福島トヨペットが挑む、共創の組織づくり
〜「ちゃんとしなきゃ」を手放して、「私の人生」を共に生きる〜

ヒューマンバリューでは創立40周年を機に、ご縁の深いクライアントのみなさまとの多様な変革の実践を「共創ストーリーズ」として発信し、これから変革に取り組む方々へのヒントをお届けしています。

今回は、福島トヨペット株式会社(I&Iグループ)で組織風土改革を推進してきた佐藤藍子さんの物語を伺います。

同社が創業されたのは、自動車産業の黎明期。福島県のトヨペット店ディーラーとして、今年70周年を迎えます。現在、代表取締役社長を担う藍子さんは、入社以来、同社の組織風土改革に向き合い続けてきました。

近年、自動車を取り巻く環境は激しく変化しています。正解なき時代だから、一人ひとりが主体的に歩んでいく組織へ。しかし、歴史のある企業ほど、組織が変わることは容易ではありません。そこには、長年積み重ねてきた常識や規律があるからです。

管理や指示命令に重きを置いた組織から、自律・共創の組織文化へと転換する。
その容易ではない挑戦に、福島トヨペットと藍子さん*は、どのように取り組んできたのでしょうか。

本インタビューでは、前半に同社が挑戦してきた組織変革の旅路をたどり、後半では、その歩みを進めてきた藍子さんのリーダーシップ探究に迫ります。
対談のお相手は、歩みを共にしてきたヒューマンバリューの川口さんです。

*佐藤藍子さんは、同社で親しみを込め役職名ではなくお名前(藍子さん)で呼ばれており、本記事もそれに倣い、藍子さんと記載。

共創ストーリーズ#9
福島トヨペットが挑む、共創の組織づくり
〜「ちゃんとしなきゃ」を手放して、「私の人生」を共に生きる〜

<目次>
● 時代の変化に向き合う、福島トヨペットの組織変革
 1. 一人ひとりの主体性を解放する組織文化に向かって
 2. ありたい姿へ共に歩む、人事評価制度とキャリア開発へ
● 佐藤藍子さんのリーダーシップ探究 ― 共創を生きる旅へ
● あとがき:共創は、組織の枠をこえて

時代の変化に向き合う、福島トヨペットの組織変革

物語のはじまりは、2014年。藍子さんが福島トヨペットに入社するところから始まります。

若くして故郷の福島を離れていた藍子さんでしたが、当時、社長を務めていた佐藤修朗さんのご病気を機に、福島に戻り、同社に入社します。

入社の前から、実父である修朗さんから何度も聞いていたのは、社員を大切にすることで価値の循環を図る、福島トヨペットの経営理念(3S循環*)でした。

*3S循環:
ES(社員満足)を実現することにより、CS(お客様満足)を高め、DS(企業体満足)を拡大させることで社員に還元されていく。この3S循環の正のサイクルを回し続けていくことを目指している。
(参照元:福島トヨペット ホームページ)

きっと生き生きと活気のある会社なのだろう —— そう思って迎えた入社初日の朝礼でしたが、そこで目にした光景は、なぜか「灰色」に感じられたといいます。

藍子さん:
一人一人はすごくいい人。でも当時は、「型にはまらなきゃ」「はみ出すな」「会社たるもの、こうあるべきだ」っていう同調圧力が強くて、雰囲気はどことなく暗く感じました。
そうした職場では、毎朝「会社に行きたい」って、私は心から思えなかったんです。

佐藤 藍子さん(福島トヨペット株式会社 代表取締役社長)

みんな、今の職場で働くことに本当に満足しているのだろうか。—— その素朴な違和感が、自社の組織文化に向き合う最初のきっかけになります。

その後、 ヒューマンバリューとの出会いもあり、ありたい組織に向けて、変革の旅が始まりました。

1. 一人ひとりの主体性を解放する組織文化に向かって

最初の一歩目は、全社員での「対話」の実験と練習から

変化に向けて、どこから歩みをはじめるのか。—— そもそも何か想いがあっても、当時は立場による序列意識が強く、役職の下の人ほど声のあげづらい状況でした。

その壁を越えるために、最初に取り組んだのが「ReBORNミーティング」です。
変化に向けて、いきなり職場の中に対話を取り入れるのは難しい。そこで、全社員が一同に集い、職場の役職や立場はいったん脇に置いて、対話を通じて自分たちの未来を探究する場を企画しました。

最初のReBORNミーティングの様子(2014年)

しかし当初は、「なぜ、 こんなことをするのか」と⼾惑いや反発が強かったと振り返ります。

藍⼦さん:
率直に⾔って、最初は厳しい反応でしたよね。
定休⽇だった休⽇を潰してしまったことも、⼤きかったかもしれません。

それでも、 デザインチームのメンバーとの検討を重ねて、 共により良い組織をつくる仲間ができた。それは、会社にとっても私にとっても、⼤切な仲間になりました。

この場は、外部の人間や経営・人事が設計するのではなく、現場から集まったメンバーで編成されたデザインチームの想いによって検討していく。

そうして、毎年「ReBORNミーティング」を続けていくことで、 少しずつ対話の⽂化が育まれていく起点になっていきます。

藍⼦さん:
この場は、対話の練習の場と位置付けていて、毎年続けています。
練習は、ずっとするものだから。
今では、1年に 1 度の機会として、⽇常のひとコマのように定着しました。

組織が変わるタイミングや環境変化も激しい中でも、「ReBORNミーティング」だけは、私たちの文化としてぶらさずに継続していこうという想いも強かったですね。

取り組みに伴走してきた川口さんは、「ReBORNミーティング」で行われる対話の意義を、以下のように語ります。

ヒューマンバリュー 川口 大輔

川口さん:
「ReBORNミーティング」は、自分たちの力で福島トヨペットをつくっていく、言わば主体性を解放する練習にもなっているように思います。

経営者や上司に言われたことを従順勤勉にやる方が、楽かもしれません。それでも、意図を持ってそうしない。自分たちで、主体性・創造性・情熱へと働く意識を変えていくプロセス、みんなで課題を乗り越えていくそのプロセスが、とても大切だなと、私自身も腑に落ちた経験になりました。

参考:仕事に関する「能力のピラミッド」

ゲイリー・ハメル氏が示した、働く能力を6段階で整理したモデル。下位(従順・勤勉・知性)は管理で引き出され、上位(主体性・創造性・情熱)は内発的に発揮される。

激しいビジネス環境下において、これからの組織は上位の力をいかに解放するかが鍵となる。

組織を導く、リーダーシップを問い直す —— マネジャーの挑戦

ReBORNミーティングで「対話」の試みが始まった一方、組織の現実は、職場の日常にあります。職場を率いるリーダーたちのマネジメントが変わらなければ、その変化の芽は閉ざされてしまう。—— そこで、店長やサービスマネジャーたちが⾃分たちのリーダーシップについて再考し、探究する挑戦(=リーダシップ・ジャーニー)が始まりました。

参考:リーダシップ・ジャーニーの学習と変容モデル(詳細

オフサイトでの場を通じて、参加者は⾃らの経験や価値観を見つめ、ありたいリーダーシップを探求する。一人一人の個の変容から組織全体への変化を広げる。

元々は「俺の背中を見て育て」という、規律による組織運営が基本だった同社のマネジメント。
この取り組みも、半信半疑の雰囲気の中で始まりましたが、それは「⼿放す」ということへの挑戦だったと、藍⼦さんは振り返ります。

藍子さん:
経験豊富な店長やサービスマネジャーたちが、時代の変化に向き合うことが必要でした。
⾼度成⻑期からバブル経済期まで、 ⾞販売台数が右肩上がりに上がっていく時代を⽣き抜いてきた⽅々です。今の福島トヨペットをつくってきた、その⾃負があります。

リーダーにとって、学ぶというより「⼿放す」ことが⼀番難しいと思うんです。
当時の⾃分には分からなかったけど、徐々に経験を積んできた今になって思います。

それでも、取り組みの節⽬となる発表・共有会で、参加者のマネジャーたちは、 ⾃分たちの店舗づくりとビジョンについて、 熱をこめて語りました。誰かに新たな正解を教わるのではなく、⾃分なりに新たなリーダーシップに挑戦し、自分の⾔葉で語っていく。

リーダーシップ・ジャーニー発表共有会の様子(2017年)

この取り組みで生まれた挑戦への熱量は、形を変えながら、その後の変革の歩みへとつながっていきました。

2. ありたい姿へともに歩む、人事評価制度とキャリア開発へ

組織文化を⾒つめ直す取り組みが進む中で、次に浮かび上がってきた課題が⼈事評価制度への違和感でした。ES 調査でも納得感の低さが⾒えていましたが、 決定的だったのは、ReBORN ミーティングの⼩集団活動*の発表で寄せられた社員の声。

「(評価制度を)もう絶対変えてください」「期待しています」。ポストイットに残されたその⾔葉は、制度を⾒直す必要性を訴える、強い想いが込められていました。

*⼩集団活動: 毎週1時間程度、5名程度の小グループに分かれ、ダイアログ(対話)を行う取り組み。そこで生まれた検討テーマがReBORNミーティングに接続されたり、組織全体の変革の対話へと展開される。

人事評価と人財共育を組み合わせた新制度「I Be(あいべ)」

当時の制度は、売上台数などの数字で評価されるのがほとんどであり、それ以外の要素は曖昧に扱われていました。すると、たとえ会社が目指していることに取り組んでも、すぐに数字に表れないことは、評価に反映されなかったのです。

そうした社員の声も受け、人事評価制度改革への挑戦が始まります。 まずは現場インタビューや検討会を通じて社員の声に耳を傾けながら、実現したい組織文化を見据えて制度をデザインしていきます。

人事評価制度の検討会の様子

藍子さん:
評価の仕方だけでなく、福島トヨペットで働くことの意味を再考する機会になりました。制度の議論で、当時盛んに語られた「ワークライフバランス」という言葉にも違和感があったんです。働くことも全てひっくるめて、ライフじゃないのかなって。

「与えられた仕事だけ、言われた通りにやればいい」みたいな働き方から、自ら望む姿に向けて、主体的に働けるようにするには、どんな制度がいいのか。検討を重ねていきました。

そうして生まれたのが、人事評価と人財共育を組み合わせた、新人事評価制度「人財共育プログラム I Be(あいべ)」* です。社員⼀⼈ひとりが自ら設定した役割を起点に、本人の成長や働きがい向上を目指すサイクルをつくる仕組みへ。

制度の中核にある「I Be(あいべ)サイクル」

*I Be(あいべ):あいべは、会津弁で「一緒に行こう」を意味し、「I(私・自ら)」と「Be(ありたい姿である)」という言葉を重ねている。一人ひとりがありたい姿を目指しながら、みんなで一緒に歩んでいきたい想いが込められている。

上司は「共育パートナー」と位置づけられ、I Beシートを活⽤した対話を通じて、実現したい価値や成⻑について⽇常的に語り合う取り組みも進めていきました。

もっとも、「自らの役割や生み出す価値」を考えること・評価することには、⼾惑う社員の方は多かったようです。制度設計以上に、現場の方々の制度運用こそが真のチャレンジでした。川口さんは、このように振り返ります。

川口さん:
I Be(あいべ)の裏にある思想の一つに、人を多面的に観るという考え方があるように思います。 「これができたか、できなかったか」といったチェックリストでは、人は一面的にしかみえません。しかし本来、人はもっと多様な存在です。その多様性を解放していける人財教育/人事評価を具現化していくことは、決して容易ではなかったと思います。

制度導入後も、運用向上に向けた取り組みを展開し、マネジャー自身の試みから、新たな実践知も生まれています。*「I Be」は、福島トヨペットの社員一人ひとりがありたい姿を目指しながら、みなで一緒に歩んでいく基盤として根付きつつあります。

*I Beトークのしおり:人財共育プログラム「I Be」を形骸化させず、日常的な対話文化を組織に根付かせるために開発した。I Beトーク(1on1)の実施有無について、上司とメンバーの認識のギャップがあったり、業務内容や評価偏重による対話の質低下といった課題があるなかで、誰でも実践できる具体的な対話ガイドをまとめている。I Beトークを年2回の形式的な場ではなく、日々の成長を支える対話へと転換し、組織文化としての定着を図っている。

* 参考記事:サービスマネジャーの実践インタビュー(新たな人事評価制度を活用した、現場でのメンバー育成のリアリティ)

私の人生を共に生きる、キャリア開発支援

そして同社が、いま次なる展開として取り組んでいるのが、社員の「キャリア開発」支援です。
「I Be(あいべ)」の方針と制度を土台に活かしながら、社員一人ひとりの「自分らしいキャリア構築」をサポートしていく取り組みを始めています。

日々の仕事の根底には、一人ひとりの人生がある。そのうえで、社員の人生と会社との関係性を紡ぎ直していきたい。—— 背景には、藍子さんのそうした想いがありました。

藍子さん:
創業当時、創業者である祖父は「社員とその家族を自分が養っていかないといけない。社員を幸せにしないといけない」という想いで経営してきて、会社が大きくなっていきました。
それが今、私の目指す会社なのかというと、少し違うなと思ったんです。

社員の顔を思い浮かべると、一人ひとりにそれぞれの幸せがあって、自分の人生を生きています。誰かから幸せにしてもらうような存在ではありません。一人ひとりの選択があって、そこで福島トヨペットを選んでもらえるように、キャリア開発の取り組みに注力しています。

会社が社員を「幸せにしてあげる」という発想ではなく、社員一人ひとりが自律して会社を選ぶという考え方に立つ。社員一人ひとりの多様性を前提にした、キャリア開発支援を見据えています。

同時に、このキャリア開発施策は、自動車業界の激しい変化に向き合う中で導かれた、企業経営の指針でもあります。

藍子さん:
環境変化が激しい中で、私に未来予測はとてもできません。
車が空を飛ぶ時代が来るかもしれないし、もう全て自動運転になるかもしれません。

未来が分からないからこそ大切だと思うのは、社員みんなが、自分の人生を歩んでいるということ。他人の人生を生きない。「こういう人生を歩みたい。そのために、こういうことがしたい」って、一人ひとりが働くことから新しい価値も生まれていく。私はそう信じています。

正解のない時代だから、福島トヨペットが大切にするのは「私の人生を共に生きる、共創の組織づくり」。その挑戦は、現在も続いています。

キャリア座談会の参加者(集合写真)

佐藤藍子さんのリーダーシップ探究 ― 共創を生きる旅へ

ここまで語っていただいた、福島トヨペットの組織変革の挑戦の物語。
その裏側には、佐藤藍子さん自身のリーダーシップ探究の旅路もありました。

創業家の一員であった藍子さんですが、最初から同社の経営を継ぐことが決まっていたわけではありません。組織風土改革を率いていく中で、結果的に経営のバトンも託されることになります。

当然ながら、経営継承は単なる役割の引き継ぎに留まりません。自分自身は、福島トヨペットの経営をどう担うのか。 —— 経営を継ぐ機運高まる中で、藍子さんは自らのリーダーシップを見つめ直す場を持ちます。

具体的には、川口さんをはじめとするヒューマンバリューのメンバーと継続的に対話を行い、時には越境を通じて自分自身の枠組みを広げ、自らの基軸を探究していきました。*
リーダーシップという正解のない探究において、藍子さんはどのように歩んできたのでしょうか。

*基軸の探究にあたり、ヒューマンバリューも共に探究する仲間として、継続的に対話を重ねている。現在は月に1回の対話の場を持ち、自らの在り方を根付かせる意味を込めて「グラウンディング」と名づけて継続している。

(写真左)ヒューマンバリュー 鬼頭、(中央)ヒューマンバリュー保坂、(右)佐藤藍子さん

自分らしいリーダーシップ探究へ

「ちゃんとしなきゃ」に縛られていた。ありたい姿の揺らぎ

この場(グラウンディング)を一つの契機に、まず自分自身の内面と目的意識をみつめるところから、探究をはじめた藍子さん。対話を進めていく中で、最初に気づいたのは自らの言葉の癖でした。

藍子さん:
対話の中で「ちゃんと」という言葉を、たくさん使っていることに気づいたんです。
それがありたい姿ではないのに、自ら、あるべき型にはまりにいっていました。
経営を継いでいくことへの気負いが、無意識にあったんだと思います。

「ちゃんとしなきゃいけない、あなたは福島トヨペットの娘なんだから。」
10代の頃、周囲のその言葉を忌避するように、故郷を一度離れたと言う藍子さんですが、時を経た今、自らを縛っていたのは自分自身だったと言います。

メンタルモデル*に囚われれば、自分自身のありたい姿を体現できない。この気づきが、藍子さんの探究の出発点となりました。

*メンタルモデル:自分が無意識に前提としている“こうあるべき”という固定観念

「味噌汁をこぼしてもいい」脱境界の出会いによる変容

そうした揺らぎに向き合う途中で、転機をもたらす一つの出会いが訪れます。

参加するPMI研究会*の活動を通じて出会った、山形・鶴岡の「やまのこ保育園」*さんです。
子ども一人ひとりの表現を大切にする保育のあり方が、強く印象に残ったと振り返ります。

藍子さん:
やまのこ保育園では、子どもが味噌汁こぼしてしまうのもオッケー。
「チャレンジしたからすごいよね」って受け止められるんです。

自分は「チャレンジしようよ」って口では言っているのに、深層では「しっかりと、両手で器を持って運ばせなきゃいけない」って、振る舞っていました。「私も味噌汁こぼしたっていいや」って、そういう気持ちになれたんです。

藍子さんらは実際に山形・鶴岡にも赴き、人と人との関わり方にも実際に触れながら、自分の枠組みをほどき、広げていきました。

型にはまらないで、自分らしくチャレンジしていい。日常の枠組みをこえた脱境界の体験*が、望む姿を体現できる実感をもたらしてくれたといいます。

鶴岡へのラーニング・ジャーニーの様子。境界を超えて探究が深まる

*PMI研究会:パフォーマンス・マネジメント革新研究会(ヒューマンバリュー主催)の略称。

*やまのこ保育園:山形県鶴岡市にあり、自然との関わりを大切にし、子どもが主体的に遊び・学ぶ体験を重視する保育園です。日々の生活や外遊びを通じて、感性や探究心を育むことを理念としています。

*脱境界の体験:日常とは異なる世界にふれ、自分の枠組みを捉え直す体験。自分とは異なる価値観や環境に身を置くことで無意識の前提が揺らぎ、枠組みや可能性の広がりを実感する。そのうえで、自分の軸やありたい姿を再定義し、組織や社会との関係性を主体的に編み直していく。

探究から生まれた、「共創」を生きるリーダーシップ

そうした探究を経て、いよいよ2025年に代表取締役社長に就任します。
藍子さんはいま、ご自身としてのリーダーシップを、このように捉えています。

藍子さん:
これまで、組織を強く統率していく経営者の方にも、多く出会ってきました。
でもそれは、私にとって自分らしいとは言えません。
ありたい姿はぶらさずに、仲間のみんなに任せて、一緒に歩んでいきたい。

組織風土改革の旅路がそうであったように、藍子さんの望む姿は、仲間と共に挑戦していく「共創」にあります。そこには、従来的なリーダーシップとは異なる考え方がありました。

― 同化を超えて、多様な個が響き合う場をつくる

「共創」を目指すとき、組織が一つにまとまることがゴールではないと、藍子さんは言います。
むしろ、個人と組織の関係性の「同化」こそ、注意しなければいけないと考えを語りました。

藍子さん:
ReBORNの取り組みから始まった、これまでの12年の取り組みで、組織の雰囲気はよくなってきました。でもそれを成功体験にして、誰も異論を唱えず同じことを繰り返すことには、違和感がありました。また組織が「同化」*してしまうと思うんです。それでは組織に新しい挑戦が生まれません。

*同化:個人が自分らしさを押し殺して、組織のカルチャーに適合している状態(参考:インクルージョンは「同化」とどう違うのか?<学習する組織ショート・コラム第4回>

藍子さんが大切にするのは、一人ひとりの多様な個が保たれながら、関係性の交わる場づくりです。

藍子さん:
私の役割は、組織にある場をならしていくこと。

保坂さんに教えてもらった「卵モデル」*でたとえるように、黄身(=個人)は独立しながら、白身(=組織)は一体となって混ざり合う。私自身もあくまで一人の黄身であり続けて、黄身と白身が生き生きする器を大切に保とうとしています。

*卵モデル(自己の卵モデル)は、生命科学者の清水博氏が提唱。経営学でも「場」の理論として取り入れられている。

多様な個が一つに交わることで、組織に対話や試行錯誤が自然と生まれていく。そうした状態こそが共創と言えます。

「組織は同じ一色にならなくていい。一色一色が混ざらないんだけど、途切れることなく繋がっている虹のようでありたい。」藍子さんは、そのようにも語りました。

共創は「導く」のではなく、「在り方」から育んでいく

そうした共創を育むために、リーダーとして何をすべきなのか。
藍子さんは、あえて自分の判断を保留し、「自分がどう在るか」を常に起点にすると言います。

藍子さん:
私自身は、自分のこだわりを意識的に手放すように注意しています。
過去の自分の経験で決めてしまったら、他のメンバーが新しい一歩を踏み出せなくなるからです。

1番大切にしているのは、自分自身が会社の理念(I&Iブランド)の体現者であること。
互いに助け合い、笑顔でイキイキと仕事に取り組む。
「あの人は何をやっているか、よく分からないけど、I&Iブランドを体現しているよね」って、感じられるような人でありたいと思っています。

生き方に向き合う旅の中で、リーダーシップが宿る

そしてこれらの考えは、あくまで藍子さんが自分自身の生き方に向き合う過程から生まれてきました。藍子さんに伴走してきた川口さんも、リーダーシップのあり方を再認識したと言います。

川口さん:
「一人の生き方が、会社のDNAに影響を与える。」これまで藍子さんとご一緒してきたプロセスは、そうした真理に触れる体験でもありました。

それは、藍子さんが個人として、組織を引っ張ってきたという意味ではありません。
藍子さんの内面に起きている変化が、福島トヨペットで起きる変化になり、個人の生き方が組織のマイクロコズモ(小宇宙)のようになっていました。リーダーシップは、生き方そのものだと体感したんです。

教科書から学ぶのではなく、自分自身の生き方に向き合う。
組織もまた、リーダーの生き方に呼応するように、変化していく。

「何が正解なのかは今も分かっていません。その探究の旅ですよ。」
そう語る藍子さんの、共創を生きる旅は今日も続きます。

あとがき:共創は、組織の枠をこえて

インタビューを終えて最後に、40周年を迎えたヒューマンバリューへ、これからの期待を伺ってみました。すると藍子さんは、

「これからも共に。人生をご一緒に。時々は休んだりすることがあっても、それぞれの人生を歩みながら一緒に進めたらなって思います。」

そのように、私たちにも共に歩む想いを話していただきました。

変化に揺らぎ続ける世界の中で、私たちはどんな組織や社会をつくっていくべきなのか。
福島トヨペットと藍子さんの共創の物語は、一つの灯であるように感じています。

2026年2月6日 福島トヨペット株式会社 本社にて


共創ストーリーズ

#1 問いから始まるチェンジ・マネジメント
〜パーソルキャリアはいかにHiPro Biz事業と組織を変革してきたのか〜

#2 答えがない揺らぎから始まる未来共創の旅
〜GDOが歩んだ10年の変革ストーリー〜

#3 笑顔あふれる未来へと駆け抜ける
〜ランテックは“皆が腹落ちする”パーパス&バリューをどう生み出したのか〜

#4 コミュニティ型人材成長企業を体現する「学びの場づくり」
〜NTTテクノクロスの取り組みより〜

#5 CHINTAIが挑む人事制度の「自分ごと化」
〜制度づくりを文化づくりへ変えていくエンパワーメントの実践〜

#6 人の力を、ものづくりへ
〜技術者の可能性をひらく、ヤマハ発動機の人・組織創りの旅路〜

#7 パーパスを動かす社内コミュニティREBLUC
〜レゾナックの実践から学ぶカルチャー醸成〜

#8 博物館明治村を舞台にしたリベラルアーツ研修の展開
〜歴史を手がかりに、自分たちの価値観と存在意義を問い直す学びの旅路〜

#9 福島トヨペットが挑む、共創の組織づくり
〜「ちゃんとしなきゃ」を手放して、「私の人生」を共に生きる〜


私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。