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HVDリポートVol1 No.5 1998年6月3日発行
問題解決手法の新しい波─システム思考
今日ほど数多くの問題が錯綜し、解決の糸口が見えづらい時代はなかったのではないでしょうか。環境問題や、少年の暴力、金融ビッグバン、経済不況、官僚や政治家の汚職など新聞紙面を毎日賑わせている問題を見ても、それがどのような背景や状況をはらんだものなのか、そしてどのような解決策が効果的なのかを一概に決めつけることはできません。1つの問題には複雑な影響関係があり、それを解決しようとして打った施策がまた別の問題を引き起こしていくことが多いからです。1億総評論家という言葉が昔に言われたことがありました。現在でも、素人が自分なりに問題を指摘したり、「こうすればいいんだ」というように短絡的に解決策を提示することはできます。しかし、それで本当に問題が解決されるかどうかはわからないというのが実状でしょう。こうした状況は何も、素人に限ったことではありません。経済や金融、教育や政治の専門家であっても、現在発生している問題を根本的に解決する方策を提示することができないのです。現在求められているのは、複雑に絡み合っている問題の影響関係を捉えて、問題を発生させているメカニズム、システムを明らかにすることです。そして、 そこから、その場限りではなく、問題を生み出しているシステムそのものをよいシステムへと変えていくような方策を実行していくことなのです。
今回のHVDリポートでは、こうした問題の解決を行うための有効なツールとなりうる『システム思考』を紹介していきます。今回紹介するシステム思考は米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)と世界のいくつかのトップ企業を中心に開発された問題解決のための思考法です。今までの分析的手法では解決できなかった、さまざまな要素が複雑に絡み合い関連している問題を解決するための手法といえるものです。また、世界的に最も注目を集めている経営手法でもあり、組織の学習性とそこで働く個人の主体性を高めることを主眼とするラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)の根幹となる思考方法であるといえます。
このリポートでは、そうしたシステム思考について、
「システム思考について考える」「システム思考の誕生」「システム思考と分析的思考」「システム思考のものの捉え方」「拡張プロセスと平衡プロセス」「システム図の効用」「システム原型」「システム思考とラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」「システム思考に関わる参考情報」の観点からご紹介していきます。
システム思考を考える
オゾン層の破壊と地球の温暖化、ダイオキシンや環境ホルモンなど、現在、表面化している問題を考えれば、誰しもが、環境破壊をしないほうがよいということに異論はないと思います。しかし、環境破壊を防ぐには、経済や人口の成長をセーブしなければなりません。また、自分たちの生活のあり方も根本的な変革を求められるかもしれません。企業で働く者は、自分の会社が成長をしたほうがよく、他社よりも大きな利益を稼ぐことが善であると考えています。そうした中で、いまさら成長を止めろといわれても何をしてよいかもわからなくなります。生活者自身も、徐々にでも自分たちの生活が良くなったり、便利になることが当たり前だと思っています。環境破壊を防がなければならないことはわかっていても、そのためにどのように生活を改善していけばよいのかがわからないでいます。
こうしたわれわれの実状を、レスター・ブラウンはその著書『エコ経済革命』の中で次のように言っています。
「世界(人口、資源の消費)が1950年以来6倍近くに膨れ上がるにつれ、基本的なモノやサービスを提供する地球の能力が追いつかなくなってきた。地球の自然の制約とあちこちでぶつかっているにもかかわらず、われわれ人間は、地球の能力が無限であるかのように、人口を増やし、消費レベルを引き上げ続けている。現在のままの形で世界経済が膨張を続けるならば、最後にはそれを支えている自然のサポートシステムを破壊し、衰退していくだろう。この衰退と崩壊というシナリオは極めて論理的であって目を背けることができないにもかかわらず、われわれは環境を破壊しない持続的な経済に変えていくことができないでいる。」
アメリカの科学史家のトーマス・クーンは、従来のパラダイムの用語や概念で、誕生しようとする新しいパラダイムを語ることはできないと言っています。つまり、現在の私たちには新しいパラダイムに従って、企業や生活、環境問題を考えていく必要があるのです。
そうしたパラダイム変革の1つとなるのが、「部分を良くしていったら、全体が良くなる」という発想からの脱却です。これまでの科学は「物事をより精密に分析することでより正確に捉えられる」という考えの元に発展してきました。物事を機械のような秩序だった存在として考え、それを細分化し、精密に分析すれば、正確に理解することができると考えたのです。換言すれば、細分化された部分の集合が全体であると考えることで、部分の最適化を図れば全体がよくなると考えていたのです。
しかし現在では、物事や目の前に起こっている出来事を個別に捉えるのではなく、統計的な推移のパターンや出来事間の因果関係・影響関係の構造を適切に見抜き、全体をシステムとして捉えて、レバレッジ(全体を動かすてこ)に手を打っていくやり方が求められているのです。
こういった物事の捉え方をシステム思考といいます。従来から慣れ親しんだ分析的思考法、還元主義的思考法に対して、システム思考は問題の増加、減少、やりすぎ、遅れなどを一連の動的パターンとして捉え、それらの動きの相互の影響関係に焦点をあてていきます。この思考法からは、「右か左か」「成長かそれともゼロか」といった単純な解決策ではなく、複雑な状況の全体を良くしていくための解決策を見つけることができます。
システム思考を使わずに行動のパターンや影響関係を見抜こうとすると、極めて単純な悪循環や、好循環、それに伴う阻害要因を見つけ出すことくらいが限界になります。しかし、実際のシステムはそうした単純なものではありません。単純な系を描いていたシステムが環境に不適応になると、新たな系をそのシステムに付加して適応しようとしていきます。その結果、システムはますます影響関係が複雑になってしまうのです。従来の計量経済モデルが当てにならなくなったと言われるのは、国内経済の閉じたシステムが世界規模になるにつれ、いろいろなシステムがくっつきあって、影響関係の複雑さが増し、単純なモデルでは解決ができなくなっているからです。ジョン・ネズビッツは最近の著書『メガ・チャレンジ』で「われわれが世界を認識するのに利用するメンタル・フレームワークが時代遅れになってきている。経済危機は、グローバルでボーダーレスな経済の実態を把握できないために起こっているに過ぎない。」と言っています。そして「現在の世界を理解するための新しい概念的なツールを打ち立て、磨きをかける必要がある。」と提唱しています。
こうした事態に対して、新しい時代の環境、テクノロジー、政治、経済、マネジメントを理解していく概念的ツールとして活用できるのがシステム思考と言えるのです。
システム思考の誕生
今回紹介するシステム思考は、近年欧米で注目されているSYSTEMS THINKINGをさしています。MITのピーター・センゲ教授は、1990年に『THE FIFTH DISCIPLINE』(邦訳『最強組織の法則』徳間書店,1995)でラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)を提唱し、その中でシステム思考を紹介しました。その後、世界で3000のグループが研究や実践活動を行い、現在では高校や中学での授業にも取り入れられ、企業においてもマネジメント理論のベースになるほど一般化されています。
このシステム思考は、1956年にMITのフォレスター教授によって創案された、システムダイナミックスが基になっています。これは時間と共に変わる企業の性質を研究するために考えられたもので、最初は「インダストリアル・ダイナミックス(IDと略称)」と呼ばれていました。1967年にフォレスターは地域問題に目を向け、『アーバン・ダイナミックス』を出版し、さらに世界モデルの構成に着手し、1971年に『ワールド・ダイナミックス』を出版しました。1970年ローマクラブは、フォレスターの弟子のデニス・L・メドウスを主査とするMITのチームに研究を委託し、その結果が『成長の限界』として出版されました。そのときのモデル(ワールド3)は、特にシステム・ダイナミックス・モデルを分析するためにMITで開発されたシミュレーション言語「ダイナモ」によってプログラムされていました。さらに、国家レベルの問題を扱うナショナル・ダイナミックスや健康医療問題を扱うヘルス・ダイナミックスなど社会システム全体を扱うようになり、これらを総称してシステムダイナミックスと呼んでいます。
今日では、パソコンでシミュレーションができる「ステラ」という言語(Barry Richmondが開発High Performance Systems,Inc販売)が開発され、簡単にモデルが作れるようになり、教育に活用されています。
システム思考と分析的思考(線的思考)
システムという言葉自体は日常の生活の中で数多く使われています。しかし、実際にどういうものをシステムと呼び、システムにはどういった特性があるのかをあまり理解していないのではないでしょうか。現代社会はあらゆるものがシステムであるとも言えます。そして、システムとなっているものはシステムとして理解しないと、その働きを理解することはできません。つまり、私たちはシステムを見抜く目を養う必要があるのです。ここでは、システムを見抜く目を養うために、システム思考とこれまでの思考法である分析的思考の違いを明らかにしながら、システム的にものを捉えるとはどういうことかをみていきます。
システム思考と分析的思考の違いをまとめると次のようになります。
問題をより大きな問題の一部として考え、他の部分とのつながりを考える
分析的思考では、より精密に科学的に捉えることで物事を正しく捉えることができると考えます。一方システム思考では物事を精密に捉えるよりも、より大きな全体の一部として考え、他の部分との関連を考えていきます。例えば、ある会社でセールスパースンの専門知識が不足しているという問題があったとします。分析的思考では、商品知識という範囲に問題を限定して、分野ごと商品ごとにどういった知識が不足しているのか、どれくらい不足しているのかを分析します。その結果足りないとわかった知識を習得できるような手だてを講じて問題を解決しようとします。一方、システム思考では、単に専門知識の不足だけを問題視するのではなく、専門知識の活用方法はどうなのか、専門知識を提供するしくみはうまくいっているのかなど、より大きな全体としての視点から問題を捉え、他の部分との関連性から問題を位置づけて、トータルとして専門知識が向上する手だてを講じていきます。つまり、分析的思考では、専門知識という限定された領域で綿密に分析を行うことで、より正確に事実を捉えようとしますが、システム思考では、「セールスの専門知識」という領域を取り巻く全体の状況を捉えて、部分的な改善策ではなく、全体がうまくいくような解決策、つまりレバレッジを探していくのです。
「全体を部分の集合と考える」のか、「より大きな全体の一部として考える」のかという分析的思考とシステム思考の違いは、問題を捉える際の思考のプロセスだけではなく、問題を捉える際の世界観にも大きく影響します。分析的思考では全体は部分の集合にすぎません。そして、問題を細かく精密に分析しようとします。つまり分析的思考では、あらかじめ定められた問題という全体が存在しています。さらに考えてみると、問題の全体が限定されているため、細分化すれば必ず答えを見つけることができる。つまり、問題には必ず唯一絶対の正解があると考えているのです。
一方システム思考は、全体はより大きな全体の一部にしかすぎないとして考えるため、他の部分との関係を考えます。そこでは、一度より大きな全体を考えてみても、それよりもさらに大きな全体が存在するため、いつまでたっても問題の全体像を把握することはできません。言い換えれば、どのように問題を捉えるかによって、つまり、認識の仕方によって問題の全体像が異なってしまうということです。そこでは唯一絶対の正解は存在せずに、ある見方、ある認識の上に立った正解があるだけと考えます。
問題を動的に捉え、変化の過程の複雑さをみていく
分析的思考では、問題は静的で変化しないものと考えます。そのため、先に挙げたように問題を綿密に分析し、細部の複雑さを明らかにしようとします。一方システム思考は、問題を変化する動態的なものと捉え、どのように変化をするのかその変化の過程の複雑さを明らかにしていきます。例えば、会社の売上が低下しているという問題があったとします。分析的思考では、事業部ごと、営業所ごと、最終的には担当ごとに売上の状況を分析して、どこに原因があるのかを明らかにしていきます。一方システム思考では、事業部や、営業所、もしくは個人の売上がどのように変化しているのか、その変化の過程を明らかにし、その中から売上が低下している原因を探っていきます。つまり、分析的思考では、問題を静的に捉え、細部の複雑さを探求するのに対して、システム思考は、問題を動態的に捉え、変化の過程を捉えて、その中から問題の原因を探求するのです。
相互関連を捉えて、問題を循環する系として捉える
分析的思考では問題を「原因─結果」が常に直線的につながっていると考えます。そこではその直線をたどれば問題の原因を特定することができます。多くの問題解決手法はこのような形で問題を特定していきます。例えば、「売上が伸びないのは、営業力が低いからだ。営業力が低いのは、営業所長の指導力が低いからだ。営業所長の指導力が低いのは、所長に対する教育がなされていないからだ。つまり、営業所長の教育を行えば問題が解決する。」というように考えます。「風が吹けば桶屋が儲かる」という笑い話がありますが、これは因果関係を直線的につなげていって見当違いの結論に到達してしまう分析的思考の愚かさを風刺したものであるといえます。
一方、システム思考では、問題を循環する系と考えて、相互関連を捉えていきます。例えば、問題に関わるA、B、Cという3つの要因があったとします。分析的思考と同じようにA、B、Cの3つは因果関係で結ばれています。しかし3つは相互に影響を与え合う形で循環しているため、Aが変化するとBもCも変化し、それが再びAの変化を引き起こしてしまいます。そこではいくら直線的に因果関係をたどっていっても問題を究明することはできません。問題の相互関連を捉えて、問題を発生させている(変化を引き起こしている)メカニズムを明らかにしていく必要があるのです。この問題を発生させている(変化を引き起こしている)メカニズムがシステムということになります。
システム思考のものの捉え方
システム思考では、次にあるような5つのレンズを活用し、問題の状況を把握し、共有化したり、政策の立案を行っていきます。
- 出来事、事実
- パターン
- 構造
- システム図(モデル)
- メンタルモデル
「出来事、事実」というレンズ
私たちの目の前に起こる問題とは、「地球が温暖化した」「不況になった」「失業者が増えた」「暴力事件が多発している」「売り上げが落ちた」など、表だって認識できるものです。それは、「出来事」や「事実」といった形で現れてきます。つまり、「出来事、事実」は問題として私たちの前に現れてくる事柄と言えるものです。この出来事に対して即座に反応してしまうと、問題の根本的な解決を図ることはできません。ビジネスにおいても、問題が発生したら、即座に解決する。これだけを聞くと積極的で有能なビジネスパースンを思い浮かべるでしょう。しかし、見方を変えると、目の前に起こった状況に即座に反応しているだけの受け身の姿勢の現れと考えることができます。目の前の状況が変化したら、それを即座に修正するだけではなく、どうしてそういった変化が起こったのか、そのシステムを明らかにしなければ、問題の根本的な解決は図れないのです。たとえば、クレームが来たら謝り、事態の収拾を図る。これも大切な解決策であると言えます。しかし、こうしたことを繰り返していただけでは、問題は根本的には解決しません。経済施策にも同じことが言えます。不況で消費が低迷し ている。それでは減税を行い、消費を活発化させようと考える。こうした施策も問題が起こっている因果関係、システムを明らかにせずに、目の前の状況に反応しているだけの受け身な姿勢の一例と言えます。システム思考では、状況に即座に反応するのではなく、「出来事、事実」というレンズに当てはめて、まず関連する問題、出来事を洗い出していきます。それが、その後のレンズで問題を生み出すシステムを明らかにするのに役立ちます。
「パターン」というレンズ
パターンとは、時間的な推移に伴う出来事の変化のことです。これは、出来事や事実を点で捉えるのではなく、変化の過程と捉え、その有様をみていくものです。具体的には、データの統計的推移もパターンの1つです。また、データや人々の行動をグラフに描いたときに見えるグラフの変化の形も1つのパターンです。パターンをみると言っても、必ずしも「過去から学ぶ」「答えが過去にある」と言っているわけではありません。断続的であれ、継続的であれ、物事は変化をします。その変化の推移から、問題を生み出しているシステムを明らかにしていこうとするものです。
「構造」というレンズ
ここでいう構造とは、出来事間の原因と結果の影響関係をさしています。たとえば、「供給が増えれば値段が下がる」「人は統制されるとモチベーションが下がる」というように出来事や事実同士がどういった因果関係をもっているかを示したもので、こうした因果関係を捉えるのには、解釈や経済理論、マネジメント理論、モチベーションの理論といったさまざまな理論が用いられています。つまり、同じ「事実」「出来事」「パターン」を見ていても、どういった理論でそれを捉えるかによって、見えてくる「構造」が異なってくるのです
「システム(図、モデル)」というレンズ
「出来事」及び「パターン」を「構造」によって結びつけ、さらに結びつけたもの同士を関係づけて、1つの固まり、系として表したものが「システム(図、モデル)」です。このシステムは必ずしもすべてを示しているわけではありません。しかし、ある状況、ある場面、ある観点における問題の複雑な影響関係を捉えて、出来事を生み出しているメカニズムを明らかにしてくれます。
「メンタルモデル」というレンズ
システム思考によって描かれたシステム図(モデル)は、それを描いた人がどのような世界観や価値観、固定概念や仮説をもっているかに左右されます。組織の中で作成したのであれば、その組織の文化や価値観、規範を示していると言えます。
このように「メンタルモデル」というレンズで問題を見てみると、問題の捉え方、問題を生み出しているシステムの捉え方が絶対的ではないことがわかります。つまり、「メンタルモデル」というレンズを使うと、組織の中で異なる問題の捉え方をしている人々が存在すること、つまり、各個人や部署によって異なる問題の捉え方があることが明らかになります。そして、互いの違いを認め合った上で、問題の共有化を図ることができるのです。
システム思考という共通言語を使って話し合いをすることができれば、相手がどのように考えていたのか、相手の考え方の全貌がすぐわかります。そして互いの考え方の違いがよく理解でき、問題の焦点が明確になり問題解決の深い話し合いができるようになるのです。
拡張プロセスと平衡プロセス
今日、新聞雑誌を見ると日本経済が大変な状況にあることを示す記事ばかりが目につきます。政府が大規模な財政投融資を行っても、事態が上向くような印象がありません。いったいどのような政策を取れば事態が好転するのかを誰も知らないようです。それは景気の低迷に加え、ここにきて金融不安、金融恐慌とも言える状況が重なり、まさに複合不況が発生しているのです。人の体に例えれば合併症を起こしている症状になっていると言えます。Aという症状にA用の薬を飲めば、Bの症状には逆効果が起きたり、抵抗力が落ちて外部の細菌に感染してかえって事態が悪くなりそうな状態では、短絡的な手段が効果を生み出すことはありません。つまり、こういった場合に、Aの症状にはAの薬、Bの症状にはBの薬といった、還元主義的なアプローチは役に立たないのです。それは手段を分散させて効率性を落としているだけだとも言えます。そこでは、やはり問題の影響関係を動的に捉えていく必要があります。そして、システム思考では、世の中で起こっている複雑な影響関係を拡張プロセスと平衡プロセスという2つの性質をもったループに分けて考えていきます。
拡張プロセス
新聞やTV、雑誌などでの評判の高い有識者や評論家の意見を見ると、今の現状をシステムとして捉えようとする意図がうかがえます。その解説の中で頻繁に見かけることができるのが、拡張プロセスとして問題を捉えようとするものです。
例えば、「景気が悪くなると企業収益が悪化し、それにつられて株価が下がる。そして、株価がある水準を割ると銀行の自己資本を直撃し、自己資本の足りなくなった銀行は慌てて貸し出しを控える。銀行がお金を貸せなくなると景気はさらに悪化し、それが株価を直撃する。」といった感じです。
これは悪循環、ドミノ倒し、雪だるま現象と言われるものです。拡張プロセスとは、状況や問題が加速度的に良くなったり、悪くなったりすることを言います。私たちは、企業の成長や衰退について考えるときには、無意識に拡張プロセスで捉えがちです。しかし、実際には自然界で起こる事象や人間の行動は、必ずしも拡張プロセスにはなっていないようです。一定期間、拡張プロセスが働き、成長を続けても、いつかはそれを制限するメカニズムが働きはじめたり、さもなくば破壊的状況に遭遇することになってしまうのです。
平衡プロセス
複雑な影響関係を捉えるもう1つの見方は、平衡プロセスです。システムは、本来ループ(系)として示されるものですが、平衡プロセスは波として考えることもできます。例えば「キチンの波」といわれる景気循環説がそうです。「景気が後退すると売れ残りの在庫が増える。すると、企業は値下げしたり返品したりして、景気は後退する。そのため在庫調整が行われる。在庫がなくなると品薄になり、注文が増加して生産が増え、景気が上向き不況を脱する。」というものです。このように平衡プロセスとは、ある問題が良くなったり悪くなったり(値が増えたり、減ったり)しながら波を描いていきます。
ビジネスにおいて目標を達成しようとする行動も、平衡プロセスの一例として考えることができます。目標に達成していないと、積極的に行動し目標達成に近づこうとしますが、目標を達成してしまうとその行動を控えるようになります。そうすると再び目標達成が難しくなるので、積極的に行動するようになるといった具合に活動性に波が生まれてきます。
複数のループを組み合わせる
経済評論でも深いレベルで問題を洞察し、システムとして捉えようとしている人は、日本の経済状況を捉える際にも、拡張プロセスか平衡プロセスのどちらかで示すだけではなく、たとえばアジアにおける投機的なドルの動きを加えたり、日本の銀行の国際的な信用不安がどうして起きているかの動きを加えるなどして複数のループを加えて問題を説明しています。
しかし、現実の問題は、非常に多くの要因がシステムとして関わっていますので、いくら複数のループを加えてもその中には大きな影響を与える要因が抜け落ちてしまうことが起こります。すると提示された1つの説に対して、すぐさま批判が出てきて、議論は混迷してしまうといったことが起きます。例えば「自己資本力のない銀行を保護するから、国際的な銀行の信用がなくなるんだ」とか「財源を赤字国債に頼って、将来の国民につけを先送りしてはいけない」などです。どちらも誤っているとは言えず、議論は堂々巡りするか膠着してしまいます。
拡張プロセスや平衡プロセスといった言葉や概念は知らなくても、1つだけのループであれば何とか理解はすることができます。しかし、複数のループが組み合わされると、それを人間の頭の中だけで理解することは非常に困難になるのです。こういった事態はビジネスの中でも頻繁に起きています。たとえば会議の中で、毎回出ているテーマなのにいつまでたっても進展せず解決策が出ない、問題を共有化できない、1つの意見が出ても必ず反対意見が出て結局収集がつかなくなってしまうことがあります。こうした状況が起こるのは、問題が複雑な影響関係にある場合、短絡的な状況の把握や単純な処方では誰も納得できないからです。こういったときに複雑な影響関係を見た目にわかりやすく表現できるツールが必要とされています。そうした要求に応えられるのがシステム思考であり、それを実践するためのツールがシステム図なのです。システム図を使って考えていくと、異なる意見をもった者同士が問題を共有することができるのです。
システム図の効用
システム思考は5つのレンズで問題を捉えていきますが、そのためには、システム図を描きながら、問題を生み出しているシステムを明らかにし、システム的に解決するためのレバレッジを見つけていきます。システム図の効用としては下記の点が挙げられます。

誰にでも描くことができる
システム図はシンプルなルールに基づいて問題の究明を行います。米国では5歳の子供でもシステム図を描いて自らの問題を明らかにしたという記録が残っているほどです。システム図は誰もが使いこなせる問題解決のツールであると言えます。問題の共有化を可能にする
問題はたとえ個人で理解できたとしても、それを第三者に伝えることは難しいものです。いくら言葉で説明しても理解してもらえないといった経験は誰しももっているのではないでしょうか。システム図はシンプルですが、明確なルールが定められ、問題を生み出しているメカニズムがわかりやすく示されています。そのため、システム図で描かれた問題は、第三者が見ても明らかになります。
そして、問題の「構造」を明らかにするだけではなく、問題解決に際するチームの共通言語を得ることができるようになるとともに、互いの認識の違いを明らかにしてチーム全体の学習性を高めることができるようになります。
システム原型
MITでは一見すると理解しづらい複雑な様相を示している問題の中に、どこにでもよく見かけるシンプルな原型を発見しました。それをシステム原型といいます。システム原型は、現在12あります。これらを理解することによって、日常のなかで遭遇する複雑で解決困難な問題を洞察しやすくなり、システム的な視野が養われていきます。またそれぞれの原型固有の症状や、解決への糸口が理解しやすくなり、短絡的な問題解決や堂々巡りに陥るのを防ぐことが可能になりました。
後に基本的なシステム原型を一覧表にまとめてありますが、ここでは特に「問題のすり替え」というシステム原型を取り上げてみます。
システム原型(例):「問題のすり替え」

このシステム原型は、問題に対して、根本的な解決策があるにもかかわらず、対症療法的な解決策に流されてしまい、問題状況がより悪化してしまうといった事態が発生するメカニズムを示しています。
上記のシステム図は、開発途上国に対する食糧援助を例にとっています。
今、開発途上国が慢性的な食糧不足に直面しているという問題があります。この問題に対して、食糧援助を行うという解決策と、灌漑設備や土壌改良、営農指導など開発途上国が食糧を自給自足できるようなインフラづくりを行うという2つの解決策が考えられます。2つの解決策(上と下のループ)は、問題に対して平衡プロセスをつくっています。しかし、実際にこの2つの解決策を講じてみると、インフラづくりは、実際にインフラが整備され、食糧の自給自足が可能になって、食糧不足という問題が解決されるまでにはかなりの時間を要することとなります。つまり、解決策を講じてから、実際に効果が上がるまでに時間的な遅れが生じるのです。一方、もう1つの解決策である食糧援助は、一時的ではありますがすぐに効果が現れます。そうすると、食糧援助というすぐに効果の現れる方策が採られることが多くなります。
しかし、こうしたことを繰り返しているとインフラを整備し、食糧を自給自足しようとする力自体が失せてしまいます。今まで進んでいたインフラづくりの計画がストップし、もしかしたら、すでにできあがっていたものさえ衰えてしまうかもしれません。そうなると問題はいつまでも解決せず、余計に食糧援助に頼るようになってしまいます。すると、さらにインフラづくりが阻害されるといった形で、悪循環となる拡張プロセス(外側のループ)が回り始めて、食糧不足という問題状況はどんどん悪化してしまいます。
このように「問題のすり替え」というシステム原型では、対症療法的解決策と根本的な解決策の2つが平衡プロセスをつくっています。後者にはこれを講じても、成果が上がって問題状況が改善されるまでに時間的な遅れが発生するため、どうしても対症療法的解決策を講じることが多くなります。すると副作用として根本的解決策を講じる力が失われてしまいます。するとよけい対症療法的解決策に頼るようになり、問題状況はどんどん悪化してしまうというものです。
「問題のすり替え」から抜け出すには
以上のように「問題のすり替え」のシステム原型を活用すると、開発途上国の慢性的な食糧不足という問題が発生しているシステムが明らかになります。「問題のすり替え」というシステム原型に対する対応法は、MITの研究によると次のように3つあります。
- 根本的解決策に焦点を絞る。
- どうしても対症療法的解決策が必要な場合は、根本的解決策を講じながら、時間をかせぐために用いる。
- 1つの解決策が根本的か対症療法的かは、その人の見方によって異なる。したがって、様々な角度から問題を検討して、より根本的な解決策を探るようにする。
これらの対応法通りに手を打てばすべてが解決するというものではありません。対応法はもちろん有効な手だてとなりますが、ここで大切なのはまず、システム思考およびシステム図を活用して問題の一側面を明らかにし、それを皆で共有することなのです。もちろんこれは完全なシステムではなく、変数やループを加えたり別の観点からみれば異なったシステム図を描くこともできるでしょう。そうした認識の上で、別の変数やループを書き加えたりして、システム的に問題を解決するためのレバレッジを見つけていきます。システム思考では、問題とその解決策が還元主義的に対応しているわけではありません。
たとえばこの事例でも、食糧援助が問題状況を悪化させていることは明らかです。だからといってすぐに食糧援助をストップしてインフラづくりに励めば問題がすべて解決するわけではありません。現在は「インフラづくりが進まない」「食糧援助が必要である」というシステムが働いているのです。そこでは、影響関係を捉えて、問題があったから取り除くというのではなく、システムとして問題が解決に向かうであろう術を見つけ出す必要があるのです。見方を変えればすべての要因は相互に影響を与え合っているために、1つの部分に手を打てば全体がよくなるというレバレッジを見つけることが可能であり、そこに手を打てば全体が良くなると考えることができるのです。
システム思考とラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)
ジョン・F・ケネディは大統領の就任演説で、何を国にしてもらおうかと思うのではなく、国に何をしてあげられるかを考えようと国民に訴えました。つまり、国民1人ひとりが、自分自身の国として自分が国を良くしていこうと行動する必要があることを説いたのです。同じように、システム思考も1人ひとりが当事者として何かをすることを求めるものです。問題を他人事として捉えるのではなく、問題を生じさせているシステムの中に自分を位置づけて、問題を解決していこうとするものです。つまり、大統領と同じように政策を考え実行する姿勢がないと、これからの問題解決はできないとも言えるのではないでしょうか。
そして、こうした姿勢、考え方はラーニング・オーガニゼーションの基本理念と重なるものです。ラーニング・オーガニゼーションでは、上が下を統制したりコントロールするのではなく、各個人が主体性と学習性を発揮して組織を動かしていきます。システム思考を活用することで、組織における各個人が当事者意識をもって問題に対して主体的に関わり、ラーニング・オーガニゼーションの構築に向けて踏み出すことができるのです。
システム思考に関わる参考情報
米国でシステム思考を導入して成果を挙げている組織
インテル、フォード、コカ・コーラ、AT&T、シェル石油、ゼネラル・モータース、ボーイング、ゼネラル・エレクトリック、ディジタル・イクイップメント、ハノーヴァ保険、DDI、ジョージア電力、サンホセ医療センター、オレンジグローブ中学校 etc….
システム思考参考文献等
書籍:
- 『最強組織の法則』ピーター・センゲ 徳間書店
- 『断片と全体』デヴィッド・ボーム 工作舎
- 『限界を超えて』ドネラ・メドウズ;デニス・メドウズ;ヨルゲン・ランダース共 ダイヤモンド社
- 『システム思考とシステム技術』五百井清右衛門・黒須誠治・平野雅章 白桃書房
- 『システムダイナミックス入門』島田俊郎 日科技連
- 『システム知の探求1』高橋恭一 日科技連出版
- 『ソフト・システムズ方法論』妹尾堅一郎監訳 有斐閣
- 『一般システム論』フォンベルタランフィ みすず書房
- 『サイバネティックス』ノバート・ウィナー 岩波書店
- 『部分から全体へ――教育のネットワーク』F・カプラ
- 『社会システム論』ルーマン 新泉社
- 『システムダイナミックスノート』山内昭他訳 マグロウヒル社,1981
- "The Fifth Discipline Fieldbook" Peter Senge 他 Currency Doubleday
- "Systems Thinking Basics: From concepts to Causal Loops" Lauren Jonson他 Pegasus Communications
- "Systems Archetype Basics: From Story to Structure" Daniel Kim 他 Pegasus Communications
童話:
- "Billibonk" Series Pegasus Communications
機関誌:
- "The Systems Thinker" Pegasus Communications
- "Leverage" Pegasus Communications
ソフトウェア:
- "ithink Strategy" High Performance Systems, Inc.
- "The Beefeater Restaurants MicroWorld" MicroWorlds
- "Activating The Fifth Discipline" Arthur Andersen
学会:
- 国際システムダイナミックス学会日本支部 ℡03-3519-8496
セミナー:
- 『システム思考基本コース』(7月14,15、9月24,25)於:ヒューマンバリュー
システム思考コンファレンス:
- テーマ:『ラーニング・コミュニティー』(9月16~18日 '98) 於:サンフランシスコ
コラム:ティモシー=ゴールウェイの「インナー=ゲーム」(4)
ティモシー=ゴールウェイ氏は、テニスのコーチをしている時に、コーチする側の知識を伝えることよりも、コーチされる側の学習能力を引き出すほうが大切であるということに気づき、「インナー=ゲーム」という画期的なコーチング理論を確立した人物です。同氏は、さまざまなスポーツのコーチングばかりでなく、オーケストラの演奏やラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)をめざす企業の経営や研修等にも、「インナー=ゲーム」を応用する方法を開発し、各方面から高い評価を得ています。
前号では、われわれが陥りやすい「パフォーマンス・モメンタム」と「仕事の三角形をバランスさせること」に関する話をしました。今回は、「コーチング」の側面から学習を促進することについて話を進めることにします。
コーチングとは
高い成果を上げた者には報奨金を出し、低い成果しか出さない者には減給などの罰を与える。こうしたパフォーマンスを管理するための常套的な手段は、ある限定的な成果しか生み出しません。つまり、働く人のアカンタビリティーや創造性など、働く人々にとって重要な特性やコアとなるスキルを助成したり開発するという点において、特に役に立つものではありません。また、主体性や協調性に関する初歩的な事柄を教える研修プログラムなどが仮にあったとしても、その効果はあまり期待できるものではないでしょう。
では、人々の能力を高めるためには、どのような手段が残されているでしょうか。ゴールウェイ氏は、能力や特性、スキルを助成するプロセスを「コーチング」と呼び、それを提唱しています。
コーチングとは、人に既に備わっている特性や潜在能力を引き出し、増大させる「あり方」・「聴き方」・「尋ね方」・「話し方」のことです。効果的なコーチングが行われると、安全でチャレンジングな環境が創り出され、その中で効果的な学習が起きます。
コーチングにおけるコーチの最大の役割は、人がパフォーマンス偏重の傾向によって突き動かされている状態に待ったをかけ、学習を促す質問をしたり見解を示すことによって、その人を「パフォーマンス・モメンタム」から解放することです。したがって、成功するコーチとは、成長を促す適切な条件を他者に提供することにコミットしている人です。そして、個々人がもつ「可能性」を、どのようにすれば最もよく「育てる」ことができるかを絶えず学び続けている人だと言えます。
コーチングにおける「教える」ことの意味
ゴールウェイ氏の言うコーチングとは、われわれが一般的に認識している「教える」こととは大きく異なっています。コーチングにおけるコーチの役割は、学習者が「教師」によい質問をすることができるように手を貸し、「答え」の意味を解釈できるように助けることです。それは、クヌギの木が既にドングリの中に存在していることを見極めた上で、適切な環境条件を与え、やがてドングリが芽を出し、生長してクヌギの木になるのを時間をかけて見守るようなものと言えるでしょう。
もし「教える」ということが、教室の中で教師が一方的に情報を伝えることだけだとすれば、伝えた情報をどのくらい理解したかによって学習の進度を測定することができるでしょう。しかし、学習とは本来、他者が直接的に観察することはできません。つまり、学習とは、「教える人」が理解度を測定したりプロセスをコントロールするものではなく、学習する人自身だけがプロセスをコントロールし、その恩恵を認識することができるものなのです。
効果的なコーチングのために―『学習を促進する会話』
それでは、学習が本人のコントロールによってのみ行われるとしたら、コーチングとは何をすればよいのでしょうか。この号の最後として、コーチングの具体的な進め方の一例をご紹介します。
実際の学習は、行動を起こし、結果を観察して、その後の行動を調整するというプロセスを通じて起こります。しかし、このプロセスはややもすると単なる経験に終始してしまい、学習体験にまで至らないことがあります。仕事の経験を学習体験に変えるには、前もって、ある特定の心構えが本人にできていることが重要です。その心構えとは、仕事による経験がもたらすさまざまな可能性をつかんでいるかどうかということです。
コーチングでは、このような可能性を気づかせ、心構えをしやすくすることが大切になります。ゴールウェイ氏はこの手法を「セットアップ会話」と呼んでいます。
たとえば、私たちが何か目標をもっている(例:目的地まで安全に運転する)とき、その目標の達成に関係する変数(例:今現在の車の速度)を感知する能力(例:速度計を見なくても、電柱等が後ろに移動する速さの度合いを感じたり、エンジン音を聞いて車の速度を感じ取る能力)を高めれば、目標の達成はより容易になります。「セットアップ会話」とは、効果的な学習を行いながら目標を達成するために、個人やチームの注意の焦点を絞ることを助けるような課題を与えたり、質問をすることです。この会話は、コーチとの間だけでなく、学習する本人が1人で行うことができると言われています。
「セットアップ会話」は、企業内の研修現場においても具体的に展開されています。AT&T社が、全社にわたって新型コンピューターを導入した際に、26週間にわたる研修プログラムに参加することを社員たちに義務づけたことがあります。このプログラムは受講者12人に教官1人がついて教科書どおりに進められ、最初の2日間には800語を超える新しい用語が出てくるという大変なものでした。そのため、多くの受講者は研修に付いていけずについつい別なことを考えていたり、あるいは逆にがんばって理解しようとするあまり、かえって学習の成果が上がらないという状態にありました。
AT&T社に研修の改善を依頼されたゴールウェイ氏は、まず受講者に「皆さんは何をしているのですか」と尋ねました。すると、「一生懸命に講義を理解しようとしているのです」という答えが返ってきました。「では、まず理解しようとするのをやめなさい」とゴールウェイ氏が言うと、皆は「何だって!じゃあ、いったい何をしろと言うんだ?」と驚いてしまいました。ゴールウェイ氏は、「理解しようとするのではなく、自分の理解の度合いをチェックしてみましょう。教官がテキストの文章を読むので、よくわかった文章には(○)、少しだけわかった文章には(△)、まったくわからなかった文章には(×)をつけてください」と言って進めさせました。そして、切りのよいところで区切っては、そこまでの所でわからなかった点について受講者に質問をさせたそうです。すると、それまで質問もほとんどせずに、すぐにやる気を失っていた受講者はにわかに活気づき、受講者のモチベーションを高めるために多大なエネルギーを費やしていた教官は、受講者の質問に答えるためのリサーチに追われるようになったということです。
また、われわれは仕事の最後にコーチと「結果報告の会話」をもち、学習をより深めることもできます。この会話を通して、学習された内容を「発掘」して、質問を「精錬」し、次の仕事の経験に持ち込むといったことが行われます。
こうした「セットアップ会話」や「結果報告の会話」を行うことによって、経験そのものが教師となり、そこから学習することができるのです。(次号に続く)
ゴールウェイ氏と筆者が、今月、米国にて対談することとなりました。
次号ではこの対談を踏まえ、コーチングの総括と最新動向をお伝えする予定です。
このような事情から、前号での今コラムの最終回予告が変更になりましたことを、ここに訂正すると共にお詫びいたします。
HVDリポート
1998年6月3日発行
発行人 高間 邦男
発行所 株式会社ヒューマンバリュー


