システムシンキングカンファレンス

System Thinking in Action 2006

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システムシンキング・イン・アクションについて

システムシンキング・イン・アクションとは、書籍「フィフス・ディシプリン」(”The Fifth Discipline”、邦題:「最強組織の法則」)の著者ピーター・センゲ氏(Peter Senge)が提唱するラーニング・オーガニゼーションやシステムシンキングに関する様々な組織の取り組みや新しい考え方をシェアする場として、1990年よりスタートした国際カンファレンスである。

世界各国の参加者と3日間語り合う

主催は、MITのダニエル・キム教授が創設したペガサス・コミュニケーションズ社である。同カンファレンスには、ラーニング・オーガニゼーションを研究するリサーチャーやコンサルタント、また導入企業の推進者、そして最近では、政府関連やNGOといった団体など多様なバックグラウンドをもつ組織からの人々が、世界中から集結している。その中では、実践例や具体的な効果、問題点などについて先進的な議論が組織の垣根を越えて活発に行われており、世界のラーニング・オーガニゼーションの動向を知るうえで、欠かせないものとなっている。

2006年のカンファレンスは、11月13日~15日の3日間、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市のハイアット・リージェンシー・サンフランシスコにて行われた。今年で16回目を迎える同カンファレンスでは、世界各国からの約530名の参加者が、30を超えるセッションやワークショップに参加した。

ラーニング・オーガニゼーションに関する最新動向を把握するために、2006年も弊社から2名が、システムシンキング・イン・アクションに参加した。本レポートでは、同カンファレンスの概要と具体的に話し合われたテーマについて報告することにする。

カンファレンスの概要

カンファレンスの構成

システムシンキング・イン・アクション2006(Systems Thinking in Action 2006)カンファレンスの構成は以下のとおりであった。

1.キーノートセッション(Keynote Session:基調講演)

・Peter Senge氏:書籍「フィフス・ディシプリン」の著者であり、ラーニング・オーガニゼーションの提唱者

・Eamonn Kelly氏:Global Business Network(GBN)社のCEOであり、書籍”Powerful Times:Rising to the Challenge of Our Uncertain World”の作者

・Roger Saillant氏:Plug Power社のCEO

・Dawna Markova氏:教育家、研究者、組織コンサルタントであり、書籍”I Will Not Die an Unlived Life”の作者

・Rachel Bagby氏:作曲家、教師であり、書籍”Divine Daughters”の作者

・Andy Bryner氏:書籍”An Used Intelligence:Physical Thinking for 21st Century Leadership”の協働著者

・Marlene Seltzer氏:社会に学習機会を提供していくNPOであるJobs for the FutureのCEO

・Donna Rodrigues氏:Jobs for the Futureの副社長

・Gerald Chertavian氏:Year UpのCEO

・Neil Silverston氏:WorkSource PartnersのCEO

2.コンカレント・セッション(Concurrent Session)
システムシンキングやラーニング・オーガニゼーションの考え方を実践・研究している各国の人々により、24のセッションが開催された

3.フォーラム(Forum)
参加学習型であるフォーラムセッションが4つのテーマにて開催された

参加者の概要

今回のカンファレンスの参加者は約530名であり、2005年度とほぼ同数の規模であった。その内訳は、企業、教育団体、政府機関、NGOなど多種多様な組織から構成されていた。企業では、ヒューレット・パッカード、シェル石油、ボーイング、日産(米国)といった会社から参加していた。

参加国数は、17カ国であった。国別では、米国以外の参加国としては、参加者数の多い順で、オランダ(26名)、カナダ(25名)、オーストラリア(8名)、ニュージーランド(7名)、スウェーデン(5名)、日本(3名)、スイス(2名)、シンガポール(2名)と並んでいた。オランダ、オーストラリア、ニュージーランドといった国々からの参加者が多いのは例年通りであった。特にオランダは毎年20名以上が参加し、1つのコミュニティを形成しているといえる。アジアからはシンガポール、フィリピン、日本のみであり、中国、台湾からは参加していなかった。

カンファレンス全体の特徴

Organizational Learningの捉え方の広がり

今回のカンファレンス全体の特徴として、この不確実性の高い未来に向けて、企業、政府、NPO、教育団体などあらゆる組織やコミュニティが、共通して組織変革の必要性に直面しているという認識が深まったことが挙げられる。実際に基調講演やセッション全体を俯瞰したとき、扱われているテーマやアプローチは(たとえば、システムシンキング、自己マスタリー、シナリオ・プランニングなど)、企業、政府、NPO、教育分野を問わず、網羅的かつ普遍的に必要とされる内容が多かった点が印象的であった。
その中でも特に印象的なメッセージとして、ピーター・センゲ氏の基調講演の中であった次の発言が挙げられる。

「自分たちが地球や社会のシステムの構成要素の1つであるという認識のもとで、相互関係性を踏まえたうえでレバレッジを洞察しなければ、本当の意味での未来は描けない。」

ピーター・センゲ氏は、自身の現在の取り組みを、企業だけでなく、教育分野をはじめとした社会システムの変革へのテコ入れとして展開している。このような流れを汲んで、Organizational learningの捉え方もさらなる広がりをみせている。
こうした機運が高まる中、本カンファレンスの参加者の推移としては、10数年前は参加者の約90%を占めていた企業からの参加者が、徐々に少数派になっている傾向がある。

これは、厳しいマーケット環境において、より短期的な売上や利益などの経済指標を優先した対症療法的ボトムラインマネジメントから、企業が抜けきれない構造にあることを暗示しているのかもしれない。基調講演を行ったPlug Power社CEOのRoger Saillant氏は、「ビジネスの世界の人たちが、今日ここに掲げたテーマをより重要視していく必要がある」と企業の参加を呼びかけていた。

全体的な傾向とテーマ・内容

システムシンキング・イン・アクションでは毎年異なるテーマを設けている。2006年度のテーマは「Leading Beyond the Horizon: Strategies for Bringing Tomorrow into Today’s Choices(地平線を越えて:明日を見すえた今日の選択をするための戦略)」であった。

その背景には、急速に高まる社会の不確実性がある。
本カンファレンスのオープニング・セッションは、Global Business Network社のCEOであるEarmonn Kelly氏によって行われ、「世界は今、急速に不確実性や複雑性を増しており、未来から学習することが求められている」という問題提起からスタートした。

昨年度のテーマが「Embracing Interdependence(相互依存を抱擁する)」であり、相互依存する世界をいかに我々が見ることができるかということについて探求を深めたのに続き、今年度は、そうした相互依存が創り出す未来について考えることを主テーマとしておいていた。

そうしたテーマのもと、未来を探求するための様々なアプローチが紹介されていたので、以下に紹介したいと思う。

シナリオ・プランニング

「未来を探求するためのアプローチ」として、今回特に取り上げられていたものに、「シナリオ・プランニング」が挙げられる。
オープニングの基調講演を行ったEarmonn Kelly氏は、シナリオ・プランニングの実践家であり、またConcurrent Sessionでも2つのセッションがシナリオ・プランニングをメインのテーマとして取り扱っていた。以下に、発表されていた2つのアプローチを紹介する。

ラピッド・サイクル・シナリオ・プランニング

1つ目は、Healthy Futures Group社の社長であるPeter O’Donnell氏と、Galvin and Associates社の社長であるJim Galvin氏が、セッション(「Rapid-Cycle Scenario Planning: Creating Sustainable Futures for Nonprofits<ラピッド・サイクル・シナリオ・プランニング:持続可能なNPOの未来を創造する>」)の中で紹介していた「ラピッド・サイクル・シナリオ・プランニング」という考え方である。

その内容は、Uncertainty(不確実性)が高まる中で、実際にNPOの中でシナリオ・プランニングを行った事例をもとにしたものであった。
セッションでは、通常のシナリオ・プランニングのやり方について、膨大な調査が必要であり、時間やコストがかかり、現実的ではないとして、あまり時間と労力をかけることなく、重要なステークホルダーを集めて、手早くシナリオ・プランニングをやってしまおうという「ラピッド・サイクル」の考え方を紹介していた。その中で、以下の6つのステップをたどることが有効と述べていた。

1. Determine your focus(フォーカスを定める)
2. Identify driving forces(ドライビング・フォースを特定する)
3. Surface questions that matter(重要な質問を顕在化させる)
4. Explore plausible scenarios(信頼できるシナリオを探求する)
5. Identify strategies priorities(戦略の優先順位をつける)
6. Develop your action plan(アクションプランを作成する)

これらのステップを通して、特に重要なのは、適切なステークホルダーを巻き込んでインタビューをすることであると述べていた。
セッションに参加した所感としては、プロセスやステップ自体はかなり大雑把で、この方法ではシナリオの探求が浅くなるのではという懸念を感じた。しかし一方で、これだけ社会の不確実性や変化のスピードが高まっている中においては、仮説検証のサイクルを早く回すことが求められ、その意味では、有効かもしれないと感じた。

システムシンキングを活用したシナリオ・プランニング

上記と対照的だったのが、「Dynamic Scenarios: Anticipating the Future of Work(ダイナミック・シナリオ:未来に備える)」のセッションの中で、シナリオ・プランニングとシステムシンキングの専門家チームにより発表されていたアプローチであった。

そこで紹介されたシナリオ・プランニングは、システムシンキングを使って、現状と未来の構造をしっかり探求した上で、シナリオを描いていくというものであった。
システムシンキングの基本である、「出来事」「パターン」「構造」の3つのステップをたどり、重要な変数が高まったり、低くなったりしたときに、構造にどのような事態が起きるのかを描いていくといったものであった。

所感としては、構造をしっかりと把握していくので、描かれたシナリオに対して高い納得感が得られると思われた。
しかし、その反面、シナリオの描き方が、将来起こりうる数々の事態を想定して、それへの対応策を考えていくため、受身的な「未来対応型」のシナリオしか描けないのではという疑問が残った。他の参加者からも、「そのやり方では、有事に対するディフェンシブな戦略しか描けないのではないか?」という声も上がっていた。
この質問に対する明快な答えを聞けなかったので、セッション終了後、プレゼンテーターのマイケル・セールス氏に再度その質問を投げかけてみたところ、「もちろん、自分たちがどんな社会を実現したいかを考えることは重要。ただし、思い込みのシナリオではなく、しっかりと構造を抑える必要がある」とコメントをしていた。

その他の所感として、システム図を描く際に、自分たちが、システムの一部と感じることができるような仕掛けを入れていかないと、戦略を立てる人たちのアウエアネスが少なく、分析的なアプローチになってしまう恐れがあるのではということも、課題として感じられた。

未来を「Image」する力を高める

今回のカンファレンスでは、「未来」を探求する上で、「Image」する力を高めることの重要性も取り上げられていた。
3年連続して、同カンファレンスのファシリテーターを務めるLinda Booth Sweeney氏は、次のように述べていた。

「ダイアログやシナリオ・プランニングなど、未来を見通すための様々な戦略があるが、そうしたことを行う上でも重要なのがImagination。未来のシステムがどうなっているのか?といったことをイメージすることが必要です」。

そして、カンファレンス冒頭では、ペガサス・コミュニケーション社が新しく作成した「Deep Presencing」というタイトルのビデオを全員で鑑賞したが、これは、海辺の波がだんだんとせまってくるようなイメージビデオであった。
本カンファレンスでは、こうしたImage力を高めるための、様々な手法が取り上げられており、本レポートでも以下にその一部を紹介したいと思う。

Artの活用

「Image」力を高めることの重要性を反映してか、今回のカンファレンスでは、アートを変革やリーダーシップ、イノベーションと結びつけようという動きが多く見受けられた。
その一例として、「Vision, Values, and Relationship: Utilizing Visual Maps to Uncover Possibility(ビジョン、バリュー、関係性:可能性を解放するためにビジュアルマップを活用する)」というセッションの中では、これまで数年に渡って、同カンファレンスのグラフィック・レコーダーを務めてきたMichelle M. Boos-Stone氏が、ビジョンやバリューを企業・組織の中で構築し、協働で未来を形づくっていくために、ビジュアルがもつ重要性を唱えていた。また、同セッションの演習の中では、参加者自身もビジュアルを使ってイメージを描くことを体験していた。

ビジュアルマップの作成にあたる参加者たち

Storytelling

ストーリーテリングも昨年以上に大きく取り上げられていた。「Creating Common Desired Futures Through Storytelling(ストーリーテリングを通して望まれる共通の未来を創造する)」のセッションの中で、FirstVoiceの創設者であるRobert Dickman氏は、魅力的なストーリーの要素として、次の5つが挙げられると述べていた。

  ・Passion
  ・Hero
  ・Action
  ・Awareness
  ・Transformation

また、昨年のカンファレンスでは、ワールド・カフェ創始者のアニータ・ブラウン氏が、自身の体験談・ストーリーを語りながら(単に話すのではなく、物語をありありと語っていた)、「自分」と「他人」の垣根を越えるために必要な問いかけを考えるセッションのファシリテートを行っていた。
今年特に印象的だったのは、基調講演を行った、Dawna Markova (教育者), Rachel Bagby (詩人、声楽家)、Andy Bryner(Kinestheticを活用した教育の専門家)のセッションで、Dawna Markova氏のストーリーをベースに、Rachel Bagby氏が、詩と歌でサポートしながら、ファシリテーションを行っていたことである。

まずDawna Markova氏が、聴衆に対して自分自身を解放するための4つ質問(下記参照)を、氏の経験談を踏まえながら、ゆっくりとストーリーテリングで話を進める。このプロセスを通して、自然と素直に自分と向き合い、「Be」を深く探求することにつながる。その後、Rachel Bagby氏はVibralingualと呼ばれる声の振動を傾聴し、相手の言わんとしているコンテクストを理解するコミュニケーションスキルを用い、歌いながら自分のメッセージを届けていた。このVibralingualは5つの要素(下記参照)から構成されている。
この要素を意識しながら声を発することで、表面的な言葉の概念的理解にとらわれることなく、深い相互理解とエンゲージメントにつながる効果が生まれるという。

このセッションの効果を整理すると、ストーリーテリングや詩・歌を巧みに用いながら、習慣化した反応的思考を廃し、自分の心のオープン・スペースを広げ、主体的かつ創造的な思考へとシフトする相互作用の場であったといえる。

<Dawna Markova氏;自分を解放する4つの質問>

1. Attention; What is the Quality and Focus of your attention?
 関心;あなたは何に深い関心を寄せていますか?

2. Imagination;What are the stories you tell yourself? Are they cures or blessing?
 想像;あなた自身に話すあなたのストーリーは何ですか? それはあなたを癒し、喜びをもたらしますか?

3. Inspiration;Who stands behind you? Who stand in front of you? How does life touch you?
 インスピレーション;あなたの後ろには誰がいますか? あなたの目の前には誰がいますか? 人生はあなたの心をどのように動かしますか?

4. Aspiration; What is the possible future you are calling? How is the world calling your name?
 願望;あなたに語りかけている可能性のある未来はどんなものですか? 世界はあなたの名前をどんなふうに呼んでいますか?

<Rachel Bagby氏;Vibralingualの5つの要素>

1. Breath;呼吸をする
2. Intention;意図
3. Tone;声のトーン
4. Rhythm;リズム
5. Repetiton;復唱

また、今年取り上げられていたストーリーテリングの1つの形として、Rhyme(詩)が挙げられる。初日の夜は、Berkana Exchangeと呼ばれるNPOがイベントを行った。
このNPOは、世界各国のコミュニティ・ビルディングとネットワーキング、そして、コミュニティのリーダーを育成するラーニング・センターの運営を主に行う組織で、マーガレット・ホイットニー氏や、元ハーレー・ダビッドソンのリチャード・ティアリンク氏などがバックアップを行っている。

このNPOが主催するチャリティ・イベントにカンファレンス参加者も招待された。
内容は、「Rhyming for a reason – An evening of song, celebration and powerful poetry」というタイトルのもと、音楽コンサートというよりはむしろ、パフォーマーたちが、ヒップ・ホップのリズムに合わせて、ひたすらRhymeを語るというものであった。内容の多くは、英語を母国語としない参加者にとっては理解するのが難しいものであったが、Ryhmeを語る人々のパワーには圧倒され、感動を覚える場面も少なくなかった。

Future Search

未来をイメージするアプローチとして、今年は、Future Searchのセッションが開催され、注目を集めていた。
Future Searchとは、多様な利害関係者の多くを一堂に会して開かれるラージスケール型セッションであり、過去・現在・未来と一連の流れを踏まえながら、相互作用に基づいたビジョン構築とアクションプラン策定を行うプロセスである。

このアプローチは6つの原理から構成されている。

1. ホールシステム・・・多様な知見をもった利害関係者が一堂に会する
2. ダイアログ・・・オープンにお互いを受容し、探求する
3. 全体観の発想・・・俯瞰し相互関係を踏まえ、思考する
4. 未来と共通前提の維持・・・ポジティブ・アプローチで行動する。
5. 自己組織化・・・自律性と主体性を引き出す場をつくる
6. マルチプルラーニング・・・左脳と右脳を統合したホールブレインで思考する。
→例)スキットやグラフィックアートで表現。


具体的には、本セッションは参加型のワークショップ形式で行われた。
会場にはPersonal Event、Global Event、Organizational learningの3つのテーマごとに出来事が書かれていない大きな年表が壁に貼られており、会場に入室した参加者は、順次3つのテーマごとに1990年から今日まで自分が重要だと認識している具体的な出来事を数件ずつ記入する形でスタートした。

記入が終了すると、次は6-7名の小グループに分かれ、各年表の出来事を俯瞰しながら、特徴やパターンの傾向をレビューし、全体共有を行った。
これは、Future Searchの最初のステップである過去の探求によるバックグランドの共有化をねらいとしたものである。
効果としては、グループメンバーの過去に対する志向性や価値観などの相互認識が深まり、共通の方向性が見出せたという点がある。なぜ現在があるのかということを過去からの連綿としたつながりの探求を通して、共通コンテクストの迅速な理解ができることからもアプローチとしての効果性は高いといえる。

実際にはセッションは、下記のとおり3日間で実施されることが多いようであるが、AIやOSTと組み合わせながら実施することも多いとのことである。
これらの「ホールシステム」の特徴をもつアプローチは組み合わせて使用したりするなど相互に影響し合っている。ワールド・カフェの中でもAIの質問を取り入れたケースもあるようである。

<Future Seachのセッション主要構成>
1日目午後:過去の探求と共有
2日目午前:現在の探求と共有
3日目午後:未来の探求とビジョン構築
4日目午前:アクションプランの作成

自己マスタリーの重要性の高まり

今回のカンファレンスの中では、「自己マスタリー」という言葉こそ使われていなかったものの、個人の内的なスペースを広げたり、自分の内にあるソースにアクセスしたりすることで個人を変革していくことの重要性も大きく取り上げられていた。
最初のキーワードとして、Inward Spaciousnessが挙げられる。今年のセッションは、次の2つのクエスチョンからダイアログが始まった。

How do you (and how might you) create opportunities for inward spaciousness?
(内的なスペースを広げるための機会をいかにして創り出すことができますか?)

Is there a connection for you between greater inner presence and you ability to lead?
(偉大なる内的な存在と、導く能力の間にはつながりがありますか?)

Inward Spaciousness(内的な広大さ)というのは、「オープン・スペース」に近いと考えられる。
未来をイメージし、リードする上で、自己の中のスペースを広げるといったことが、話し合いの根底にあったように感じられた。

直接は関係ないかもしれないが、基調講演を行ったPlug Power社のRoger Saillant氏も、「Expand Our Capacity to Personalize(自分ごととして捉える能力を広げる)」ことの重要性を訴え、未来の世代のことをいかに自分ごととして、捉えることができるかといったことを述べていた。
Plug Power社は、水素燃料を最初に商業化した会社の1つであり、Valueに根ざした組織を作ることを徹底的に実践しており、素晴らしいなと感じた。大事にしていることとして、次の4点を挙げていた。

1. Tell the truth(真実を告げる)
2. Build Community(コミュニティを構築する)
3. Create learning environment(学習環境を創造する)
4. Co-create an inspirational vision(刺激的なビジョンを協働で創造する)

また、別のセッションでは、日産自動車の社内コンサルタントを務めるTracy Huston氏が行った「Uncovering the Will to Create the Future We Want: The “U-Process” in Practice an Nissan(我々が望む未来を創る意志を解放する:日産自動車におけるUプロセス実践)」が、興味深かった。

同氏は、日産自動車のグローバルにおけるエグゼクティブ・ディベロプメント・プログラムの構築をデザインするにあたって、SoL(Society for Organizational Learning)と協力し、U-Processを取り入れたプログラムを作り、実践した。
セッションの中では、その一部を体験形式で紹介していた。エグゼクティブ用のプログラムであるにも関わらず、プログラムの最初はMeditation(瞑想)をすることから始まるなど、自身の内的スペースを広げるといったことに真剣に取り組んでいる様子がうかがえた。

また、別の言葉では、上記で紹介したDawna Markova氏も、自分自身のソースにアクセスすることが、 Interconnectednessの始まりであると述べていた。

自分自身の解放が、他者に対する感度を高め、結果として他者の制約を解除するアクションへ自然とつながるとのことである。

Interconnectednessに似た視点として、ピーター・センゲはIntegrityの重要性を伝えていた。The future appears to be alien to usを掲げ、我々が行ったことのない未来に対して、これから自信をもって踏み出すために、もはや地球上にある情報、アイデア、人々の連携したムーブメントに基づき、平和や安全、そして結果としてのサステナビリティ(持続可能性)を創り上げていく必要があると述べていた。
そのためには我々は自分の考え方に疑問を投げかけ、他者の考え方に耳を傾けることが重要であり、自分の枠組みをいかに変えることができるかが、未来への成長の鍵であると、センゲは指摘していた。

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

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