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HVDリポートVol1 No.1  1998年2月1日発行

1.ASTDに学ぶ世界の人材開発の潮流


2.ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)-
今、世界で最も注目される経営手法


1.ASTDに学ぶ世界の人材開発の潮流


米国における人材開発の潮流を認識することの意義

米国で取り組まれているマネジメントや人材開発に関するテーマをみてみると、最近4~5年間は毎年のように、取り上げられるテーマや内容が3分の1ほどがらっと入れ替わり続けています。世界最大規模を誇るASTD(全米人材開発機構)(これについては次項で詳述)のコンファレンスでも、毎年テーマが刷新されますが、毎回登場するメンバーはもちろん、新しく参加した世界各国の人々が、共時性をもっているかのように同じ方向性のテーマを追いかけているという状況が起きています。つまり、世界の同一性が高まったため、人々は国境を越えた同一の問題意識をもち始めているのです。ASTDのコンファレンスでは、こうした参加者の問題意識の元に、翌年には更に課題についての深い検討がなされています。その取り組みのいくつかについては、書籍や有識者などを通して断片的に日本にも紹介されてはいますが、あまりにも情報量が少なく、その基本的な思想や潮流が日本の企業の経営層や人材開発担当の方にほとんど認識されていないような気がします。

こうした情報は単発的に収集しても、恐らくその潮流の早さと方向性はつかめないかもしれません。しかし、米国における人材開発の潮流を継続して追いかけてみると、世界では一般的とされている考え方がどれだけ日本に伝わっていないかを理解することができます。逆に日本で盛んに議論されていることが、米国ではまったく扱われていないという場面にも遭遇します。例えば、「EPSS(エレクトロニック・パフォーマンス・サポートシステム)」という言葉はマーケティングという言葉と同じように、米国では1つのジャンルとして扱われていますが、日本ではほとんど知られていません。この「EPSS」の中身のソフトウェアを個別に紹介したら、「それなら知っている」と思われることが多いかもしれません。しかし、問題は「EPSS」という新しい言葉でくくった取り組み思想、コンセプトや価値観というものが日本に導入されていないことなのです。

もっとも、こうした言葉の背景にある概念のすべてが日本に伝わっていなくとも、それほど目くじらを立てる問題ではないような気がします。しかし、従来型のマネジメントの概念や組織についての考え方がコペルニクス的な地殻変動のように変革しつつある世界的潮流について、日本の経営学者やコンサルタント、あるいは、企業の経営層や人材開発担当者が認識していないということは大問題ではないでしょうか。

こうした情報がなかなか日本に伝わらないために、今日の企業の命運を分ける課題が何であるかを知っていたとしても、それに対応する具体的な手法ははっきりしないままです。そのため、日本においては、米国で10数年前にすでに用いられなくなった技法で企業を変革しようとしているといった迷走状態が続いています。

世界が1つになっていく今日、日本だけが島国根性に囚われて後退していくことがないように、世界が議論していることを一緒に学ぶ機会を自らつくっていくことが必要ではないでしょうか。そして、経営、マネジメント、人材開発の各分野で世界的に認識されたテーマについて、世界中の人々と共に学習する場になっているのが、「ASTD」なのです。


「ASTD」(全米人材開発機構)の現在

「ASTD」とは

ASTD(American Society for Training and Development :全米人材開発機構) は、1944年に設立されたHRDのプロによって構成される非営利団体で、米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置いています。ASTDは、この分野における世界最大で最も権威のある会員制組織であり、世界100ヶ国以上の国々に約160 の支部をもち、20000を越える企業や政府団体、教育・研究機関等に所属する65000 人の会員を擁しています。

ASTDの主な活動は、各種の大会や会議の開催、企業内外の動向の調査研究、出版などで、それらを通じて職場の学習とパフォーマンスに関する最新の情報を提供し続けています。また、毎年行われている2つの大きな国際会議には、全世界から参加者が詰めかけています。
それでは次に、インターネットのASTDのサイトから得た情報(1998年2月2日現在)を加味しながら、ASTDの最近の活動等に関してご紹介したいと思います。

2020年を迎えるための準備

経済と社会のしくみが急激な変化を遂げている今の時代おいて、ASTDは、4半世紀先までに起きる諸変化を予測した上で活動の方向づけを行おうと、1995年から1年間にわたって調査研究を始めました。これは、シナリオ=プラニングの手法を駆使しています。ASTDでは、この調査研究の成果から未来に影響を及ぼすいくつかの変数を提示すると同時に、2020年の職場における学習とパフォーマンスのビジョンの前提条件について考えるという試みを行っています。

現在すでに情報技術の発達により、情報経済の新しい時代が幕を開け、仕事と力(仕事に関するスキルや能力、権力、権限など)の性質が大きく変化しています。この大きな変化は、2020年頃に一段落するというのが、未来学者であるスタン=デイヴィス氏の見解です。これは、先に述べた「4半世紀先を見据える」というASTDのプロジェクトとある種の符合が見られ、興味深いといえるでしょう。
こうした変化の速度と複雑さは高まる一方であることは周知の事実であり、2020年には、今現在、私たちが組織に関して知っていることのほとんどが変わってしまっていることでしょう。そのような状況の中で予測できることとして、ASTDが掲げたポイントのいくつかを次に紹介します。

  • 情報のインフラストラクチャーは世界規模のものとなり、文化圏による差異は存在するものの、大部分の人々がそこにつながっているであろう
  • 他者との連結をレバレッジ(てこの作用)として活用する能力が、ビジネスを革命的に変革するであろう
  • 製品・サービス・販売経路は『情報化』されて、それが活用されるにつれて、ますますスマートなものとなっていくであろう
  • マネジャーは、メンバーの業務そのものではなく、活動のプロセスや流れを監督するようになるであろう
  • 競争は、時間と空間の束縛から解放される。その結果、競争はグローバルなものとなるであろう。
  • 学習の重要性はますます高まり、実践を通じて学習することが例外的なことではなく、一般化するであろう
  • 新しい組織形態が生まれるであろう。その一方の極端なものは、多くの産業を手がける世界規模の企業複合体である巨大な「バーチャル企業」であり、もう一方の極端は、5~10人からなる事業単位で集散する契約者たちの「ネットワーク組織」である。また、このような組織の成功は、それがどれだけ長く存続したかではなく、どれだけのパフォーマンスを上げたかで評価される。
  • 企業内部においても、思考・行動・存在の諸様式に関して、西洋文化と東洋文化の融合が進むであろう


上記のプロジェクトの進行と共に、ASTDの活動の焦点は「学習」と「パフォーマンス(成果、性能)」の周辺により集中するようになりました。特に現在は「パフォーマンス」が最大の焦点となっている感があり、パフォーマンス改善のための「コンピテンシー」や「ヒューマン・パフォーマンス・テクノロジー」も注目されています。

このように、米国では人々がどれだけ訓練を受けたかではなく、どれだけ効率的に学習し、どれだけ成果を上げられるようになるかが重視されるようになっています。すなわち、トレーニングからパフォーマンスへのパラダイム・シフトが起きているのです。
(参考資料1参照)

参考資料1

〔トレーニングからパフォーマンスへのパラダイム・シフト〕
出典:www.astd.org)

トレーニング的見地 パフォーマンス的見地
仮定 トレーニング(従業員により多くの技術、知識、能力を与えること)がパフォーマンスに関する問題の解決策である。

トレーニングは、パフォーマンスに関する問題があるときの介入策の1つである。

人材開発部門の目標は、従業員により多くの技術、知識、能力を与えることである。

人材開発部門の目標は、組織のパフォーマンス目標を達成することである。

トレーニング部門は、顧客が要求するトレーニングを提供すべきである。

パフォーマンス改善部門は、トレーニングが必要であるか否かを問う必要がある。

トレーナーにとっての最も重要なスキルは、トレーニングを施し、学習を促進することである。

パフォーマンス改善を行う人にとっての最も重要なスキルは、パフォーマンス問題を診断することである。

役割
  • トレーニングニーズ分析
  • トレーニング計画
  • トレーニングの実施
  • 評価
  • トレーニングの管理とコーディネーション
  • パフォーマンス分析/診断
  • 原因分析
  • 介入
  • 変化の遂行
  • 評価とフィードバック
  • プロジェクト管理
測定基準
  • 参加者の反応
  • トレーニング後の能力
  • 学習から仕事への投資利益率(ROI)
  • パフォーマンス・ギャップへの影響
  • ビジネス目標の達成度
ツール
  • アセスメントツール
  • インストラクション・デザイン・モデル
  • グループ・プロセス
  • 教室
  • 学習テクノロジー
  • テキスト、ワークブック、テスト
  • 組織の事業計画
  • 戦略ステートメント
  • プロセスマップ
  • ヒューマン・パフォーマンス管理のテンプレート、モデル、マトリックス
  • パフォーマンス支援テクノロジー
顧客
  • 学習者
  • 学習者のマネジャー
  • トレーニングのバイヤー
  • プロセスのオーナー
  • パフォーマー
  • パフォーマーのマネジャー
  • 会社の顧客

参考資料2

〔米国のHRDトップを対象にしたASTDアンケート調査結果(1997年度)〕
(出典:ASTD NATIONAL REPORT2月号)

現在の10大傾向の推測

今後3年間の10大傾向の予測

コンピュータ・スキル訓練の需要の増大

「トレーニング」の提供から、「パフォーマンス」改善への移行

チーム・ワークに関するトレーニング需要の増大

コンピュータ・スキル訓練の需要の増大

「トレーニング」の提供から、「パフォーマンス」改善への移行

「トレーニング」の提供から、「学習」の促進への移行

意思決定や問題解決に関するトレーニングの需要の増大

組織内外の境界線を越えて仕事をする必要性の増大(バーチャル組織)

HRDのサービスをより迅速に開発・展開することへの圧力の増大

トレーニングの成果を測定する必要性の増大

システム思考のトレーニングを提供する必要性の増大

業績を測定する必要性の増大

トレーニングの成果を測定する必要性の増大

実際にトレーニングを行うことから学習ニーズと学習方法・技術をマッチさせることへの移行

業績を測定する必要性の増大

知識の共有化と管理の重要度が高まる

「トレーニング」の提供から、「学習」の促進への移行

HRDのサービスをより迅速に開発・展開することへの圧力の増大

HRD介入策の企業事例の開発に対する圧力の増大

10

チーム・ワークに関するトレーニング需要の増大


ASTD’98の概要

先ほど、ASTDの活動として紹介したように、ASTDでは「人的資源開発に関する年次大会」を『ASTD国際会議&EXPO』として、毎年開催しています。この大会では、例年、世界中から15000人以上のHRD管理者・専門家がコンファレンスに出席します。同時に、訓練開発に携わる575社ものブースが立ち並ぶ大規模なEXPOが併設されるなど、世界の最新の情報が集結しています。

今年、54回目を迎えるASTD’98は、250余のセッションと40余のフォーラム、その他さまざまなイベントが予定されています。また、アメリカン・エキスプレス社、ボーイング社、ゼネラル・モータース社、インテル社、ゼロックス社など、世界でトップといわれる企業の訓練開発に携わっている方々がコンファレンスのプレゼンターを務めることになっています。

次に、開催概要について簡単にご紹介しておきましょう。

日程

1998年5月31日~6月4日(5日間)

開催地

米国カリフォルニア州サンフランシスコ市 

モスコーン=センター

テーマ

1.マネジメントとリーダーシップの開発
2.パフォーマンス改善
3.トレーニングとパフォーマンスの測定と評価
4.学習テクノロジー
5.トレーニングの基本
6.変化管理
7.職場問題

基調講演者

ジム=コリンズ(『ビジョナリー・カンパニー』共著者)

イーデス=ワイナー(未来学者)

チンニン=チュー(思想家)

今大会で、どのような新しい問題提起や革新的な取り組みが発表されるか注目したいところです。

本リポートでは、ASTD’98で行われた内容についても、後日、紹介したいと思っております。

*毎年5月から6月のころに、このASTDの国際会議が開催されます。弊社では、ASTDに一緒に参加し、お互いの学習性を高め、相互啓発を行うメンバーを募集しています。その時期が近づきましたら、弊社ホームページでも関連情報をお知らせします。


2.ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織) 今、世界で最も注目される経営手法


企業と働く人々を取り巻く環境の劇的な変化

ロイヤル=ダッチ=シェル社の企画部長をしていたアリー=デ=ハウス氏は著書『リビングカンパニー』(日経BP社)の中で、今日の企業に最も影響を及ぼしている事柄として

  1. 企業を取り巻く世界の急激な変化
  2. 決定的な生産要因の「資金」から「知識」への移行

の2つを取り上げています。

ハウス氏が言うように企業を取り巻く世界の急激な変化は、ビジネスサイクルの急速な短縮化と技術やノウハウの更新スピードの高まりという形で企業や働く人々に大きな影響を与えています。こうした変化は、私たちがこれまでに経験したことがなかったものといえます。今年活用している知識、ノウハウが一年先、半年先ひいては1ヶ月後には陳腐化してしまうのです。

ビジネスサイクルの短縮化によって、既に80年代には、現場の仕事について上司が部下に指導できる時代は終わりました。そして90年代を迎えて、マニュアルで知識を伝承することも難しくなったのです。現場のビジネスパースンは自ら現場で学習し、知識、ノウハウを身につけ行動していく必要があるのです。

また、こうしたビジネスサイクルの短縮化に伴う技術、知識の更新スピードの高まりとグローバリゼーションによる社会環境の変化が原因となって、ビジネスを行う上での重要な資源は、「モノ」や「カネ(金)」から「知識」へと移行しました。それは「知識の時代」あるいは「知識経済の時代」の幕開けといえるものです。金や資本をもっていることよりも、どういった知識、ノウハウをもっているか、そして、それを常に更新し環境変化に適応した最新のものとなっているかが、ビジネスを大きく左右する時代を迎えました。

また「知識の時代」への移行は、企業で働く人々の意識にも影響を与えているといえます。肩書きや所属に対するこだわりに代表されるような、かつて日本人がもっていた組織への帰属意識は希薄になり、人々は「自分はどんな能力や知識をもっているか」ということ、つまり、単に会社のためではなく、個人としての能力や知識をいかに高め、蓄えるかということに強い意識をもつようになったのです。

ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)とは何か

こうしたことからも、「学習」の重要性について容易に指摘することができるでしょう。しかし、現実には個人、組織、社会のそれぞれのレベルにおいて、さまざまな学習を阻害する要因が存在しています。さらには、個人の学習の成果が高まっても、それが必ずしも組織の力として反映されないという問題もあります。

このような企業を取り巻く環境の変化によって引き起こされる問題は、これまでの考え方や経営手法では対応できないものといえます。米国では、世界の先端企業とMIT(マサチューセッツ工科大学)、ハーバード大学など、研究機関の最先端が協力して、早くからそのような問題への取り組みが進められていました。そして、1980年代の終焉頃になると、数々の調査研究と企業内での実践を通して、「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」という概念がクローズアップされるようになったのです。

ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)とは、環境の急激な変化が生み出すさまざまな問題に対応するために、

●企業内外の状況を構成している諸要素の複雑な相互作用を把握する力を養い、
●組織メンバーのコミットメントと創造性を高め、
●チームや組織として個々人の力を結集するスキルを養う

ことを目指した概念、経営手法です。


ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)を実現するために ― 5つのディシプリンの実践

ところで、ラーニング・オーガニゼーションを実現するためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

ラーニング・オーガニゼーションの概念は、「自己マスタリー」「メンタル・モデル」「共有ビジョン」「チーム学習」「システム思考」という5つのディシプリン(規律)によって構築されています。この5つのディシプリンは、ラーニング・オーガニゼーションを実現するために、どれ1つを取っても欠かせないもので、生涯を通じて向上させていく『道』(プロセス)のようなものとして捉えることができます。

次に、それぞれのディシプリンについて簡単に説明します。

自己マスタリー

自分自身が心底から望んでいるビジョンや目的に忠実に従って生きようとするプロセス(過程)のこと。そこでは、自分にとって何が大事であるかの意味、目的、ありたい姿を常に明らかにしつづけることが必要である。これは、自分たちの選んだ目標に向かって自己啓発を進める組織環境をつくり出すことへもつながる。

●実践のためのスキルやツール:クリエイティブ・テンション

メンタル・モデル

1人ひとりがもっている「思いこみ」や「固定観念」のこと。個人の思考や行動に強い影響を与える。自分のメンタル・モデルを常に内省し、明らかにすることによって、改善を続けることが重要。

●実践のためのスキルやツール:推測の梯子;シナリオ・プラニング

共有ビジョン

組織の中のすべての人々が共通して抱いている心のイメージ。共有ビジョンをもつことで、メンバー全員が選んだ未来像や目標に向かって自己啓発を進める組織環境をつくり出すことができる。

●実践のためのスキルやツール:共有ビジョン構築のステップ

チーム学習

チームのメンバーが本当に望んでいる成果を生み出すために、対話を通して学習を引き出し、個人の力の総和を超えたチームの能力をつくり出していく過程。

●実践のためのスキルやツール:ダイアローグ;主張と探求のバランス

システム思考

さまざまな要素が複雑に関連し合っている問題の全体状況と相互関係を明らかにすることによって、解決策を見いだす技法。また、そうした問題について話し合い、理解するための言語。

●実践のためのスキルやツール:システム原型;システム図;マイクロワールド

5つのディシプリンは相互に影響し合い成り立っているので、5つのすべてを実践することにより、大きな相乗効果が生まれることが実証されています。

しかし、組織においては、5つのうちのいくつかを導入するだけでもそれなりの効果はあるといわれています。


世界で注目されるラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)

MIT(マサチューセッツ工科大学)のピーター=センゲ教授が1990年に著した"The Fifth Discipline"(邦題は『最強組織の法則』:徳間書店刊)が、米国でベストセラーになって以来、ラーニング・オーガニゼーションは欧米で大きな注目を集め、それに関する研究と実践が、現在も世界規模で進められています。

米国では、1991年3月に、MITにおいて「組織学習センター」が開設され、MITと13の先端企業(フォード、ポラロイド、フェデラル=エクスプレス等)が協力し、ラーニング・オーガニゼーションの研究開発を推進しています。同センターでは、これまでの活動成果をまとめた“The Fifth Discipline Fieldbook”を1994年に出版しています(同年、中国語訳も発刊)。また、1997年4月にはこれまでの大学(調査・研究部門)と企業(実践部門)からなる体制に、企業コンサルタント(能力開発部門)も加え、新たに「組織学習協会」(SoL=Society for Organizational Learning)として生まれ変わりました。

また、ラーニング・オーガニゼーションの世界的な広がりについては、さまざまな側面から見ることができます。

例えば、ASTD(全米人材開発機構)の機関誌である“Training & Development”の1996年12月号のラーニング・オーガニゼーション特集では、「米国を始めとする世界の多くの国々が、今一番注目し、その追究に力を注いでいるコンセプトがラーニング・オーガニゼーションである」と述べられています。実際、ASTDが1995年に米国のHRDトップたちを対象に行った調査では、回答者の94%がラーニング・オーガニゼーションの構築が重要であると答えています。

さらに、ドイツの調査研究機関が1996年にドイツ国内の優良企業200社を対象に行った調査では、90%の会社が「自分たちはラーニング・オーガニゼーションである」と考えているか、あるいは「ラーニング・オーガニゼーションになろうと尽力している」と答えました。

また、『ハーバード=ビジネス=レビュー』誌は、1997年の創刊75周年記念特別号で、過去10年間において米国の経営思想に最も大きな影響を与えた書籍を2冊選び、その1冊として“The Fifth Discipline”を挙げました(もう1冊は『ビジョナリー・カンパニー』)。そして、この出来事をきっかけに、MITにおけるラーニング・オーガニゼーションの研究にハーバード大学が協力するという新しい動きが生まれています。

現在、MITの組織学習協会(SoL)は、MIT・ハーバード大学・イェール大学を初めとする40の大学とIBM・フォード・インテル等の20の企業、および60のコンサルタント会社が中心となって協力態勢を組み、民間からの会員制自由参加方式も採用して、さまざまな活動が行われています。

また、1990年頃から米国各地において、ラーニング・オーガニゼーションの考え方に基づく教育改革が促進されており、ラーニング・オーガニゼーションの基盤となっている『システム思考』の中学校教育への導入も進められています。


日本におけるラーニング・オーガニゼ-ション(学習する組織)の実現に向けて

ラーニング・オーガニゼ-ション研究会の目的と活動状況

海外、特に欧米においては、研究が盛んに行われ、導入に対しても積極的に取り組まれているラーニング・オーガニゼーションですが、日本では、あまり認識されていないのが現状です。

こうした状況を踏まえ、弊社では、日本におけるラーニング・オーガニゼーションの構築の一助になるようにラーニング・オーガニゼーションの考え方の紹介と最新情報の発信を行い、これに取り組む方々の学習と実践の場を創造することを目的として、1996年に「ラーニング・オーガニゼ-ション研究会」をスタートさせました。

現在、この研究会にはラーニング・オーガニゼ-ションの取り組みに熱心な日本の先進的企業数社の方々にご参加いただいており、メンバーが相互に刺激し合う創発の場として、まさにこの研究会自体がラーニング・オーガニゼ-ションをつくる実験的試みを行っています。

研究会は、月に1会合のペースで、各会合ごとにテーマを設定し、十分な事前準備を踏まえ進められています。また、明確なテーマを掲げた学習だけでなく、参加者の自由闊達な意見交換による相互啓発を通した創発的・創造的な学習が行われています。

具体的には、弊社が海外のラーニング・オーガニゼ-ションに関する最新の文献を随時翻訳し紹介するとともに、設定したテーマについてメンバーの方々と議論し、その実践方法について検討しています。また、実際に企業内研修の場でそれを実践し、その結果を研究会にフィードバックすることによって、お互いに研鑽を深めていくという活動を行ってきました。

研究会発足当時は乏しかったラーニング・オーガニゼーションについての情報も、翻訳活動などを通して幅広く、かつ深く蓄積され、あと一歩で日本におけるラーニング・オーガニゼーション実現の方向性がみえる段階まできています。

また昨年9月には、この研究会のメンバー5人が米国のペガサス社主催のシステムシンキングのコンファレンスに参加するなど、活動の幅を広げつつあります。

第3回ラーニング・オーガニゼ-ション研究会のねらい

ラーニング・オーガニゼーション研究会は、これまで2回(1回につき6会合)の活動を終え、このたび、第3回目を今年(98年)3月から開催しようとしています。

第3回研究会では、先述の「ラーニング・オーガニゼ-ションの5つのディシプリン(規律)」を再度わかりやすく整理し、理解しづらい個別の技法を集大成したいと思っています。

そして、ラーニング・オーガニゼ-ションの構築に一般企業や団体が取り組み、実践できるように、弊社や研究会参加企業での研修場面における実践を繰り返し行い、徐々に導入展開のプロセスを明らかにしていきたいと考えています。

*ラーニング・オーガニゼーション研究会は、月に1会合のペースで土曜日に1日かけて弊社の事務所にて開催されています。

HVDリポート
1998年2月1日発行
発行人 高間 邦男
発行所 株式会社ヒューマンバリュー

HVDリポートVol1 No.1脇注

EPSS
コンピュータを活用した最も今日的な成果支援システム。
シナリオ=プランニング
メンタル・モデル(本リポートの「ラーニング・オーガニゼーション」を参照)の改善に大きく貢献する手法。:「リビング=カンパニー」(日経BP社)に詳しく紹介。
コンピテンシー
期待される役割を果たすために求められる態度・技能のこと。実務に即した具体的な行動により、水準が示されている。
アリー=デ=ハウス(Arie de Geus)
後述のP.センゲ教授は、デ=ハウス氏との出会いに刺激されて、組織学習の研究をライフワークとすることに到った。
ビジネスサイクル
世の中の中心となっている仕事の仕方が、がらっと変わってしまうのにかかる期間。
ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)
アリー=デ=ハウス氏は、「学習とは、自己を変えることによって変化に対応する能力である」と定義している。

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