株式会社ヒューマンバリュー
取締役主任研究員 川口 大輔
2024年3月、組織開発の大家であるハリソン・オーエン氏がご逝去されました。オーエン氏は、対話型組織開発の代表的な方法論の1つである「オープン・スペース・テクノロジー(OST)」の創始者として知られています。
OSTは、数人から数千人までの人々が自己組織化して、複雑な課題解決に取り組むことを可能にするラージスケール・ミーティングの手法として、世界各国で活用され、組織・コミュニティ開発の領域において大きなインパクトを生み出しています。
ヒューマンバリューもオーエン氏との交流からたくさんのことを学ばせていただきました。今から20年ほど前、ワシントン郊外のポトマックにあるご自宅にお伺いし、対話を重ねたこと、そして日本に氏を招聘し、日本の実践家の皆さまと学びを深めたことが昨日のように思い返されます。
オーエン氏が亡くなった今、OSTとは何であったのかをあらためて自問しています。オーエン氏が晩年に書かれた著作を読むと、氏がOSTを一時的なイベントやミーティングの手法に限定するのではなく、日常の習慣やリーダーシップを解放するスピリットとして、その可能性を広げることを模索されていたことが伝わってきます。
そしてそれは、今私たちがまさに目指しているものと言えるかもしれません。
近年では、激しい変化に対応すべく、従来の中央集権型・計画統制型の組織構造から脱却し、自律分散・自己組織化型への変革が組織や社会に求められており、ティール組織、ホラクラシー、アジャイルなど様々な哲学・思想・手法の試みが進んでいます。
しかし、その一方で変革は簡単なものではありません。働く一人ひとりが管理・統制のマネジメントやビジネスのやり方にあまりにも慣れすぎてしまって、自己組織化がどんなものなのかのイメージが想像できず、新しいやり方を導入しても揺り戻しが起こってしまうということも多いようです。
そうした世界観の違いを乗り越えていくためには、まず私たち自身が自己組織化とはどのように起こるのかを当事者となって体感していくことが不可欠です。OST自体は複雑な問題を集合的に解決するための方法論ですが、そこから転じて、今の時代に必要な自己組織化の振る舞いを学ぶラーニング・フィールドともなり得る可能性があります。
そこで、組織開発のあり方を再考する連載である本稿の第4回は、OSTに今一度焦点を当てます。OSTが生まれた起源に立ち返り、その原理原則の価値を再考しながら、OSTの体験が、自律分散型の組織文化や社会づくりにどのように貢献していくのかを探っていきたいと思います。