博物館明治村を舞台にしたリベラルアーツ研修の展開 〜歴史を手がかりに、自分たちの価値観と存在意義を問い直す学びの旅路〜

ヒューマンバリューでは、創立40周年を機に、ご縁の深いクライアントのみなさまとの多様な変革の実践を「共創ストーリーズ」として発信し、これから変革に取り組もうとする方々へのヒントをお届けしています。

第8弾となる今回は、愛知県犬山市にある博物館 明治村(以下、明治村)を舞台に展開されている「リベラルアーツ研修」の開発と実施のストーリーです。

近年、リベラルアーツや哲学への関心が社会的にも高まりつつあります。企業の中でも、経営や人材開発の文脈でそれらを取り入れようとする動きが広がっています。正解がない時代において、決まった答えを探すのではなく、物事の意味や価値を問い直し、自分なりの視点で未来を考える。そうしたリベラルアーツ的な思考や姿勢の重要性が、いまあらためて注目されています。

では、そうした学びはどのように実現できるのでしょうか。リベラルアーツの重要性は語られることが増えていますが、それを企業の学びの場として具体的に形にすることは簡単ではありません。

明治村という歴史のフィールドで、五感を通して時代に触れ、参加者同士の対話を通じて自分の価値観を問い直していく——。本記事では、明治村とヒューマンバリューが協働しながら、このリベラルアーツ研修をどのように構想し、試行錯誤を重ねながら実現してきたのか、そのプロセスを紐解きます。

それは同時に、明治村がもつ価値や存在意義をあらためて見つめ直していく旅路でもありました。そこから、未来を共創する学びを生み出すためのヒントを探っていきます。

お話を伺うのは、明治村の事務局長を務める三好学さん、所長の湯田晃久さん、そして建築部長の石川新太郎さんです。対談のお相手は、本プロジェクトに伴走してきたヒューマンバリューの岡田陽介さん、川口大輔さん、萩森聖香さんが務めます。

共創ストーリーズ#8
博物館明治村を舞台にしたリベラルアーツ研修の展開
〜歴史を手がかりに、自分たちの価値観と存在意義を問い直す学びの旅路〜

<目次>
1. 明治村の成り立ち─ 建築を残すことは、歴史と人の営みを伝えること
2. 明治村を舞台にした「リベラルアーツ研修」の構想が立ち上がる
3. リベラルアーツを学ぶとはどういうことか?
4. 生成的な学びの経験をデザインする
5. リベラルアーツ研修の学びのダイナミズム〜プログラム実施の様子〜
6. 明治村の存在意義をあらためて問い直す旅

 

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1. 明治村の成り立ち─ 建築を残すことは、歴史と人の営みを伝えること

博物館 明治村は、明治時代の建築を保存・展示する野外博物館として、1965(昭和40)年に愛知県犬山市に開村しました。名古屋鉄道の支援のもと設立され、現在は公益財団法人明治村によって運営されています。国の重要文化財を含む60件を超える建造物が移築・復原され、明治という時代の空気を体験できる場となっています。

明治村の始まりには、「明治時代に創建されるも、時代の変化とともに取りこわされつつあった建造物を未来に残したい」という想いがありました。きっかけの一つは、1940(昭和15)年に明治を象徴する建築であった鹿鳴館が取り壊されたことでした。これを惜しんだ建築家の谷口吉郎氏の想いに共感したのが、旧制第四高等学校の同級生であり、後に名古屋鉄道の社長・会長を務めた土川元夫氏です。高度経済成長の中で明治建築が次々と失われていく状況の中、「建物を移築して村として残そう」という構想から、明治村のプロジェクトが始まりました。

明治村が大切にしてきた考えの一つが、「建築は歴史の証言者である」という言葉です。建物が生まれた背景やストーリーを知ることで、その時代の文化や人々の営みを感じ取ることができる——。そうした想いのもとで明治村は誕生し、明治の建築は今日まで守り伝えられてきました。

2. 明治村を舞台にした「リベラルアーツ研修」の構想が立ち上がる

今回のリベラルアーツ研修の構想が生まれた背景には、明治村のこれからの運営を見据えた課題意識もありました。

これまで明治村は、入村料などの事業収入を中心に運営されてきました。しかし、建築の長期保存を続けていくためには、将来的に来村者数だけに依存する形には限界があるのではないかという問題意識が共有されるようになります。公益財団法人として、寄付などの支援を広げながら、明治村の価値をより多くの人に理解してもらう仕組みをつくる必要がある——。そんな議論が始まっていました。

そうした中で、明治村の60周年記念事業の一環として、企業からの寄付や協賛を募る取り組みが進められます。そこで考えられたのが、「寄付をいただいた企業のみなさまに、明治村ならではの学びの機会を提供できないか」というアイデアでした。

所長の湯田さんは、当時の構想をこう振り返ります。

湯田さん:
明治村は単に建物を保存する場所ではなく、その建物を通じて“時代の挑戦”を感じてもらえる場所だと思っています。もし企業の方々がここで明治の人たちの挑戦や思考に触れながら、自分たちの未来を考える時間を持てたら、とても意味のある学びになるのではないかと思ったんです。

明治村 所長 湯田 晃久さん

こうした背景から「明治村リベラルアーツ研修」の構想が立ち上がります。しかし、実際の研修を形にしていくためには、「明治村という場の価値を、どのように学びとして設計していくのか」を考える必要がありました。

明治村には、明治時代の建築をはじめとする貴重な資産があります。ただ、それらを単に見学するだけでは、必ずしも深い学びにはつながりません。建物の背景にある歴史や思想、人々の挑戦をどのように現代の学びへとつなげていくのか——その方法については、明治村の中にも明確な知見があるわけではありませんでした。

そこで、外部の専門家と協働しながら研修を構想していくことが検討されます。こうして声がかかったのが、人材開発・組織開発の分野で企業支援を行ってきたヒューマンバリューでした。

プロジェクトの検討に先立ち、ヒューマンバリューのメンバーは実際に明治村を訪れ、建物や空間を見ながら関係者との対話を重ねました。明治という時代の挑戦が刻まれた建築群や、そこに込められた物語に触れる中で、「ここには学びの場として大きな可能性がある」という手応えが生まれていきます。

ヒューマンバリューの「未来をひらく」という考え方にも共感が生まれ、明治村とヒューマンバリューによる共同の探究が始まりました。

3. リベラルアーツを学ぶとはどういうことか?

学びの場を構築していくにあたり、最初に向き合った問いは、「リベラルアーツを学ぶとはどういうことなのか?」というものでした。

近年、社会の中でもリベラルアーツへの関心は高まっています。しかしそれは、古典や哲学、歴史、芸術といったものを教養として知識的に学ぶことだけを意味するものではありません。語源に立ち返ると、リベラルアーツの「Liber」とは自由を意味します。つまり本来のリベラルアーツとは、人間がより自由に考え、より自由に生きるための学びだと言えるのではないでしょうか。

この問いを考えるうえで、大きなヒントになったのが、明治村で働く人々自身の体験でした。事務局長の三好さんは、自分自身が明治村で働く中で、価値観が少しずつ変わっていった経験を思い返したといいます。

三好さん:
「明治村の仕事に就いたばかりの時、最初は『なぜこのような活動を続けているのだろう』と半信半疑なところもあったんです。ですが、学芸員や建築担当のスタッフの解説を聞き、明治の人物や建築の背景を知るうちに、次第に自分の考え方や価値観が変わっていきました

明治村 事務局長  三好 学さん

三好さんは、続けてこう語ります。

三好さん:
成熟した社会の中で、どこか停滞感を抱えながら生きている現代の私たちは、明治という大きな転換期を生きた人々から、多くを学べるのではないか。それは、明治村が本来担うべき、“未来価値の創造”にもつながるのではないかとも思ったんです。

プログラム開発を支援したヒューマンバリューの川口さんも、三好さんたちのそうした想いや体験に共感します。

川口さん:
私自身、学生時代にエンジニアリングを実学として専攻しながらも、1年間アメリカとヨーロッパでリベラルアーツを学ぶ機会に恵まれました。その体験は、知識以上に、「もっと自由に生きていい」と自分の枠組みを広げてくれたものだったように思います。

私たちは日々、さまざまなものに縛られながら生きています。社会の規範や仕事の枠組み、そして時には自分自身の中にある固定観念や「こうあるべき」という思い込みも、私たちを縛ってしまうことがあります。明治村のみなさんと話す中で、リベラルアーツとは、人間が積み重ねてきた多彩な経験や知恵に触れることで、自分を相対化し、物事の本質を見つめ直し、これまで見えなかった視点を得ていくような学びではないかと考えました。

ヒューマンバリュー 川口 大輔

こうした対話を重ねる中で、明治村という場を舞台に、自分たちの価値観や前提を見つめ直し、新しい視点から未来を考えていくラーニング・プロセスのコンセプトが少しずつ形になっていきました。

そのプロセスは、過去の歴史や建築に触れながら、自分自身の思考の枠組みを揺さぶり、新たな視点を得て未来を構想していくという意味で、いわばUプロセスにも通じる学びの旅として構想されていきます。

価値観を再構成するラーニング・プロセス

4. 生成的な学びの経験をデザインする

プログラムのコンセプトや方向性が見えてくると、次に議論されたのは、参加者にどのような学びの経験を持ってもらうのかという点でした。

明治という時代をどのように捉え、現代の私たちの学びにつなげていくのか。参加者の多くは企業で働く社会人であり、明治時代についての知識や関心の度合いもさまざまです。背景となる歴史や文脈について一定の理解を共有することは必要ですが、大学の講義のように専門家が長時間解説する形式では、この研修の趣旨とは異なります。

そこで議論になったのが、明治という時代をどのように導入するかという点でした。

近代という時代をどう語るか(概論)

明治村は、明治時代の建築や文化を保存する施設ではありますが、いわゆる歴史研究機関ではありません。明治という時代を体系的に講義する専門家がいるわけでもなく、「どのように概論をつくるか」は最初の大きな検討テーマの一つでした。

外部の歴史学者を招くという選択肢もありましたが、今回の研修は、知識を学ぶことよりも、時代を手がかりに自分たちの視点を広げていくことを目的としています。そこで構想作成を依頼したのが、明治村の建築部長であり、建築士としてフィールドワークも担当することになっていた石川さんでした。

石川さんは当時を振り返り、「リベラルアーツは建物の話だけをすればいいのではなく、いろんな分野をブリッジしていく学び。フィールドワークを行う上でも、一度体系的に明治時代を整理してみないといけないと思い、とにかく自分の中でメモを書き出していったんです」と語ります。

建築部長 石川 新太郎さん

こうして、建築を入り口に明治という時代を読み解いていく概論の構成が設計されました。検討を進める中で、明治という時代はそれ単独で理解できるものではなく、江戸から続く社会の変化の中で位置づける必要があることも見えてきました。

そのため概論は、明治だけを切り取るのではなく、江戸から近代、そして現代へとつながる日本の近代化の流れを俯瞰する形で構成されました。時代の流れの中で制度や習慣がどのように生まれ、それに伴って空間や建築が形づくられていったのかという関係性を辿りながら明治を捉えていきます。

こうした構成は、建築を通して歴史を体感できる明治村ならではの導入となりました。最終的には、「日本とは何か」という問いへと視点が広がっていきます。

三好さんの工夫も重なり、近代化概論のレクチャーは、ビジネスパーソンにとっても現代の社会や仕事を見つめ直すきっかけとなる内容に。

学びに楽しさや没入感を生み出す工夫

プログラムの設計にあたっては、学びに楽しさや没入感を生み出す工夫も重視されました。主体的な学びが生まれるためには、参加者が自然とその世界に入り込み、自分ごととして考えられる状態をつくることが重要だからです。

そこで新たに開発したのが、明治時代の出来事や人物、文化、さらには当時の人々の感情などを題材にしたカードワークでした。

参加者同士が絵や言葉、色などの多彩なカードを手に取りながら、「これはどんな出来事だったのか」「この時代に自分が生きていたらどんなことを感じるだろうか」と想像しながら、物語を描いていきます。カードには、明治村で展示されている錦絵も活用し、時代への関心が自然と高まるように工夫されています。

こうして語り合いながら明治という時代の情景を思い描いていくことで、参加者がその時代に少しずつ入り込み、関心を持ってフィールドワークへと向かっていけるような導入が構想されました。知識を教えられるのではなく、対話を通じて時代へのイメージを広げていく。このカードゲームには、そうしたプロセスを通して学びへのレディネスを育んでいくという意図が込められています。

カードを使った演習を通して楽しく明治時代を学ぶ

建築を入り口に時代を読み解く(フィールドワーク)

こうした導入を経て、開発は、プログラムの中心となるフィールドワークへと進みます。明治村には数多くの建築が保存されており、見どころは尽きません。せっかく訪れるのであれば、できるだけ多くの建物を見てもらいたいという思いもありました。しかし議論を重ねる中で、あらためて立ち返ったのは、ツアーではなく、自分自身の価値観を見つめ直す学びの旅であるというこの研修の目的でした。

そう考えると、多くの場所を巡るよりも、一つの建物にじっくり向き合う方が意味があるのではないか。そこで中心となったのが、明治村を象徴する建築の一つでもある、フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテル中央玄関です。

フランク・ロイド・ライトが設計した二代目帝国ホテル(通称ライト館)は単なる建造物ではありません。そこには、近代国家としての日本が世界と向き合いながら新しい社会を築こうとしていた時代の背景が刻まれています。建物が建てられた歴史、そこに関わった人々の思い、そしてその空間が社会に与えた影響。そうした物語に没入しながら建築をと向き合うことで、参加者の視点は自然と広がるのではないかと考えました。

石川さんは、このフィールドワークの意義について次のように語ります。

石川さん:
現代社会では、「立ち止まって考える」機会が少ないと思うんですよね。企業ではマネジメント研修のようなものはいろいろやられていると思いますが、「一つの時代」や「歴史」という視点から入り、それを自分の会社の将来や現実の課題に結びつけて考える機会は、あまりないんじゃないかなと思います。

帝国ホテル中央玄関。建築を手がかりに、日本の近代化とその時代精神を読み解く
(写真:明治村ホームページより)

フィールドワークでは、建物を単に「見る」のではなく、次のような問いを手がかりにしながら歩いていきます。

・この建物は、どんな制度や時代背景とつながっていたのだろうか?
・この建物や空間は、人々の心や価値観にどんな影響を与えていたのか?
・この建物は、私たちにどんなメッセージを語りかけているのか?
・そこにはどんな人々の想いや挑戦があったのか?
・そして、今を生きる私たちはそこから何を学べるのだろうか?

建築、歴史、制度、人間の思い——。そうした多様な視点を行き来しながら、参加者は過去の時代と向き合い、同時に自分自身の価値観や前提を見つめ直していきます。明治という時代を入り口に、自分自身の思考や視点を揺らしながら問い直していく。こうしたプロセスが、この研修で目指した「生成的な学びの経験」でした。

5. ベラルアーツ研修の学びのダイナミズム〜プログラム実施の様子〜

こうして準備を重ね、いよいよ研修がスタートしました。2025年度は、60周年記念事業に協賛いただいた6社から参加者を募り、計7回にわたる研修が行われました。

まだ来村者の少ない朝早く、参加者は正門から会場となる岩倉変電所まで歩いて向かいます。静かな村内を歩きながら、日常の仕事とは少し違う時間が流れ始めます。すでにこの時点から、学びの旅は始まっていました。

会場となる名鉄岩倉変電所は、明治45年、名鉄犬山線の開通にあわせて建てられた施設です。明治村ではこうした歴史的建造物の中で学ぶことができるのも特徴の一つです。参加者の目にも新鮮な驚きが浮かびながら、プログラムはスタートします。

歴史的な建造物の空気を感じながら学びが始まる

冒頭では、所長の湯田さんからこの取り組みに込めた思いが語られます。明治村がなぜ建物を守り続けてきたのか、そしてその価値をこれからどのように社会と共有していきたいのか・・・。

導入のカードゲームや近代化概論も、想像を超える盛り上がりを見せました。明治の多くの変革がわずか十年ほどの短い期間に起きていたことに、あらためて驚く参加者も少なくありません。カードゲームでは、明治の光の部分だけではなく、さまざまな葛藤や試行錯誤があったことにも自然と話が及びます。参加者同士の対話を通じて、明治という時代の複雑さが少しずつ立ち上がっていきました。

ナビゲーターとしてプログラムのファシリテーションを務めたヒューマンバリューの萩森さんは、場づくりの工夫について次のように語ります。

萩森さん:
場づくりの上では、まず自分が学びを楽しむことを大事にしていました。この空間に来るだけで、日常の仕事の枠組みや判断基準から少し解き放たれて、素直な好奇心が湧いてくる。だからこそ、自分自身がフラットな気持ちで場を楽しむ。その姿勢自体がメッセージとして伝わるといいなと思っていました。

実際にやってみると、参加される会社によって雰囲気や反応がまったく違う。それもまた、私にとっては大きな発見でした。

ヒューマンバリュー 萩森 聖香

こうして探求のレディネスが整ったところで、いよいよフィールドワークが始まります。参加者は石川さんのガイドのもと、明治村を象徴する建築の一つである帝国ホテル中央玄関へと向かいます。建物の前に立ち、その独特の佇まいを見上げながら、石川さんの語りに耳を傾けます。

この帝国ホテルが建てられた時、日本はどのような問いや葛藤と向き合っていたのか。なぜフランク・ロイド・ライトに設計が依頼されたのか。ライトはどのような思想とこだわりでこの建築に向き合っていたのか。そこにどんな物語があったのか——。

大谷石、黄色い煉瓦タイル構成された壁面、光の籠柱から木漏れ日となって落ちる柔らかな光。細部に目を向けながら、その一つひとつに込められた意味に耳を傾けていく。単に建築を「見る」のではなく、その背後にある時代や思想、人々の思いに触れていく。そうした時間の中で、参加者の眼差しは少しずつ深まっていきました。

石川さんガイドによるフィールドワークの様子

石川さんの解説は、参加企業の特徴や参加者の関心に合わせて、毎回少しずつ調整されています。

石川さん:
会社によって文化や成り立ちが全然違いますよね。同じ建物でも、どの切り口で話すと響くのかは変わってくる。なので、企業の背景や年齢層を考えながら、話の向きを少しずつ調整していきました。フランク・ロイド・ライトの人生に寄せた方がいいのか、それとも建築の思想に寄せた方がいいのか。そういったことは毎回考えていましたね。

こうしたガイドのもとで建築を巡ることで、参加者の中に、単に建物を見るだけでは得られない、多くの気づきや視点が生まれていきました。

ファシリテーションを担当し、今回明治村とヒューマンバリューのご縁をつなぐきっかけともなった岡田さんは、プログラムについて次のように語ります。

岡田さん:
今回のプログラムの特徴は、五感をフルに使うこと。単に対話するだけ、知識を学ぶだけではなく、その時代に没入していく。カードワークを通じて「もし自分がこの時代に生きていたらどう感じただろう」と想像し、フィールドワークでは実際にその空間を歩きながら空気を感じる。
頭で考えるだけでなく、身体感覚を通して学ぶことが、これからの時代にはますます大切になると思います。明治村というフィールドがあるからこそ、それが可能になっているのだと思います。

ヒューマンバリュー 岡田 陽介

フィールドワークから戻った後は、そこで得た気づきをもとに、参加者それぞれが問いを立てていきます。

・私たちがいま向き合っている社会の変化とは何なのか?
・その中で、私たちはどのような変化を生み出すことができるのか?
・そして、自分自身はどのようにありたいのか・・・?

フィールドワークの体験を噛み砕き、対話を通して自分のものへと昇華させていく

過去の時代に触れることで、現在の前提が揺さぶられ、未来への視点が広がっていく。プログラムの最後には、自分自身の価値観をあらためて見つめ直し、明日からの一歩を宣言する参加者の姿がありました。

「お客様に接する際の目線が変わった」
「余白から着想を生むことを大切にしたい」
「楽しさをもっと周囲に広げていきたい」

自身も設計の仕事をしているという参加者からは、「自分がなぜこの仕事をしているのかをあらためて問い直す機会になった」という声も聞かれました。

「私は何者なのか?」を問いかけ、自由への枠組みを広げていく

こうした学びの場を通じて生まれる価値について、明治村の三好さんは次のように振り返りました。

三好さん:
ある回で、ホテルでサービスの仕事をされている参加者の方が、こんな話をしてくれたんです。ライトがどんな思想を持ち、どんな思いでこの建築に向き合っていたのか。そうした背景を知ることで、「自分の仕事の中でも、もっと違う表現やサービスのあり方が実現できるのではないか」と感じたそうなんですね。

歴史を知ることで、新しい発想や創造につながっていく。まさに温故知新ですが、そうした気づきが生まれる瞬間を目の前で見ることができたのが、とても嬉しかったですね。明治建築を移築して残した明治村で、こうした学びをきっかけに新しい価値が生まれていく。そういう場をつくれることこそ、明治村が社会に提供できる価値の一つなのではないかと思っています。

6. 明治村の存在意義をあらためて問い直す旅

こうした取り組みを通じて見えてきたのは、参加者にとっての学びだけではありませんでした。このリベラルアーツ研修の開発と実施そのものが、明治村にとってもまた、自らの存在意義をあらためて問い直す旅路だったのではないでしょうか。

所長の湯田さんは、この取り組みを振り返りながら、自分自身にとっても大きな学びがあったと語ります。

湯田さん:
この研修を通して、明治時代や近代について自分なりに整理し直すことができたのは、大きな収穫でした。加えて、参加者の皆さんが最後に自分の価値観を言葉にしていく姿を見ながら、自分自身の価値観もあらためて見直すきっかけになったと思います。

今の時代、自分はどんな価値観を持って生きていくのか。これからの社会や、子どもたちが生きる未来に対して、何を大切にしていくのか。そうしたことを考える時間が、自分の中でも増えていきました

参加者に起きていたのは、普段の業務の延長線上ではなかなか得られない視点や気づきでした。建物の中で歴史や背景に触れながら、「では自分たちはどんな会社をつくっていくのか」「これからどんな未来を描くのか」を考える。そうした没入感のある学びの場として、明治村が意味のあるフィールドになりうることを、湯田さん自身も実感していったといいます。

そしてそれは、明治村自身が本来社会に提供すべき価値とは何かを考えることにもつながっていったと、三好さんは語ります。

三好さん:
このプログラムをつくっていく過程そのものが、明治村の価値をあらためて見つめ直し、それを形にしていくプロセスだったように思います。

明治村が本来持っている価値は何なのか。建物を保存して見せることにとどまらず、それを通して何を社会に届けるのか。今回のリベラルアーツ研修は、その一つの答えをかなり具体的に示してくれるコンテンツになったと感じています。

参加者の感想を聞いていても、変化の激しい時代の中で、新しいことに適応しなければならないと焦る一方で、自分たちが本来持っている価値や強みに立ち返る機会は意外に少ない。だからこそ、歴史に触れながら、自分たちの原点を見つめ直すことには大きな意味があるのではないか。そんな手応えを感じました。

今後に向けて明治村では、この取り組みをより多くの人に開いていきたいと語ります。もちろん、運営上のリソースや実施体制には課題があります。しかし、それでもこの研修は、明治村が本来提供すべき価値を非常に具体的に体現しているコンテンツであり、できるだけ多くの人に届けていきたいという思いが強まっているといいます。

公益財団法人として、建物を守るだけでなく、その価値を社会にひらいていくこと。そして、歴史を通して、いまを生きる人々が自らの価値観や未来を問い直す機会をつくること。

今回のリベラルアーツ研修は、その可能性を具体的に示すものとなりました。

2026年2月10日 博物館明治村にて


共創ストーリーズ

#1 問いから始まるチェンジ・マネジメント
〜パーソルキャリアはいかにHiPro Biz事業と組織を変革してきたのか〜

#2 答えがない揺らぎから始まる未来共創の旅
〜GDOが歩んだ10年の変革ストーリー〜

#3 笑顔あふれる未来へと駆け抜ける
〜ランテックは“皆が腹落ちする”パーパス&バリューをどう生み出したのか〜

#4 コミュニティ型人材成長企業を体現する「学びの場づくり」
〜NTTテクノクロスの取り組みより〜

#5 CHINTAIが挑む人事制度の「自分ごと化」
〜制度づくりを文化づくりへ変えていくエンパワーメントの実践〜

#6 人の力を、ものづくりへ
〜技術者の可能性をひらく、ヤマハ発動機の人・組織創りの旅路〜

#7 パーパスを動かす社内コミュニティREBLUC
〜レゾナックの実践から学ぶカルチャー醸成〜

#8 博物館明治村を舞台にしたリベラルアーツ研修の展開
〜歴史を手がかりに、自分たちの価値観と存在意義を問い直す学びの旅路〜


私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。