インサイトレポート

社員サーベイはなぜ組織の変革につながらないのか?<第3回>:変革の仮説を生成する「対話型のサーベイ活用」の実践事例

本コラムの連載では、企業が陥りがちな「社員サーベイが組織変革につながらない」という悩みや要因、背景を整理し、サーベイを「診断」ではなく「対話の素材」として捉え直すことで、自律的な変革の考え方やポイント、重要性をお伝えしてきました。

最終回となる今回は、この「対話型のサーベイ活用」に現場でどう取り組むのか、実際のプロセスと事例を紹介します。第1回・第2回で触れた「ありたい姿の共有」や「構造的な把握」、「当事者意識を育む」といった概念が、実際の現場でどのように具体的なアクションとして実践されるのか、イメージを膨らませながらをご覧ください。

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現場でサーベイを「変革の種」に変える実践プロセス

多くの企業では、サーベイ結果を各組織に「共有」するところまでは行っています。しかし、サーベイを現場の自律的な変革につなげていくためには、結果を単に共有して、改善を求めるだけでは不十分です。なぜなら、単に共有するだけでは、現場はそれを「成績表」のように受け取ってしまいがちだからです。

すると、現場は「平均点より低いから、何か対策を立てなければ」といった義務感や、数値を改善するための対症療法的な施策に終始してしまい、「自律的な組織への変革」には至りません。

サーベイ結果を現場のエネルギーに変え、当事者意識を育むためには、「その数字が自分たちにとってどんな意味を持つのか」を、現場の人たちが自分たちで読み解くプロセスが不可欠です。だからこそ、サーベイを単なる「診断結果」ではなく、自分たちの組織の実態を探求するための「対話の素材」として活用することが重要になるのです。

具体的には、「①ありたい姿を共に描く(共有ビジョン)」「②組織を構造的に把握する」「③自らアクションを生成する」というプロセスを辿ります。こうしたプロセスを経て、組織にどのような変化が生まれるのか。2つの事例から見ていきます。

事例1:大手製造業 〜「ありたい姿」から変革のレバレッジを見出す〜

ある大手製造業では市場環境の変化を受けて、従来の「管理型」から、個々が主体的に動く「自律・創発型」の組織への転換が急務となっていました。

その実現に向けて、働く一人ひとりの主体性を高める人事制度の見直しが進められていました。しかし、制度を変えるだけでは現場の行動は変わらない——そうした認識から、同社では現場の実態を捉え、変革を自分たちのものとして捉えるための起点として、人と組織が成果を生み出す構造を把握するパフォーマン・スマネジメント・サーベイを活用することにしました。

その中でも特に新しい人事制度をトップダウンで押し付けては、実現したい「自律」という状態とは矛盾してしまいます。そうした状況で、「また人事から新しいルールが降りてきた」と受け身的な反応を招かず、いかに現場の納得感を醸成するかが大きな課題でした。

「ありたい姿」を複数の視点で描く

そこで、この組織では、人事制度の導入やサーベイ結果のフィードバックに先立ち、まず「なぜ制度を変えるのか」という背景や「自分たちはどんな組織になりたいか」を職場ごとに語り合う対話の場を設けました。共有ビジョンを描くことを起点としたのです。対話の場では、漠然と話し合うのではなく、「自分自身」「組織」「会社全体」という複数の視点から、一人ひとりが手元で書き出す時間を設けることがポイントになりました。

書き出した視点を組織の中でお互いに共有し合うことで、現場の一人ひとりが目指したい状態をありありとイメージできるようになります。そうすると、その理想を実現するために「組織のパフォーマンスを高めるにはどのような変化が必要か」を自ら探求しようとする動きが自ずと生まれていきます。このプロセスを経て初めて、サーベイ結果と向き合う真の意味が生まれるのです。こうして、「ありたい姿」を軸にしながら、サーベイ結果の数値の背後にある要因を捉えるために、組織の構造を探求していく土台が整っていきました。

「問いの質」を高め、レバレッジを探求する

この構造を探求していくうえで重要になるのが、データの数値そのものに反応して対策を打つのではなく、「問いの質」を高めて対話を深めることです。同社では、サーベイ結果の相関や傾向からいくつかの示唆を得たうえで、以下のような問いをメンバーに投げかけながら、データの背後にある構造を探求していきました。

  • 上司と部下の関係性で、意外だったことや発見したことは何か?
  • この結果の背景には、目標設定や評価の仕組みがどのように影響しているだろうか?
  • 社員の情熱が育まれるための『レバレッジ(急所)』はなんだろうか?

こうした問いを立てて対話を重ねた結果、彼らは「人事制度への不満」という表面的な数値の裏に、「挑戦を奨励し合える関係性の構築」という真の課題があるという仮説に辿り着きました。

制度という仕組みではなく、関係性という「変革の種」にフォーカスしたことで、現場が納得感を持って動ける土壌が整ったのです。こうしたプロセスを経ることで、組織の人たちが「制度改定」を自分ごととして受け止め、実践への確かな一歩を踏み出していきました。

事例2:大手サービス業 〜「小さな実験」が現場の空気を変える〜

ある大手サービス業では、組織課題を可視化すべくサーベイを導入したものの、現場マネジャーたちは低いスコアを「修正すべき課題」として反応的に捉えてしまっていました。結果として「他より低い項目をどう改善するか」「他組織と比較して悪いところを良くする」という対症療法的な思考に陥り、現場の実態とかけ離れた施策を打ってしまう恐れがありました。

変革の分岐点は、マネジャーがスコアを「成績表」ではなく対話の「素材」と定義し直したことでした。具体的には、本部レベルの組織のマネジャーたちが集まり、サーベイ結果を共有する前に、本部レベルのマネジャー間で『サーベイ結果への向き合い方』を対話し、スコアに反応的に対策を講じるのではなく、背景にある要因や構造を探求していくというスタンスの共通認識を形成しました。このスタンスをぶらさないことが、実は見落とされがちな重要なポイントです。

そして、その後に実施したデータの読み込みでは、数名のグループごとに分かれ、結果をもとに問いを立てながら対話を重ねていきました。

マネジャーが一人で数字を抱え込んで分析するのをやめ、マネジメント層が集まって、例えば「なぜ私たちのチームは『挑戦』のスコアが低いのに、総合的な『満足度』は高いのか?」といったインサイトを生み出すための問いを共有するプロセスを導入したのです。

それぞれのマネジャーの見えている視点を共有しながら、数字の背後に起きていることや違和感を語り合うことで、これまでにはなかった気づきがたくさん生まれてきました。こうした「気づき」を生むことが当事者意識や自発的なアクションに繋げる上で大切と言えます。

壮大な計画よりも「小さな実験」を

その上で、マネジャー自身や組織として取り組めそうなアクションを出し合いました。

ここで大切にしたのが、「小さな実験」を生み出すことです。

現場は日々の業務で忙しく、重たいアクションプランは実行されずに立ち消えになりがちです。また、対話で見つけ出した真の課題もあくまで「仮説」に過ぎません。だからこそ、いきなり大掛かりに動くよりも、「挨拶の仕方を変えてみる」「定例会議のアジェンダを少し変えてみる」といった、明日からの小さな一歩を試してみることにしたのです。

また、あるマネジャーは、サーベイの結果をメンバーにも共有し、「対話の素材」としました。そうすることで、メンバーと一緒に組織をよりよくするアイデアが生まれていきました。「マネジャーだけで抱え込んでいた結果をメンバーに共有してみる」という一つの小さな実験から対話が生まれ、チーム全員で組織を良くしていこうという機運へと繋がっていきました。組織の問題をマネジャー一人に背負わせないことも、大事なポイントの一つです。

実験の後は「振り返り」で学びを次につなぐ

小さな実験と同じくらい重要なのが、それを「やりっぱなし」にせずに振り返ることです。この事例では、サーベイ結果の共有とアクション創造の対話を経た2ヶ月後に、マネジメント同士での振り返りの時間をとりました。

例えば、あるマネジャーは『メンバーとの1on1の時間をとる』という実験を試みましたが、業務に追われて十分な時間をとれませんでした。しかし、振り返りの場でそのことを包み隠さずオープンに共有し『なぜ確保できなかったか、どうすれば時間を確保できるか』を話し合ったことで、「定期的な予定を先に確保しておく」という新たな工夫を生み出すことができました。

たとえ期待通りの成果や変化が生み出せなくても、「うまくいかないことが分かったのも一つの発見だ」とポジティブに受け止め、次につなげていく。この「小さな実験と振り返り」のサイクルこそが、現場の当事者意識を育むのです。

今回ご紹介した2つの事例はあくまで一つのヒントです。みなさんの組織では、サーベイをどのように活かしていきますか。自分たちの状況に引き寄せながら、取り組みを考えてみていただければと思います。


おわりに:サーベイを変革の種にする

全3回にわたり、社員サーベイを組織変革につなげるための考え方や実践の手法をお伝えしてきました。

サーベイは、年に一度の「診断・評価」で終わらせてはもったいないツールです 。スコアに囚われて実現したい状態を見失うのではなく、それを「対話の素材」として使い、自分たちの組織を自分たちで探求し、小さく変えていく。このプロセスこそが、自律的に変化し続ける組織をつくる基盤となります。

明日から、みなさんの組織やチームで小さな対話から始めてみませんか。その一歩が、組織を変える大きなうねりへと育っていくはずです。探究心と楽しむような気持ちを持って、「自分たちの組織は自分たちで良くする」という状態が実現されることを切に願います。


社員サーベイはなぜ組織の変革につながらないのか?

<第1回>組織変革にサーベイ結果を活かしきれない理由
<第2回>組織を探求し、自律的な変革を促す「対話型のサーベイ活用」の取り組み
<第3回>変革の仮説を生成する「対話型のサーベイ活用」の実践事例

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