パーパスを動かす社内コミュニティREBLUC
〜レゾナックの実践から学ぶカルチャー醸成〜

ヒューマンバリューでは、創立40周年を機に、ご縁の深いクライアントのみなさまとの多様な変革の実践を「共創ストーリーズ」として発信し、これから変革に取り組もうとする方々へのヒントをお届けしています。
第7弾となる今回は、人的資本経営・パーパス経営の推進で注目を集めるレゾナック(Resonac)が取り組む「REBLUC(Resonac Blue Creators)」のストーリーに耳を傾けます。REBLUCは、一人ひとりが自らの情熱やパーパスを探求し、ありたい姿の実現に向けて挑戦を続ける社内コミュニティです。その実践は、参加者一人ひとりの目的意識や仕事への向き合い方に変化をもたらしながら、結果として企業カルチャーにも静かに、しかし確かな影響を与えてきました。
本記事では、REBLUCを「コミュニティ・オブ・プラクティス(実践の共同体)」として捉え直し、個人の内発的な動機から始まる変化が、いかにカルチャー醸成につながっていくのかをひもといていきます。そこから、パーパスを綺麗事で終わらせず、日々の行動や実践として具現化していくためのポイントを探ります。
お話を伺うのは、カルチャー・人事政策企画部DE&I・人的資本グループでREBLUCの運営に携わる甲田直也さんです。対談のお相手は、REBLUCの立ち上げ時から伴走してきたヒューマンバリューの霜山元さんが務めます。
共創ストーリーズ#7
パーパスを動かす社内コミュニティREBLUC
〜レゾナックの実践から学ぶカルチャー醸成〜
<目次>
1. レゾナックが「人」と「文化」に向き合う理由
2. パーパスを「動かす」ために——REBLUCという社内コミュニティの誕生
3. REBLUCが育んだ、関係性と対話のプロセス
4. 一歩を踏み出すことで育つイニシアチブ
5. REBLUCがもたらした、企業文化への影響
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1. レゾナックが「人」と「文化」に向き合う理由
レゾナックは、半導体材料や自動車部品、機能性化学品など幅広い高付加価値製品を提供する機能性化学メーカーです。2023年1月に「昭和電工」と「昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)」が統合して誕生しました。
社名は「RESONATE(共鳴する)」と「CHEMISTRY(化学)」の「C」を組み合わせた造語で、「化学の力で社会を変える」をパーパスに掲げています。
そして、統合のタイミングで、企業文化の醸成や経営理念の浸透をミッションとして設置されたのが、当時甲田さんが所属していた「カルチャーコミュニケーション部」です(現在は「カルチャー・人事政策企画部 DE&I・人的資本グループ」に所属)。同部署は、もともと人事部内の「カルチャーコミュニケーショングループ」として活動していましたが、レゾナック発足にあたり、部として独立・昇格しました。
企業統合にあたり、カルチャー醸成を重視する企業は少なくありませんが、専門の部署まで設けて継続的に取り組むケースは決して多くはありません。甲田さんは、同部署設立に込めた想いを次のように語ります。
甲田さん:
当時、CEOの高橋が発信していたメッセージにもありましたが、「第二の創業」という位置づけの中で、レゾナックのパーパスとバリューとは何かを、あらためて考える必要がありました。レゾナックとしては、「人」と、そこから生み出される「文化」をとても大事にしています。高橋が外部講演や社内でよく話すことに、「戦略はコモディティ化する」という言葉があります。事業環境や技術、目指す姿といったものは、論理的に考えれば、どうしても似た結論に行き着きやすい。
では、その中で何が強烈な差別化要因になるのかと考えたとき、やはり行き着くのは「人の力」「個の力」だと思っています。高橋自身、これまでさまざまな企業を見てきた中で、そう強く感じてきたのだと思います。
「理念浸透」という言葉だと、知ってもらうだけで終わってしまう感じもありますが、私たちはそこに重きを置くのではなく、パーパスやバリューをいかに自分ごと化し、実践につなげていくかを大切にしています。それをどうデザインし、サポートするかを専門に担う部署が、カルチャーコミュニケーション部です。
この部署を「部」として立ち上げることは、CHROの今井の強い念願でもありました。高橋と今井が同じ問題意識を持ち、「人」や「文化」を経営の中核に据えていく。その意思の表れとして、この組織が位置づけられています。

カルチャー・人事政策企画部DE&I・人的資本グループ
共創人材・文化デザイン シニアスペシャリスト
甲田 直也さん
甲田さん自身は、新部署が立ち上がるタイミングで公募に手を挙げ、カルチャーコミュニケーション部に配属されました。その背景には、研究者としてのキャリアの中で培われた課題意識があったと言います。
甲田さん:
私は材料開発の研究者としてキャリアをスタートしました。前身の昭和電工に入社したのも、無機・有機・金属など、非常に幅広い材料技術と、多様な専門性を持つ人材が集まっている点に魅力を感じたからです。
しかし、研究開発の現場で仕事をする中で、少しずつ違和感も覚えるようになりました。研究では、ちょっとしたつまずきが、他分野の視点を借りれば簡単に解決できる場面も多くあります。それでも実際には、一人で悩み、試行錯誤している人が多い。優秀だから最終的には解決できるけれど、「もっと楽にできるのではないか」と感じていました。
学生時代は、人に聞くことが当たり前でしたが会社では、個々の部署や事業といった枠の中で「聞くこと」が当たり前ではなくなっていく。その状態自体が、ひとつの文化なのではないかと思ったんです。
図書館では自然と静かにするように、会社の中にも無意識の前提が文化として根付いている。もしレゾナックが新しい文化をつくるのであれば、そうした前提を問い直す仕事に関われたら面白い。そう思って、この部署に手を挙げました。
2. パーパスを「動かす」ために——REBLUCという社内コミュニティの誕生
こうしてスタートしたカルチャーコミュニケーション部の歩み。パーパスは、昭和電工と昭和電工マテリアルズが実質的な統合を果たした2022年に策定されましたが、当時はその受け止め方もさまざまでした。強く共感する人がいる一方で、まだ実感を持てない人や、違和感を覚える人も少なくありませんでした。期待と不安が入り混じる、過渡期だったと言えるでしょう。
そうした中、同社ではラウンドテーブルやパーパス探求カフェといった対話の場を重ねながら、パーパスを自分ごととして捉える機会を広げていきました。その結果、社内サーベイにおける理念浸透調査は、当初の34%から2024年には約60%まで上昇。
そして、パーパスやバリューを「理解する」だけでなく、「実践し、行動につなげていく」ための場として立ち上がったのが、今回フォーカスする社内コミュニティ REBLUC(Resonac Blue Creators) です。
REBLUCは、コーポレートカラーである「レゾナックブルー」と「クリエイターズ」を組み合わせた造語です。多様なバックグラウンドを持つ社員が集い、一人ひとりの情熱やパーパスを探求しながら、ありたい姿の実現に向けた挑戦を続けるコミュニティとして誕生しました。2025年までに2期・計66名が参加し、対話を通じた自己探求にとどまらず、部門を越えた事業提案や業務改善、さらには社外との共創活動にも取り組んでいます。

REBLUCキックオフのセッション
甲田さんは、REBLUCの第1期に参加者として加わり、現在は運営にも携わっています。REBLUCに、どのような想いを込めているのでしょうか。
甲田さん:
レゾナックになって、パーパスとバリューが新しく決まり、社内でも大々的に発信されました。ただ、それだけでは正直足りない感覚もありました。社名も変わる、ロゴも変わる、スローガンも変わる。その中で、「レゾナックはどんな会社になるのか」という問いが、まだ十分にみんなの中に腹落ちしていなかったんです。
高橋が一貫して語っていたのが、「共創型化学会社になる」という方向性でした。ただ、それが何を意味するのかは、イメージがつきづらい。化学メーカーは、サプライチェーンの中で誰かと一緒にものづくりをするのは、ある意味当たり前でもあるからです。
そこで大事なのは、「社会をどう変えたいのか」「どんな未来に貢献したいのか」という、一人ひとりの情熱や目的意識が重なり合っているかどうかだと思っています。ただ部品を供給するだけではなく、「この人たちと一緒に、この技術で、どんな社会をつくりたいのか」という思いがあるかどうか。そこに共感や共鳴がなければ、本当の共創にはならない。
だからこそ、共創型化学会社になるためには、一人ひとりが自分自身の目的意識を持っていることが重要なんだと思っています。その土台をつくるために、「意思・目的意識の探求」をREBLUCの中心に据えました。
そして、あえて「コミュニティ」という形にしています。5回、6回のプログラムで完結するものではなくて、ここからが本番だと思っているからです。自分の思いや熱量を何度も確認し、再燃させていく場であり、そこから新しいストーリーが始まる。「研修」と呼んでしまうと、どうしても終わってしまう感じがする。でもREBLUCは、「ここに行けば、刺激し合える仲間がいる」と思える、続いていく関係性をつくる場なんです。

REBLUCの基本モデル
3. REBLUCが育んだ、関係性と対話のプロセス
こうしてスタートしたREBLUCは、合宿形式による集中セッションから始まり、その後は月に1回程度のペースで対話の場を重ねていきました。ただし、コミュニティは制度や場をつくっただけで自然に生まれるものではありません。世の中には社内コミュニティが途中で立ち消えになってしまう例も少なくない中で、REBLUCはどのように育まれていったのでしょうか。
①手挙げと好奇心が生んだ、最初の熱量
REBLUCの取り組みの企画から実施までを伴走的に支援したヒューマンバリューの霜山さんは、立ち上げ当初の参加者の様子を次のように振り返ります。
霜山さん:
限られた情報の中で手を挙げて参加してきた人たちは、やはり好奇心や熱量が高い方が多いと感じました。『これからの会社がどうなってしまうんだろう』という不安もあったとは思いますが、それ以上に、むしろ『これからどうなるんだろう』という関心や期待が強かった印象です。

株式会社ヒューマンバリュー 研究員 霜山 元
当初は、「REBLUCは何をしてくれるのか」という空気も少なからずあったと言います。しかし、探究を重ねる中で、その感覚は少しずつ変化していきました。
霜山さん:
決まったゴールも正解もない。『ここまでやってください』という要求もない。だからこそ、『これは自分たちでつくっていく場なんだ』という感覚が、第1回の集中セッションの終盤には生まれてきたように思います。
強制ではなく、手挙げで集まった好奇心。それが、コミュニティの最初の温度を形づくっていきました。
②本音で語り合える場が、議論を前に進めた
甲田さんが、REBLUCの初期で特に印象に残っている出来事として挙げるのが、第1回セッションでのサステナビリティをめぐるディスカッションです。最高サステナビリティ責任者(CSuO)の松古樹美さん(当時はサステナビリティ部長)をゲストに迎え、レゾナックのサステナビリティのあり方について闊達な議論が交わされました。
甲田さん:
サステナビリティをどう考えるか、というテーマで、場がかなり白熱しました。『大事だよね』という意見もあれば、『コストが増えるだけじゃない?』『単なるお題目ではないか?』という、少し冷めた見方や過激な意見も出てきた。でも、どの意見もリアルで、全部一理あるんですよね。
サステナビリティ、環境、気候変動の抑制については、多分みんな賛成で、アンチな人はあまりいないと思います。それでも、そこに対して批判的に捉え直し、発言し、それを踏まえてさらに考えていくーーそうした議論が、重層的に起きていました。
大きな円の中で何を言っても、ちゃんと受け止めてくれるし、フォローしてくれる。『こういう考え方もあるよね』『でも、こうも考えられるんじゃない?』と、建設的に積み上がっていく感じがありました。
とかく綺麗事になりがちなサステナビリティやパーパスに関することも、ネガティブな側面や、もやもやを含めて、率直にテーブルに上げて議論する。役職や立場によって意見が封じられることもなく、松古さん自身も、一つの意見として場に関わり続ける。そうした姿勢が、「本音で話していい」という安心感や議論のリアリティを高めていきました。

本音で語る関係をつくるきっかけとなったサステナビリティのセッション
③自己開示が生み出した「何でも言える」土台
では、なぜそのような場が成立したのでしょうか。霜山さんは、その背景に「自己開示の積み重ね」があったからではと語ります。
霜山さん:
サステナビリティの議論といった課題の探求に入る前に、コミュニティのスタートとして、まずはパーソナルな背景の共有から始めました。ロジカルな情報だけでなく、お互いにかなりエモーショナルな内容も共有したんです。自分がどんな環境認識を持っているのか、どんな未来を見ているのか。生い立ちや、仕事人生で印象に残っている出来事、さらには『人生の終わりに、どんな景色を見ていたいか』といった問いまで扱いました。

自己のストーリーを語り合う参加者たち
10年後の社会をスケッチブックに描き、自分はどんな世界を実現したいのかを語る。技術や専門性の背景にある「その人自身の願い」や「心のありよう」が共有されていくことで、場の質は大きく変わっていきました。
霜山さん:
だからこそ、『何でも言える』という感覚が生まれたのだと思います。相手が何を大事にしている人なのかが分かっているから、意見が違っても受け止め合える。
手挙げによる好奇心、本音で語れる関係性、そして自己開示の積み重ね。これらが重なり合うことで、REBLUCは単なるプログラムではなく、少しずつ「コミュニティ」としての輪郭を持ちはじめていきました。
4. 一歩を踏み出すことで育つイニシアチブ
コミュニティとしての土台が形づくられていくと、REBLUCでは次第に、参加者一人ひとりが「自分は何に取り組みたいのか」というイニシアチブテーマを掲げ、実践に踏み出していくフェーズへと移っていきました。そこから生まれたテーマは実にさまざまです。事業所でのパーパスの浸透、職場のコミュニケーションアップ、公募の仕組みの改善、さらには宇宙事業への参入といった様々なテーマが挙げられました。

イニシアチブのテーマ出しに取り組む参加者。
関心のあるテーマに人々が集う
甲田さんたちのチームが掲げたのは、「理科実験教室を開こう(サイエンス・コミュニケーター)」というテーマでした。
甲田さん:
私が選んだテーマは「理科実験教室を開こう」でした。レゾナックには理系出身者や研究者が多く、私自身も材料開発をしていた研究者です。一方で世の中では「理系離れ」が進んでいると言われています。科学って本当はすごく面白いのに、実験する機会やきっかけがないまま、テストで点数が取れなくなって「苦手」「嫌い」になってしまう。それはすごくもったいないなと思ったんです。
受験対策ではなく、科学の本質的な面白さを伝えたい。自分たちが好きでやってきたことを、次の世代につなげ、産業基盤をつくりたい。化学の力で社会課題にアプローチできることを若者に伝えたい。そんな思いから、仲間と一緒に「理科実験教室をやろう」と決めました。
REBLUCでは、「共創」を大切な価値観としているため、イニシアチブは必ず仲間と進めていくことが前提になります。完全な役割分担でなくとも、共感する人を巻き込み、関係性の中で動き出していく。その過程自体が、共創の実践でもありました。
甲田さんは、実際にテーマを掲げて取り組む中で、大きな学びがあったと振り返ります。
甲田さん:
このフェーズで強く感じたのは、「意外とできるんだ」という感覚でした。アイデアを出すこと自体は、正直そこまで難しくない。今ならAIでもできる。でも本当に重要なのは、ちょっとでもいいから実践に移すこと。
うまくいったかどうかよりも、「実践したこと」をまず認める。さらに、それを人に伝えようとすると、自然と捉え直しが起きるんですよね。「あ、意外とやれたな」とか、「これくらいなら理解者が集まって動けるんだ」とか。他の人の実践を見て、自分は最初の一歩を大きく設定しすぎていたと気づくこともありました。実践を共有し合い、聞き合い、また次の一歩を考える。その循環が、自信につながっていったと思います。
最初は、あれもこれも考えなきゃ、とタスクや懸念が一気に出てきます。でも「これが決まらないと始まらない」という一点を決めると、それに付随する悩みは一気に消える。理科実験教室も、場所と日時を決めたことで、他のことが自然に決まっていきました。
サポートした霜山さんは、頭で考えるのではなく、実際に動いてみることから得られる学びが変革を推進するリーダーを育む上で何よりも重要だと語ります。
霜山さん:
コミュニティの支援をする上で特に意識していたのは、とにかく一歩踏み出してもらうことです。そして「踏み出しました」で終わらせず、そこから何を学んだのかを共有していく。情報が共有されることで、学びが複利的に広がっていく感覚がありました。理論的には「エフェクチュエーション(※不確実な状況下で成功する起業家に見られる『手持ちの手段(人脈、知識、道具など)を出発点に、未来を予測するのではなく自ら創り上げていく』という思考・行動のロジック)」的なプロセスを辿れるようにしていきました。

こうした実践は、やがてREBLUCの外にも開かれていきます。その象徴的な場となったのが「シェアリング・サミット」でした。各イニシアチブがこれまでの活動を発表し、参加者自身が「来てほしい人」をゲストとして招く。役員も含め約100名が集まり、経営から直接フィードバックを受ける場です。
こうした場を経て、REBLUCは「有志のサークル」ではなく、経営とつながりながら堂々と挑戦できる取り組みとして位置づけられていきました。小さな一歩から始まり、実践を重ね、共有し、仲間を増やしていく。REBLUCのイニシアチブは、まさにそのプロセスそのものを通じて育っていったのです。

シェアリング・サミットの様子
甲田さんたちの取り組みは、従業員の家族向けに実施した理科教室イベントを皮切りに、「夢・化学21 夏休み子ども化学実験ショー2024・25」への出展、半導体をテーマにしたオリジナルのボードゲーム制作、さらには中学・高校での半導体教室の開催へと、次第に活動の幅を広げていきました。
<参考:夢・化学-21 夏休み子ども化学実験ショー2025出展>
問いから始まる小さな一歩が、社会との接点へと広がっていく
そして、もう一つREBLUC発で大きく進化しているのが、宇宙関連材料の取り組みです。月面環境を想定した材料研究や、宇宙線による半導体の誤動作を低減する封止材の検証へと発展し、現在では国際宇宙ステーション(ISS)での評価実験を進める段階にまで至っています。
甲田さんも当初は、「REBLUCメンバーたちで宇宙の材料に取り組むことはまったく想定していなかったと思います。あるいは考えていたかもしれないけれど、実際にここまでやれるとは思っていなかったのではないか。」と振り返り、現在の広がりに驚いていると語ります。
この取り組みも、理科実験教室と同様に、一人ひとりが自分の関心や問題意識を起点に動き出し、動けずに悶々とする時期を乗り越えながら、小さく試し、学びを共有し、次の一歩につなげていくというプロセスをたどってきました。その積み重ねの延長線上に、結果として社会実装に近づく取り組みへと発展していったのです。
理科実験教室も、宇宙関連材料の研究も、出発点にあったのは、「自分たちは、どんな社会に関わりたいのか」「そのために、化学の力で何ができるのか」という問いでした。REBLUCで繰り返されてきた問いと実践が、個人の関心を組織の挑戦へと、少しずつ変換していったと言えるでしょう。

REBLUCから育まれた宇宙事業
<参考:月面での蓄熱・熱利用システムの研究提案がJAXAにより採択~宇宙材料をテーマにした社員の自主活動から創出~>
<参考:国際宇宙ステーションで、開発中の宇宙向け半導体材料の評価を実施>
5. REBLUCがもたらした、企業文化への影響
ここまで2期にわたって取り組まれてきたREBLUC。この動きは、会社全体にどのような影響を与えているのでしょうか。甲田さんは、REBLUCの参加者たちを「ある意味で、社内のインフルエンサーのような存在」だと表現します。
甲田さん:
『こういう取り組みって、やってもいいの?』という感覚が、社内にはすごく強いと思うんです。熱を持ってやりたい人は確かにいるけれど、『次は上司に聞かないといけない』『許可が必要なんじゃないか』『どこまで関われるんだろう』と考えて、結局動けなくなってしまう。そこには、会社の名前を背負うことへの遠慮や、暗黙のルールのようなストッパーが、文化として存在しているんだと思います。
REBLUCを経験したメンバーは、その「蓋」を外して、もう一歩踏み出してしまっている。社内でどう進めればいいのか、会社とどう合意形成すればいいのかも、ある程度わかっている。遊びで勝手にやっているわけではなく、ちゃんと折り合いをつけながら進めている、という感覚があるんです。
そういう姿を見て、『自分たちにもできるのかもしれない』という影響が、少しずつ広がってきている。宇宙の取り組みも応援してくれる人が増えましたし、理科実験教室も最終的には上司の方がすごく協力してくれました。『やってもいいんだ』『自分も何かやってみたい』という空気が、輪のように広がってきていると感じます。
REBLUCは、何かを「直接的に変えた」というよりも、「やってもいい」「動いてもいい」という感覚を、静かに社内に浸透させてきたのかもしれません。
この点について、伴走してきた霜山さんは、その姿を「学習する組織を体現している」と捉えています。
終わりに:人の価値を、引き出し続けるということ
AIが進化し、問いを投げれば、いくつもの解やアイデアが瞬時に返ってくる時代になりました。それでも最後に問われるのは、「その中から、どれを選び、何をやるのか」という一点です。甲田さんは、人の価値について次のように語ります。
甲田さん:
人の価値って、私の中では「エゴでいいんだろうな」と思うんですよね。こだわりとか、思いとか、情熱みたいなところ。AIがいくらアイデアを出してくれても、結局「どれをやるの?」って決めて、実行するのは人間。その選択軸やモチベーションこそが、人の役目なんだと思います。
ただ一方で、単純に自分だけで考えると世界が狭くなってしまいます。ヒューマンバリューさんのシステム思考的な支援も得ながら、REBLUCでは、エゴに閉じない形で、「より大きなシステムの中で自分ってそもそも何者か」と考えることを大事にしてきました。
人の思いやエゴを、押し殺すのではなく、解き放つ。同時に、それを独りよがりにせず、社会や組織と編み直していく。
レゾナックが人と文化に向き合う理由は、その営みの中にこそ、これからの価値創造の源泉があると信じているからなのかもしれません。REBLUCの物語は、まだ途上にあります。問いと実践の往復は、これからも、形を変えながら続いていくでしょう。

2025年11月19日 レゾナック本社オフィスにて
共創ストーリーズ
#1 問いから始まるチェンジ・マネジメント
〜パーソルキャリアはいかにHiPro Biz事業と組織を変革してきたのか〜
#2 答えがない揺らぎから始まる未来共創の旅
〜GDOが歩んだ10年の変革ストーリー〜
#3 笑顔あふれる未来へと駆け抜ける
〜ランテックは“皆が腹落ちする”パーパス&バリューをどう生み出したのか〜
#4 コミュニティ型人材成長企業を体現する「学びの場づくり」
〜NTTテクノクロスの取り組みより〜
#5 CHINTAIが挑む人事制度の「自分ごと化」
〜制度づくりを文化づくりへ変えていくエンパワーメントの実践〜
#6 人の力を、ものづくりへ
〜技術者の可能性をひらく、ヤマハ発動機の人・組織創りの旅路〜
#7 パーパスを動かす社内コミュニティREBLUC
〜レゾナックの実践から学ぶカルチャー醸成〜
#8 博物館明治村を舞台にしたリベラルアーツ研修の展開
〜歴史を手がかりに、自分たちの価値観と存在意義を問い直す学びの旅路〜