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市民参加

事例2:小田原市の事例「シナリオプランニング等の手法を活用し、職員参加による総合計画策定を実現する」

神奈川県小田原市は「全面的な市民・職員参加による新総合計画策定の取り組み」によって、平成22年度の地域づくり総務大臣表彰を受賞しました。これは、小田原市が平成23年度からスタートする新総合計画を策定するにあたって、できるだけ多くの市民や職員が主体的に計画策定の営みに参加し、持続可能な自治を実現することを目指した取り組みです。
そのプロセスにおいて、小田原市では市民と職員の様々な参加の場づくりが行われました。その中で、市役所で働く職員のみなさまが計画策定に参加できる方法論と場づくりについて、ヒューマンバリューがご支援させていただきました。
本ページでは、具体的には「シナリオプランニング」や「オープン・スペース・ミーティング」といった手法を活用して、小田原市がいかに職員参加を実現していったかについて、支援者の立場から紹介させていただければと思います。

取り組みの背景

弊社が取り組みをご一緒させていただく以前から、小田原市では、多くの市民意見を市政運営に反映するために、市民参画による計画策定を積極的に実践してきました。具体的には、平成10年にスタートした現行の総合計画「ビジョン21おだわら」の策定においては、「市民百人委員会」を立ち上げ、市民と職員が一緒に草案づくりを行いました。また、平成16~17年に行われた後期基本計画の改訂においても、人数制限を設けずに公募した市民が計画に対する提言をまとめるなど、さらなる市民参画が進みました。

そして、平成23年度からスタートする新総合計画の策定において、小田原市は、これまで以上の市民参画を進めようとしました。具体的には、「テーマ型プラットフォーム」と「地域プラットフォーム」の2つのプラットフォームを柱に市政への市民の関わりをさらに深めるよう努めました。そして、テーマ型では、無作為抽出によって選ばれた市民による討議を通して、サイレント・マジョリティのニーズをつかんでいく「おだわらTRYフォーラム」を、地域型では、自治会連合会の区域ごとに「地域別計画」を策定する取組がそれぞれの特徴として挙げられます。

市民参加を進める一方で、それに伴う課題意識も掲げられました。それは、実際に市民の声をもとに計画づくりを行っていく小田原市役所で働く一人ひとりの職員の計画策定に対する意志・モチベーションをいかに高めていくことができるかという点です。

現在小田原市に限らず、様々な自治体で市民参加の取り組みが行われていますが、共通する課題の一つとして、議論に参加している市民の意識が高まる一方で、その場に参加していない市の職員の意識と乖離してしまうということがよく聞かれます。小田原市でも、市民参画による計画策定をより高い次元で実現していくために、市の職員自身も自分たちがどういう姿を実現したいのかについて、これまで以上に真剣に考え、強い意志やこだわりをもって市民からの意見を受け止め、今まで以上に視野を広げて計画策定を行っていくことが重要との認識が高まっていました。

ヒューマンバリューの支援:シナリオプランニングの導入

計画策定への意識を高めていくためには、職員一人ひとりの視座を高め、お互いの想いを共有し、自分たちで未来を創り出していけるような話し合いの場とプロセスを計画策定の中に入れ込んでいくことがポイントとなります。そうした場とプロセスの構築を知識面・運用面からサポートするパートナーとして、私たちヒューマンバリューにお声かけをいただきました。

ご支援にあたっては、小田原市で計画策定全体の取りまとめを行っている企画政策課のメンバーとヒューマンバリュースタッフとの間で、何を実現したいのか、そのためにどんな場とプロセスを創り出していけばよいのかを時間をかけて話し合いました。議論を重ねる中で、実現したい姿へのアプローチとして、「シナリオプランニング」の手法を活用する可能性について検討しました。

シナリオプランニングとは、望ましい未来の状態を探究し、それを実現するプロセスをシナリオとして描くことで、どのようなことが起こりえるのか、またどのような選択肢や行動の仕方があるのかについて、総合的にイメージとして理解や共感を得る手法です。ロイヤル・ダッチ・シェル社や南アフリカの政府が活用し、成果を上げたことから注目されています。
(※シナリオプランニングについて、詳しくは「こちら」)

計画策定では、小田原市が取る政策の方向性がどのような社会を実現していくのかを具体的に提示していくことが重要となります。シナリオプランニングを活用すれば、市で働く職員みなの知識・知恵を活かしながら、小田原市が歩んでいく未来を具体的なストーリーとして描くことが可能となり、より多くの市民が共感し、自分ごととして考えられる計画を提示することができます。また、シナリオを描くプロセスの中で、職員同士が現状の課題や未来について多くの対話を行うことができ、より良い市を創っていくことへの意識やモチベーションを高めていくことが期待できます。

そうした背景から、小田原市では、参加型の計画策定のアプローチとしてシナリオプランニングを活用していくことにしました。

取り組みの詳細

シナリオプランニングのねらい

小田原市のシナリオプランニングの取り組みでは、平成23年から平成34年の間に、小田原市が歩む可能性があるプロセスを、総合計画を構成する37の施策ごとに、複数のストーリーとして描くことにしました。そして、シナリオプランニングを導入することで、大きく次の3点を実現することを目指しました。

  1. 小田原市の将来に対する市民の意識を高める
    小田原市が取る政策の方向性がどのような社会を実現するのかについて、人々が理解・共感しやすいシナリオとして描き、提示することで、市民が自分たちの将来について考えたり、選択したりすることを支援する
  2. 小田原市の将来に対する行政職員の視野を広げる
    小田原市の未来を生み出す物語としてのシナリオを作成するプロセスに担当所管の壁を越えて職員が参画し、話し合いを行うことで、視野を広げ、総合的に小田原市の行政を捉えていく意識が高まる
  3. 小田原市の将来に対する貢献を自覚する
    小田原市のより良い未来の創造や、持続可能な市民自治のまちの実践に向け、市民や職員がどのような貢献をしていくのが望ましいのかをシナリオの作成を通して自覚することができる

重視した運用のポイント

シナリオプランニングの取り組みを通して目指したい姿を実現するために、運用にあたっては、以下のポイントを重視することにしました。

  1. できるだけ多くの人が参加できるようにする
    多くの職員と垣根を越えて対話する機会を設ける
    シナリオの作成過程をオープンにする
    シナリオの内容をシンプルにする(専門性が高くない人でも関わることができる)
  2. 視座が高まるようにする
    既存の考えをそのまま書き写すのではなく、対話や相互作用を通しての、発見や学習、視点の変化、意識の高まりなどを大切にする

シナリオ準備セッションの実施

上記ポイントを実現するために、シナリオプランニングを行うにあたって、できるだけ多くの職員がシナリオづくりに参加できる機会を設けることにしました。その一つが「シナリオ準備セッション」です。このシナリオ準備セッションとは、各施策の担当者がシナリオを描く前に、施策(テーマ)についてできるだけ多くの人々が参加して対話を行い、深堀りすることで、視野を広げる機会です。

自分以外の複数の人にシナリオ作成に参加してもらうことで、様々な人のアイデアを計画作りに活かすことが可能となります。具体的には、施策(テーマ)について、「過去にどんな変化があったか」「現在施策(テーマ)に影響を与えている要因やトレンド(趨勢・潮流)は何か」「どんな未来を実現したいか」「実現したい未来に向けてどんな道筋が考えられるか(未来ストーリー)」といった観点から4~5時間をかけて、みなで話し合いを行い、シナリオを作成する素材を得ていきます。

シナリオ準備セッションの開催にあたっては、セッションを進めるためのファシリテーション・マニュアルを開発すると共に、担当者が各職場でセッションを実施する方法を体験的に学習する機会(ワークショップ)を提供しました。その後、37の施策(テーマ)ごとに、各職場で準備セッションが開催され、総勢で約350名の職員が参加しました。

シナリオ準備セッションの様子
シナリオ準備セッションの様子
各職場で多くの対話が行われた

シナリオの作成プロセスをオープンに

シナリオ準備セッションで得られた素材をもとに、各職場では担当メンバーが施策についてのシナリオを作成しました。こちらもその作成プロセスをできるだけ庁内にオープンにして、多くの人々が協働しながら作成できるようにしました。たとえば、「シナリオ・スペース」という空間を庁内に設けて、作成中のシナリオを職員がいつでも閲覧し、フィードバックできるようにしました。

また、「シナリオ・ノート」と呼ばれる取り組みも行われました。これは、作成中のシナリオをノートに貼り付け、回覧板方式で、次から次へとノートを回し、職員がシナリオに意見を書き込むためのノートです。すべてのシナリオについてのノートが庁内を回りました。そして、自分たちが歩んでいく未来が描かれたシナリオを見て、多くの人がコメントを書き込みました。たとえば、「シナリオを読みながら、その内容に引き込まれていきました......」「楽観的シナリオと悲観的シナリオがありましたが、自分たちの今行っている歩みを止めてしまったら、悲観的なシナリオが実現してしまうのではないかという恐れを感じました」「小田原市職員としてできること、できないことを一人ひとりが真剣に考えなければいけないと思います」「ゼロからの試みでこのようなシナリオを作成できたことは本当に素晴らしいです。シナリオを読ませていただきながら、いろいろな考えやアイデアが浮かびました」など、様々なコメントがありました。共感の言葉や、気づいたこと・発見したこと、そしてより良いシナリオへのフィードバックが、シナリオの質の向上に貢献していきました。

多くの人の手によってシナリオのたたき台が完成した後に、小田原市長や副市長をはじめとした理事者へ発表が行われました。3日間をかけてすべてのシナリオに目を通し、市長や副市長、担当する職員を交えて闊達な話し合いが行われました。

庁内オープン・スペース・ミーティング~開かれた対話・新しい小田原へ~

そして、描かれたシナリオをもとに、今後の小田原市をどうしていきたいのかについて役割や組織の垣根を越えてオープンに話し合うことによって、より良い小田原市の未来を創る場として、庁内で「オープン・スペース・ミーティング」を開催しました。
(※ヒューマンバリューでは、ハリソン・オーエン氏が開発したオープン・スペース・テクノロジーという組織開発の手法に基づいて企業や行政の中で行われるミーティングを「オープン・スペース・ミーティング」と呼んでいます。オープン・スペース・テクノロジーについて、より詳しくは「こちら」)

このミーティングでは、自分たちが話し合いたいテーマを自由に掲げながら、自律的に話し合いが行われていきます。今回は市長を含めた139名の庁内の職員が一堂に集い、「子育て支援」「みんなにやさしい町、小田原市とは?」「小田原の文化遺産市民文化をまちづくりに生かすには?」「これからの小田原市職員について」など、参加者が情熱をもてる26のテーマが掲げられ、話し合いが行われました。最後には、特にみなの関心の高かった、「駅前」「市民との協働」という2つのテーマについて、参加した全員で話し合いを行い、共通の方向性を生み出していきました。

庁内オープン・スペース・ミーティングの風景
庁内オープン・スペース・ミーティングの風景

シナリオの完成

こうした様々な職員参加の取り組みを経て、小田原市の新総合計画における37のシナリオが完成しました。完成したシナリオは、小田原市のホームページで公開されています。
小田原市:総合計画のシナリオづくり

振り返り

対話を通じた組織学習の意義と今後に向けての可能性

今回の取り組みをあらためて振り返ってみると、シナリオを作成する数カ月の間に本当に多くの対話が庁内で行われ、そこから数々の学習が生まれていたように思います。シナリオプランニング効用の一つとして、「組織学習」の促進が挙げられています。小田原市の例においても、異なる部署の職員同士が、垣根を越えて自分たちの体験や想いを語り合い、市の未来をどうしていきたいのかといった話し合いを通して、これまでにはなかった新たな方向性を生み出していくという創発的な学習が庁内の至る所で起きていました。

今回の取り組みの企画・運営を務められた小田原市の職員の方は、次のような感想を話されていました。「項目だけの計画づくりでは、多くの職員が、テーマについて、リアリティーをもって対話することはなかったと思います。シナリオを通して、多くの職員が施策形成に関わり、自分ごととして、仕事を捉えていくきっかけになっているのではと実感しています。」こうしたコメントからも、自分たちの未来を自分たちの手で創り上げていくという意識が高まってきているように思います。

そして、重要なのは、シナリオが完成したらそこで対話を止めてしまうのではなく、対話を継続して行っていくことではないでしょうか。計画やプランも、従来のように一度作成したら、それを着実に実行していくという管理のための位置づけから、計画やプランをオープンにし、それらをプラットフォームとして、できるだけ多くの人がより良い未来を創るための対話を行い続けるためのものへと位置づけをシフトしていくことが必要と考えられます。

小田原市でも最近少しずつ対話の場づくりが進んでおり、先日は福祉に関わる人たちが、誇りに思うことや組織・地域の課題を話し合う「ウェルカフェ」というワールド・カフェを現場の職員が展開するなどの動きもあるそうです。小田原市において、今後もこうした話し合いからより良い未来が生み出されていくことを願っています。そして、私たちも小田原市で取り組ませていただいたことからの学びを活かしながら、今後もシナリオプランニングをはじめとした、未来を創発する様々な取り組みを支援していきたいと思います。

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