インサイトレポート

「今私たちが実現したい成長やキャリアのあり方とは?」 −未来共創オープンラボから見えてきたもの−

2020年12月に開催した、企業の垣根を超えて人と組織の未来について探求する「未来共創オープンラボ・ウィーク2020」で行ったセッションのひとつ、「今私たちが実現したい成長やキャリアのあり方とは?」で探求してきた内容を、より多くの方と共有し、今後さらに探求を深めるきっかけとしていきたいという思いから、インサイト・レポートを作成しました。

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はじめに

変化が激しく未来が不確実な時代の中で、私たちの働き方や、働く人の価値観も多様化しています。その中において、2020年はコロナ禍の影響を受け、「自分自身はどのように働きたいのか」「どのように生きたいのか」を問い直す人が増えているように思います。現在、企業でも、人材育成、社員のモチベーションやエンゲージメント向上、一人ひとりのキャリア形成やキャリア開発支援に取り組んでいますが、そうした変化に十分に適応できている企業はまだまだ多くはないかもしれません。このような変化の激しい時代において、個人も組織も「成長」「キャリア」「キャリア開発」についての捉え直しが、あらためて求められているのではないでしょうか。

ヒューマンバリューでは2020年12月に、人材・組織開発に対する様々な考えや実験的な取り組みを紹介し、企業の垣根を超えた探求を行う場として、「未来共創オープンラボ・ウィーク2020-人と組織の未来を拓く問い-」を開催しました。その中のテーマの一つとしてキャリアを掲げ、「今私たちが実現したい成長やキャリアのあり方とは?」という問いのもと、ヒューマンバリューが社内で取り組んできたことを事例として紹介しながら、参加された皆さまと共に探求を行いました。

本レポートでは、オープンラボに参加できなかった方にも、セッションの内容をご紹介し、より多くの皆さまと「キャリア開発」に関する対話を継続していくきっかけになることが、私たちの願いです。お読みいただいた方々にとって、今後探求したいテーマが広がったり、組織やそこで働く人々の「キャリア」「成長」の定義や捉え方が、少しずつ変化していくことにつながればと思います。

1.オープンラボからみえたキャリアの問い

オープンラボには、多様な企業の方々にご参加いただきましたが、その中には、社員のキャリア支援を行っている方も多くいらっしゃいました。
企業の第一線でキャリア支援に向き合う人々は、どんな関心をもっているのでしょうか。ラボでは、参加された皆さまの関心を伺うところから始めていきましたが、そのテーマは、下記に示すように多岐にわたっていました。自分自身のキャリアについて悩んでいる方もいれば、採用、オンボーディング、エンプロイイー・エクスぺリエンス、昇格要件、チーム形成やメンバーとの向き合い方など様々です。こうしたテーマの広がりから見ても、キャリア開発はこれまで以上に複雑性が増していると言えるのではないでしょうか。

◆ 「成長」や「キャリア」に関して参加者が関心を寄せていたテーマ例 ◆

・自分自身のキャリアに悩んでいる
・これからのキャリアのあり方について、今までと考え方やスタンスが変わってくると思うが、どう変わっていくのか
・「ボルダリング型キャリア」とは何か
・成長実感を持てている人と持てていない人がいる。何が違うのか
・自ら学び、キャリアを積極的に開発する人と、そうでない人の格差が広がっている
・今の環境において、個人の成長をどう捉えていくのか
・自組織の採用がうまくいっていない
・働き方の制限などがあり、若手の修羅場の創り方はどうしたらいいのか
・中途社員のオンボーディングについて
・社員をどのように定着させたらいいのか
・昇格の要件に、語学や複数部門の経験などがあるが、それって本当に必要なの?
・カルチャーフィットとカルチャーアッドのバランスや関係性について
・自律参画型のチームづくりを継続、加速させたいがどうしたらいいのか
・メンバーと接する上で、どのようなことを大切にしたらいいのか
・一人ひとりに合ったキャリア形成を考えるには
・社員の成長・キャリアについて、どのような経験をさせたらいいのか

1−1.「キャリア」という言葉の前提・枠組み

そして、参加者の関心テーマの1つに「キャリアのあり方の変化」がありました。今、人や組織に関わる仕事に携わっている私たちは、キャリアのあり方・捉え方が社会の状況とともに変化してきていることを感じることが多いかもしれません。では、実際に「キャリア」や「キャリア開発」と聞くと、私たちは何を思い浮かべるでしょうか。「キャリア」という言葉からは「昇進や昇格」をイメージする方もいるかもしれません。「キャリア開発」からは「キャリア開発のための年代別研修」「上司とのキャリア面談」「OJTや1on1の取り組み」や「異動や配置に関する人事制度施策」、または「キャリア・パスや育成体系に基づく能力開発支援」などを思い浮かべる方もいるかもしれません。「キャリア」や「キャリア開発」に関する定義は意外と曖昧であり、それぞれが置かれている環境や経験に基づいたイメージで語られることが多いように思います。そうした言葉のもつ多義性のため、私たちがキャリアの話をするとき、議論のテーマが定まらなかったり、噛み合わないことがあります。

たとえば、組織開発の権威であるエドガー・シャイン博士は、キャリアを「外的キャリア」と「内的キャリア」という2つの軸で捉えています。「外的キャリア」は履歴書に書けるような目に見えるもので、たとえば一般的に地位が高いとされるような仕事であったり、部長、課長といった組織内の役職、スキルや知識、経験といったようなものです。「内的キャリア」は、経験を通して自分自身が何を大切にして、何を実現したいのか、どのような価値を生み出したいのかといった目的意識やビジョンであり、目に見えない内面におけるキャリアの捉え方です。変化の激しい現代においては、「外的キャリア」を育む上でも、目的意識やビジョンを元にして仕事を意味づけるといったような「内的キャリア」を育み、それを土台としていくことが重要であると言われています。

「内的キャリア」「外的キャリア」はキャリアの捉え方の1つですが、大切なことは、お互いのもつ「キャリア」や「キャリア開発」という言葉の定義や捉え方を、対話を通して共有しながら探求していくことです。

2.キャリア開発を取り巻く外部環境の変化

2−1.社会的な変化

では、「キャリア」や「キャリア開発」についての対話を行う前に、そうした議論に影響を与えている外部環境の変化には、どんなものがあるでしょうか。それは大きく3つくらいの環境の変化が挙げられるのではないかと考えています。

1つ目の変化は、「産業構造の変化」です。
第4次産業革命や経済のグローバル化、人生100年時代の到来、さらには2020年に世界的に拡大しているCovid-19による経済活動への影響など、これまでの延長線上からは考えられなかったような変化が世界で起きています。また、人生100年の時代になってきていることで、これまで以上に、誰もが自分の生き方や、生きる意味を模索する時代になっているのではないかと思います。
そうした変化の激しい中で、私たち一人ひとりが、目の前の経験や仕事の意味を捉え直し、自分の人生として、一貫性のあるストーリーを見つけていく必要が高まってきているのではないかと感じます。

2つ目は「個と組織の関係性の変化」です。
個と組織の関係では、終身雇用や正社員を前提とした働き方にも変化が生まれ、フリーランスや契約社員、単発で仕事を請け負うギグ・ワーカーといった正社員とは違う雇用形態での働き方を志向する人々も増えつつあります。このような変化の中で、組織はこれまで定めてきたキャリア・パスのような一貫したストーリーを、個人に提供しきれなくなってきています。

3つ目は「成長・キャリアの定義の変化」です。
成長」や「キャリア」を定義し、捉える上では、「何かができるようになる」とか「昇級昇格をして役職が高くなる」といったことではなく、自分たちは「何を大切にして働きたいのか」「何を実現し、どのような価値を生み出したいのか」ということが、より重要視されるようになってきています。とりわけ、ミレニアル世代といった若手社員の働くことに対する意識の変化は、研究結果(ギャロップ社、2019)でも報告されています。働く人々の考え方も変化してきており、自分の人生を組織に預けるのではなく、仕事を通して自分の人生の目的を達成しようとする、あるいは、仕事を人生に適合させるといったような視点が大事にされるようになってきたのではないかと思います。

こうした外部環境の変化に伴って、個と組織がこれまで当たり前だと思っていた「成長」や「キャリア開発」の捉え方をあらためて見つめ直し、自分たちが心から実現したい状態を探求し、生み出していくこと、言い換えるならば「成長やキャリア開発の世界観をシフトしていく」必要があると考え、今回のオープンラボでの探求として問いを立てました。

2−2.世界観の転換 はしご型のキャリア観からボルダリング型のキャリア観へ

では、この先の時代において、個と組織がもつキャリア観、世界観はどのような形にシフトしていくのでしょうか。私たちがそれを探求する際のヒントとして、ヒューマンバリューで2020年8月に発刊した、ビバリー・ケイ(Beverly Kaye)氏らによる著書『会話からはじまるキャリア開発〜成長を支援するか、辞めていくのを傍観するか〜』(原題:Help them grow,or watch them go)があります。著者は本書の中で、「はしご型のキャリア観には別れを告げましょう」「今までのキャリア・パスの概念にも別れを告げましょう」「職場とプライベートを分けることにも別れを告げましょう」(p.78)と述べ、キャリア観のシフトについて言及しています。具体的には、「キャリア開発」について以下のように述べています。

「キャリア開発についての新たな考え方を手に入れましょう。上方向(キャリア・アップ)だけではなく、一度役職を手放してみたり(キャリア・ダウン)、寄り道をしたり、今とは違った経験をしてみるといったことも含まれます。あるいは今のポジションにとどまったまま、戦略的に成長するというのもあるでしょう。今日のキャリア開発は、はしごというよりはむしろ、ボルダリングの壁のようなものです。」(ビバリー・ケイ&ジュリー・ウィンクル・ジュリオーニ ,2020,p.78)

著者らが提唱している「ボルダリング」のキャリア観は、肩書にとらわれないキャリア開発のあり方とも言えるかもしれません。本書では、組織の階段を上がっていくような「はしご型」ではなく、ビジョンやありたい姿を自分なりのキャリアゴールとすることの大切さが語られています。また、ゴールへの進み方も、まさにボルダリングのように、上や下、組織外、さらには今いる場所でも、様々な経験を積むことで、自身のキャリアゴールに向かって成長していくことが、今後働く人々に求められるキャリアの捉え方であると、著者は言います。

3.個と組織が共に変わる 〜新たなストーリーを再構成する〜

しかし、一般論を踏まえても、実際に世界観を変えるというのは容易なことではありません。個と組織がこれまで当たり前と思っていたストーリーを手放して、新たなストーリーを再構成していくことの先に、自然と世界観が変わっていくものなのではないでしょうか。新たなストーリーを再構成するとは、個人としては「目の前の経験や仕事を、自分にとっての意味や価値で捉え直し、一貫したストーリーを編み出していく」ということであり、組織としては「成長やキャリアの意味をあらためて捉え直し、日常で語られるストーリーに変えていくこと」と捉えることができます。

このような考え方は「社会構成主義」と言われます。「社会構成主義」とは、本来私たちが捉えている意味とか価値というのは、自分自身を取り囲んでいる物事や人から大きな影響を受けているという考え方です。自分が話す、または周りの人が話している言葉が、組織としての文脈をつくっていき、その文脈が個人のストーリーをまた変えていくという相互関係の中で、意味や価値が存在しています。だからこそ、成長やキャリアという文脈を新たにつくっていく上で、組織だけ、個人だけが変わっていくということはあり得ないのではないでしょうか。

4.ヒューマンバリュー社内の、個と組織のストーリーを再構成する取り組み

新たなストーリーを再構成するとは、実際にはどういうことなのでしょうか。オープンラボでは、その探求の素材として、私たちヒューマンバリューの社内の取り組みを取り上げました。ここからは、私たちがヒューマンバリューという組織のメンバーとして、「成長」や「キャリア」について、まさに社会構成主義で、個と組織のストーリーを少しずつ変化させてきた経験について紹介します。

ここ数年の間に、私たちがこのテーマに向き合うことになったのは、組織に新しいメンバーを迎え入れるための採用活動やその後のオンボーディングの取り組みを通してのことでした。ここからご紹介することは、必ずしも組織における採用や育成の取り組みのベスト・プラクティスではありませんが、私たちが対話を通して、自分たちの語る言葉や互いの成長に向き合う際の世界観を、少しずつ変化させてきたプロセスを知っていただくことで、前述の「個と組織の世界観をシフトする」とはどういうことなのか、読者の皆さんが思いを巡らすきっかけとなればと思います。

4−1.個のストーリーの再構成を支援する:グラウンディングの取り組み

転職して新たな組織のメンバーになることは、人生の中でもまさに揺らぎの時期ではないでしょうか。個人が、社会や周囲の人々との関係性の中で当たり前だと思っていたストーリーと、組織がこれまで培ってきたストーリーが初めて出会うことになり、個人と組織の双方に、そして特に新しいメンバーの中に大きな揺らぎが起こります。ヒューマンバリューでは、入社直後のプロセスとして「オンボーディング」に取り組み、新メンバーをサポートしました。入社直後の支援といえば、新人研修やOJT、メンター制度などを想像される方が多いかもしれませんが、私たちは次の3つのことを大切にして取り組みました。

最も大切にしたことは、一般的なOJTで教わるような、仕事で必要なスキルや知識の習得に伴走するだけでなく、振り返りや仕事の意味を探求することです。新しい組織で仕事を始めると、仕事の内容や職場のルールなどを1つひとつ覚えるだけで、忙しい日々を送ることになると思います。ただ、その過程においても、新メンバーにとっては、これまで過ごしていた世界との違いを感じることも多々あるはずです。そうした小さな違和感について1つずつ対話しながら、個人のトランジションを支えていくことも、同じように重要だと考えてきました。

次に、1対1ではなく、3人以上のチームを編成して取り組みました。「仕事のやり方を教える」という意味では、1対1のOJTなどは広く行われていると思いますが、新メンバーのトランジションを支える上では、複数名で関わることが必要だと考えたからです。新メンバーが新たなストーリーを生み出していくということは、すでにある正解を教えるというよりは、問いをもとに、互いのもつ背景や経験を共有し合いながら、意味を探求していくプロセスであるため、正解というものは存在しません。ですから、この取り組みでは、どんなゴールをもって、どう取り組むのかということは、各チームで話し合い、実践をするようにしました。

最後は、全員がオーナーシップをもつことです。新メンバーのトランジションを支えるために始めた取り組みではありますが、間もなくして、新メンバーの素朴な疑問や葛藤から、支える側のメンバーにも多くの問いや気づきが生まれました。そうしていつの間にか、新メンバーを「船に乗せる」という意味のオンボーディングから、「地に足を着ける」という意味のグラウンディングという言葉が使われるようになり、全員が互いの学びや成長を支援し合う取り組みに変化していきました。

この3つを大切にしてきたことで、新メンバーのトランジションを支えるだけではなく、すでにヒューマンバリューで働いてきたメンバーにとっても異なる世界(新メンバー)と出会い、両者が対話を重ねることで、共に新たなストーリーを再構成するきっかけになったのが、この取り組みの成果の1つだったのではないかと感じています。

4−2.組織のストーリーの再構成に仲間と取り組む:互いの成長を支援し合うカルチャーづくり

一方で、こうした入社後の支援プロセスも、すべてがうまくいったわけではもちろんありませんでした。採用活動を継続していく中で、残念ながら様々な理由で、入社後間もなく組織を離れる決断をしたメンバーもいました。そうしたこともあって、このオンボーディングや、新入社員に限らないメンバーの成長支援のあり方、なぜ採用活動をするのかといったことについて、振り返ったり、対話を重ねる機会が増えていきました。

そうした話し合いを重ねていく上で、私たちが2018年に採用活動を始めた当初に掲げていた目的に立ち返り、対話を行う機会も増えてきました。私たちの採用活動の目的とは、ただ忙しいから、人が足りないからという理由で、リソースとしての人を採用するわけではありません。この目的はその後、新しいメンバーと共にヒューマンバリューという組織をつくっていく際にも、私たちの拠り所となりました。

対話を継続する中で、多くのメンバーの印象に残っているのが、2019年の社内合宿で行われた対話です。そこでは、それぞれが入社してから今までの経験を振り返って「入社当時に考えていたこと」「現在までにどんなふうに成長してきたか」「成長過程で大切にしていること」などを共有し合いました。さらに、新たなメンバーを採用することで実現したかったこと(採用活動の目的)を、日常で体現できているのかどうか、自らの成長プロセスと合わせて対話ができたことで、この目的が標語としてではなく、リアリティのある言葉として、少しずつ共有できてきた感覚が生まれました。

合宿での対話が大きなきっかけとなり、その後も日常的に様々な問いをもって対話を継続してきました。たとえば、「成長支援が必要なのは新メンバーだけなの…?」「成長って何?」「誰かに成長させられるのは嫌」といったような問いです。1つひとつの対話はとても些細な疑問や誰かの問題提起によって始まることもあり、互いに理解し合えないこと、ぶつかり合ってしまうこともありました。しかし、今振り返ってみると、それぞれ小さな対話の積み重ねが、互いの理解を深め、共通で大切にしたい哲学のようなものを浮かび上がらせてくれたような気がしています。

その哲学とは、たとえば、カルチャー・アッドな採用を行うことです。新メンバーは入社前の人生で大切にしてきた価値観をもっているはずです。ヒューマンバリューという新しい世界に遭遇したとき、それらを手放すのではなく大切にし続け、そのことが組織全体の強みとなることを実現したいと考えています。新メンバーは、「まだ一人前でない」「仕事を手伝ってくれる」という存在ではなく、「共にコラボレーションするパートナー」です。すでに価値ある強みや経験をもっている存在として、リスペクトすることも大切にしたいと考えてきました。こうした哲学は、1つずつ言語化して全員が合意をしたものではありませんが、対話を重ねる中で、少しずつ確実に、私たちの新しいストーリーの一部となっています。

5.企業のキャリア施策で大切にしたいこと 〜個と組織が共にストーリーを変えていくために〜

ヒューマンバリュー社内での「キャリア」や「成長」に関するこれまでの探求を通して、明確な結論が出たわけではありません。まだまだ深く探求していきたいことがたくさんありますが、ここまでの取り組みを振り返ってみて、今現在、私たちが「キャリア」や「成長」を考える上で、また個人のストーリーと組織のストーリーを再構成していく上で、仮説として考えているポイントをいくつかご紹介してみたいと思います。

正解のないものを、共に探求する
まず、人の「成長」を語る上では、誰も客観的な正解をもっていません。そのことを前提に、誰もが問いを生み出し、思い込みやこだわりを手放し、探求する姿勢をもつことが大切であると思います。その姿勢こそが、いま目の前にある経験がキャリアや人生にとってどんな意味や価値があるのかを見出し、それぞれの内的キャリアを育むための支援の土台となるのではないでしょうか。同時に、個と組織の関係においても、個人のキャリアを組織任せにしたり、組織目線のキャリア支援のみを行うような主従関係ではなく、ありたい成長やキャリアの姿を個と組織が共に探求する姿勢が求められているように思います。

大切にしたい哲学を貫く
次に、そうした探求を通して明確になった「大切にしたい哲学」を、組織内の人・組織にかかわるすべてのプロセスにおいて貫く努力をすることです。ヒューマンバリューでの取り組みにおいても、メンバー全員での対話を通して次第に共有化されていった哲学は、採用面接の中でも、新メンバーを迎えるときも、また皆で生み出したいカルチャーを話し合うときにも大切にされてきました。これは、それぞれの場において、時間を掛けて生み出した組織のストーリーが、具現化されていくプロセスだったのではないかと思います。新たなストーリーを共有し続けることと、どんな場面においてもそれを具現化することにチャレンジし続けること、その両方を行ったり来たりするプロセスの中で、新たな意味やストーリーが生まれる瞬間が多々ありました。

対話をし続ける
最後に、最も大切だったと感じているのが、対話を継続することです。私たちは言葉を通して、仲間とアイデアを共有し、意味を生み出していきます。意見の相違があっても、対話を止めることなく継続してこられたからこそ、一人ひとりの中に新たなストーリーが生まれ、組織としてのストーリーが生み出されているのだと思います。そして、このストーリーはこれからも変化し続けていくはずです。ヒューマンバリューにおいても、何かの節目や、問いが浮かび上がってきたときには、共に働く仲間として言葉を交わし、大切にしたい哲学を共有することで、互いの成長を支援し合える存在であり続けられたらと願っています。

おわりに 〜共に探求した皆さまからの感想〜

ここまで、「未来共創オープンラボ・ウィーク2020-人と組織の未来を拓く問い-」のセッション「今私たちが実現したい成長やキャリアのあり方とは?」で紹介した内容をもとに、加筆修正を加えてレポートにまとめてきました。オープンラボでは、参加してくださった皆さんと感想共有やダイアログを行って終了したので、最後に、終了後にいただいた感想の一部を紹介させていただき、本レポートを締めくくりたいと思います。セッションに参加してくださった皆さま、そして何らかのテーマや課題意識をもってキャリア開発に取り組んでいらっしゃる皆さまと、今後も探求を続けていきたいと思います。

◆ 参加者からの感想(一部) ◆

・対話があってこそ、背中を見て育つ
・採用、オンボーディングを丁寧にやっていきたいとあらためて思いました。考え方のヒントをいただきました。
・組織のストーリーを再構成していくという視点が、従来のキャリア開発にはない視点で、でもこの視点がないと進んでいかない気がしました。
・OJTに関してはあまり課題意識がなかったが、今日のセッションを通して「ボーっと生きてんじゃねぇよぉ」って自己反省。もっと課題意識を高くもつ必要性に気づきました。
・ストーリーで自分を語り、さらに対話していく流れ。もっと取り入れていきます!
・「背中を見て育つことは豊かな会話があってこそ」というのが心に残りました。共に成長し合うカルチャーは、お互いのキャリアが対話によって重なり合う中で育まれていくものなのかな。午後のセッションでも探求したいと思います。
・素晴らしいカルチャーを育み続けるには? 探求したいと思います。
・どのような対話を、どのような関係性においてもてるかが、組織のカルチャーにつながっていきますね。
・「コラボレーションのパートナー」にすごく共感しました。技術職が多いので、教える・教えられる関係性は当たり前ですが、それに加えたコラボレーションが大切だと思いました。
・今回ご紹介いただいたような取り組み(culture add、コラボレーションするパートナーとして迎える)を実施するためには“対話が大事“だとあらためて思いました。
・成長のストーリーを語り合うのは、ありかもと思いました。
・対話で成り立つ・地に足を着ける、を探求し直してみます。
・組織の中で必要とされる技術の習得という意味のオンボーディングと、組織の中で、個が認められ、組織の中で相互作用が起きるためのオンボーディング。コラボレーションが自然にできるために両方大事なのかなと思います。
・カルチャーアッドにとても共感しました。自分たちは、理念をあらゆる人事施策に貫かないと意味がないなと思いました。でもどう実現するか、現実を考えるともやもやします。
・対話を始めるきっかけが難しい
・気づきとしては対話の大切さ。問いとしては、個人の価値観を大切にすることを今の自組織にどう当てはめるか。
・人と組織が対話や相互作用を通して、共にしなやかな関係性を育むことが大事だなと思いました。スキルのあり方については、もう少し探求を深めたいです。
・キャリアをみんなで作っていくという考え方、目からうろこでした。人には感情があり、プライベートな時間もあるから、お互いの考え方や生活も共有するのは大事だと思いました。まずは「対話」。できるところから始める。諦めない

※ 参考書籍 ※
・ 水野修次郎・他編(2020)『ライフデザイン・カウンセリングの入門から実践へ〜社会構成主義時代のキャリア・カウンセリング〜』日本キャリア開発研究センター監修,遠見書房
・ ケイ,ビバリー・他(2020)『会話からはじまるキャリア開発〜成長を支援するか、辞めていくのを傍観するか〜』(佐野シヴァリエ有香訳)ヒューマンバリュー出版

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