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HVDリポートVol1 No.7 1998年8月1日発行
ビジネス・パフォーマンスを高めるITの活用
今日、職場のあり方や組織の構造が、エレクトロニクスによって変貌してきています。組織の変革やビジネス・プロセスの革新によって高い成果を上げていくには、エレクトロニクス技術の活用が不可欠です。
パソコンの装備率が著しく増加したこともその一端です。従来は1課に1台だったものが2台3台になり、現在では社員に1台という企業も珍しくなくなりました。もちろん、ただパソコンがあればよいというわけではなく、どのような活用の仕方をしているかが重要であることは言うまでもありません。
従来の企業におけるパソコンやコンピュータシステムの主な活用目的は、物やサービスを売るという企業活動を部分的にサポートすることでした。その用途は、売上げの集計や伝票の発行、見積書の作成、在庫の管理、会計処理などに特化していたのです。
しかし、現在の企業成長は、人、物、金の効果的な活用だけでもたらされているのではありません。今日では、情報・時間・知識が重要な経営資源として認識されています。こうした変化を受けて、コンピュータシステムも人・物・金を管理するだけでなく、情報、時間、知識の管理にも使われてきています。
今日、情報・時間・知識を管理するIT(Information Technology=インフォメーション・テクノロジー)を活用せずに、企業活動の成長や効率化を図ることはできないと言っても過言ではありません。そこでHVDリポート第7号では、ITを活用し、職場のパフォーマンスをどのように高めていくかを、HRDの観点から探っていきたいと思います。また参考として、ITを形成している主な概念とソフトを紹介したいと思います。
グループウエアによる知識共有
従来、人間は自分の記憶に頼って情報を活用してきました。膨大な情報を知識として記憶し、それを状況に応じて引き出し、活かしてきたわけです。しかし、それではいくら有用な情報や知識であっても、他人が活用することができません。そこで、第三者が見ることができるように紙などに記録したり、マニュアル化するようになりました。しかし、それでも個人の記憶が必要なことを大量のデータの中から即時に引き出すことができるのに対して、紙の資料は増えれば増えるほど、読むことも検索することも容易ではなくなってしまいます。紙の媒体を活用していては、個人が自分の記憶を活用 するレベルにはなかなか至りません。
そこで、データベースとしてパソコンが使えるようになったとき、個人が無尽蔵とも言える情報を活用できる可能性が出てきたのです。情報を大量に蓄積し、検索や情報同士の組み合わせなどを短時間で行い、知識やノウハウさえも取り込むことができるのがコンピュータの強みです。
こうしたコンピュータの強みを生かしたのがグループウェアによる情報、知識の共有です。これまで、従業員が商品知識を身につけたり、製品説明をする場合、多くはマニュアルを活用していました。今日、製品のライフサイクルが非常に早くなり、エレクトロニクス関連の商品では、1ヶ月ほどで変わってしまうこともあります。そういった状態で、製本されたマニュアルで対応しても追いつかないことは言うまでもありません。また、こうした急速な変化に対応して、売 り方や戦略も日々刻々と変わらざるを得ません。情報やマニュアルを後手後手で流すのではなく、現場のメンバーが自分でマニュアルを作り、それを他のメンバーに公開していくことが必要です。
こうしたことを可能にするシステムがグループウェアです。
有名なグループウェアには次のようなものがあります。
- ロータス社のNotes.domino(ノーツドミノ)
- マイクロソフト社のExchange(エクスチェンジ)
- 日本電気のStarOffice(スターオフィス)
- ノベル社の(GroupWise)
など
グループウェアの使い方にはいろいろありますが、カタログや雑誌記事などでは次のようなものがよく挙げられています。
- 1.電子メール
- 時間や場所を気にせずに連絡や資料の送付ができます。多数の人に、同時に同じ内容の連絡をすることも簡単にできます。
- 2.定型業務をワークフローとして表示、処理
- 各種の申請や処理を効率的に行います。
- 3.組織的なスケジュール管理
- 各メンバーの空き時間の確認、打ち合わせ日の調整などを、直接会ったり、電話やメモなどで確認しなくても行うことができます。
- 4.電子会議
- 場所や時間を限定せずに有効に利用して、会議を行うことができます。
- 5.掲示板
- 情報を流す側は、時間を気にせずにさまざまな連絡を発信することができます。また、受け取る側も自分の好きなときに連絡内容の確認ができます。
- 6.業務プロセスの共有
- 他のメンバーの業務履歴やクライアントへの折衝状況などを、自由に確認することができます。
- 7.業務ノウハウの共有
- 自分のノウハウや知識を皆に伝えたり、他者のものを活用したりできます。
- 8.既存文書などの共有
- ワープロソフトで作成した報告書やデジタルカメラなどで映した画像、一度入力した表計算ソフトのファイルなどを皆で活用できます。
組織における学習に直接関わってくるのは、上記の7と8の使い方です。製品の売り方や使用方法を発見したり、効果的な企画書を作成したりしたメンバーがそれをノーツに登録する、それを見た他のメンバーが参考にして実際に使ってみる、その結果をまた登録するといった循環が起きると、コーポレートナレッジが蓄積されていきます。
コンサルタント会社のアーサーアンダーセンでは、コンサルタントが作成した企画書や報告書がノーツのデータベースに登録されており、世界各国にいる5000人のコンサルタントが自由に検索し、使用できるようになっているそうです。
こういったシステムをもち、メンバー個々人の知識やノウハウを組織として蓄積していることが、他社との飛躍的な差を生み出すことになるでしょう。
ビジネスをサポートする
グループウェア以外にも、ITはさまざまな形で私たちのビジネスをサポートしてくれます。その代表的な概念がEPSSと呼ばれるものです。
EPSS(エレクトロニック・パフォーマンス・サポートシステム)
EPSS(Electronic Performance Support System)という概念は、エレクトロニクス技術によってパフォーマンスが向上するように支援しようというものです。
EPSSがどのようなものかについては、いろいろな考えがあるようです。ここでは、インタラクティブ学習やパフォーマンス・サポート・システムの分野を専門にしているコンサルタントで、アメリカン・エクスプレスやヒューレットパッカード、AT&Tをサポートしているグロリア・ゲーリーの定義を紹介します。グロリア・ゲーリーは、自らの著作『Electronic Performance Support System』の中でEPSSを「他者による最小限のサポートと介入で、ジョブパフォーマンスが生まれることを可能にするモニタリングシステム、情報、ソフトウェア、ガイダンス、アドバイス、支援、データ、画像、ツール、評価のすべての内容に働く人々が簡単にアクセスでき、それらを個々人が手元で見ることができ、直ちに必要な内容を入手できるしくみをもった、使いやすく統合された電子的環境」と定義しています。
パフォーマンス・サポートには、大きく2つの側面があるといえます。1つはデータベースとしての知識提供です。もう1つは仕事をしやすくするためのツールの提供です。
データベースについては、CD-ROMの活用が一般的になっています。CD-ROMは蓄積できる情報量が膨大で、それを瞬時に活用することができます。また、グラフィックや動画まで取り込むことができますので、紙のマニュアルとは比較にならないほどの効果性を発揮します。
しかし、ここで重要なことは、新しい情報をどのようにして更新していくかということです。また、コストをかけずに作る方法を模索することと、本当に現場で役に立つようにコンテンツを構成することが大切です。さらに、お金をかけずにソフトを作る方法を模索するだけではなく、アウトソーシングを考えていくことも必要です。こういったソフトを内部制作できるだけの人材を抱えることが難しい場合は、アウトソーシングしたほうが安く良いものが作ることができると思われます。
また、最初からコンピュータのハードディスクの中に制作したソフトを入れ込んでしまう企業も多いようですが、こういった場合、後からの変更に融通が利かなくなります。しかし、ノウハウが外部に流出しないといった利点があることも確かです。
CTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)
現在、NTTのナンバーディスプレー・サービスの利用によって、電話がかかってくると相手の電話番号を読み取って、瞬時に相手の属性データや取引状況を呼び出すことが可能になっています。こうしたシステムはCTI(Computer Telephony Integration)と呼ばれています。このCTIもEPSSの1つといえます。このCTI機能を活かして、NECと大塚商会が共同して中小企業の競争力強化を支援する製品を開発、販売しています。これは「スマイルα/CTI販売管理システム」と呼ばれるシステム製品で、パソコン1台と電話機のセットで250万円からそろっているということです。
CTIのシステムがあれば、顧客からの電話を取ったときには、画面にその顧客に関する情報がすべて出ている状態になります。そうなれば待たせることなく、相手の状況に合わせた適切な対応をすることが、誰にでもできます。
またEPSSにより、従業員は空いている時間に顧客対応の方法やマナー、ルールなどを身につけたり、自社情報や商品知識も学習することができます。そして、CTIによって顧客情報をリアルタイムに活用できれば、十分な顧客サービスが提供できるというわけです。
CTIを導入すれば顧客の満足度が高まるというものではありませんが、このシステムを導入している企業と、そうでない企業との間で顧客サービスのレベル格差が歴然としたものになってしまうのは明らかでしょう。これからはこういったEPSSの差が企業の命運を左右するようになるのです。
ビジネスを変革する
ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)
今年の4月にERPのカンファレンスが横浜の「パシフィコ横浜」で開催されました。これは世界のERPの中で70%のシェアをもつSAP社の「R/3」というソフトウェアのユーザー・カンファレンスで、SAP社の北東アジアグループと中国グループが主催したものです。現在、「R/3」はBMWや三菱電機、シャープ等の企業で導入されており、今回のカンファレンスのエキシビションには、75社の企業が出展しました。
ERPとはエンタープライズ・リソース・プランニング(Enterprise Resource Planning)の略で統合パッケージソフトのことを指し、業務の流れを抜本的に改革するシステムとして注目を集めています。
本来のビジネスプロセスは仕入から製造、販売、在庫、請求、入金、会計処理といった流れとして1本化しているのにも関わらず、在庫は在庫管理システム、販売は販売管理システム、会計は会計システムとしてバラバラにファイルがもたれていることが多いようです。そのため、同じデータを何度も入力するといったことが行われていました。こうしたムダを省いてシステムを1本化するのがERPです。
ERPはBPR(Business Process Reengineering=ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の1つと考えることができます。ERPを導入する際には、顧客にどういったサービス、製品をどのような方法で提供するのか、自社の強みを何に設定するのかといったビジネスの目的を定め、それに合わせてビジネスプロセスを再設計します。その際に、ERPには多くのビジネスプロセスがデータベースのように組み込まれているので、ユーザーがカスタマイズする際には、新しい機能を付け加えるというよりも、組み込まれた機能の中から選択するという側面が中心となります。したがって、導入のコストや時間も軽減されます。ちなみに、SAP社の「R/3」には、世界の一流企業が採用している約800ものビジネスプロセスが用意されています。
また、ERPは業務の統合が図れると同時に、データをリアルタイムで更新することができます。加えて複数の拠点、言語、通貨での活用が可能であり、グローバル化にも対応したシステムといえるでしょう。当初の開発費用は若干高くても、導入までの期間の短さと導入後のコスト削減効果を考えると大きな効果が期待できます。
しかし、最近ではERPを導入したものの、思った成果を上げられずに失敗に終わってしまうケースもみられています。先に述べたように、ERPはBPRの1つです。つまり、システムの構築と同時に自社のビジネスの変革を行う必要があるのです。したがって、業務の統合やデータベースの機能に惹かれて導入しても、ビジネスプロセスの変革に手を着けていなければ、結局カスタマイズの量が増えたり、現行のシステムとのインターフェースがうまくいかずに失敗に終わってしまうのです。ERPを導入する際には、現行のビジネスプロセスに合わせるのではなく、あくまでも最適のビジネスプロセ スに焦点を当てていくことが必要になります。
参考までに、ERPについての書籍をいくつか挙げておきます。
- 『SAP R/3 ビジネス・モデル・テンプレート―ERP導入のために』 トーマス・カレン、ゲハルド・ケラー、アンドリュ・ラッド著 木村誠監訳 トッパン 1998.6.15.
- ERP・サプライチェーン成功の法則―経営改革の強力な武器』 同期ERP研究所編工業調査会 1998.6.8
- 『ERPとビジネス改革―統合業務パッケージ活用の誤解と指針』手島歩三、根来龍之、杉野周編 日科技連出版社1998.4.11
- 図解 ERPの導入』 松原恭司郎著 日刊工業新聞社 1997.12.25
- 『ERP入門―総合業務パッケージ「ERP」がわかる本』 同期ERP研究所編工業調査会 1997.6.25
ITによる新しい教育方法
ITの活用による現場での仕事のやり方の変化に伴って、「研修」や「教育」の形も変化してくるのは当然の流れといえるでしょう。
つまり、決められた時間に決められた場所で皆が集まって学習する「集合研修」に代表される形態から、業務そのものの遂行や業務知識の習得など、あるパフォーマンスの実現のために「必要なとき、必要な形で、必要な情報を得、学習する」といった形態への変化がみられます。こうした変化を実現させるのがITの働きです。
CAIからCBTに、さらにIBTへ
CAI(Computer-Assisted Instruction=コンピュータ・アシステッド・インストラクション)が登場して久しくなりますが、米国では1987年ごろよりITを活用した学習のあり方が、CAIからCBT(Computer-Based Training=コンピュータ・ベースド・トレーニング)という概念に変化してきています。教育にコンピュータを活用するのは有効ですが、日本ではITを活用した教育の理念、方法が確立しないまま、ハード優位で進んできてしまったようです。近年、日本でもさまざまな学習ソフトが出ていますが、そうした概念の変化を取り入れたものは少なく、学習の効果性が高いものは少ないように思われます。
初期のCAIは、ソフトウエアがBASICで作られているものが多くありました。その後、CAIを作るオーサリングソフトが開発され、安く簡単に作ることができる環境が整ってきました。CAIの概念は、マニュアルを最初から順番にこなしながら学習する構成になっていました。学習する側にとっては、学習手順が1つしか与えられておらず、ムダが生じたり、まとまった時間を捻出できないという問題にぶつかってしまいます。
一方CBTは、データベースのような構成になっており、学習者が自分の興味のある所を自由に選択して学習することができます。それによって学習の難易度も手順も、学ぶ側の都合によって設定できるのです。自分のわからない箇所だけを学ぶ、基礎的なものをひととおり学ぶ、必要なところに限って深く専門的に学ぶなどの選択が可能になるのです。
CBTのソフトを企業内で独自に制作しようとすると、20分のコンテンツのものを制作するのに200万円から300万円ぐらいかかると思われます。しかし、システム開発の際のSEの生産性は、人によって100倍違うと言われています。日本のように制作にかかった日数でコストを計算する習慣があると、同じソフトを発注しても、発注先の会社の力量によってコストに数倍の開きが生じることになるので注意が必要です。
最近では、CBTに変わってIBT(Intranet-Based Training=イントラネット・ベースド・トレーニング)という方法が注目されてきています。これは自社のLAN(Local Area Network)とインターネットをうまく利用して教育を行おうというものです。インフラさえあれば、CBTのようにCD-ROMを作成するコストと日数がかからず、視覚的に訴えるもので、オンラインで学べるプログラムを簡単に作ることができます。また知識の更新スピードを上げることができますので、新しい情報の提供や、受講者とのインタラクティブなやり取りが可能になります。
IBTは、今後の遠距離学習(Long Distance Learning=ロング・ディスタンス・ラーニング)の要となる技術になるのではないかと思われます。
本リポートを作成するにあたって、インターネット上の検索エンジンとして有名な「goo」を使って、さまざまな学習を行うためのソフトやオーサリングソフトを探してみました。全くの独断的な判断ではありますが、興味深いと感じたものを次に挙げておきます。
- 1.松下電器産業のMediaStage
- (http://www.panasonic.co.jp:8003/Multimedia/Mod/soft.htmより)
- 2.PFUのMEDIAPLACE
- (http://www.panasonic.co.jp:8003/Multimedia/Mod/soft.htmより)
- 3.ロータス社のLearningSpace R2.0
- (http://www3.lotus.co.jp/Productinfo.nsf/HTML/ProductService/OpenDocument)
- 4.マクロメディア社の製品群
- ・Macromedia Authorware 4J
(http://www-asia.macromedia.com/jp/software/authorware/)
・Director Multimedia Studio
(http://www-asia.macromedia.com/jp/software/director_new/productinfo/faq/)
・Macromedia Pathware
(http://www-asia.macromedia.com/jp/software/pathware/)
ネットワークの利用が、ビジネスの可能性を広げる
今まで紹介したITに不可欠なものがネットワークです。この号の最後に、企業におけるネットワーク活用の現状をまとめてみました。
企業のネットワークの状況について、郵政省が平成5年度から調査を続けています。平成9年10月に実施し、本年の3月に郵政省が発表した「平成9年度通信利用動向調査」の結果(http://www.mpt.go.jp/pressrelease/japanese/new/980331j903.html)によると、企業のネットワークの状況について次のような特色が挙げられています。
- LANの構築率は75%、イントラネットの構築も急速に進む
- 全社的なLANの整備は、初めてLAN構築企業の5割を超え(47.0%から50.8%)、企業のネットワークはWAN(Wide Area Network=広域ネットワーク)へ拡大
- LANなどの利用上の問題点は「人材不足57.2%」と「セキュリティ対策52.8%」に集中
- データセキュリティへの対応はやや改善されたものの、ウィルス対策についてはまだ不充分であり、ウイルス対策をしている企業は57.8%
- ネットワークの拡大とともに企業のネットワーク関係経費は43.8%増大
注:( から )は前年との比較。
| 調査年 | 平成8年 | 平成9年 |
|---|---|---|
| LAN構築率 | 66.6% | 75.2% |
| イントラネット構築率 | 171.0百万円 | 245.9百万円 |
| 調査種類 | 企業ネットワークの状況 |
|---|---|
| 調査客体 | 企業 |
| 調査範囲 | 全国 |
| 調査対象 | 従業員300人以上の企業 (日本標準産業分類の農業、林業、漁業、および鉱業を除く。) |
| 有効回答数 | 1,989企業(82.9%) |
| 調査期間 | 平成9年10月 |
同じ郵政省の調査によると、企業のイントラネットの構築率は、前年から15ポイント増加して21.4%となり、2,000人以上の企業では約5割となっています。LANの構築率は、大規模企業ほど高く、1,000人以上の企業では9割を超えています。
出典:郵政省「平成9年度通信利用動向調査」
また、イントラネット構築企業の13.2%が、他の企業のネットワークとも接続した形態であるエクストラネットを利用しているなど、企業ネットワークの広がりが見られます。

出典:郵政省「平成9年度通信利用動向調査」
このように、ネットワークを活用する企業が年々増加しています。ネットワークをうまく使うことで、より質が高い最新の知識や技術を多くの人々の間で共有でき、時間も有効に活用できるようになります。ネットワークを利用することで、働く人々がもつ自己の力を最大限に発揮したいという希望を助けることができる時代が来るかもしれません。
コラム:ダイアログ(1)
ダイアログとは
現在、未曾有の変化の時代のさなかにあって、私たちの多くは「変化に強い組織とはどのようなものか」を模索しています。組織変革の研究ではわが国よりも進んでいる感のある欧米の先端企業に目を向けてみると、1990年代の初めからラーニング・オーガニゼーション等の概念を追求しています。その中で彼らの焦点は、「構造や業務の変化」から、「関係とプロセスの変化」へと移行しつつあります。つまり、よりよい組織をつくる鍵は、構造や業務そのものの改善より、むしろ関係とプロセスの改善にあるという認識が一般的になりつつあるということです。それと軌を一にして、 「線的思考からシステム思考」へ、「トップダウン式の意思伝達から意味の共有化」へ、さらには「競争から協力とパートナーシップ」への移行も進行しています。そして今、ここに挙げたさまざまな移行のすべてに関わるレバレッジとして大きな注目を集めているのが、『ダイアログ』と呼ばれるコミュニケーションの方法です。
『ダイアログ』という言葉は、「意味が流れる」という意味の「ディア・ロゴス」というギリシャ語に由来しています。つまり、『ダイアログ』とは、人々の間を自由に意味が流れるようなコミュニケーション方法のことであると言えましょう。『ダイアログ』はソクラテスの時代にもあり、現在でも狩猟生活をしている民族の間には残っていると言われています。現在、経営の観点から注目を集めている『ダイアログ』という手法は、米国の物理学者であったデヴィッド=ボーム博士が中心になって開発されたものです。
デヴィッド=ボーム氏は、量子理論に基づいた人間の思考プロセスの研究に興味をもち、現代のソクラテスと呼ばれたクリシュナムルティ氏との対話を繰り返しました。その後、英国の社会心理学者のパトリック=デメア氏のワークとの出会いを経て、『ダイアログ』の手法を開発していきました。
『ダイアログ』とは何かを理解するには、次に挙げる『ディスカッション』との対比を考えてみるとわかりやすいと思われます。
| ダイアログとディスカッションの対比 | |
|---|---|
| ダイアログ | ディスカッション |
| 部分を見て全体を理解する | 問題を部分に分割する |
| 部分同士のつながりを見る | 部分間の違いを見る |
| 仮説を探求する | 仮説を正当化/防衛する |
| 探求と開示によって学ぶ | 説得、売りつける、教える |
| 多くの人々の間で意味を共有化する | 1つの意味に同意を得る |
参照:"Dialogue" by Ellinor&Gerard p21
ディスカッションでは、1つの解答を求める収束型の会話が行われるのに対し、ダイアログでは、1つの主題についてさまざまな角度から意味を学ぶ拡散型の会話が行われるとも言えるでしょう。また、会話がどのようなものになるかは、そこに参加している者の意図によって決まります。別の言い方をすれば、1つの解答を求めるために話し合うのがディスカッションで、何かを決めるのではなく、物事の意味を発見するために話し合うのがダイアログであるとも言えます。
また、ダイアログの特質としては、
- 判断を保留する
- 特定の結果を求めるニーズを手放す
- 隠れた仮説を探り、検証する
- 深く耳を傾ける(自己の内面や他者の声に)
などが挙げられます。
組織におけるダイアログの必要性
多くの企業が、ビジョンの作成や組織の人的資源の開発、そして役員研修・リーダーシップ開発のような教育プログラムなどに多大な予算を投じ、よりよい組織づくりが行われることを期待しています。しかし、ビジョンの作成によって決めたことや教育プログラムから学んだことが、職場でどれほど活用されているでしょうか。研修の場では考えたり行動できたことも、いつもの職場環境に戻ると、すぐに従来どおりの思考や行動のパターンに戻ってしまうということがしばしば見られます。
その主要な原因として考えられるのが、いくら研修の場で新しい何かを学んでも、職場でのコミュニケーションのあり方が従来と変わっていないということです。コミュニケーション・スキルとリーダーシップ、そして共有ビジョンには、密接につながったシステム的連関があります。その連関が見えないまま、1つひとつに個別的な手を打っても、根本的な変化は生まれません。ダイアログの力を向上させることによって、コミュニケーション・スキル、リーダーシップ、共有ビジョンの3つの側面の改善が行われ、3つのシステム的連関そのものを改善することができるのです。つまり、 ダイアログこそが組織変革のレバレッジとなると言えるのです。
そもそも、P.センゲ教授は、ラーニング・オーガニゼーションの5つのディシプリンのすべてが、ダイアログを通じて生まれてきたものであると言っているほどです。
それでは、次号から数回にわたって、いくつかの重要なダイアログの考え方を解説していきたいと思います。
HVDリポート
1998年8月1日発行
発行人 高間 邦男
発行所 株式会社ヒューマンバリュー
