雑誌掲載記事

人々の主体性と創造性を高める話し合い「ワールド・カフェ」

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「企業と人材(産労総合研究所)」2008年5月5日号掲載

株式会社ヒューマンバリュー  研究員  川口大輔

会議のあり方が人々の主体性と創造性を損なわせていないか

「組織の垣根や上下関係を超えたオープンな話し合いを行いたい」、「発想が膨らみ、創造性が発揮されるような会話を実現したい」、「全員が参加できるようなミーティングを行いたい」。こんな声を現場のマネジャーから聞くことが最近増えている。

組織の力を高めるためには、一部のリーダーだけが意思決定や問題解決をするのではなく、組織の全員が高いやりがいと主体性をもって参画でき、現場の最前線にいる人、深い専門知識を持っている人など、異なる立場からの多様な意見やアイデアを活かしていくことが重要となってきている。しかし、個人の力を集合的な力へとつなげることは簡単なことではない。

ここで日常の会議・ミーティングのあり方を振り返ってみたいと思う。あらかじめ決められたアジェンダ(検討課題)の下に、議事進行が図られ、いつ、誰が、何を発言するかも公式・暗黙のルールのもとに定められている。長方形のテーブルに向かい合って、毎回同じ席に座り、発言者と聞き手というスタイルで質疑応答が繰り返される。最後には箇条書きで決議事項がまとめられる……。

そういったスタイルの会議が多いのではないだろうか。スピーディに手続き的に意思決定をする効率性を重視した会議であれば、そうした進め方も良いと思われる。しかし、人々の主体性や創造性は高めることはできるだろうか。決められた部品をもとに、効率よく製品を作るベルトコンベアのような話し合いの進め方が人々のフラストレーションを高め、エネルギーや可能性に規制をかける要因にはなっていないだろうか。

主体性と創造性を最大限に高める「ワールド・カフェ」

米国で「ワールド・カフェ」という話し合いのあり方が生まれたのも、そのような背景があったからかもしれない。ワールド・カフェは、1995年にJuanita Brown (アニータ・ブラウン)氏とDavid Isaacs (デイビッド・アイザックス)氏によって開発された。

きっかけとなったのは、彼らが当時、世界的に関心が高まっていた知的資本経営に関するリーダーたちを自宅に招き、話し合いの場作りを行ったことにある。
「集まったゲストが、リラックスしてオープンに生成的な話し合いを行えるには、どんな場や雰囲気が必要だろうか?」。そんな問いを自らに投げかけ、両氏は、テーブルに花瓶を置いたり、フリップチャートをテーブルクロスに見立てて敷いてみたり、テーブルの脇にコーヒーとクロワッサンを用意したり、「ようこそカフェへ」と書かれたかわいらしいサインを入り口に掛けたりとさまざまな工夫を凝らして、話し合いに臨んだ。
すると参加した人々は、ホスピタリティにあふれた空間で、創造性に富んだダイアログを行うことができ、誰からともなく自分たちの発想や思いをフリップチャートに落書きし、自由にテーブル間を移動して、自分たちが発見したことを共有し、学びを深めあったのであった。

その結果として、想像できないほど多くの知識や洞察が生まれたことに感銘を受けた両氏は、その経験を振り返って、主体性と創造性を高める話し合いのエッセンスを抽出した。そうしてまとめられたのが「ワールド・カフェ」という話し合いのあり方である。
その背景には、知識や知恵は、機能的な会議室の中で、ベルトコンベアに乗って大量生産されるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる "カフェ" のような空間から、糸が紡ぎ出されるように創発されるという考えがあるように思う。

アニータたちは、試行錯誤を繰り返し、カフェ的会話を実現するための7つの原理(表)をつくり上げた。ワールド・カフェは今では両氏のもとを離れ、研究者や実践者によって大きな進化を遂げ、世界中の国々で、企業の戦略立案から社内コミュニティの勉強会、あるいは紛争解決の話し合いの場といったところまで、さまざまな場面で活用が進んでいる。

表:ワールドカフェ7つの原理
原理1

コンテクストを設定する
ダイアログを可能にするための目的と広範な要件を明確にする

原理2

もてなしの空間を創造する
個人的な快適さとお互いを尊重する気持を育むことができるもてなしの環境と心理的な安心感を確保する

原理3

大切な質問を探求する
協働を引き出すような強い力を持つ質問に対して、集合的に関心を高める

原理4

全員の貢献を促す
参画と相互支援を促すことによって、「個」と「全体」の関係を活性化する

原理5

多様な視点を他花受粉させて、繋げる
中核的な質問に対して共通の関心を高め、異なる視点のつながりをもつ多様性と密度を意図的に強めることにより、創発が現れる生体システムのダイナミズムを活用する

原理6

パターンと、洞察、より深い質問に共に耳を傾ける
個々人の貢献を損なわずに思考の結束を育むことができるように、共通の関心事に焦点を当てる

原理7

集合的発見を収穫し共有する
集合的知識と洞察を可視化することによって行動に移せるようにする

カフェ的会話の進め方

それではワールド・カフェはどのように行えばよいのだろうか。進め方はとてもシンプルである。ただし実践してみると、その場作りやプロセスの1つひとつに主体性や創造性を生み出す哲学や思想が実にうまく込められている。実践にあたっては、それらを理解した上で進めたいものである。

1.場作り

まず場のセッティングとして、4~5人くらいが座れるカフェスタイルのテーブルを必要数用意する。

これまで色々な形のワールド・カフェをお手伝いさせていただいたが、経験的にも1テーブル4名くらいにすると最も相互作用が高まるようである(8~10名でやってみたことがあるが、相手との距離が遠すぎる印象があった)。テーブルは、丸型が理想的だが、なければ普通の会議室の机でも代用は可能となる。日常とは違ったカフェ的な雰囲気をつくるためにテーブルクロスを敷いたり、花瓶を置いたりするのもよい。
テーブルの上にはフリップチャートか模造紙を1~2枚敷き、カラーマーカーを置いておくことで、話し合いの最中に参加者が落書きできるようにする。
とてもシンプルな仕掛けだが、話し合いが進むうちに、この落書きを通して、アイデアとアイデアが結びつき、新たな洞察が生まれていくことはカフェの醍醐味ともいえる。また、模造紙が下に敷いてあると、普段あまり話さない人も、アイデアを書き込むことによって貢献することができる。

その他にも、人々の創造性や開放性が最大限に高まるような工夫を色々と考えてみてほしい。先日、カフェを体験した、ある年配で強面の男性の参加者が「テーブルクロスってどこで買えるんですか?」と話していたのがほほ笑ましくて印象的であった。誰しもが自宅でパーティを主催するときは、「友人たちに喜んでもらえるにはどうしたらよいだろうか?」と頭をひねって考えることだろう。日常の仕事や話し合いの場の中にもそうしたホスピタリティの考えを取り組むことが、人々の中にある「会議=つまらなくて無駄なもの」というマインドセットを取り除き、活き活きとした話し合いを生み出すのかもしれない。

2.プロセス

ワールド・カフェは、「質問」をもとに会話が進められる。ワールド・カフェの原理の1つに「大切な質問を探究する」とあるように、そこに集まった人たちの生活や仕事、組織やコミュニティにとって真に大切な質問を投げかけることができれば、自然と関心が高まり、探究が進んでいく。どんな質問を投げかけるかを真剣に考えたいものである(質問を集まった参加者が考える場合もある)。

カフェでは、質問をもとに通常20~30分の会話が3ラウンド行われる。会話の中で出たアイデアやクエスチョンなどは、テーブルに敷かれた模造紙に書き込まれていく。最初のラウンドが終わったら、1人が「ホスト」としてテーブルに残り、他の人は、他のテーブルに移動する。ホストは、新しい人を歓迎し、そこでどんなダイアログが行われていたかを新しい人たちとシェアし、新しく入ってきた人たちのアイデアや質問、テーマとコネクトする。3ラウンド目は、もとのテーブルに戻って、他のテーブルで得られた自分たちの発見を統合し、探求を深める。最後に、全体で発見や洞察を共有して終了する。

このようにカフェのプロセスでは、あたかも蝶が密を求めて花から花へと飛び移るように、人々がテーブルからテーブルへと移動して、多様な洞察を結びつけ、アイデアを他花受粉することにより、集合的な知恵を生み出すのである。

実践の心構えと可能性

ここまでカフェの場作りやプロセスについて紹介してきたが、どんなに物理的に素敵な空間をつくっても、例えば主催する人の発言が指示命令的であったり、「○○はやってはいけません」と禁止用語を連発してしまったりすると、場がコントロールされてしまい、エネルギーが失われてしまう。それでは、本末転倒である。私自身も以前は、「模造紙にぜひ書き込みをしてください!」とやや強調して投げかけていたが、それは返って逆効果であることに気づいた。

必要な場とプロセスがデザインされれば、主催者側が何もしなくても、参加者の主体性や創造性は自然と高まるものである。人々の可能性を信じて、余計な邪魔をせず、一参加者として、自分自身もカフェの会話を楽しむことがカフェ的会話を成功させる秘訣といえるだろう。もしかしたら、それは話し合いの場作りだけではなく、マネジメントやリーダーシップのあり方にも通じるものかもしれない。

すでに日本においても多くの企業がワールド・カフェを活用し始めている。例えば、ある大手自動車メーカーでは、職場の仲間全員が集まって、自分たちの職場のありたい姿についてワールド・カフェで探究を深め、組織の未来に向けてのエネルギーを高めることに貢献した。あるいは、ある通信事業会社では、管理職を中心として、マネジメントのあり方について話し合い、マネジャー同士が、お互いの知恵や経験を交換し、新たなナレッジを生み出すことへとつなげた。私自身もそうした場作りの支援をさせていただきながら、ラウンドを重ねるごとに人々の会話に対する熱意が高まり、新しいアイデアが創発されていく様子に毎回驚かされるとともに、ワールド・カフェの大きな可能性を感じている。

今後、ワールド・カフェはさらに、戦略会議や全社員が一堂に介するキックオフ・ミーティングで活用したり、クロス・ファンクショナル・チームを作る際にお互いの背景や考えを理解し合うことで高い次元でのコラボレーションを実現したり、組織変革に社員みんなが参画できる機会として提供したり、あるいは研修で得られた学びを深めたりと、様々な場面での活用がされていくと思う。今、人材開発部門に求められる役割として、既存の知識を提供するのみならず、新たな知識や知恵が創発されるような場作りを行い、働く1人ひとりの主体性と創造性を高めることが重要だとすれば、ワールド・カフェはその第一歩になるかもしれない。ぜひできるところからカフェ的会話を生み出し、組織に活力を生み出していってほしい。

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