インサイトレポート

フィードバック・シーカーを育む<学習する組織ショート・コラム第7回>

本連載では、学習する組織や組織開発の考え方や洞察をビジネスの文脈に照らし合わせて、短いコラムとして紹介しています。今後の組織づくりに役立つヒントやインスピレーションを得る機会となれば幸いです。

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昨今、リーダーやマネジャーに求められる重要なスキルの1つとして、「フィードバック」が挙げられます。人の成長を促進する上では、周りからのフィードバックは欠かせません。

どんな人も、自分ひとりで成長することはできません。振り返ってみると、私たちは周りの人からの言葉やコミュニケーションを通して様々な影響を受けてきたのではないでしょうか。

たとえば仕事に限らず、小さい時にご家族からいただいた言葉が自分の生き方に影響を与えたこともあるかもしれませんし、友人からの励ましの一言に勇気をもらったこともあるかもしれません。もちろん仕事においても、先輩から親身になって指導をもらったり、同僚からの発言にハッと気づくといったことが、今の自分につながっていることもあるでしょう。 フィードバックの「フィード」という言葉には、栄養を与えるという意味があります。栄養も偏り過ぎるとよくないように、フィードバックも、多面的に行うことが大切です。賞賛、叱咤、感謝、改善、承認、意見、応援、指導など様々なフィードバックがありますが、バリエーションを増やして、フィードバックの質を高めていくことが重要です。ヒューマンバリューでも、フィードバックに特化したトレーニングを行うケースが増えてきています。

しかし、フィードバックの価値を高める上で見過ごされがちなのは、フィードバックは、与える側以上に、受ける側のスタンスが大切であるということです。書籍「フィードバックの真価~職場に信頼を生み出し、共に成長する~」の著者であるタムラ・チャンドラー氏は、フィードバックを自ら求める人のことを「フィードバック・シーカー」と呼び、フィードバックを与える人以上に重視しています。

フィードバックを与えることは苦手という人も多いと思われます。フィードバックを与えることで相手が傷つかないか、間違った方向に誘導しないか、といった恐れや不安をもち、ためらってしまう人もいるでしょう(私もその一人です)。

そうした時に、相手の方から積極的にフィードバックを求める姿勢を見せてくれると、自分が何に貢献できるのかをイメージしやすくなり、フィードバックする側も安心して自分の視点を述べるなど、良い循環が回りやすくなります。私が最初に入社した会社では、新入社員の時に、自らフィードバックを求める重要性を教えてもらいましたが、あらためて考えるととても意義のあることだったように思います。 チャンドラー氏も、「フィードバックを与えるより、求めることを重視する組織では、パフォーマンスの向上やグロース・マインドセットの傾向が現れ、効果的な意思決定を行ったり、より強く、しなやかなチームを生み出すということが、研究から明らかになっている」と著書で述べていますが、フィードバックを与える技術を高めることと併せて、職場にフィードバック・シーカーを育むことに取り組んでいきたいものです。

ではどこから始めるのか?

フィードバック・シーカーが大切ということは理解できるが「ではどこから始めたらいいのか?」という質問を受けることもあります。

ヒューマンバリューでも、グロース・マインドセットを高めるプログラムの一環として、フィードバック・シーカーの姿勢を学習する機会を作っていますが、このようにプログラムを通して学ぶことももちろん可能です。

しかし、お勧めとしては、まずリーダーである自分自身から始めるのが良いかもしれません。新しい行動や習慣を自ら取り入れ、これからつくっていきたいカルチャーを体現してみせることこそが、リーダーシップであるからです。

かくいう私自身も、ヒューマンバリュー社内でやってみたことがあります。すべてのメンバーから自分に対するフィードバックを事前に記入いただいて、全員のコメントを社内ミーティングの中で読み上げて共有する(送り手の名前は伏せて)ことをやってみました。2023年のATDで基調講演を行ったアダム・グラント氏が、大学の先生が生徒からの最も厳しいフィードバック・コメントをみんなの前で読み上げる例を紹介していましたが、そちらに倣ったものです。

1番の目的は、自分も年齢を重ね、なかなか周りからの意見をもらいづらくなってきている状況で、自分の成長に向けてフィードバックをもらいたかったということにありますが、もう1つのねらいとして、当時自社内で少し率直な意見を言いづらい雰囲気が広がっているように感じていたので、そうしたところに風通しの穴を少しでも開けられたらという想いもありました。

実際にいただいたコメントは、ポジティブなものもあれば、心に刺さる厳しいもの、受け止めづらく苦しいものもありました。ただ、共に働く仲間が、時間をかけて、踏み込んで書いてくれたものだと思うと、どんなコメントにも感謝の気持ちが湧いてきたことも事実です。今でも時折その時のコメントを見返すことがあります。

また、メンバー全員の前で読み上げてみたことも自分にとっては良い体験でした。全体で共有することで、「ここまで踏み込んでいっていいんだ」とか「自分もフィードバックがもらいたい」といった声も上が、心理的安全の向上にも多少はつながったのではないかなと感じています。 こちらのアプローチは1つの例であり、信頼関係ができていることが前提なので、すべての人にお勧めではありませんが、自分に合ったスタイルで自らフィードバックをもらうスタンスを実践していくことを試してみていただければと思います。

学習する組織ショート・コラム

<第1回>ビジョンは「浸透」させるもの?
<第2回>「静かな退職」から「静かな成長」へ
<第3回>経営者に今投げかけたい問いは?
<第4回>インクルージョンは「同化」とどう違うのか?
<第5回>バランス・スコア・カードが再び脚光を浴びる理由と課題
<第6回>エンゲージメントは誰かが高めてくれるもの?
<第7回>フィードバック・シーカーを育む
<第8回>経営にコミュニケーション・デザインを取り入れる


関連するメンバー

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

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