株式会社ヒューマンバリュー
取締役主任研究員 川口 大輔
組織開発(Organization Development)の歴史は古く、1950年代後半くらいから発展してきたといわれていますが、日本において、しばらく影を潜めていた「組織開発」という言葉が再び企業内で認知されるようになったのは、2008年くらいと考えられます。それまで重視されてきた人材開発という個人の能力やスキル、リーダーシップを高めるアプローチに加えて、人と人との間の関係性にフォーカスを当て、チームや組織の力を高めることで、より良い価値を生み出していくことへの意識が大きく高まった時期でした。成果主義の導入やリーマンショックの影響によって、組織が疲弊していたことも背景にあったかもしれません。
2008年には、ATD(Association for Talent Development)の日本チャプターにおいて「組織開発委員会」が立ち上がり、2010年にはOD Networkの日本支部も発足しました。企業の中に「Organization Development」や「Organization Effectiveness」といった機能を持つ部署が生まれ始めたのもこの頃かと思います。私自身も、2011年にATDグローバルベーシックシリーズの書籍『組織開発の基本』(原題: Organization Development Basics)を翻訳する機会に恵まれました。
ヒューマンバリューにおいても、日本にそれまで入ってこなかった組織開発の方法論を数多く紹介させていただきました。AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)、OST(オープン・スペース・テクノロジー)、ワールド・カフェ、フューチャー・サーチなどの様々な手法を用いて、大規模なセッションや対話会を実施し、組織全体に影響を及ぼしていくラージスケール・チェンジや共創の場づくりが変革の1つのトレンドとなりました。
それから15年ほどが経過した近年、組織開発の意義はますます高まっているといえます。特に昨今は「人的資本経営」というキーワードをもとに、個人のリスキルやアップスキルが重視されていますが、その個人をパーパスやビジョンのもとに結びつけ、価値創造につなげていくのはチームや組織の力に他ならないからです。
ただし、私自身プラクティショナー(実践家)として、現場の最前線で組織変革の支援を行う中で、組織開発のあり方が十数年前と比べると、大きく変化してきていることを実感します。当たり前ですが、ビジネスの環境が変わり、働く人々の多様性も高まり、テクノロジーも進化し、組織の境界も曖昧になってきている中で、組織の価値を高めていくためのアプローチも変わっていく必要があります。
そこで本連載では、組織開発のこれまでの変遷を簡単に振り返りつつ、現在、企業内で起きている変化に目を向けながら、そのあり方を再考し、これから組織開発がどう進化していくのかの可能性を模索していきます。
第1回となる本稿では、「エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発」と題し、組織開発の原理・原則を働く人々の経験としてデザインし、組織開発を特別なイベントではなく、日常の習慣として実践できるようにしていくこと、そして特別なスキルや能力がなくても、誰もが自然と組織開発に取り組めるような環境をつくっていくアプローチを今後の方向性の1つとして考えていきたいと思います。