成功するEラーニングーその理論と導入・活用のポイント

第2章:Eラーニングとは?

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Eラーニングという言葉が米国で登場して以来、約4年が経とうとしている。その間、Eラーニングという言葉は世界中に広まり、Eラーニングの導入は加速度的に進展している。米国では既に60%の企業が何らかの形でEラーニングを導入しているとの発表もあり、米国においては、もはやEラーニングを活用することは企業にとって当たり前であるという認識が広がっている。また日本においても2002年7月に開催されたEラーニングワールド2002と呼ばれる展示会に約26,000名もの参加者が集まるなど、その注目度は年々高まってきている。

NTTデータ経営研究所の試算によると、2010年の日本のEラーニング市場は1兆円に達するとの見込みである。しかしながら、注目度に反して、日本においてはなかなかEラーニングの浸透が進まないのが現状のようである。ガートナージャパンが2001年の夏に実施した調査によると、2001年の時点でEラーニングを導入している企業は3.4%、1年以内に導入予定の企業は2.4%、3年以内に導入予定の企業は 3.6%と軒並み低い値を示している。

このように注目度が高いにも関わらず、実際に導入に踏み切る企業が少ない原因としては、Eラーニングを導入することによって何が可能となり、どんなメリットが得られるかなどに関しての正確な情報が乏しいことが挙げられる。そこで、本章では、Eラーニングとは何なのか、どのような学習形態やツールが含まれるのか、それらを使って何が可能となるのか、その結果どういう効果があるのか、といったことを実際の事例を交えながら紹介し、Eラーニングに関する基本知識を得ていただきたいと思う。

Eラーニングワールド2002には多くの参加者が詰めかけた。
Eラーニングワールド2002会場の風景

Eラーニングとは?

Eラーニングの定義

それでは、そもそもEラーニングとは何を意味するものなのか、まずその言葉の定義を見てみることにする。

Eラーニングという言葉が始めて使用されたのは、1999年11月、米国フロリダ州にて開催された TechLearn1999においてである。それまではCAI、CBT、WBT、オンラインラーニング、遠隔教育など様々な名称で呼ばれていたものが「E ラーニング」という言葉に統合されたのである。米国の組織学習・人材開発に関する会員制組織であるASTDによると、「Eラーニングとは、明確な学習目的のために、エレクトロニクス技術によって提供され、可能とされ、伝達されるあらゆるものである。」(出典:Debi Scholar "The First Approach to E-learning", Performance in Practice. ASTD, Spring 2001)と定義されている。

Eラーニングをどのように定義するかは人によって意見が異なる。しかし、テクノロジーを活用した学習形態の幅がどんどん広くなっている現在の傾向としては、上述の定義のように「IT技術全般を用いて学習目的を達成し、パフォーマンスを高める手段のこと」を総称してEラーニングとするという見方が、米国では一般的なようである。

Eラーニングに含まれる学習態形

次にそのEラーニングの中には、どのような学習形態が含まれるのかを、それぞれの学習形態の特徴と開発されてきた経緯などもあわせて紹介していくことにする。

CAI (Computer-Assisted Instruction)、 CBT (Computer-Based Training)

1970年代から80年代にかけて、パソコンを教育に活用する学習形態として注目されたのが、CAI(Computer-Assisted Instruction)である。当時のCAIは、パソコンへの物珍しさが学習者の興味を引き付けたものの、受講者がマニュアルに従って最初から順番に学習を進めるといった単純な学習形式となっていたため、教材の内容と比較して受講者のレベルが高い場合には無駄が生じると共に、決められた順番でしか学習できないため、受講者にとっては退屈なものとなり、効果的な学習を十分に提供できなかった。

その後、CD-ROMなどのパソコンの技術的な進歩を踏まえて、1980年代後半から登場したのがCBT (Computer-Based Training)である。CBTでは、教材をデータベースのように構成し、学習者自身が難易度や手順を設定しながら、自分に必要な部分や関心のある所を深く学習できるようになった。またシミュレーションやビジネスゲームといった高度な学習システムも、このころから実現されるようになり、人間とPC間でのインタラクティブ性は格段に高まったといえる。

CBTの特徴は、1980年当時には、まだネットワークが普及していなかったため、教材の配布方法としては、CD-ROMやPCへインストールするといった方法が取られていることである。ネットワークを介さないために、ビジネスの変化のスピードが増すにつれて、情報がすぐに陳腐化し、せっかくコストをかけて作成した教材がすぐに使いものにならなくなってしまうことや、受講者と講師、または受講者同士のインタラクティブなコミュニケーションが確保できないことが大きな課題となってきた。

しかしながら一方では、コンテンツ配信時におけるネットワークへの負荷を気にする必要がないため、容量の重い動画やアニメーションをふんだんに取り入れた、マルチメディア性の高いコンテンツを作ることができるという利点もある。また受講者管理やコンテンツ配信を行うサーバーを必要としないため、比較的簡単に導入が可能であることも特徴として挙げられる。これらの利点から、現在でも学校教育や企業内教育の現場で、幅広く教育システムに取り入れられている。

WBT (Web-Based Training)

90年代中盤から後半にかけて、ソフトウェアの進化とインターネットの普及に伴い、インターネットやイントラネット等のネットワークを通して教育コンテンツを学習者に届けるWBT (Web-Based Training)という学習形態が大きな注目を集めるようになった。 WBTのCBTとの大きな違いは、ネットワークを介していることにあるが、その利点としては、

  1. 知識の変化に合わせて教材内容の更新が容易に行えること
  2. 双方向通信が可能となり、これまで課題とされてきた受講者とインストラクター、あるいは受講者間でのインタラクティブなコミュニケーション、及び受講者の進捗状況の把握が実現したこと
  3. Webは世界標準のプロトコルであるため、教材の互換性(ある教材を別のシステムの上でも活用できること)、汎用性、及び操作性が向上したこと

などが挙げられる。

また、WBTで行われる学習形態は大きく以下の2つに分けられる。

1.同期型学習(ライブ型Eラーニング)
遠隔地に分散する受講者がネットワークを介して一同に遠隔講義を受講する形態を同期型学習(ライブ型Eラーニング)と呼ぶ。同期型学習の利点としては、双方向でリアルタイムな対話が可能なこと、資料を画面上で共有しながら学習を進められることなどが挙げられる。従来までは、通信衛星を使った遠隔講義システムが主流を占めていたが、インターネットを活用したほうが通信コストが安くつことなどから、WBTを活用するケースが多くなってきている。

2.非同期型学習
受講者が学びたいときに、必要なコンテンツをダウンロードして行う学習形態を非同期型学習と呼ぶ。非同期型学習の利点としては、受講者が好きな時間に、好きな場所で、自分のペースで学習することが挙げられる。一方で、学習の履行が完全に受講者に委ねられるため、教材が退屈であったり、受講者の学習に対する意識が低かったりすると、履修率が低くなることが課題として挙げられている。

インターネット全盛の現在にあって、Eラーニングの主流を占めるのもこのWBTである。しかしながら、現在まで思ったほど普及が進んでいない原因のひとつとして、通信速度が遅いため、マルチメディア性に富み質の高いコンテンツが効果的に配信できないことが挙げられる。このため、社内外におけるネットワークのブロードバンド化がWBT普及のための大きな課題となっている。

EPSS (Electronic Performance Support System)

業務上必要とされる知識やツールのデータベースを、IT技術を活用して、まさにその業務を行っている最中に提供することによって、パフォーマンスの向上を支援しようとするシステムのことを、EPSS (Electronic Performance Support System) と呼ぶ。

具体的には、ヘルプデスク、コールセンター、ビデオマニュアルなど、いったん業務を中断して支援を仰ぐものや、ソフトウェアのヘルプ機能、ウィザード、テンプレートといった業務を継続しながらサポートを受けるものなどが挙げられる。

CBTやWBTといった業務からいったん離れて学習する形態と比べて、より業務遂行に直結した知識をjust-in-timeに提供できるシステムであることが特徴である。 最近では、これまで活用してきた膨大な量の紙のマニュアルを電子化し、情報にたどりつくまでに要していた多くの時間のむだを省くことで、より効率的に業務をサポートできる体制を作ろうとする動きが多く出てきている。

Knowledge Management System

Eラーニングやナレッジ・マネジメント・システムの権威であるローゼンバーグによると、ナレッジ・マネジメント・システムとは、「同じような関心とニーズを持つ人々や組織で構成されるコミュニティの中で(あるいはそうしたコミュニティ間で)、価値ある情報や専門知識、洞察などを生み出し、保管し、共有するためのサポート・システムである」と定義づけられている。

従来はナレッジ・マネジメントとEラーニングは独立したものとして扱われてきた。しかし、最近の米国での議論として、E ラーニングの分野においても、マニュアル理解やパターン理解をするトレーニング的な学習に加えて、受講者間でのナレッジの還流や生成が行われる場をつくる必要性が強く訴えられるようになった。そういったものを受講者が共有化できる場を設定しようとすると、それはナレッジマネジメントと区別がつかないものとなるため、両者を融合し、ナレッジ・マネジメントもEラーニングの一環として捉えられるようになっているのが、今日の流れである。

ナレッジ・マネジメント・システムの具体的なツールとしては、ドキュメント管理や、掲示板などのコミュニティ活動支援機能を併せ持つグループウェアが代表的な例として挙げられる。これに加え、最近では、上述の流れにあわせて、複数のユーザーが簡単にEラーニングのコンテンツを作成し、ユーザー間で共有することができるLCMS (Learning Content Management System)と呼ばれるシステムも登場し始め、注目を集めている。

Knowledge Management System

Eラーニングの効果

ここまでEラーニングに含まれる様々な学習形態をその特徴とともに紹介してきたが、それではこれらの学習形態やツールを活用することで、具体的に何が可能となってきたのだろうか?Eラーニングの効果・長所として一般に挙げられているものを以下に整理してみることにする。

  1. 時間と場所と人数の制約なしに学習を行うことができる。
  2. 受講者のレベルに合わせて、必要なコンテンツのみを学習できる。
  3. 集合教育と比較して、トレーナー人件費や宿泊交通費などの費用が削減でき、安価に学習を提供できる。
  4. 紙教材では実現できなかった、マルチメディアを駆使したインタラクティブな教材の制作が可能となる。
  5. 知識の変化に合わせて、教材内容の更新をスピーディーに行うことができる。
  6. 研修終了後にも受講者間やインストラクターとの間でインタラクティブなコミュニケーションが可能となる。
  7. 受講者情報や学習の進捗状況がリアルタイムに把握でき、学習管理が容易になる。
  8. 世界標準のプロトコルを用いることにより、教材の互換性、汎用性、および操作性が向上する。

これらの長所をうまく活かすことができれば組織内にナレッジの活用や共有化、生成がなされる学習環境を構築することができると考えられる。次節では、実際にEラーニングに先進的に取り組んでいる企業が、Eラーニングをどういった場面で活用し、どのような成果をあげているのか、その典型的な例を紹介し、E ラーニングの活用イメージをつかみたいと思う。

Eラーニング活用事例

1.商品知識教育

世界的なEラーニングのリーディングカンパニーであるCisco Systems社の営業部隊では、以前はフロリダのオーランドに、同社の営業部隊を集め、新製品のトレーニングを行ってきた。しかしこのやり方では、交通費や宿泊費などで、従業員1人あたり2,500ドルものコストがかかり、また全員にトレーニングが行き渡るまで2,3ヶ月かかってしまうなど非効率であることから、2001年よりIPTVを活用した同期型学習システムを導入し、Eラーニングによるトレーニング・プログラムを2,000人の従業員に提供した。

その結果、従業員1人あたりに要するトレーニング費用は55ドルにまで削減され、従業員300人を4日間のプログラムでトレーニングできるようになった。また同期型で行われたセミナーは録画保存され、営業員が必要なときにダウンロードして復習することで、さらなる効果をあげることができた。

Cisco社の例に代表されるように、商品のライフサイクルが極端に短くなってきている現在において、新商品の知識教育にEラーニングを活用する例は多い。このような新商品の教育においては、いかに早く、安く、多くの人に、確実に情報を伝えることができるかが決め手となるため、Eラーニングの活用は有効であるといえる。日本においても、特に金融、IT、製薬業界といった、変化の激しい世界において、商品教育に対するEラーニング導入のニーズが高いようである。

商品教育をEラーニングで行うための典型的な手段としては、同期型、あるいは非同期型のWBTが挙げられる。商品の情報が更新されるたびに、同期型学習システムを活用して遠隔講義を行ったり、あるいは、商品説明セミナーをビデオ録画して、それを簡易オーサリングツールを用いてWBTコンテンツ化し、遠隔にいる受講者が好きなときに学習できるように配信するなどの形が取られることが多い。

これらのコンテンツを作成するポイントとしては、コンテンツのライフサイクルが短く、すぐに陳腐化するため、あまり凝ったものを作らず、短時間で簡単に安く作成することが挙げられるだろう。

2.コールセンター業務のEPSSによる支援

Hewlett-Packard社のコールセンターでは、従来まではオペレーターの商品知識教育を、各製品ごとに、集合教育、あるいはCBTを活用して行っていた。しかし、膨大な量の知識を覚える必要があることや、学習を行っている間は顧客に対応できないといったことが問題視されていた。そこで、新しい学習の手段として、EPSSを導入し、オペレーターが業務遂行中にリアルタイムに商品知識を検索できるようなシステムを構築した。

同社のEPSSの特徴としては、学習のレベルをオペレーターが自由に設定でき、特定の商品についてより深く学びたいときは、その商品に関するテストや詳細な解説にアクセスすることができることが挙げられる。これにより、EPSSを非同期型のWBTとしても活用することができる。また従来までは、新製品が出たときは、旧製品と重複する部分も含めて教育プログラムを1から作り直しており、むだが大きかった。EPSSに提供するコンテンツは、製品のパーツごとに独立して構成されているため、新しく加わった機能の情報のみを更新するだけですみ、教材作成の効率もアップした。結果として、同社のオペレーターの生産性は28-40%向上し、顧客との最初の電話中に解決策を提示できる率が16%向上した。

Hewlett-Packard社の事例のように、膨大な知識量を必要としたり、顧客への迅速な対応が求められる業務においては、EPSSによるサポートは有効である。商品知識のほかにも、オペレーションマニュアルや、ソフトウェアの使用法などをEPSS化し、生産性を向上させようとする動きが最近は多くなってきている。特に電子マニュアル化は、その効果性がわかりやすく、比較的すぐに結果が出やすいため、取り組みやすい領域であるといえる。日本においては、日本マクドナルドなどの会社がその開発に先行しており、今後さらなる普及が見込まれる。

3.集合研修の補完としてのEラーニング

航空機器メーカーのRaytheon社では、1999年から6シグマのプログラムを全社展開させ、1,000人のブラックベルトと9,000人のグリーンベルトを育成しようとした。トレーニングは基本的には、集合研修や現場でのOJTをベースに行われたが、2002年よりその一部をEラーニングで補完することにした。

具体的には、まず集合研修に参加する前の事前学習として、オリエンテーションプログラムをWBTにて提供した。そのプログラムは、なぜ6シグマが必要なのかを同社の経営陣が語ったビデオや、同社での6シグマ成功事例、6シグマの基本原理などが1つのコンテンツに盛り込まれており、受講者は事前にそのコンテンツを学習することによって、集合研修へのレディネスを高めることができた。

また研修後は、受講者が現場で6シグマを実践する際に活用できるツールを集めたツールキットをイントラネット上に配備したり、実践において出てきた疑問や課題を解決するために、Eコーチやナレッジ・シェアリングの仕組みを整えるなどしてフォローを行った。

Raytheon社の事例のように、最近では集合研修とEラーニングを組み合わせて、より効果の高い学習体験を提供していこうとするケースが増えてきている。事前にWBTでテストを行い、受講者のレベルを把握したり、研修後に、ウェブ上でオンライン・コミュニティを形成し、研修で学んだことを実践に移す際に必要なノウハウやナレッジの生成の場として活用するといった例が挙げられる。このように、集合研修とEラーニングのそれぞれの利点を組み合わせて、効果的な学習体験を提供することを、ブレンデッド・ラーニングと呼んでいる。(ブレンデッド・ラーニングに関する詳しい記述は「第3章:効果的なEラーニングを実現するための観点」を参照のこと)

4.パートナー教育、顧客教育

大手携帯電話メーカーのNokia社では、Eラーニングのプログラムを、従業員だけではなく、同社のパートナーや顧客も含めた全てのサプライチェーンで提供し、効果をあげている。

まずパートナー教育においては、世界中に広がる同社の代理店向けにサプライヤー・ポータルを開設し、全てのNokiaの商品に関するEラーニングプログラムを22ヶ国語で提供している。その他にも携帯電話のリペアーショップ向けに、修理手順を録画したものをストリーミングビデオ配信している。また顧客向けには、Club Nokia、Forum Nokiaといったコミュニティサイトを通して、同社の商品に関するEラーニングプログラム(製品マニュアル等)を提供している。

Nokia社の事例のように、Eラーニングの利点であるスケールメリットを活かして、パートナーや顧客にまで、Eラーニングを提供する対象を広げていくケースが出てきている。特に顧客向けのEラーニングの提供は、カスタマー・ラーニングと呼ばれ、現在米国においても、新たなマーケティングの手法として注目を浴び始めている。 今後Eラーニングの普及が進むにつれて、Eラーニングのプログラムを受講する対象者の幅も広がっていくものと思われる。

ここまでいくつかの代表的な事例を紹介し、Eラーニングの活用のイメージをつかんできた。いずれのケースも、Eラーニングの長所を有効に活用した結果、大きな効果を生み出してきたといえる。自社でEラーニングを導入するにあたっても、Eラーニングを単なる集合教育の置き換えや通信教育の延長として捉えるのではなく、継続的に組織のナレッジを高め、パフォーマンスを向上させる手段として位置づけ、Eラーニングによって従業員にどんな学習体験や環境を提供しようとしているのかを検討していかないと高い効果性は生み出せないであろう。

それではEラーニングでそのような高い成果をあげるためには具体的にどのようなことに注意を払う必要があるのだろうか?次章以降では、効果的なEラーニングを実現するために、考慮すべき観点について解説することにする。

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