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多様な働き方

Responsive Conference 2018 レポート

2018年09月24日〜25日に、米国のニューヨークにて、「Responsive Conference(レスポンシブ カンファレンス)」が開催されました。本カンファレンスは、「21世紀における私たちの働き方の抜本的な変化」を生み出すことを目的とした、Responsive Orgというコミュニティの主催の下で行われ、145の組織から約190名が参加しました。本カンファレンスの開催は、今年で3回目を迎えます。参加企業の属性は多岐にわたり、Chanel 、SAP 、McDonald's Corporation などの著名なグローバルカンパニーや、新たな働き方・組織づくりで注目を集めているAirbnb、Zappos、ティール組織をはじめとした新たな組織づくりにチャレンジするコンサルタント、また、United Way of New York Cityの大学生やTeach for AllのようなNPOからも参加していました。

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本カンファレンスは、「人材開発や組織変革に関して話し合うだけでなく、それらの考えを具体化する学習経験を生み出すこと」を目的としており、単なるプレゼンテーションに終始せず、様々な工夫がされていたのが印象的でした。

たとえば、会場はMuseum of the Moving Imageという映像をテーマにした博物館で開催され、休憩時間に博物館を見学したりすることができたり、休憩スペースでチェロの生演奏があったり、セッションにおいてもハンググラムのパフォーマンスがあり、アートの要素が大事にされていました。

また、プレゼンテーションの時間も最大30分ほどで細切れになっていて、参加者同士で対話することに重きが置かれていたり、講演の前には瞑想やボディワークを行い、頭と心をつなげ、身体的にも学習を高めるためのデザインとなっていました。

本レポートでは、3部構成で、はじめに、本カンファレンスを主催するコミュニティの目的や、コミュニティが掲げるマニフェストを紹介します。次に、カンファレンスの中で特にフォーカスされ取り上げられていたセッションについて紹介し、最後に、2日間のカンファレンスを通じて参加する中で、我々が感じた「新たな働き方・組織のあり方」を実践するにあたってのインサイトを述べたいと思います。  

① Responsive Orgとは

冒頭でも紹介したように、本カンファレンスでは、ビジネスの文脈では珍しく、アートや身体的学習も取り入れられているのが特徴的でした。カンファレンスの中では語られていませんが、このコミュニティが目指していることなどを紹介することで、本カンファレンスの文脈を理解するきっかけとなればと考えています。
そこで、以下では、Responsive Orgのページをもとに、コミュニティの存在意義や、新たな働き方・組織のあり方を実現するにあたってのマニフェストを簡単に紹介できればと思います。

Responsive Orgの目的(存在意義)

「『働き方』や『組織のあり方』に関する根本的なシフトを実現するための共通言語や独立したグローバルのコミュニティを創り出すことを目的とし、Responsiveな思想家や実践家をつなぐハブとなることを志しています。私たちはResponsive Orgを、基本原則に沿って、可能な限りオープンでつながり合ったものにしたいと考えています。このことを念頭に置き、私たちは、このすばらしいコミュニティのすべてのメンバーに対し、ブランドが誰かに属しているのではなく、すべての人に属していることを表明します。私たちは、 Responsive Organizationの原則と実践を普及させるというコミットメントを共有したメンバーとして、誰もが単独で自分たちが望むものを自由に創造することができます。」

2日間のカンファレンスにおいて、参加者同士が活発に議論し合ったり、以前からの知り合い同士で楽しそうに話している様子がうかがえました。また、ティール組織の導入支援をしているコンサルタントの方に出会ったのですが、このコミュニティのメンバーに紹介され、興味をもち、参加されたとのことで、少しずつですが、コミュニティの存在意義に共感し、実践者が集ってきているように見受けられました。

Responsive Orgのマニフェスト

Responsive Orgでは、変化が激しく、未来の予測がますます難しい状況下において、次の5つの観点についてのバランスを取ることで、組織が発展・継続していくことを提唱しています。
2日間のカンファレンスにおいても、直接、5つの観点が提示されることはありませんでしたが、実践事例の中では、上記の観点を踏まえた取り組みが数多く紹介されていました。

② セッションの紹介(1):<基調講演>Primed to perform - Harnessing the Power of Total Motivation

著述家でコンサルタントのリンゼイ・マクレガー氏が基調講演を行いました。マクレガー氏は、パートナーのニール・ドシ氏とVega Factorを創業し、『Primed to Perform』(邦題:マッキンゼー流最高の社風のつくり方)の著者として知られています。この書籍の内容を中心とした話が、講演の中では語られていました。

2種類のパフォーマンス

組織が発揮するパフォーマンスには、戦術的パフォーマンス(Tactical performance)と適応的パフォーマンス(Adaptive Performance)の2つのタイプがある。戦術的パフォーマンスとは、計画をどれだけ効率的に遂行するかということであり、これは戦略によって生まれる。一方で、適応的パフォーマンスは計画から逸れてどれだけ臨機応変に変化に対応できるかということであり、これは文化から生まれる。両者は2つで全体を構成しており、どちらも組織が発揮するパフォーマンスとして重要。陰陽と同じく、相反する力のように見えながら、実際には補完し合っている。

6つの動機とパフォーマンスを最大化させるTotal Motivation

参照元:「マッキンゼー流最高の社風のつくり方」(日経BP社)

人が活動をする動機は大きく6つに分類され、どういう動機で仕事をするかによって、パフォーマンスは変化してくる。直接的動機は業績を向上させ、間接的動機は業績を下げることから、直接的動機が強い状態をTotal Motivation(以下TOMO)が高く、直接的動機が低く間接的動機が強い状態をTOMOが低いと定義している。TOMOが高いと、戦術的パフォーマンスと適応的パフォーマンスの双方が高い。一方で、TOMOが低いと戦術的パフォーマンスは高いが、適応的パフォーマンスが低下し、最悪の場合、不適切なパフォーマンスを生み出すことにつながる。(コブラ効果)

TOMOはカルチャーから生まれる

高いTOMOは企業がもつカルチャーから創造される。カルチャーは以下のような部分からつくられる。
 会社としてのアイデンティティ
 どのように組織を構造化しているか
 タレントシステムがどう機能しているか
 どのようにガバナンスを行っているか
 どのように計画策定とアラインメントを行っているか
 チームはどのような働き方をしているか
 どのように相互作用しているか

TOMOに高い影響を及ぼす組織内の取り組みとして、以下のようなものが挙げられる。
 仕事・役割のデザイン
 組織のアイデンティティ
 キャリアラダー(キャリアパス)
 コミュニティ
 人員配置計画
 リーダーシップ
 報酬
 ガバナンスのあり方
 パフォーマンス評価(業績評価)

以上が、講演の中で背景理論として紹介されていました。高いパフォーマンスは、TOMOによって生み出され、そのTOMOは企業のカルチャーによってもたらされるということです。この講演の中でマクレガー氏は、「これまでの企業の中では、計画を遂行するために間接的動機を高めるような施策が多く取られてきており、マネジメントの慣習として染み付いている部分がある」という指摘をしていました。未来がある程度予測できる中では、それでも機能してきた部分があると思いますが、Responsive Orgのマニフェストにある通り、予測が難しい世の中では、今まで以上に適応的パフォーマンスが重要になってきています。そうした中で、これまでのマネジメントの慣習を見直し、直接的動機が高まるような組織デザイン、カルチャーづくりが必要になってくるというメッセージが、データを示しながら語られていました。

② セッションの紹介(2):全体性を通した変化

基調講演以外にも、多くのセッションやワークショップが開催されていましたが、カンファレンスを通して印象的だったのは、全体性を通した変化を生み出そうというセッションが多く行われていたことでした。
企業のマネジメントのあり方や制度、組織構造を変えただけで本当の変化が起きるわけではなく、大事なのは一人ひとりの意識の変容が起こることであり、そうした意識変容をいかにサポートするかという観点で、音楽を活用したり、身体性や生活する環境全体に着目したセッションが見受けられました。Responsive Orgが掲げているマニフェストにもありますが、今私たちが直面している変化に適応するためには、これまでの慣習の延長線上にはないことにチャレンジしていく必要があるという状況が背景にあるのだと思います。コンフォートゾーンを抜けて新しいことにチャレンジしていくにあたっては、不安や恐怖心も芽生えます。データやロジックに頼った変容というよりも、一人ひとりの中に芽生える不確実性に対する不安のような感情にしっかり向き合っていこうということも、今回のカンファレンスの1つのテーマになっているなと感じました。

② セッションの紹介(3):社会課題への対応

そうした一人ひとりの中に芽生える感情と同じように、社会的な変化に伴う痛みに対してどう向き合っていくのかということも今回のカンファレンスで扱われていました。具体的には、Airbnbが自社で行っているBelongingsに関する調査発表の中で、ダイバーシティが進む一方で、昨今問題になっている差別や人々の中にあるバイアスに対しては、差別やバイアスに関するプログラムを実践するだけでは不十分で、一人ひとりがしっかりと自分自身とつながっていたり、居場所のある感覚(Belongings)を感じ取っていることが大事だという話が紹介されていました。
また、 Creating Forgivenessというテーマで行われたパネルディスカッションでは、刑務所でヨガの教室を開いたり、刑務所向けの起業プログラムを実践している方や、ルワンダ大虐殺の生存者の方が登壇され、敵と味方や善と悪で分断されやすい社会の中で、いかにForgiveness(赦し)を生み出していくことの重要性が語られていました。
社会が大きな変化に直面し、その変化を推進する側と抵抗する側とで分断されやすい構造があるといわれる中で、どう振る舞うべきかを考えさせられるセッションだったように思います。また、何が正解かわからない中で、それぞれが試行錯誤を重ねていくと、過ちを犯すケースも増えていくことが想定されますが、起きた過ちに対しての向き合い方やスタンスについても問われているような気がしました。

③ 「新たな働き方・組織のあり方」を実践するためのインサイト

ここまで、Responsive Orgの概要と今回のカンファレンスの内容を紹介してきました。この中で感じたことは、あらためて今、私たちは大きなパラダイムシフトの只中にいるのだなということです。

世界人口はいまだに増加中ではありますが、日本社会に目を向ければ人口減少の局面になって久しく、そのうちアジアやヨーロッパでも少子高齢化が進んでいくと予想されています。また、政府が提唱するSociety5.0のように、様々なものがつながってデータが共有され、AIやロボット技術の利活用がさらに進む中で、一人ひとりに最適化したサービスが提供される社会になっていくのではないかといわれています。
社会の構造が大きく変わろうとする中で、それと符合するように、組織のあり方や人の働き方にも大きな変化が訪れているといえるのではないでしょうか。企業というフレームを中心にして、そこに人を部品のように組み込むような「カンパニーセンタード」の考え方ではなく、人を中心にして、人がもつ可能性が最大限発揮されるように環境を整えていく「ピープルセンタード」の考え方へと企業経営のシフトが起きているということは、これまでヒューマンバリューにおいても度々取り上げてきましたが、Responsive Conferenceへの参加を通して、こうした潮流を今まで以上に強く実感しました。

Responsive Orgのマニフェストにあるような、Purpose・Networks・Empowering・Experimentation・Transparencyをより重視した組織づくりであったり、基調講演でマクレガー氏が述べていたような、直接的動機を大事にする企業文化の構築といったことは、組織のあり方や働き方に関する新たなパラダイムの1つといえると思います。
こうした取り組みには完成型や正解とされるものがあるわけではないため、多くの人や組織が試行錯誤を行っている段階にあると思いますが、今回のカンファレンスでさまざまな実例が共有され、新たなパラダイムという抽象的な存在が徐々に具体化しつつある現状を感じることができました。
また、こうしたパラダイムシフトは制度や構造を変えただけで実現できるものではなく、一人ひとりの意識の変容が伴ってこそ実現するものだということは、カンファレンスを通して最も強く発信されているメッセージだったように思います。当たり前のことかもしれませんが、新しい組織づくりや既存の組織のトランスフォーメーションに関わる際には、制度をつくることだけにフォーカスするのではなく、一人ひとりの自己変容を促すアプローチにだけフォーカスするのでもなく、この両者を上手に組み合わせながら進めていくことの重要性があらためて示されていたように思います。

あらためて振り返ってみると、今回のカンファレンスへの参加を通じて、工業化以来の150年で積み上げてきた既存の枠組みを超えて、新しい組織のあり方や働き方を創り出したいというエネルギーを強く感じました。それは今までの延長線上にはないチャレンジであり、一歩踏み出すには恐れを乗り越える必要がある場面も多々あるように見受けられますが、こうしたResponsive Orgのような実践のコミュニティが、知識や経験の共有と心理的な拠り所という機能を果たすことで、多くの人がチャレンジしやすい状況を生み出すことができるのではないかと思います。
「全体性を通した変化」と「コミュニティを基盤にした推進」は、転換期を迎えているといわれる世の中における1つのキーワードになるのかもしれません。
最近は、Responsive Orgに限らず、こうしたコミュニティが世界中で生まれてきつつあります。転換期にあって、自分たちが望む未来を切り拓く力を高め、真にピープルセンタードな人・組織・社会を実現すべく、探求と実践を続けていけたらと思います。

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私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。