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パフォーマンス・マネジメントの変革

HCI Performance Management Innovation Conference 2016

2016年6月27~28日の2日間、ニューヨークでHCI Performance Management Innovation Conferenceが開催されました。参加した株式会社ヒューマンバリューの霜山・佐野が、以下にその様子をレポートします。

カンファレンスの概要

カンファレンスの主催団体であるHCI(Human Capital Institute)は、ヒューマン・キャピタルや戦略的タレント・マネジメントの領域に関する知見や、ベストプラクティスを発信している団体で、会員数は全世界で19万5千人にのぼっています。主な活動としては、オンライン上でのコンテンツ提供、ワークショップの実施、年4~5回のカンファレンス開催などがあります。

今回のニューヨークで行われたカンファレンスには、200名ほどが参加しており、その多くが米国内の企業に所属している方のようでした。
2日間のカンファレンスは、HCIやNeuroLeadership Instituteによる、新しいパフォーマンス・マネジメントに関するモデルや中心となるコンセプトについての講演と、計12社の事例紹介セッションという内容で構成されています。

印象的だったのは、昨年ヒューマンバリューが参加したカンファレンスでは、フォーチュン500社のうち、約10%がパフォーマンス・マネジメントの変革に取り組んでいるとの発表がありましたが、今回はその数字が20%に増加していたことです。1年の間で数多くの企業が取り組みを始めている様子が感じられました。

また、昨年と比べて、新しいトレンド(主に評価段階付けや相対評価廃止の部分)が、より落ち着きをもって受け止められている雰囲気があったことです。大きな制度変更という見えやすい変化に動揺するのではなく、「本当のハイパフォーマンスとは何か?」「それを実現するマネジメントとはどういうものか?」という、より本質的な変化に焦点を当て、自社で取り組めることを落ち着いて検討していく雰囲気が醸成され始めている印象を受けました。

会場の様子

Agile Performance Management Model

多くの企業が取り組み始めている新しいパフォーマンス・マネジメントを要約したモデルとしてHCIの講演で紹介されたのが、Agile Performance Management Modelです。
VUCAワールドへの対処策としてのAgility(敏捷さ)に着目し、サービス開発やシステム開発と同様に、パフォーマンス・マネジメントもアジャイルに行っていくというコンセプトが、このモデルのベースになっています。
講演の中では、アジャイルなパフォーマンス・マネジメントを構成する6つの領域の紹介が行われ、従来型との違いが説明されました。

<6つの領域>
・Strength-Based Development
・Agile Goal Setting
・Effective, Continuous Feedback
・Coaching for Performance
・Rewards and Compensation
・Social Recognition

HCI Agile Performance Management Model:HCIのウェブサイトより

PMIは"Revolution"か"Evolution"か

HCIの講演の中で、従来型のパフォーマンス・マネジメントを上述のようなアジャイル型へと変革していく取り組みは、Revolution(革命)ではなく、Evolution(進化)であるというメッセージが繰り返し強調されていました。
その背景には、カンバセーションの質を高めることや、素早い成長や変化を促進することは、これまでも大事にされてきたことであり、革命的な大事件として捉えて、その実践を躊躇するのではなく、これまでの取り組みの延長線にあるものとして素早く取り組んでいくことが重要で、そうした認識を企業に広めていきたいという意図があるのかもしれません。

Revolutionとして捉えてしまうと、これまでの取り組みをすべて否定し、不要なものと一緒に本当に価値のある大事な文化や習慣までも捨ててしまうことにつながりかねないので、Evolutionとして捉え、自組織の文化やビジネスモデルに合った取り組みを行っていくことが大切だとも語られていました。具体的には、上述の6つの領域について自組織の現状を知り、まずどこから取り組んだらよいかを検討するところから始めてみてはどうかという投げかけがありました。

一方で、企業事例セッションに登壇したアクセンチュア社の方やTモバイル社の方は、プレゼンテーションの中で自らの取り組みを"Revolution"という言葉を使って表現していました。どちらが正しいということはなく、企業の置かれた状況と目指したい状態次第ではあると思いますが、一連の取り組みを検討する際の観点の1つになるかもしれません。

企業事例から見えてきたポイント

カンファレンスで共有された多くの企業事例の中から、全体的なトレンドとして見えてきたポイントを以下に紹介します。

質の高いカンバセーションを実現する具体策

職場内でのマネジャー・メンバー間、メンバー同士のカンバセーションの重要性は以前より語られていましたが、カンバセーションの質を上げるための具体的な工夫が多く共有されていたのが、昨年からの違いとしてとても印象的でした。

Tモバイル社では、カンバセーションの種類をSYNC(=インフォーマルで頻繁なチェックイン)とINVEST(=学習機会、承認・表彰、報酬についての会話)に分け、それぞれ15個のテーマを用意したそうです。これらはカンバセーションガイドとして全社員に配布され、マネジャーやメンバーが毎回テーマを選んで実施できるようになっており、自律的なカンバセーションの実践に役立っています。

また、AIG社の事例では、結果(What)だけでなく、プロセス(How)についての会話が起こるような工夫として、AIG社で重要となる18の行動が書かれたカードを用いた一連のワークが紹介されました。カードを活用することで、各職場でマネジャーと一緒にメンバー自身の強みや弱みについて会話ができるようになっています。

今回のカンファレンスでは、上記のように、職場で起きてほしいカンバセーションを定義し、それが起こるための様々なツールや具体策が多く紹介され、昨年からの進化を感じました。今後も各社各様の工夫や具体策、研究結果が共有されていくのかもしれません。

パフォーマンス・マネジメントの変革に関するデータ

新しいパフォーマンス・マネジメントを実践し始めてから1年以上経過している企業も多く出てくる中で、パフォーマンス・マネジメントの変革に関連するデータや調査が数多く紹介されていました。

たとえば、アクセンチュア社とコカ・コーラ社が、従来のパフォーマンス・マネジメントと実際のビジネス成果の関連について、自社内で行った調査結果を発表したのですが、両社ともに相関が全く見られなかったそうです。

また、コカ・コーラ社では、Experiment(実験)と称して、新しいパフォーマンス・マネジメントの効果性やビジネスへの影響を調べながら変革を進めており、マネジャーとメンバー両方からのフィードバック・データを毎月記録しているのですが、マネジャーの効果性に関するスコアはすべての項目で上昇しているとのことでした。

その他にも、クラウドサービスを提供するベンチャー企業のデジタル・オーシャン社では、新しいパフォーマンス・マネジメントに取り組み始めた後、従業員のエンゲージメントが向上し、離職率が低下しているというデータが発表されました。

セッションの中では、変革を進める中で経営陣と確認する指標も紹介されており、コカ・コーラ社では、従業員エンゲージメント、労働生産性、売上・利益を長期的な指標として設定し、エンゲージメント・サーベイの関連項目を先行指標として活用しているそうです。また、Tモバイル社では、エンゲージメント・サーベイやタレント・レビューの内容と、ビジネス成果を、経営に報告しながら取り組みを進めているとのことでした。

紹介された事例すべてにおいてポジティブな変化が確認されており、新しいパフォーマンス・マネジメントを行う上でのエビデンスが続々と出てきていると感じました。
変化を測定する指標も共有されてきているので、これから取り組みを開始する企業にとっては大変参考になるのではと思います。

テクノロジーの活用

カンファレンス主催者の方に、次に注目しているテーマを伺ったところ、「テクノロジーだ」という回答があったように、今回のカンファレンスではテクノロジーの活用もホット・トピックの1つとなっていました。

先行して新しいパフォーマンス・マネジメントに取り組んでいる企業と同様に、Tモバイル社やアクセンチュア社、AIG社などは、自社のしくみやサイクルに合わせた取り組みをサポートするアプリを開発したそうです。また、新しいアプリの開発以外にも、G-mailのプラグインを使ってお互いへのフィードバックを送受信できるようにしたり(デジタル・オーシャン社)、ThinkTank(http://thinktank.net/)というサービスを使って、従業員の声を集めたりする(AIG社)など、既存のテクノロジーをうまく活用している企業もありました。

カンファレンスのスポンサー8社のうちの7社が、カンバセーションやフィードバックをサポートするアプリケーションを提供する企業であったりするなど、今後、この領域は加速度的に進化していくのではないかと感じられました。

参加しての感想

冒頭に記したように、パフォーマンス・マネジメント変革の動きが、驚きをもって受け止められることは少なくなってきたようです。フォーチュン500のうちの約20%、100社弱の会社がすでに評価段階付けを排除した新しいパフォーマンス・マネジメントに取り組んでいるという情報もある中で、この動きがだんだん一般化してきている印象があります。

ただし、すでにパフォーマンス・マネジメントの変革に取り組んでいる事例発表企業は、カルチャーの変革やカンバセーションの質をプレゼンの中心テーマとする一方で、会場からはコンペンセーションやハイ(またはロー)・パフォーマーの特定についての質問が出るなど、これらのポイントが、まだ取り組みを始めていない企業にとっての懸念点となっていることが感じられました。

また、日本のビジネスパーソンを対象にしたヒューマンバリューの調査では、モチベーションや評価の納得性、成果の向上に影響の強いパフォーマンス・マネジメントのプロセスとして、4つの軸が明らかになってきています。

<4つの軸>
1.目標設定の質
2.ソーシャル・キャピタル
3.上司と部下とのカンバセーション
4.同僚同士のカンバセーション

今回のカンファレンスでは、特に2.ソーシャル・キャピタルについての言及が少なかったように感じました。ソーシャル・キャピタルとは、組織の中にお互いを尊重、信頼し、協力し合う関係性のことを指していますが、こういったことが今後取り組みをさらに進めていくにあたってポイントとなるかもしれませんし、日本で実践する際のヒントになる可能性もあります。

パフォーマンス・マネジメントにおいてソーシャル・キャピタルの果たす役割やその高め方の工夫については、今後も引き続き研究を行っていきたいと思います。

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