目は、「Create the right habits(正しい習慣を創る)」です。不可能なことを可能にするには、正しい習慣を創ることが必要となり、ストレッチ・ゴールを描きつつ、「今日できることは何?」と考えることが重要とのことでした。
その際、自分が立てる目標を「If/Then」ステートメントとして、「こういうときには、こうする」という具体的な意図を持つものにフレーミングすることの有効性が紹介されていました。

3点目は、「See the goal closer(近いゴールを見る)」です。ゴールが遠すぎると、最高血圧も下がってしまい、ゴールを近くに見せる戦略が重要とのことでした。
セッションの中では、「Eyes on the Prize」という、エクササイズの際、ゴールにフォーカスを当てるアプローチを活用することで、人はタスクを17%簡単に感じ、スピードが23%上がったという実験結果が報告されていました。

セッションを通しての所感になりますが、内発的にストレッチ・ゴールを生み出し、3つのポイントを大切にしていくことは、パフォーマンス・マネジメントで行われる、上司とメンバーの間(あるいはメンバー間)の日常の会話を通しても実現していきたい点として、指針になるように感じられました。

Emily Balcetis氏

Rethink Diversity & Inclusion(ダイバーシティ&インクルージョンを再考する)

ダイバーシティ&インクルージョンを実現するために、人々の中に無意識のうちにあるバイアスに企業はどう対処すればよいかというテーマで発表とディスカッションが行われました。

まず初めに、NLIのHeidi Grant Halvorson氏からダイバーシティ&インクルージョンが持つ価値と重要性についての発表があり、ダイバーシティに対する社会的な要求が高まってきているトレンドがあり、優秀な人を惹きつけるうえでも、メディアの評価を高めるうえでもとても重要なテーマになってきているということでした。
また、ダイバーシティが高いほど、事業のパフォーマンス、エンゲージメント、リテンションにポジティブな効果が表われているなど、企業が無視することのできないデータも紹介されました。

インテルのRosalind Hudnell氏は「企業がグローバルで活動するようになり、世界中の人を雇うようになってきた。またSNSの発展などによって様々な人がいるということを認識できるようになった。ダイバーシティは30年前と比べて進歩してきているが、現実を直視すれば、真のダイバーシティの実現には全く到達していないと言わざるを得ない。我々には更なる取り組みが必要だ。」とコメントし、ダイバーシティの重要性が認識され、企業において様々な取り組みが行われてきているものの、人口構成を反映するような真のダイバーシティの実現までには、長い道のりがあるという見解を示しました。

「多くの人が重要性を認めているにも関わらず、ダイバーシティがなかなか進展しない背景には脳のバイアスの力が影響している。バイアスの科学を理解することで、ダイバーシティ&インクルージョンを効果的に推進していけるのではないか」とHalvorson氏は述べ、バイアスに関するリサーチから明らかになったことがコロンビア大学のValerie Purdie-Vaughns准教授から紹介されました。

Purdie-Vaughns准教授によれば、「バイアスとはシンプルに言うと脳内で起こるショートカット」のことであり、脳は、入ってきた情報を素早く簡単に処理するために、これまでに蓄積されたパターンによって解釈するショートカットの機能を多用するとのことです。これは無意識のステレオタイプと呼べるようなもので、プレゼンの中では2人の俳優の写真とハリケーンの衛星画像が並べられ、「ハリケーンにこの2人の名前が付けられた場合、どちらのハリケーンがより猛威を振るいそうか」という質問が投げかけられ、多くの人が黒人俳優の方が強力なハリケーンになりそうだと答えていました。理性的に考えれば何の根拠もないことですが、「直感的にそのように感じてしまうことがバイアスの力であり、これこそが我々が直面しているチャレンジなのだ」とPurdie-Vaughns准教授はコメントしていました。

このようなバイアスによる影響にうまく対処するためには、どういうバイアスが自分たちにあるのかを理解しておく必要があり、その理解を助けるためのモデルとしてNLIが提唱するSEEDSモデルが様々な実験結果と共に紹介されました。

SEEDSモデル

  • Similarity(同一性)
    自分と似た人を高く見積もることで、他者に興味を持つ時や、他者を評価するときに起きる
  • Expedience(ご都合主義)
    「私にとって正しく感じられることは真実に違いない」と思いこむことで、急いでいたり、高い認知的負荷を感じたりした時に起きやすい
  • Experience(自分の経験・認知)
    「自分の経験したことや自分の感覚は正しい」と思いこむことで、どの様な意思決定の際にも起きる
  • Distance(距離・間隔)
    時間的・距離的に近い場所で起きた事象を大きく見積もることで、どの様な場面にも共通して起きる
  • Safety(安全)
    「失敗は成功よりも強力だ」と判断してしまうことで、リスクに関する意思決定時に共通して起きる

合わせて、採用や昇進などに関する意思決定時に働くバイアスの力を抑えるための対策指針が示され、「脳からバイアスを取り除くことはできないため、バイアスを緩和するための対策をプロセスの中に組み込むことが重要だ」というメッセージと共に具体的なテクニックがいくつか紹介されました。

バイアスを緩和する対策

    ,li>Similarity(同一性)
    共通する部分を探すことにフォーカスすることで、そのバイアスに自覚的になること
  • Expedience(ご都合主義)
    少しスローダウンして、全体像を描く。知っていること知らないことを書きだし、何を知る必要があるか、集めるべき証拠は何かを明らかにする
  • Experience(自分の経験・認知)
    自分とは違うタイプの人のセカンドオピニオンを求める
  • Distance(距離・間隔)
    時間の要素からいったん離れて考えてみる
  • Safety(安全)br /> 同じ状況にいる他者にアドバイスをすると考えて決断する

最後に、インテルのHudnell氏が「これまで取り組んできて分かったことは、どんなにダイバーシティのトレーニングを行っても、戻った職場にダイバーシティがなく、学んだことを活用する機会がなければ何も変わらないということ。ダイバーシティ&インクルージョンに関して言えることは、まず多様な人を雇う事、職場にダイバーシティをもたらすことにフォーカスすべきだということ。インクルージョンはその後に実現を目指していくもので、ここは次のリサーチテーマだ」とコメントし、まずはバイアスを乗り越えて多様な人を採用する努力をしていくことの重要性を強調していました。

ダイバーシティの定義やそこで語られる文脈は日本とアメリカで多少違うものの、脳内で無意識のうちに起きてしまう反応を理解し、特定の個人に理由を求めるのではなく、組織全体としてバイアスを乗り越えるための工夫を組織全体のプロセスに組み込むことの有用性や価値を感じるセッションでした。

Rosalind Hudnell氏

Transform Performance Management(パフォーマンス・マネジメントの変革)

このセッションは、当初は予定されていなかったものの、初日に示されたパフォーマンス・マネジメントの変化に対する参加者の高い関心を受けて急遽開催されました。

「継続的な成長のためにグロース・マインドセットを育む」、「率直で誠実なカンバセーションをするために、脳が感じる脅威を取り除く」、「人々が変化をポジティブに受け止めるためにインサイトをファシリテートする」というリサーチから明らかになった3つの事実が、現在起きているパフォーマンス・マネジメントの変化の基盤となっているという説明がNLIのDavid Rock氏からなされました。

グロース・マインドセットとは、スタンフォード大学のCarol Dweck教授が提唱したもので、人々が継続的に変化・成長していくためには、「自分が優秀であることを示そう(Prove yourself look good)」というフィックスト・マインドセット(Fixed Mindset)ではなく、「より良い自分になろう(Improve yourself get better)」というグロース・マインドセット(Growth Mindset)を育んでいくことが大事であるという研究結果が背景にあります。

脳が感じる脅威を最小化するための指針としては、NLIが提唱するSCARFモデルが紹介されました。SCARFモデルとは脳が認識する潜在的な脅威や機会の5つの要素をまとめたものです。
これらの要素が損なわれた時に人々は怖れを感じるため、「そうならないようなコミュニケーションをこのモデルを活用しながら行うことが重要だ」とRock氏は説明していました。

SCARFモデル

  • Status(地位):他者から見て、相対的に重要視されているか
  • Certainty(確実性):未来が予測できているか
  • Autonomy(自主性):出来事に対してコントロールができると感じられているか
  • Relatedness(関連性):他者のなかで安心していられるか、敵ではなく友と感じられているか
  • Fairness(公平性):平等に扱われていると感じているか

その後に、実際に各企業で行われているパフォーマンス・マネジメントの変化を観察してきて、これから変革に取り組もうとする方に勧める8つのポイントが紹介されました。

これからパフォーマンス・マネジメント変革に取り組む人に勧める8つのポイント

  • Pay for Performanceはとてもシンプルな形にして維持する
  • メンバーの報酬を決める権限をマネジャーに委ねる
  • ゴールセッティングによりフォーカスする
  • 成長・育成に関する会話と報酬に関する会話を切り分ける
  • プロセスをリ・ブランディングする
  • カンバセーションの実施状況や、そこで話された要点をトラッキングする
  • タレントレビューの時間を増やす
  • 本当のロー・パフォーマーはパフォーマンス・マネジメントのプロセスとは別のやり方でマネージする

サミットの冒頭でDavid Rock氏が話していたように、パフォーマンス・マネジメントの変革が大きなムーブメントとなる中、先行的な取り組みから学べることがたくさん表れていることを実感できました。
パフォーマンス・マネジメントの変革に取り組んでいる多くの企業が自社の取り組みを共有することに積極的なため、共有された知見をもとに各企業が更に取り組みを進化させ、その知見を再度共有していくという循環がますます加速していくのではないかという印象を持ちました。

David Rock氏

終わりに

ここまで、NeuroLeadership Summitの内容や検討の様子を通して、ニューロサイエンスやパフォーマンス・マネジメントに関する最新の議論や動向を紹介してきました。
本サミットに直接参加して、内容とともに印象に残ったのは、本サミットが、正解を提示したり、事例を詳細に紹介するのではなく、研究中の知見や、企業内での実践経過をもとに、異なる領域の人々がダイアログで探求し、インサイトを生成していくことを大切にされていた姿勢です。

サミットの中では、「まだ、これはデータが足りていなくて、わかっていないのですが・・・」「私たちも実験の途中で・・・」「このジャーニーは・・・」「文脈によって異なりますね・・」といった言葉が繰り返し使われていました。
ニューロサイエンス自体、新しい領域ですし、パフォーマンス・マネジメントの取り組みも、ひとつの正解やモデルがあるわけではありません。そうした答えがない領域の探求に、これだけ多様で、しかも社会的に影響力のある企業や研究者たちが多く参加し、みながパネラーとして登壇し、ダイアログを行い、インサイトを得ていくプロセスを通して、ソーシャル・キャピタルやコミュニティを形成する、またムーブメントを創り出していくことに大きな価値があるように思いました。

こうしたムーブメントは、日本においても広がっていくものだと思われます。私たちも、日本で先進的な実践を行っている企業、制度や育成上の様々なチャレンジに向き合っている企業とともに、こうした知見を活かし、共有しながら、ダイアログ・探求を重ね、人々や事業、社会の成長につなげていきたいと思います。

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