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しんくみ連載コラム 第2回:働く意味を育てて、働きがいのある職場を築く

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「あなたは今の仕事に働きがいを感じていますか?」

こんな質問を自職場に投げかけてみたら、どれくらいの人がYesと答えるだろうか。少し前になるが、2011年に私どもでビジネスパーソン1,000人に対して調査を行ったところ、働きがいを感じていると答えた人は、全体の約4割程度にとどまった。仮に同じ職場の半分以上の人が、仕事に働きがいを感じていないとしたら、活気ある職場を築くのも難しいだろう。

働きがいに影響を与える「働く意味」

では働きがいを高めるためには何が必要なのだろうか? 上述の調査で働きがいに最も相関が高く、強い影響を及ぼしていたのは、「今の仕事に使命感や働く意味を感じている」であった。別の調査でも、「働く意味」がやる気に及ぼす影響が、報酬の満足度といった外発的な要因よりも大きいという結果が出ている。

また、興味深いことに、働きがいの高い人の中で、働く意味や使命感を働き始めた当初から持っていた人は、全体の20%強にすぎず、70%の人は、仕事をしながら働く意味が高まったり、中身や質が変化したと回答している。実際に仕事にやりがいを感じている人に話を聴いてみても、

「最初から使命感のような大げさなものを持っていたわけではありません。仕事を進めていくなかで、『もう少しお客様に喜んでもらえたらな……』とか『メンバーをもっとサポートできないか?』などと考えて取り組んでいたら、気がついたらこの仕事が自分にとってとても意味あるものになってきたんです……」

と語られることが多い。

つまり、たとえ最初は小さくても、自分が大切にしている想いをもとに仕事に取り組むなかで、何かしらの価値が生まれ、そこに小さな喜びや達成感、貢献感が伴い、次第に仕事の意義を実感し始め、それがやがて志や使命感へと変わり、働きがいも高まっていくといった流れがあるようだ。

ヒューマンバリューでは、こうした働きがいの源泉となる想いのことを、単なる欲求を超えた高次の人格という意味を込めて「セカンドセルフ」と呼んでいる。働きがいを高めるうえでは、「自分のセカンドセルフへの理解を深め、仕事を通じて育んでいくこと」が大切となる。

セカンドセルフの理解を深める

ではセカンドセルフとはどんなものであろうか? 上述の調査で、人々が仕事で大切にしている想いを調べたところ、表1に示すような、大きく8つの傾向があることがわかった。もちろんこれがすべてというわけではないが、この表を参考に、何かしら自分が共感できるポイントを見つけ、そこから自分の働く源泉となるものを考えるきっかけになるのではないだろうか。

具体的にはたとえば、自分がしっくりくるものをひとつかふたつ選んで、どうしてそれを選んだのか、どんなときにその価値観を大切だと感じたのかといった出来事やストーリーを振り返ると、自分のセカンドセルフを見つけるヒントになると思う。

セカンドセルフを育む行動パターン

また、セカンドセルフは持っているだけでは高まらない。日々の仕事で行動に移していくなかで、育っていくものである。上述の調査からは、セカンドセルフを高めている人たちが、日々の仕事で大切にしている行動にも代表的なパターンがあることがわかった(表2)。

これらすべてを高める必要はないが、自分が高めたいと思ったいくつかの行動をていねいに取り続けていくと、セカンドセルフと今の仕事が結びつきやすくなり、働く意味、働きがいにつながる。私たちはこれを「ワーク・イニシアチブ行動」と呼んでいる。

職場でセカンドセルフを育む

そして、セカンドセルフやワーク・イニシアチブ行動を、職場のみんなで育て合っていけると、働きがいの高い職場を創るうえで効果的といえる。たとえば、ある会社のリーダーは、試しに8つのセカンドセルフを職場のミーティングツールとして活用し、メンバー(自分も含む)にどんなセカンドセルフに共感するのかを背景とともに語ってもらった。

最初はためらいもあったが、徐々にみな自分の考えや想いをオープンに語り始めた。普段は仕事上の表面的な会話しか行っていなかったところで、お互いが仕事で大切にしている価値観を語り合う体験は新鮮だったようで、最後は話が止まらなくなるほどだった。
言葉に出してみることで、自分への理解が深まったり、仕事への想いが高まるとともに、相互の背景理解が深まり、チームワークの向上にもつながったそうだ。

また、別のリーダーは、目標設定を行うときに業務上の目標だけを立てるのではなく、大事にしたいセカンドセルフやワーク・イニシアチブ行動を明らかにして、継続的に実践や振り返りに取り組むなどの工夫をしていたりする。

働きがいのある職場とは、誰かから与えられるものではなく、自分たちで生み出すものである。こうしたツールも活用しながら、仕事の意味を考えたり、対話を行う機会を増やしながら、小さな想いを少しずつ育んでいくことが大切と考えられる。

全国信用組合中央協会機関紙「しんくみ」連載コラム-今日から始める「いきいき職場」づくり~職場活性化の実践~ 2016年5月掲載

第2回:働く意味を育てて、働きがいのある職場を築く(2016年5月)

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