海外カンファレンス報告

パフォーマンス・マネジメント・カンファレンス2018 参加報告

2018年11月13〜14日の2日間にわたって、Performance Management Conference 2018が米国ニューヨークにて開催されました。近年、従来のパフォーマンス・マネジメントを見直す動きが広がりを見せています。米国企業を中心に始まったこの動きは、日本においても関心が高まっており、外資系・国内系の企業にかかわらず、従来の評価制度やマネジメント、経営のあり方が見直されるようになってきています。ノー・レイティングをはじめとする表面的な制度変更についての議論が落ち着き始めた今、この動きにどんな変化が見られるのか、今後のトレンドを知るために、本カンファレンスに参加してきました。

本レポートでは、カンファレンスの様子や参加者の関心が高かったポイントについて紹介し、これまでのトレンドからどんな変化が生まれてきているのか、そして、これからのパフォーマンス・マネジメント革新では、どんなことが大切になるのかについて、カンファレンスで得られたインサイトをまとめたいと思います。

カンファレンスの概要

Performance Management Conference 2018は、2018年11月13〜14日、米国ニューヨークで開催されました。本カンファレンスは、米国を拠点とするシンクタンク、Conference Boardが主催しており、今回は135名の参加者が集まりました。参加者の多くは企業の人事・経営戦略を担う部署に所属する方々ですが、コンサルタントや研究者の参加者も見られました。

本カンファレンスの構成としては、最初に、米国のコンサルティング・ファームであるPDRI社のElaine Pulakos氏が、現在のパフォーマンス・マネジメントについての概観を紹介し、2日間のカンファレンスが幕を開けました。以降は、規模や業界も様々な12の企業による、自社の取り組みについてのプレゼンテーションが続きました。そして最後に、グループに分かれてまとめの議論を行うワークショップが開催され、この分野で先進的な取り組みを行っているPepsiCo、Google、Pfizerの3社のパフォーマンス・マネジメント担当者が、それぞれファシリテーターを務めました。

見えてきた現在のパフォーマンス・マネジメントのトレンド

ヒューマンバリューでも、2015年ごろから「パフォーマンス・マネジメント革新」研究会を立ち上げるなど、特に力を入れて、このトレンドについて研究を行っています。本カンファレンスでは、研究会の発足当初に議論されていたテーマやトピックから、さらなるトレンドの変化を感じることができました。カンファレンスの文脈をすべて捉えられているわけではありませんが、2日間を通して見えてきたトレンドの変化について、各社のプレゼンテーションの内容を交えながら、以下に紹介します。

1. 制度の議論を越えて…
2. 個人のパフォーマンスから、チームのパフォーマンスへのシフト
3. メンバーのオーナーシップを高める
4. ピア・フィードバックの重要性
5. 一人ひとりの働きがいを高めるサポート

(1)制度の議論を越えて…

まず、カンファレンス全体の雰囲気として、「レイティングを実施しているか」「報酬はどうやって決まるのか」といった、制度や方法論の詳細についての議論が、以前に比べて少なくなってきたような印象を受けました。それに代わって、登壇企業がこれまでの経験から学び取ってきた、取り組みを推進するために重要となるポイントや考え方、推進者としての姿勢を語ることが多かったように思います。参加者においても、ノーレイティングに舵を切った企業は全体の1〜2割程度ということもあり、表層的な正解を知ることを目的としているのではなく、パフォーマンス・マネジメントやチェンジ・マネジメントに関する本質的なインサイトを求めて、カンファレンスに参加している様子がうかがえました。

登壇企業の事例でも、取り入れている制度や導入方法、大切にしたポイントなどは、実に様々でした。レイティングを廃止した企業(Ciscoなど)や継続して使っている企業(MetLifeなど)、基準をシンプルにしたり、変更した企業(BMO Financial Groupなど)、新たに導入した企業(Teradata)もあれば、導入の際にいくつかのフェーズに分けてパイロットを実施した企業(Bristol Myers Squibbなど)や、グローバル全社でロールアウトした企業もあります。こういった違いがある中でも、以下のような、全体として大切にされているポイントがあったように思います。

(2)個人のパフォーマンスから、チームのパフォーマンスへのシフト

カンファレンス全体を通して、これまでのパフォーマンス・マネジメント革新において議論の中心となっていた、グロース・マインドセットやマネジャー・メンバー間のフィードバックを通して「個人のパフォーマンスをどう高めていくか」ということに対して、疑問が投げかけられる場面がありました。現在の組織において、仕事のやり方や環境が変わる中、クロス・ファンクショナルなプロジェクトや、コラボレーションの機会が増えてきたことを踏まえ、今後はより「チームのパフォーマンスをどう高めていくか」という視点にシフトしていくことが大切であると語られていました。

Ciscoでは、2015年に大きくパフォーマンス・マネジメントを変更してから、継続的に改善の取り組みを続けているそうですが、現在注力して取り組んでいることとして、チームのパフォーマンス向上を挙げていました。具体的には、Teamspaceというプラットフォームを立ち上げ、メンバーそれぞれの強みを生かし合って、チームのパフォーマンス向上に取り組めるようなインフラを整えているそうです。Teamspaceでは、マーカス・バッキンガムのStand Out Assessmentをチームで実施して、自分自身やチーム・メンバーの強みを知ることができるようになっており、お互いの強みをどう生かし合うかについて、話し合うことができるようになっています。また、エンゲージメント・パルスサーベイを利用して、簡単なサーベイを定期的に行うことで、チームの現在のコンディションを可視化しています。一方で、これまでと同様に個人のパフォーマンスにも注意を払っており、週1回のチェックイン(マネジャー・メンバー間のコーチング)や、月1回のパフォーマンス・スナップショット(マネジャーが各メンバーのパフォーマンスについて質問に答える)も実施されています。

(3)メンバーのオーナーシップを高める

チームのパフォーマンスを高める上で大切なこととして、チームが生み出すパフォーマンスに対して、マネジャーだけが責任をもつのではなく、メンバー一人ひとりがオーナーシップをもって、チーム全体のパフォーマンスを高めるように働きかけることが挙げられます。

基調講演を行なうPDRI のPulakos 氏

これは、カンファレンス冒頭に講演したPulakos氏が最も強調していたことと重なります。彼女は講演で、フィードバックやコーチングを通してメンバーのパフォーマンスを高め、育成していく役割をマネジャーだけが担っていくことの限界について語りました。現在の変化が激しい環境の中では、チームを超えて仕事を行うことも多く、マネジャーがメンバーの業務すべてを把握し、それに対して適切なフィードバックを行うことは不可能に近いため、チームのメンバー一人ひとりが自チームの状態や生み出しているパフォーマンスを確認し、それぞれがパフォーマンス向上に向けてより踏み込んで対応していく姿勢が求められています。

こうした従業員のオーナーシップを高めるために、金融サービスのBMO Financial Groupでは、「Make It Yours(自分のものにしよう)」という取り組みを行っています。従業員から「自分の価値観に沿った評価軸」を公募し、それらを参考にしながら、従来の5段階から3段階の評価スケール(Exceptional、Accomplished、Improvement Required)に新しく作り変えました。従業員それぞれが自ら考え、定義づけしたものがもとになっているので、受け取る人にとっても、より意味のある評価・フィードバックが行えるようになったそうです。

(4)ピア・フィード・バックの重要性

メンバー一人ひとりが、チームの現状に働きかけ、より高いパフォーマンスを生み出すために、カンファレンスの中で最も注目されていたのが、ピア・フィードバックです。これまでのパフォーマンス・マネジメントに関するカンファレンス等でも、ピア・フィードバックについて言及はありましたが、本カンファレンスではその重要性についてより語られることが多くなってきているように感じました。

プレゼンを行うYork Risk Services のHarris 氏とMcMahan 氏

ピア・フィードバックに力を入れて取り組んでいた登壇会社の1つは、リスク・マネジメントの提案と支援を行っているYork Risk Servicesです。まず、ピア・フィードバックの土台づくりとして、これまでグループ全体で共通の価値観やカルチャーをもっていなかったため、バリュー(CARES:Collaboration、Accountability、Results、Excellence、Standards)を設定することから取り組んだそうです。従業員はこの5つのCARESのそれぞれの観点から、このバリューを体現している人をRecognize(認める・承認する)できるようなプラットフォームとして、社内SNSを開設し、活用を開始しました。メンバー同士のフィードバックを会社として大切にしたいバリューの観点から促進することで、マネジャーのスキルや能力だけに頼り過ぎず、チーム全体としてのパフォーマンスを高める行動を一人ひとりが取れるようになっていくことが大切にされていました。

(5)一人ひとりの働きがいを高めるサポート

こうした中、組織で働く一人ひとりが、自身の日々の業務と所属する組織のミッションや戦略につながりを感じながら、やりがいと情熱をもって働けるようになることが、ますます重要になってきています。

市場調査・分析を行っているNeilsenでは、ゴール(Priorities)とパーパス(Purpose)の掛け合わせからパフォーマンスが生まれると定義し、従業員個人の目的意識や仕事の意義と、ビジネスの目標をつなげる取り組みを行っていました。個人のゴールは、一般的なSMART(Specific、Measurable、Achievable、Related、Time-bound)であるかだけではなく、HEART(Heartfelt、Engaging、Aspirational、Reflective、Team-oriented)であるか、つまり自分にとって心に響くゴールであるかどうかも、同じように大切であるとの話がありました。また、HRが主体となって、従業員全員が自身の体験から目的意識を探求し、ダイアログを行う機会を設けるなど、個人が日々の業務に意義ややりがいを感じながら働けるようになることで、ビジネス・パフォーマンスにつなげています。

まとめ

ここまで、カンファレンスの内容を踏まえて、トレンドの変化を見てきましたが、これまでと変わらず大切にされていたこともあります。たとえば、「One size fits one」の原則を守り、自社に合った取り組みを行うこと、自社の戦略・カルチャーとの整合性を図ること、データやエビデンスを十分に活用すること、HRが現場や経営のパートナーになることなどです。

「One size fits one」に象徴されるように、パフォーマンス・マネジメントの取り組みには正解がなく、各社が取り組みを行いながら、振り返り、学びを得て、自分たちにとってより良いやり方を模索していく姿が、今年のカンファレンスからも感じ取ることができました。全体としては、より従業員一人ひとりが主体となり、個人の情熱やチームのソーシャル・キャピタルをもとに、パフォーマンスをドライブしていく。そしてHRや経営は、ビジネス成果との整合性を図りながら、制度の設計や整備を行うことなどを通じて、それらをサポートしていく役割を果たすことが求められてきているのではないかと思います。こうした流れがどのように発展・変化していくのか、今後も追いかけていきたいと思います。

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