キーワード

対話型組織開発

近年、日本において「組織開発」への注目が高まっています。現場からは「これからは人材開発ではなくて組織開発が重要だ」という声がよく聞かれます。組織開発にも様々なアプローチがありますが、大きく「診断型組織開発」(Diagnostic Organization Development)と「対話型組織開発」(Dialogic Organization Development)という2つのアプローチで整理されることが多くあります。

診断型組織開発(Diagnostic Organization Development)とは

診断型組織開発は、文字どおり「診断」に重きを置いています。このアプローチでは、組織を、ミッション、戦略、構造、リーダーシップ、カルチャーなどの構成要素から成るものとして捉えます。そして、専門家によって組織の現状が分析・診断され、あるべき状態・ゴールを実現するために、どの要素が問題になっているかが明らかにされ、その解決に向けた効果的な介入手段や計画が立てられます。

たとえば、企業において従業員満足度調査などが実施され、人事部を中心とした専門家チームが分析を行い、満足度を高めるための施策を実行していくといった取り組みなども、こうしたアプローチに入るといえるでしょう。

こうした診断型組織開発は、論理的・合理的に感じられ、経営層を説得しやすいものです。しかし、変革をやらせる側とやらされる側に分断してしまい、対象となる組織のメンバーの受け身的な姿勢を生み出してしまったり、施策が現場の状況と不適合を起こすなど、期待する成果につながらないことも見受けられます。

対話型組織開発(Dialogic Organization Development)とは

一方、対話型組織開発は、「対話」を通して、自分たちで変化を「生成」していくことを重視します。あらかじめ決められた計画に沿って変革が進められるのではなく、人々がお互いの背景や想い、物語を理解し合い、皆でありたい姿を共有し、自分たちが始められる主体的な取り組みを生み出していきます。

生み出された解決策のクオリティ以上に、対話のプロセスを通して、人々の間で語られる物語や意味づけ、会話の質が変わり、新しい思考や行動の様式が生み出され、そこから自己組織化的に変革が進むことを大切にしています。

対話型組織機開発のアプローチでは、やらせる側・やらされる側という垣根が取り払われるとともに、人々の内側にある想いから取り組みが生まれてくるので、エネルギーやモチベーションが高まり、変革が継続しやすくなります。

最初に生まれたアイデアは小さなものであっても、人々が本気になって取り組むことで、仮説検証や学習が促進され、取り組みが進化し、気がつくと最初の想定を超えた大きな変化につながることも多くあります。組織文化等の権威であるエドガー・シャイン氏は、不確実性、複雑性、多様性が高まる現在や未来においては、対話型組織開発のアプローチがより重視されると述べています。

対話型組織開発がもたらす価値

対話型組織開発の可能性について、これまでの取り組みを例に挙げて紹介します。
あるクライアントでは、若手のモチベーションの向上や活性化が課題となっていました。この問題の解決に向けて、人事部のメンバーはまず若手の実態の理解を深め、問題点を明らかにし、そこから必要な施策を打ち出すために、若手社員を対象としたインタビューを実施しようとしました。ヒューマンバリューはそのインタビューの企画とデザインをお手伝いすることになりました。

人事部のメンバーも、企画を始めたときは、「診断型」の組織開発のイメージを念頭に置いていたと思われます。しかし、せっかく時間をかけてインタビューをするのだから、ただ問題を聞き出すだけではなく、若手がどんな想いや体験をもっているのか、未来にどんなことを実現していきたいのかといったことも尋ねることにしました。そこで、対話型組織開発の代表的なアプローチの1つであるAI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)の手法を取り入れながら、丁寧に質問をデザインしたり、インタビュー・トレーニングを実施し、対話が促されるようにしました。

そうしたプロセスを経て、若手150名に対して、人事部メンバーがインタビューを行ったのですが、スタート時には、やや懐疑的だったり、何を聴かれるのか不安げだった若手が、丁寧に話に耳を傾けるうちに、どんどん自分の想いや体験を語り始め、気がつくと予定のインタビュー時間が大幅にオーバーすることも多かったようです。

若手からは、「こんなに丁寧に時間をかけて自分の話を聴いてもらえたのは初めてだった」「自分の想いを語っているうちに勇気が湧いてきた」といった感想が聴かれ、インタビューが終わったときには、皆、ポジティブで活気に満ちた状態になっていたそうです。
90分間のインタビューを通して、相手が大きく変化する様に、インタビューを実施した人も驚かれたようです。また、インタビューを受けた人が職場に戻った後、その変化を実感したマネジャーから「他のメンバーにもインタビューをしてほしい」というリクエストが相次いだり、そこからより規模を拡大した対話の場が生まれるなど、組織的な広がりにつながっていきました。

加えて、印象的だったのは、人事部メンバーも、若手の想いにじかに触れることを通して、あらためてこの人たちの成長を支援していきたいという新たな使命感が生まれるなど、インタビューを実施した側も大きな影響を受けていたことでした。そして、意識や使命感が高まった人事部と現場が協働して、これまでにはなかった新たな取り組みが創発されていきました。

当初は問題の原因を「診断」するために始められたインタビューでしたが、結果的にインタビューによる「対話」そのものが、人々の関係性を変え、意識を高め、変革を促進することにつながったように思います。こうしたところに診断型と対話型のアプローチの本質的な違いや意味が見受けられると思われます。

人事や人材開発に携わる人々は、さまざまなサーベイやアンケート調査、ヒアリングなどを通して組織を診断する機会が多くあると思われます。科学的なデータに基づいた診断や分析ももちろん大切ですが、それだけでは、組織の自律的な変革に寄与することは難しいといえます。今後の組織開発の在り方は、現場の参画や協働を促しながら、対話を通して、価値を生み出す場をいかに創っていけるかが重要になるのではないでしょうか。

関連するイベント・セミナー

イベント
セミナー

自分に立ち戻り、組織にエンゲージする脱境界の体験プログラム

  • 2026年10月頃〜2027年2月頃
    ※ 2026年10月21日(水)〜 10月23日(金)に合宿を実施します

今、組織に求められているのは、既存の枠組みの中で早く・正しくアウトプットする人材の育成ではなく、個人が自らの価値観やありたい姿に自覚的になるための「枠組みの変容」支援です。この「支援」が意味するのは、メンバーが仕事や役割の中だけで自らを捉えるのではなく、一人の人としての全体性(アイデンティティ)を取り戻すことで、仕事のなかに人生の自己実現を見いだせるような、より個人の自律を育んでいく支援です。本プログラムでは、個人と組織の自律をテーマに、人も成果も、両方を手放さずに価値を生み出していくチャレンジを支援していきます。

イベント
セミナー

プロセス・ガーデニング実践コース(2026年)

  • 2026年11月5日(木)〜6日(金)、2027年1月22日(金)
  • ヒューマンバリュー半蔵門オフィス

変革・成長支援の取り組みを、「場」「プロセス」「コンテンツ」の観点から見立て、目指す価値が生まれやすい環境を整えていく力を高めるための「支援のあり方」を、自ら実践しながら探求するコースです。

イベント
セミナー

社員サーベイ活用セミナー2026秋

  • 2026/09/25(金)14:00〜17:00
  • ヒューマンバリュー半蔵門オフィス

現在、多くの企業が従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイ等に取り組んでいらっしゃるのではないでしょうか。一方で、それらのサーベイ結果が組織をよくすることや、組織の変革にうまく繋がっていないというケースもあります。

組織の中の人たちが組織をよくできると感じられていなかったり、サーベイ結果を評価のような意識で受け取って、表層的な打ち手になっていることがあるかもしれません。また、サーベイに取り組む意義や意味を感じられていないこともあります。重要なのは、組織がありたい姿に向けて、結果を用いて対話し、組織で起きていることや仕組みを探求しながら変革へとつなげることです。

本セミナーでは、サーベイ活用を「分析・診断」だけで終わらせず、「対話による変革」へと橋渡しするアプローチを共有します。事例や実践から得られた示唆を共有し、参加者同士でサーベイをより良く活用する取り組みを探求します。社員サーベイを通じて、組織をより良くする変革へつなげる。その可能性を、共に問い直し、次の一歩へと変えていけたらと思います。

※本セミナーは2026年2月に開催したセミナーを元に、内容を一部更新したものとなります。

関連するレポート

組織変革プラクティショナーズ・ストーリー 〜本田忠行さんの物語〜

インサイトレポート

組織開発を再考する<第4回>オープン・スペース・テクノロジーの現代における意味を考える〜自己組織化の学習フィールドとしてのOST〜

2024.04.23 インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔 2024年3月、組織開発の大家であるハリソン・オーエン氏がご逝去されました。オーエン氏は、対話型組織開発の代表的な方法論の1つである「オープン・スペース・テクノロジー(OST)」の創始者として知られています。 OSTは、数人から数千人までの人々が自己組織化して、複雑な課題解決に取り組むことを可能にするラージスケール・ミーティングの...

次世代リーダーシップ創造に向けたシステム思考学習の可能性〜東京都立日比谷高等学校における実践から考える〜

2024.11.05 インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 主任研究員 川口 大輔 システム思考は、複雑な問題の本質を理解し、長期的な視野から変革やイノベーションを生み出していく考え方であり、社会課題にあふれた現代に生きる私たちに必須の思考法です。 ヒューマンバリューでは、これまで長年にわたりビジネスパーソンに対してシステム思考を広げる取り組みを行い続けてきましたが、今回、東京都立日比谷高等学校の生徒19名に対して、システム...

【Co-creation Career】共創によるキャリア開発

2021.11.26 インサイトレポート

【Co-creation Career】共創によるキャリア開発 〜 変化の時代の中で、キャリア開発のあり方を問い直す 〜 人生100年時代と言われる今日、キャリア開発は変化の局面を迎えています。働く一人ひとりの価値観や仕事観は多様化し、組織の人材マネジメントも変化が求めれています。社会的な変化の機運は高まる一方で、職場でのキャリア開発の現実に目を向ければ、閉塞感を感じる場面も少なくありません...

「今私たちが実現したい成長やキャリアのあり方とは?」 −未来共創オープンラボから見えてきたもの−

2021.02.06 インサイトレポート

2020年12月に開催した、企業の垣根を超えて人と組織の未来について探求する「未来共創オープンラボ・ウィーク2020」で行ったセッションのひとつ、「今私たちが実現したい成長やキャリアのあり方とは?」で探求してきた内容を、より多くの方と共有し、今後さらに探求を深めるきっかけとしていきたいという思いから、インサイト・レポートを作成しました。  

【Rethink -組織開発を再考する対話会 実施レポート】第1回:エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発

2023.04.08 インサイトレポート

【Rethink 組織開発を再考する対話会】の第1回目を、2023年3月22日(水)にオンラインにて実施いたしました。第1回目のテーマは「エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発」でした。こちらでは、対話会当日の様子や参加者の皆さま同士の対話から生まれた気づきを実施レポートとして紹介できればと思います。

一人ひとりの個性を生かし合う、正解のないことに向き合う

インサイトレポート

組織変革プラクティショナーズ・ストーリー 〜近咲子さんの物語〜

インサイトレポート

組織開発を再考する<第3回>〜人間性を回復し、ソーシャル・キャピタルを育むワールド・カフェの可能性〜

2023.10.16 インサイトレポート

株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔 本連載では、組織開発のこれまでの価値を振り返りながら、現在私たちが直面している大きな変化の中で、あらためて組織開発のあり方を再考し、今後の進化の可能性を模索しています。 連載第3回では、「ワールド・カフェ」をテーマに取り上げます。対話型組織開発の手法の中で、ワールド・カフェほど広く一般的に使われているものは他にないと言えるでしょう...

ヒューマンバリューのミッション・バリュー創造プロセス

インサイトレポート

もっと見る