アーカイブ-HVDレポート

HVDリポートVol1 No.3  1998年4月1日発行

パフォーマンスに直結するセールストレーニングの可能性を探る

消費支出が極端に低迷し、企業の投資抑制が続く今日、HRD担当者には、パフォーマンスに直結するセールストレーニングの導入が急務とされるテーマの1つとなっています。
今回のHVDリポートでは、従来行われてきたセールストレーニングの限界を踏まえて、これからのセールストレーニングやセールススキル開発のあり方について述べたいと思います。


これまでのセールストレーニングとその限界

ご承知の通り、セールストレーニングやセールススキルの開発は、人材開発の重要テーマの1つとして、これまでも数多くの施策が行われてきました。それにも関わらず、効果性が高く、パフォーマンスに直結するものはほとんどなかったと言っても過言ではありません。従来行われてきた研修には、どのような問題があるのでしょうか。

ここでは、これからのセールストレーニング、セールススキル開発のあり方を考える第一歩として、これまで行われてきた代表的なものの概要を整理し、その限界について探ってみることにしましょう。


商品知識教育

1.概要

商品知識教育は、自社の製品・サービスに関する知識や競合他社および市場に関する知識を習得することがねらいです。具体的な方法としては、集合研修による集中的な知識教育(特に新人向け)とマニュアル等に基づいて営業拠点ごとに取り組む拠点研修がその中心でした。また、こうした研修を行わないところは個人の自主的な学習を期待し、それを支援するためのパンフレットやニュースレターなどを送付しています。

2.限界

しかし、商品知識教育がパフォーマンスにどの程度貢献するのかという実証的・科学的な裏づけは行われていません。
また、商品知識教育の多くは、製品・サービスの機能や特長についての情報、いわゆる「テクニカルナレッジ」を一方的に提供するのにとどまっています。しかし、成約に結びつけるには、このテクニカルナレッジと、「プロフェッショナルナレッジ」といわれる顧客の状況やニーズなどに関する情報とを結びつけて整理できなければなりません。そのため、「商品知識研修を受けても、現場ではすぐに役に立たない」という感想もこれまで多く聞かれました。

コミュニケーションスキル教育

1.概要

セールス活動は対人的活動であることから、セールススキルの中でも、対人コミュニケーションのスキルが重要視されてきました。とりわけ、ニーズを探索することがセールスには必須のプロセスであると認識されてからは、「質問の仕方」や相手のニーズを引き出す「共感スキル(積極的傾聴)」がその中心に位置づけられています。

2.限界

多くのコミュニケーション研修は、トレーニング団体が提供するパッケージ型の研修を導入する形で行われてきました。しかし、本来、望ましいセールスコミュニケーションとは、その企業ごとの状況やタスクによって異なるものです。また、環境変化が激しい今日、現場のセールスパースン自身がそれを生み出しているはずです。

したがって、パッケージ型の研修を導入しても、各企業固有の望ましいコミュニケーションを明らかにすることも、生かすこともできないといえます。

OJT

1.概要

セールス活動そのものを学習機会にすべく、上司や先輩による「仕事を通じての教育訓練」が行われてきました。具体的には、OJT計画書を上司が作成し、それに基づいて計画的に育成を図ろうというものです。

2.限界

多忙な状況に加え、セールス活動そのものが日々変化する今日、計画を作成すること自体が困難で形骸化しやすくなっています。せっかくOJTのためのしくみづくりをしても、そのほとんどが機能していないというのが実態です。

自社版研修

1.概要

トレーニング団体が提供してきた従来のセールススキルトレーニングの多くは、営業のプロセスをいくつかの段階に分け、それぞれのステップで必要とされるスキルを身につけてもらうことをねらいとしていました。ところが、営業のプロセスを第三者が細かく分ければ分けるほど、皮肉にも、各企業における実際の営業行為とはかけ離れたものになってしまいます。大手企業が自社独自の研修システムづくりに乗り出した背景には、こうした状況があるのです。

2.限界

自社独自の研修システムの多くは、業績との相関関係に裏づけされた明確な理論的背景や確立されたノウハウがあるわけではありません。そのため自社版研修の多くは、実際には一般の研修で行っているテーマや技法の組み合わせ、あるいはつぎはぎで作成せざるを得ませんでした。ただし、そのような研修でも、基礎的知識を新人に習得してもらうという意味では効果的でした。しかし、先ほど商品知識教育でも述べたように、テクニカルナレッジばかりを習得しても、その後実際に現場に出ると研修で習ったのとは様子が違う、あるいは使えないといった感想が出てしまいます。
そのため、現場では上司・先輩が後輩と協創的に売り方を工夫して、ある程度のスキルを身につけざるを得ませんでした。しかし、それでは営業所間、あるいはどの上司や先輩につくかによってレベルのばらつきが出てしまうことは言うまでもありません。さらにこのやり方では、中堅レベルのセールスパースンをレベルアップさせることができないため、数年で能力が停滞するという状況が生じてしまいます。


実証的・科学的アプローチの必要性

今日、大企業の製造・生産部門では、品質や効率を上げるには何をどのようにしたらよいかが実証的・科学的に明らかにされ、高い生産性を上げるためのノウハウや知識が、組織的に蓄積されています。

それに引き替え、ホワイトカラーである事務や営業の職場では、まだ暗黙知の混沌とした状態の中で、生産性を高める方法を模索しています。営業のツールとしてOAやモバイルが浸透しても、セールス・交渉のノウハウ部分では、いまだに産業革命以前という状態にあるのではないでしょうか。

そのため、一部の経験者の信念といった計測できない仮説が依然として幅をきかせ、それが営業の現場で科学的にデータを取って冷静に見直してみるという行為を妨げています。

しかし、自社のセールスパースンのさまざまな行動と売上や利益、顧客満足といった成果との相関を分析し、どんな行動が高い成果に直結するかがわかれば、どのようなスキルトレーニングが必要かも自ずと明らかになります。また、こうした実証的・科学的アプローチの結果に基づいて行われるトレーニングは、これまでのものに比べて効果性という点でも、格段に違うはずです。

情報技術の進展によって多変量解析などのソフトウェアも非常に安価に手に入る時代となりました。売れる行為、つまり高いパフォーマンスを生み出す行動について科学的・実証的に解明し、それを知識化する取り組みが、今、各企業に求められます。

ヒューマンバリューでは、セールスパースンのどのような特性や行動が高い業績に結びつくのか、また営業マネジャーで高い成果を出している人の特性・行動とはどのようなものなのかを探るため、360度アンケートによる現場のデータを企業の方々と一緒に集め、解析してきました。収集した数社のサンプル数の合計は、2500人を越えています。そのデータの全貌をここに紹介するわけにはいかないのですが、主要な解析結果を踏まえ、これからのセールストレーニングのあり方について提案したいと思います。

成果に直結する態度・姿勢の学習を促すこと

前述したように、これまでの営業研修の多くは、知識習得や技術トレーニングに偏重したものでした。これは、企業が当然のように専門知識や商品知識をいかに増やすかを重視していたためです。

ところが解析してみると、知識を増やすことと営業成績との相関はほとんどないということがわかりました。外資系大手生命保険会社の例でみると、専門知識と業績との相関は相関係数で0.06という低い数値を示しています。これについては、その他の訪問販売などでも同じような結果が出ています。ですから、商品知識教育に力を入れたにもかかわらず、短期間で数字の成果が出ないのは、当然の結果といえるのです。

同じように、人の話を聴く力(積極的傾聴)や質問力、説得力といったその他のセールススキルもほとんど相関はありませんでした。また、性格が明るい、趣味が多い、スポーツをやっている、服装のセンスが良いなどの、世間でよくいわれる業績と関係がありそうな項目も相関はみられませんでした。

では、いったいどんな項目が、業績と高い相関関係にあるのでしょうか。弊社の解析の結果、態度・姿勢といった領域が営業における短期的成果ときわめて相関が高いことが明らかになりました。

スポーツでも勉強でもそうですが、同じ体力や年齢で、同じような練習をやっていても、人によって成果に差が出ます。こうしたことは、大抵、生まれつきの資質が違うといって片づけられてきました。しかし、実際にデータをとってみると、成果の違いは、態度・姿勢に大きく依存していたのです。つまり、態度や姿勢こそが営業の成績を創り出していたのです。

では、具体的にどんな態度が必要なのかを次にみていきましょう。

1.貫徹性

弊社の解析の結果、最も業績と高い相関を示した特性が「貫徹性」です。貫徹性は成績と0.39の相関を示しています。(いくつ以上の相関係数が統計上有意とみなされるかは、サンプル数等によって異なります)
貫徹性とは英語で言い換えると「コミットメント」であり、100%の努力を傾注しようという力、熱心に取り組み、最後まで投げずに徹底してやる力のことです。

2.要点把握力

その次に高い特性が「要点把握力」です。これは、今の状況を見る力をいいます。顧客が何を望んでいるのか、どのように反応しているのかを瞬時に見抜く力です。
要点把握力が低いと、今何をすべきなのかなどの優先順位もつけられません。医薬卸のMSの調査では、顧客のニーズ把握力よりも顧客の状況把握力が成績と高い相関を示しています。


3.目的意識

3番目は「目的意識」です。相関係数は0.12ですが、サンプルが多いため、この計数でも十分な有意水準にあります。目的意識とは、自分は何のためにやっているのか、目的は何なのか、ビジョンは何かなどを明らかにしつづける特性です。

参考までに予備校の生徒500名の調査結果を挙げると、勉強方法の善し悪しよりも、「何のために勉強したいのか」という達成動機の強さが成績と高い相関を示しました。高い成果を上げるために目的意識が必要とされるのは、ビジネスパースンだけでないといえるでしょう。

専門知識やコミュニケーションスキルは必要ないのか?

では、業績と相関が低いという結果が出た専門知識や質問力・提案力はセールスパースンには必要ないのでしょうか。もちろんそうではありません。それらは、顧客との継続的な関係の中で必要になってきます。しかし、新規の顧客に対するアプローチ段階などでは、専門知識の豊富さよりも、そのセールスパースンの態度や姿勢が物を言うということは、体験的にも理解できるのではないでしょうか。


姿勢・態度の育成を可能にする『前輪後輪理論』

では次に、セールスパースンに必要とされるスキルや能力をわかりやすくモデル化した『前輪後輪理論』を用いて、姿勢や態度の育成について具体的に考えていきます。

前輪とは

オートバイなどの車輪をイメージしてください。前輪は、顧客の領域に最初に踏み込んでいく部分です。これは従来のアプローチ部分にやや相当します。

CSの研究者達がここ数年で明らかにしたデータによると、顧客はセールスパースンが自分のことを理解してくれたなとか、いい人だな、話をしてもいいなと思わない限りは商品の選択に入らないということが明らかにされています。前輪はまさに顧客の気持ちと触れあい、心の壁を突破する部分です。この壁を突破しない限り、商品知識が豊富で、いくら提案力が高くても顧客はセールスの話を聴いてはくれません。前輪がうまく回って初めて、専門知識や質問力、提案力などの後輪部分が力を発揮してきます。そのため、セールスパースンのデータを解析してみると、前輪を構成するスキルが業績と高い相関を示していますが、後輪部分の相関はなかなか表面に出てこないのです。

それでは、どうすれば心の壁を破ることができるでしょうか。それは一言で言えば、熱心さを伝えることです。前輪は熱心さという態度、姿勢を核として回っています。これがうまく回ると顧客がファンとなり、顧客が新たな顧客を連れてくるという状況が起きます。例えば、ほとんど専門知識もなく、セールストークも下手な新人が顧客を獲得してくるときがあります。これは、前輪がうまく作用した結果です。新人の場合、熱心さや想いが強いため前輪が回りやすいのです。しかし、多くの新人は仕事に慣れるに従って当初の熱意が消えていき、前輪が徐々に回らなくなり、後輪部分に頼るようになります。そうすると、技術・知識が増えても売れないということになってしまいます。

競合各社の製品の機能や品質がほぼ一定になり、各社の差がほとんどなくなりつつある今、いかに顧客の心に響くように前輪をうまく回すかが、競合他社に差をつける鍵となります。

こうした前輪の育成を目的として考えられたものが「前輪後輪理論」ですが、この理論は2つの側面を有しています。1つは、次の項で示すように、セールスに関するスキル、態度、姿勢をモデル化したということです。もう1つは、前輪の育成を可能にした教育モデルであるということです。そこでは、受講者の自発的学習をベースとした態度の開発を行っています。

次に、前輪の各構成要素についてみていきましょう。

前輪の構成要素

前輪の構成は次のような4つの輪のディメンション(尺度)で構成されています。

〔図:1〕セールスの前輪後輪
Copyright 1998 HUMANVALUE

1.表現技術

前輪の最も外側にある輪が表現技術です。これは顧客に良い印象を与える姿、動作、話し方です。トレーニングでは目につきやすい部分ですが、この部分は前輪の核である態度や熱意からにじみ出てくるものなので、最初にここを直そうとしないのがコツです。

2.構成内容

表現技術の内側は構成内容です。構成内容とは、セールスの話の中身とその流れのことです。そこで大切なのは、顧客が納得できる話の流れをつくることと、自分の伝えたいことをしっかりと相手に伝えるメッセージ力です。この構成内容ができていないと、他の部分をトレーニングしても成果が出ません。それほど内容構成力はすべての基本となる重要なものですが、セールストレーニングをしてみると、半分近くのセールスパースンがこの部分に欠陥があります。それは話の構成について指導していない企業が多いからです。
この部分のトレーニングでは、トレーナーは最初にセールストークの流れを確認し、できていない部分を受講者とともに作り上げていくことが必要になります。

3.アンカリング

構成内容の内側にくる輪は「アンカリング」です。顧客の心の中に錨(いかり)を降ろしてくることをいいます。アンカリングでは、顧客に対してポジティブ・サジェスチョンを多用することと商品や自社、あるいは自分のストーリー(ドラマ)を伝えることによって、顧客に印象を与え、さらに顧客が他の人に語れるようなストーリーを残してくることが必要になります。アンカリングができないと、何の印象もストーリーも顧客の心に残らないため、顧客はその商品やサービスを検討する気になりません。また、顧客がセールスパースンや会社のファンになり、他の人に口コミや紹介をしてくれることも期待できないでしょう。
固有のストーリーをセールスパースンが心から信じて顧客に語ったとき、その言葉が相手の心に響いてきます。その結果、顧客はこのセールスパースンから何かを買ってみたい、このセールスパースンに協力したいと思うようになります。こういったストーリーは、人から教えられたものや出来合いのものをそのまま話しても、顧客には伝わりません。しかし、このことをセールスパースン自身は自覚していない場合が多いのです。
アンカリングをトレーニングしていくと、前輪の核である自分の態度のあり方や熱心さについて本人が自然に気づき、それを再構成して自己変容を図るという現象がおきます。それにつれて、表現技術も自然と変わっていきます。


前輪を伸ばしていくには

前輪部分のトレーニングを行う際、トレーナーには「教える」という姿勢ではなく、「本人が自分の力で生み出すのを援助していく」という姿勢が必要になります。それは、熱意や態度は他者が意図的に伸ばすことができないからです。

具体的には、トレーナーが顧客役になり、繰り返しロールプレイングを行っていきます。トレーナーは、顧客になりきって顧客としての感想や気持ちを正直にフィードバックします。

そのときに、一度にいろいろなことをあれこれ言わないようにしなければなりません。トレーナーは相手のどこを修正したらよくなるのかを考えて、相手が焦点を絞りやすいように、ポイントを指摘します。それも「こうしたら」という言い方ではなく、こういう事実があったために顧客として自分(トレーナー)はどのように感じたかを伝え、どうしたら良くなるのかを受講者とともに考えます。こうして、フィードバックを踏まえながら何度でもロールプレイングを試みるようにします。そして、ロールプレイングうまくいったら受講者とともに心から喜ぶことが大切です。

実際に、いくつかの企業でこのトレーニング方法を取り入れ、著しい成果を上げています。ある企業では、営業力の底上げを図ろうと、成績の低迷しているセールスパースンを集めて前輪を磨くトレーニングを行いました。その結果、前輪をクリアすることによって、ニーズ探索やプレゼンテーションもスムーズにできるようになったのです。成約率も飛躍的に伸び(1ヶ月間で1年分の売上)、今まで社内コンテストとは縁のなかった人々が、入賞するほどの成果が生み出されました。


営業の役割を捉えなおす―『プラットフォームづくり』という考え方

高いパフォーマンスを生み出すためには、これまでのセールストレーニングの概念を見直し、新たな枠組みで取り組んでいく必要があります。

しかし、企業が厳しい環境にさらされている今、トレーニングやスキル開発のあり方だけでなく、営業の役割に対する認識そのものも変えることが必要なのではないでしょうか。

営業の役割の変化

数十年前、企業側が営業に求めていた役割は、「売りたいものを少しでも良い条件で売り込み、顧客との関係を長く維持すること」でした。こうした時代にセールスパースンに求められた重要なスキルは、顧客の購買条件とのズレを調整するための折衝力と良好な人間関係を維持する人間関係構築力でした。その一方で、顧客がセールスパースンに期待していたことは「値引きしてくれる・正直である・すぐ調達してくれる」ことでした。

その後、社会が豊かになり顧客のニーズが充足される時代になると、セールスパースンには、潜在しているニーズを掘り起こす技術が重要になりました。そして、顧客は「むやみに売りつけたりせずに、きちんとした専門知識・技術をもって説明ができる」ことを求めたのです。

ところが近年、顧客は口コミや雑誌、マスコミなどでさまざまな情報を収集することができるようになり、自分で欲しいものを自分で選択することを望んでいます。これは、顧客がそれまでセールスパースンに求めていた役割の一部が減少したことを意味します。

しかしその反面、インターネットなどの普及でも明らかなように、データの総量が3年で倍増するような情報の洪水の中から、顧客が自分に役に立つ情報を自分で選択し、納得できる決定をすることが非常に難しくなりました。

こうした環境の変化から今日、情報をインテグレート(統合)し、知識化したものを提供する『インテリジェント・エージェント』としてのビジネスが、従来の営業に代わって伸びています。売りたい特定の商品を提供するという企業側の論理が主導してきた今でのビジネスは減衰し、商品や情報を集積、インテグレートし、顧客に選択の幅や価値を提供できるしくみを創造した企業が市場を制圧し始めています。

こうした状況を踏まえて、現在、顧客が求めている営業の役割を再定義すると次のようなことがいえるのではないでしょうか。

「営業(セールスパースン)の役割とは、顧客側の状況を踏み込んで理解し、顧客にとって必要な情報や商品をインテグレートすることができ、また、知識や経験を生かした問題解決の提案を顧客がわかる言葉で行う、あるいは、顧客とともに考えていくこと」

プラットフォームづくりが求められる

このような新しい営業の役割に対応した活動を展開するために、企業は2つの側面を整備する必要があります。1つは、急速に変化する市場の動向と複雑で膨大な情報や商品をいち速く集積、加工し、検索できる情報システムのインフラ(基盤)整備を行うことです。

もう1つは、顧客の状況や価値観、ニーズに関する知識であるプロフェッショナル・ナレッジを「コーポレート・ナレッジ」としてデータベース化していくことです。

この2つを実現していくためには、商品・市場の知識と顧客に関する知識の2つを融合し、社内ではもちろん、顧客とも共有化できるオープンな「プラットフォーム」という場をつくっていかなければなりません。

そもそもプラットフォームとは、多くの人が楽に乗り降りしたり、楽に作業をすることができる場のことです。また、2つ以上の異なる路線を使ってやってきた者が、相互に乗り合ったり合流できる場でもあります。ビジネスにおけるプラットフォームとは、全く異質な語彙や文脈、意味をもった者が理解し合い、協働で作業し合える場やしくみのことです。

これからの営業は、このプラットフォームを提供するビジネスに変わっていかなければなりません。他社に先にプラットフォームを作られてしまうと、新しいシステムで市場がくくられ、一瞬にしてシェアを失う時代が今到来しているのです。

セールスプロセスの変革―プラットフォームの視点から捉えたセールスプロセスの構築

プラットフォームづくりを視野に置き、環境変化に適応するためには、従来の「売る」という視点から生まれたセールスプロセスを見直し、捉え直す必要があります。

そこで、プラットフォームの視点から捉えたセールスプロセスの例を次にみていきましょう。

1.イントロデュース

最初の段階は、プラットフォームを共有する、もしくは共に創造していくパートナーとして、顧客に信頼をしていただくために自社や自分を紹介する段階です。

2.プレビュー

次の段階は、顧客の必要な情報や商品・サービスに応える用意があることと、顧客が理解しやすいように提示してあることを「プレビューする」段階です。ここでは、いかに質の良いプラットフォームを用意しているかを顧客に理解してもらうことがゴールになります。このイントロデュースとプレビューの段階を経なければ、顧客は、セールスパースンとともにプラットフォームを創造したり、共有しようとはしません。

3.ニーズ共有

3番目は、顧客の状況・事実を深く偏りなく聞き出し、価値観や人生設計の考え方、ビジョンをそのまま理解することです。それを実現するには、セールスパースンが顧客の語彙や文脈を翻訳して、きちんと把握するための知識・技術・ソフトが必要となります。このとき、セールスパースンはプラットフォームをフルに活用していかなければなりません。ここでは、顧客の状況を理解するための質のよいプラットフォームをもっているかどうかが重要となります。

4.ソリューションの提供

そして、顧客のニーズに対するソリューション(問題解決の提案創造)を提示します。

5.ダイアログ

この段階では、より高い価値の創造を目指して、顧客とプラットフォームを共有しながら、顧客とともに問題解決の方法を創発する段階になります。この段階は顧客とダイアログ(対話)をすることにより、パートナーになることがゴールになります。

〔図2:従来のセールスプロセスとプラットフォームづくりを目指したセールスプロセスの比較〕

Copyright 1998 HUMANVALUE

今後は、例として挙げたようなプラットフォームづくりを役割として踏まえた自社独自のセールスプロセスを創造し、各プロセスにおけるゴールの意味づけを再構築することが重要になります。CSといったものがかけ声だけにならないようにするには、旧来のパラダイムで作られた営業プロセスに縛られている現場を、新しい経営方針に合うような構造に変革しなければならないのです。

最後にお伝えしたように、セールスそのものの認識の変化が求められています。この変化によって、セールスのあり方とそのスキル開発の方向も大きな変容が望まれています。今後、その他のポイントについてもぜひ情報提供したいと考えます。


コラム:ティモシー=ゴールウェイの「インナー=ゲーム」(2)

前号では、

パフォーマンス(成果・性能)=潜在能力-障害

という公式をご紹介しました。今号ではこの公式を基に、障害を取り除くことと、私たちビジネスパースンにとっての「仕事とは何か」「パフォーマンスとは何か」について話を進めていきたいと思います。


学習の障害を取り除く

前号でも述べたように、私たちがパフォーマンスと学習の能力を高めるようとするとき、自分の潜在能力を開発するか、障害を取り除くか、あるいはその両方を組み合わせることが必要です。ここでいう「障害」とは、自分自身あるいはチームの能力の発達や発揮を妨げるさまざまな要因のことです。一般的に、潜在能力開発のプロセスは少しずつ進んでいくのに対し、障害を取り除くことができれば、直ちに、学習とパフォーマンスにおいて広範囲の影響がもたらされるといわれています。したがって、障害を具体的に明らかにすることは、個人やチームの能力を最大限に発揮するための重要な第一歩であるといえます。

ところが、障害を明らかにし取り除こうとすると、パフォーマンスや学習を妨げるメカニズムは、ますます堅固に働くようになることがあります。ですから、コーチやマネジャーが個人やチーム(組織)の中にある障害を表面化する場合は、直接的ではなく間接的に行う必要があります。ヒントや提案などの間接的なアプローチは、直接的なアプローチに比べると時間がかかりますが、障害を取り除くのには非常に有効な方法といえるのです。

しかし、そのような間接的なアプローチを取りつづけるだけでなく、学習障害を取り除くための最も効果的なレバレッジを探す方法はないのでしょうか。ゴールウェイ氏は、そのために、まず仕事そのものの定義から出発しなければならないと言っています。というのも、私たちが「仕事」をどのようにみているかが、職場で行うことのすべてをどう感じとるかを決定しているからです。


仕事とは何か?

多くの人は、「仕事」とは何かを“すること”―― たとえば、「製品やサービスを提供する」「何らかの目標を達成する」など、すなわち、「パフォーマンス」のことだと考えています。しかし、「仕事=パフォーマンス」と定義づけるのは、特に現代のビジネス環境において、あまりにも限定的であり、仕事の一側面を捉えているに過ぎません。

仕事の要素としては、パフォーマンス以外に次の2つのものが考えられます。1つは「体験」です。仕事をしているとき、私たちは惨めさから満足に至るまで、さまざまな感情を体験します。すなわち、仕事をするときにどのように感じているかということです。

そして、もう1つは「学習」です。子供たちが学校での学習や遊びを通じて学ぶように、大人は仕事をすることによって学習することができます。


仕事の三角形

ここで、仕事を考える上でのキーとなる「パフォーマンス」「体験」「学習」について整理してみましょう。

仕事中の体験が、まったく退屈であったり、ストレスばかりを感じるものであれば、学習もパフォーマンスも低迷します。また、情報化が進んだ現代の社会では、学習を怠れば、パフォーマンスは時間と共に低下します。このように、パフォーマンスと体験と学習は相互依存の関係にあるのです。この3つの関係は、次のような「仕事の三角形」として描くことができます。ここで重要なのは、三角形のバランスをとるということです。

仕事の三角形

競争の激しいビジネスの世界においては、体験や学習よりもパフォーマンスが重視されていることを理解するのは簡単です。しかし、体験や学習を犠牲にしてパフォーマンスを追求すれば、結果的にパフォーマンス自体が低下してしまいます。しかも、このようなときマネジャーたちは、パフォーマンスによりいっそうの圧力をかける場合が多いので、学習や体験を高めるための時間や資源が、ますます削られてしまうのです。

それでは、パフォーマンス重視の傾向とは、実際にどのような形で現れるでしょうか?平均的なセールスマネージャーを例に取ってみましょう。彼の話は、普通、パフォーマンスの話題が中心になります。「何本電話をかけたか?」「そのうち手応えがあったのは何件か?」「来週の予定はどうか?」などが話の大半を占めます。

一方、本気で自分のチームの成長に取り組み、そして自分自身の学習にもコミットしているマネジャーはどうでしょう? 彼は次のような質問もするかもしれません。「それまで君が知らなかったことで、新しくお客さまから学んだことが何かあったかい?――お客さまがどういったことを避け、どのようなニーズをもっているか、われわれの商品をどう思っているのか、あるいは、われわれの競争相手に比べてどうだとか、何でもいいんだ。」「新しいプロモーションに、お客さまはどのような反応を示しているかい?」「あなた自身のセールススキルに関して、何かわかったことがありますか?」「われわれの競争相手は、今どんなことをやっていますか?」「あなたは、来週はどんなことを知りたいと思っていますか?」「あなたが学んだことで、チームメンバーの助けになるようなことが何かありましたか?」

どちらのマネジャーをもったメンバーが、個々の学習能力を高めることができるか、そして、仕事に対してコミットメントし、より高いフォーマンスを生み出すことができるかは明らかなのではないでしょうか。

次号では、仕事の三角形のバランスをとることについて、さらに深くみていきましょう。 (次号に続く)

HVDリポート
1998年4月1日発行
発行人 高間 邦男
発行所 株式会社ヒューマンバリュー

ページトップへ