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エンプロイー・エクスペリエンス

エンプロイー・エクスペリエンス(Employee Experience)とは、働く一人ひとりが、企業や組織の中で体験する経験価値の総称です。 この言葉を広く解釈して、企業内で行われる様々な施策、職場環境、日々のビジネスプロセス等において、働く一人ひとりが得られる経験価値をいかに高めていくかということを軸に施策を検討・実践していく企業が増えてきています。さらに、従来の人事部(Human Resource Department)の名称をエンプロイー・エクスペリエンスに変更する企業も出てくるなど、近年大きな注目を集めています。

エンプロイー・エクスペリエンスが注目を集める背景

エンプロイー・エクスペリエンスが注目を集めている背景の1つ目として、多くの企業が自社の戦略として「カスタマー・エクスペリエンス」や「ユーザー・エクスペリエンス」を重視していることの影響が挙げられます。ビジネスの成長を考える際、単純にモノやサービスを提供するだけでなく、カスタマーを中心に据えた良質なエクスペリエンスを提供していこうという考え方が急速に広がってきています。こうした「エクスペリエンス」の考え方が広まってきた結果、企業内のプロセスにおいても従業員が得られるエクスペリエンスを高めることの重要性に対する認識が高まってきました。従業員が真にカスタマーのことを考え、それぞれに合った良質なエクスペリエンスを創造できるようにするためには、従業員自身が会社から良いエクスペリエンスを得て、エンゲージメントが高まっている状態でなければ難しいだろうという考えがその背景にあります。例えば、靴のオンライン販売で有名なZapposなどは、そうした企業の代表例と言えます。

2つ目には「カルチャーの変革」とのつながりが挙げられます。変化が激しく、正解の見えない今日において、企業の価値の源泉は、優れた商品やブランド以上に、新たな価値を生み出し続けられる「カルチャー」にあるという考え方が広がっています。しかし、そういったカルチャーの変革は研修を行ったり、ツールを導入したりすれば成し遂げられるといったものではありません。働く人々が仕事での「エクスペリエンス」を通じて、マインドセットや行動の変容につなげていくことが重要であり、そうした観点からどんなエクスペリエンスを生み出していくことが望ましいかについて、企業内の議論が高まっていると思われます。

3つ目は、ミレニアル世代の台頭が挙げられます。米国では、2015年にミレニアル世代がX世代を抜き、職場において最多数の勢力になりました。デジタル・ネイティブであるこの世代は、個人の生活だけではなく、職場においても「デジタルな体験」を望みますが、実際に働く環境がそれに追いついていないという課題意識もエンプロイー・エクスペリエンスの取り組みを加速させていると言えます。また、カルチャー・ワークス社の調査によると、ミレニアル世代は、金銭や地位ではなく、仕事のインパクトやラーニングに価値をおく傾向がより強いというデータが示されており、パーパス(仕事の意義や目的)を感じられるようなエクスペリエンスが重要視されてきています。

カンパニー・センタードからピープル・センタードへ 人と組織の関係性のパラダイムシフト

このようにエンプロイー・エクスペリエンスが重要になってきていることの根底には、人と組織の関係性の根本的なシフトがあると言えます。従来の人と組織の関係性は、組織に個人が帰属し、組織を通して社会に価値を生み出していくようなイメージでした。こうした関係性においては、企業経営の考え方は、会社を中心に捉え、会社の論理に個人を当てはめていくような「カンパニー・センタード」なものとなり、会社の視点や都合で施策が展開されていく傾向が強くありました。しかし、昨今では、デジタル化をはじめとしたテクノロジーの影響もあり、人の働き方や価値の生み出し方も大きく変わってきており、人と組織の関係性も、個人が組織のリソースを活用して社会に価値を生み出していくような関係性へとシフトしつつあります。こうした中では、「カンパニー・センタード」な取り組みは機能せず、働く一人ひとりを中心に置いた「ピープル・センタード」な考え方が必要となってきます。まさに企業経営のあり方・哲学の根本的なシフトがエンプロイー・エクスペリエンスの台頭を生み出していると言えるでしょう。

マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラ氏が著書『ヒット・リフレッシュ』で言及している内容はまさにこのパラダイムシフトとエンプロイー・エクスペリエンスの重要性を言い当てているように思われます。

私は、CEOのCは「Curator of Culture」のCだと書いた。文化とは実際、社員の間に広まるものであり、何千、何万もの社員が毎日下す数え切れないほどの判断の総体である。CEOがそうした文化の管理人であるとは、社員がマイクロソフトと取り決めたそれぞれのミッションを達成するのを手助けするということだ。裏を返せば、マイクロソフトが社員を雇うのではなく、人々がマイクロソフトを「雇う」とも言える。10万人を超える社員のマインドセットを、雇われる側から雇う側に変える時、どんなことが可能になるだろうか。

サティア・ナデラ(マイクロソフトCEO)

エンプロイー・エクスペリエンスを高めるために

企業では、個別の状況に対応したり、課題を解決するために様々な施策が行われています。エンプロイー・エクスペリエンスという軸で物事を捉えれば、企業内に散らばる、一見バラバラに見える施策を統合的に捉えることが可能になります。企業内のすべての施策は、エンプロイー・エクスペリエンスを高めるために行なっていると言い換えることもできるでしょう。

エンプロイー・エクスペリエンスを高めるために行えることは様々に広がるのですが、その中での中心的なテーマとしては以下の5点が挙げられます。

・パーパス(志・目的)の追求
・一人ひとりに合わせたマネジメントの実現
・職場環境や働き方のデザイン
・成長機会の提供
・信頼関係の構築、良い文化の醸成

これらの取り組みを個別に別の取り組みとして扱うのではなく、エンプロイー・エクスペリエンスを向上させるという軸で統合的に扱ったとき、企業や人事が行う取り組みの価値は飛躍的に向上する可能性があります。