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Online Learning(オンラインラーニング)2001の全体的な傾向

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Online Learning Conferenceでは、各回ごとにテーマを定めているわけではないが、主催者側は今回のカンファレンスのクロージング・キーノート・スピーカーとして、"Tipping Point"の著者マルコム・グラッドウェル氏を招待することにより、Eラーニングが既に"Tipping Point"を通過し、急激に世界に浸透しつつあるというメッセージを発信していた。(Tipping Pointとは、ある考えや行動、メッセージや製品などが感染症のように一気に広がる瞬間のことをいう)

そのため本カンファレンスにおいても、「Eラーニング」という言葉が登場してからの2年間を1つのステージとして総括的に振り返り、その反省を活かして今後Eラーニングが飛躍的に成長するために必要な新しい取り組みが何であるかということを多くのセッションにおいてテーマとしている印象を抱いた。
ここでは、今回のカンファレンス全体を通して見受けられた傾向と、それを通して得られた今後のEラーニングの動向を、以下にキーワードを提示しながら紹介したいと思う。

1.コンテンツの高品質志向の高まり

今回のカンファレンスで最も強調されていたポイントの1つに、コンテンツの高品質化への動きが挙げられる。今年の6月に行われたASTDのカンファレンスにおいては、いかにうまくEラーニングを運用するか、あるいは企業戦略や目的と一致させるかといったテーマが多く取り上げられていたが、本カンファレンスでは、それに加えて、提供するコンテンツそのもののクオリティについて言及したセッションが目立った。特に基調講演におけるMichale Allenの「ゴミはいくらうまくオーガナイズされても、扱いやすいゴミになるだけである」という揶揄は印象的であり、戦略や導入方法を考える前に、基本に返って肝心のコンテンツの品質を上げることが、結局は受講者のモチベーションを高めることにつながるという動きへの意図を感じた。

1.1新しいインストラクショナル・デザイン

コンテンツのクオリティを論じる際のテーマの1つとして、古いインストラクショナル・デザインに対する概念を捨てて、新しいインストラクショナル・デザインを確立する必要があるということが、頻繁に取り上げられていた。初期の頃のEラーニングの中心であった、伝統的な集合教育をオンライン化しただけのコンテンツでは学習者をモチベートすることは難しくなってきている。今後は、学習者の行動を変化させるための、「経験による学習」を重視し、より業務に近い形で学習を提供する新しいインストラクショナル・デザインの概念が、ハイクオリティなコンテンツを提供する上で、重要となってくるとのことであった。

1.2シミュレーション

上述した、経験による学習を重視した、次世代の代表的な学習手段の1つとして、シミュレーションが、今回のカンファレンスでは基調講演等でも大きく取り上げられ、今後のEラーニングのビッグビジネスになるであろうと予測されていた。その利点としては、現実に即したリアルな環境を提供することで学習者を刺激し、パフォーマンス向上により学習者を近づけるといったことや、実際の業務をこなす前に多くの失敗をすることが可能となるなどが挙げられていた。 シミュレーションの形態は、スライドやビデオを用いていたものから、インタラクティブなアニメーションを活用したものへと変遷していくとのことであった。またその内容としては、大きく分類すると

1)コンピュータソフトウェアの使い方や、ハードウェアの装備の仕方などのプロシージャ―を
  ハンズ・オン(実際に触ってみる)の形態で学ぶもの

2)ファイナンス等の分野において、ケースを通してデシジョン・メイキングを学ぶもの

3)人間関係などのソフトスキルを学ぶもの(主に、職場において自分の返答の仕方によって、
  周囲とのコミュニケーションが変わっていくといったケーススタディが中心を占めた)

のように分けられていた。セッションやEXPOでも、ハードスキル、ソフトスキルともにシミュレーションを用いたコンテンツのデモンストレーションが多く行われており、今後のシミュレーションの急速な普及が予想されると同時に、単に本で学べることをウェブ化しただけのページめくり機のような教材は徐々に少なくなっていくと考えられる。その際にネックとして挙げられていたのが開発費の増大だが、ソフトウェアの使用法を学ぶといった単純なものなら既存のオーサリングツールを用いてかなり簡単に作れるようになってきているようであった。

2.プラットフォーム技術

2.1 標準化動向

標準化の中心はいよいよAICCからSCORMへとシフトしてきたようだ。エキスポにおいてもSCORMに準拠したコンテンツを容易に制作できるオーサリングツールが続々と紹介されていた。セッションにおいては、6月のASTDの時にあったような、「SCORMとは何か?」、あるいは「標準化とはどうあるべきか?」といったベーシックな議論をテーマとしたものは姿を消し、標準化が進むにあたってどのように戦略を立てるべきかという一歩進んだテーマを取り扱うセッションが多かったように思う。ただし、ここでも問題として挙げられていたのは、高品質なコンテンツの不足に対する危惧であり、せっかく標準化が進んで、コンテンツの互換性が確立されても、肝心のコンテンツがなければ標準化の意味をなさないといった心配から、コンテンツのクオリティの重要性が強く強調されていた。

2.2 Reusable Learning Object(RLO)とLearning Repository

RLO(再利用可能な学習オブジェクト)をテーマとしたセッションも数多く、関心の高さが見受けられた。RLOの基本概念とは、コンテンツを、学習を構成する情報群の基本単位である章、項、節でオブジェクト化し、メタデータをつけてデータベース上(Learning Repository)で管理し、受講者のニーズに合わせて再利用することで適切な教材構成を行う、というように説明できる。最新事例としてシスコ・システムズの例などがセッションで紹介されていた。具体的なトピックとしては、コンテンツのタグ付け、LMS上での互換性、標準化規格に準拠したコンテンツの効率的な作成、RLOのデザイン及びデリバリーモデルといったことが挙げられていたようだった。

2.3 LMSからLCMSへのシフト

今回のカンファレンスにて新しく登場してきたプラットフォーム・テクノロジーに上述したRLOやLearning Repositoryと密接な関係を持つLCMS(Learning Content Management System)がある。従来までのLMSが、コンテンツの受講者への配布、及び受講者管理といったオペレーションに特化していたのに対し、LCMSではそれに加えて、テンプレート等を使用して既存のコンテンツをラーニングオブジェクト単位の教材に変換したり、受講者のニーズに合わせて教材を構成するオーサリング機能、作成した教材をデータベースに蓄積し、管理する機能などが強化されていることが挙げられる。そうした機能によりLCMSは、学習者が自由にデータベース内を検索して、自分の趣向にあった教材を選択するといった、より受講者中心の学習への移行を助けるための技術的サポートであると言える。またこれまでLMS市場の上位を占めていた、SabaやDocentといったベンダーも、揃って自社製品のコンテント・マネジメント・システム機能の強化を発表しており、今後プラットフォーム・テクノロジーはこのLCMSへと移行していくだろうとのことであった。

LCMSは今年になってから始めて登場してきた言葉で、まだ周囲によるLMSとの違いの理解が低いため(ASTDの調査によるとLCMSを理解している人の割合は、まだ35%程度)、通常のセッションとは別枠で「LCMSカウンシル」と呼ばれるLCMSベンダー(WBT System, Avaltus等)を一同に集めた説明会が催され、LCMSの認知を図っていた。説明会は座る席がなくなるくらいの反響で、関心の高さをうかがえた。

2.4 Enterprise-wideのソリューション提供

LCMSによるコンテンツ管理への移行が進むと同時に、Knowledge Management SystemやEPSSといった他の「E-Resource」とEラーニングを統合した、エンタープライズレベルでのソリューション提供が求められるようになるとのことであった。具体的には、KMやEPSS上のコンテンツもナレッジ・オブジェクト化し、Eラーニングのラーニング・オブジェクトとともに一元管理するといったことが挙げられる。カンファレンス議長を務めたGloria Geryも現在はPortal, Authoring tool, KM, EPSS, Web Site等、数々のE-Resourceが個別に存在し、状況が混乱しているとの問題点を指摘しており、これらを統括したラーニング・アーキテクチャの確立の必要性をしきりに訴えていた。また、ウォール街のマーケット・アナリストたちからも、今後はLMSなどの単一の機能に特化したサービスではなく、複数のオプションを顧客に提供できるようなサービスを持つベンダーが大きな契約を取るであろうと予測していた。その意味で、今後ますますベンダーの合併が加速するものと考えられる。

3.その他の傾向

その他の傾向としては、これまでと同様、Blended LearningやROIへの取り組みが企業事例を用いて多く取り上げられていた。 Blended Learningに関しては、学習は、読む、書く、聞く、行うといった単一の要素で行われるのではなく、それを混ぜて行うのがEラーニングにおいても有効である、といった概念は既に当たり前のものとして認知されつつあるが、その一方で、Gloria GeryやBrandon Hallから、現在のEラーニングの多くはWBTと同義語化してしまっているとの危惧も聞かれた。この矛盾から、Blended Learningの概念は理解できても、実際に導入するのは難しく、まだ多くの企業では実現に苦しんでいるとの印象も受けた。 またROIに関しても、企業は継続的にビジネスパフォーマンスなどのメジャーに注目しているとのことであったが、具体的な計測及び評価手法に関してはまだスタンダードなものがないというのが現状であった。ROIを測定する際には、まず企業が何に関心があるのか、何を成し遂げたらよいのかということと、それを成し遂げるために必要なアプリケーションは何か?またベンダーはどこかといった基本的な項目を見直す必要があるとの意見も出ていた。

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