「成功の循環」を根幹に、成果を高め続ける組織経営
〜 野村證券 奈良支店のコア・セオリー 〜

急速なAIの技術進展や不安定な国際情勢により、ますます不確実性の高まるビジネス環境。それでも当然のこととして、企業はそのパーパス/ミッションに応じて、顧客に貢献し価値を創造し続ける必要があります。
カオスな環境においても持続的に成果を高め続けるには、どんな組織づくりが大切になるでしょうか。野村證券 奈良支店の支店長を務める竹村さんは、同社の複数の部署・支店を歴任するなかで、Ocapi*を活用し、「成功の循環」を根幹に据えて組織づくりに取り組まれてきました。
本インタビューでは、その実践のストーリーについて、同支店で組織開発のリーダーを務める今藤さんも交え、オープンに語っていただきました。
対話のお相手は、ヒューマンバリューの霜山・内山が務めます。
*Ocapi:組織・チームを「関係・思考・行動・結果の質」の循環で捉え、それぞれの状態を可視化して、アクションにつなげていくアンケートツール(Webアプリ)
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1. 野村證券 奈良支店での取り組み
2. 組織が変化する要因を探る
3. 背景にある、組織経営の哲学とコア・セオリー
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1. 野村證券 奈良支店での取り組み

写真左:野村證券株式会社 奈良支店長 竹村 正寛さん
写真右:奈良支店ウェルス・マネジメント課 今藤 千愛さん
—— 本日はお時間いただき、ありがとうございます。最初に、野村證券 奈良支店で、どのような組織開発の取り組みを展開されているか、伺ってもよろしいでしょうか。
竹村さん:奈良支店としては、まずは支店のパーパスをつくることを起点にスタートして、「成功の循環」モデルを回していくことをコアに取り組んでいます。
そのねらいですが、組織開発はパーパスを実現していく手段と位置づけて取り組んでいます。それなしには、持続的な組織の成長と個人の成長はありません。 強い号令やプレッシャーで、短期的な成果を追い込むようにマネジメントすることは、一見簡単かもしれません。でもプレッシャーだけでは、人は継続できません。マネージャーに求められる責任は、人材育成も含めて継続的に成果を出し続けることで、それをやるためには、組織開発に取り組むことが必須であると考えています。

*成功の循環モデル:組織における成功のメカニズムを「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」の循環として捉えたモデル。MIT組織学習センター共同創始者のダニエル・キム氏によって提唱された。(詳細)
—— 具体的には、どのように取り組みを進めているのでしょうか。
竹村さん:支店の中で部署横断の組織開発チームを立ち上げて、奈良支店独自のパーパスをつくるところから取り組みをはじめました。
Ocapiを活用しながら、約80名の社員を複数グループに分けて、自分たちの強みや、ありたい姿について話し合う場を、継続的につくっています。その場をファシリテートしているのが、今藤さんです。

今藤 千愛さん
今藤さん:最初は竹村支店長にOcapiのことを教えてもらい、Ocapiのホームページで用意されているハンドブックや記入シート等の一連のパッケージ*を使いながら、対話を進めました。
「アンケートの結果を見て、皆さんはどう思ったのか」を中心に話し合い、データとしても蓄積しています。現在は2回目を実施したところで、少しずつではありますが変化が現れています。

野村證券奈良支店の取り組みの様子
* Ocapiでは、HP上で話し合いの進め方やポイントがまとまった進行用資料(スライド)やワークシートがダウンロードできるようになっている https://ocapi.jp/guide
—— 支店の中では、どんな変化が生まれているのでしょうか?
今藤さん:1番の変化は、社内の雰囲気です。取り組む前後では、違う職場にいるという感じがするほどです。私自身、以前は緊張してしまっていて、周囲に対して控え目な姿勢でしたが、今は皆がオープンに話せる楽しい雰囲気の中で仕事ができるようになりました。
結果的に、職場の中で小さなことでも仕事の相談がしやすい環境になっています。組織開発の対話を機に、仕事終わりに飲み会に行くなど、お互いの職場以外の一面も知ることが増え、話しやすい雰囲気が少しずつ生まれていったように思います。
竹村さん:奈良支店に着任してから約1年が過ぎましたが、まずは雰囲気が良くなっていることを感じられるのが、大切な変化だと思います。我々のビジネスでは、多種多様なソリューションがありますし、お客様のニーズも複雑です。お客様に最善の提案をするには、上席のアドバイスや経験を活かすことが必ず必要です。
また、人の成長とか組織の成長のために、時には厳しいことを言わなければなりません。それを素直に受け止め、時に歯を食いしばって一緒に取り組むには、やはり関係の質が大切になります。だからこそ、関係の質が高まること、心理的安全性が確保されることは、組織の成果に直結します。

竹村 正寛さん
—— こうした組織開発の取り組みは、支店の成果やビジネスにもつながっているのでしょうか?
竹村さん:成果を生み出すには、実際に成果につながる行動を起こすことが必要です。ただ、いきなり行動変容を促すだけでは、持続性がありません。まずは、何を目指しているのかの方針をオープンに共有するやり取りを重ねながら、少しずつ関係の質を高めていくことを重視していました。
そして、関係・思考の質が高まってきたタイミングで、期間を区切ってお客様への行動の質を高めていく取り組みも行いました。関係・思考の土台があるからこそ、そうした取り組みは一過性に終わらず、成果にもあらわれています。実際にこの1年を通じて、奈良支店のKGIの指標も上がってきました。
2. 組織が変化する要因を探る
竹村さんは、複数の支店長を歴任する中で「成功の循環」モデルをもとに組織開発を展開し、持続的な成果向上へとつなげていくご経験を重ねてきました。なぜ、そうした変化が生まれていくのか。奈良支店の事例を通じて、その要因を伺っていきます。
組織づくりは感覚ではなく、プロセスの段階を追って取り組んでいく
—— 職場の雰囲気が良くなっていると伺いました。職場の雰囲気や関係の質はつかみどころがなく、捉えづらい側面もあります。実際に変化が起きているのは、何がポイントだと思われますか?
竹村さん:これはもうまさに、Ocapiの項目である5段階のプロセス指標を活用することにあります。Ocapiのアンケートに答える時に、「自分が、自信を持って5にもっていけるか」と問いながら回答する。例えば、関係の質は「挨拶」から始まって、最終的には、「未来に対してどうか」「協働・共創はどうか」といったレベルに高まっていく。とても幅広いですよね。

Ocapiによる組織変革プロセス指標(41項目のプロパティ)
指標を一つひとつ、最初の質問(レベル1)からスタートして、各段階で、「できているな」となれば、間違いなく雰囲気が良くなっていくんです。だから、最初は挨拶ですよ。
霜山さん:なるほど。雰囲気というのも、単に感覚に任せているのではなくて、Ocapiの項目を自ら指標として活用して、少しずつ高まっているプロセスを感じ取れているんですね。
竹村さん:そうです。社会人になってから、色々な経験を重ねてきました。ワールドカフェ*とかコーチング*とか、他にも色々と学んだことがあります。一つひとつは「ああ、大切だな」と思うんですけど、それらを体系だって整理できてきたかと言われると、それは出来ていなかったかもしれません。その中で、Ocapiのプロセス指標は、自分のこれまでの経験を統合的に認識して実践に活かすのに、非常にいいですね。
*ワールドカフェ:人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる「カフェ」のような空間からナレッジを創発する話し合いの方法
*コーチング:答えを教えるのではなく、本人の主体的な選択と気づきを引き出し、実践を通じて自ら学び続けることを支援するコミュニケーションの方法
霜山さん:まさにダニエル・キムさんがデミング博士の言葉として紹介されていた「セオリーがないと経験から学べない」ということに通じますね。*セオリーなしでは、日々起きる無数の出来事や変化から意味を見出せません。
竹村さん:そう思います。ほとんどの人は、組織開発の大切さや方法論を断片的に理解していると思うんです。雑談した方がいいとか、飲み会をやろうとか、ワールドカフェという対話の手法があるとか。でもそれだけだと、時間軸がありません。「最近ちょっと雰囲気が悪くなってきた。食事会やろうか」という風に、その場だけで終わってしまう。
霜山さん:なるほど。多くのマネージャーは、トータルの経営のなかで組織づくりを位置付けて取り組めていないのかもしれません。自分なりに何かしら工夫したり、取り組まれているが、その次に何に取り組むかをイメージできないために、組織開発が単発で終わってしまう例は良くありますね。
竹村さん:そうですね。例えば、飲み会はもちろん良い機会ですが、重要なのは段階を追ってやれるかどうかです。あらゆる機会を生かしながら、一連の段階を高めていく。成功の循環サイクルを大きくしていけるかを見通していくことが大切です。
*参照元:成功は、関係性から始まる 〜ダニエル・キム博士とたどる「成功の循環」の軌跡〜
組織開発と成果向上を統合する
—— そうした職場の関係の質の変化が、実際に支店の成果向上にもつながっているとお聞きしました。一方で、「関係の質から始まる成功循環」を目指していても、日々の業務に多忙な職場だと、取り組みが停滞したり、一部の人から反発が起きることもあると思います。そうしたジレンマには、どのように向き合っていますか?
竹村さん:一つには、マネージャーの理解が取り組みの土台になります。マネージャーにとって組織開発と業績向上というのはイコールだし、「関係の質がないと、持続的な成果は実現しない」ということを理解した上で、組織開発に取り組むことが鍵だと思います。
実際、組織開発の取り組みをするには、関わる人全員の業務時間を割く必要があり、そのことに躊躇する瞬間もあります。ただ、普段の業務時間中は、多くの業務があり、組織開発を日々の業務の中に組み込むのはなかなか難しい。意識して、組織開発のための時間を割き、継続していく必要があります。
1番熱量が下がるのは、組織開発に主体的に取り組んでいるメンバーがいる時に、ベテランやマネージャーが冷めていることです。そのような環境にならないようにマネージャーには意図して伝えているし、奈良支店のメンバーは、一定の共通認識ができているように思います。

3. 背景にある、組織経営の哲学とコア・セオリー
「成功の循環」モデルを中心に据えた組織開発を展開してきた背景には、どのような人・組織の哲学があったのでしょうか。同時に、それをどのようなコア・セオリーの元で実践されてきたのか。竹村さんに伺いました。
内発的動機から、学習と変化がはじまる
—— 竹村さんは、現場の支店だけでなく、人材開発部で全社の人材開発・組織開発に関わるご経験もされているかと思います。そうしたご経験も経て、大切にしている人・組織の考え方はありますか?
竹村さん:それは「内発的な動機がないと、人は変わらない」というところですね。人材開発部内で当時、頻繁に交わされた格言に、「卵は外から割られれば生命を失う。内から割れれば生命が生まれる。」という言葉がありました。
自分が支店のメンバーとして働いていた当時、「私の言う通りにしてみなさい」って、他人を外側から変えようとしていたんです。
でも、人材開発部に所属して、新入社員に関わっていると、みんな一生懸命学ぶし、一生懸命取り組みます。何かの役割を与えると、何も教えてなくても、自分たちで調べて、チームをつくるようになっていく。
やっぱり一人ひとりの想いや情熱があって、適切な役割があれば、そこから人は成長していくことを体感しました。

霜山さん: 「人は生まれながらにして内発的に学ぶ喜びを持ってる存在なんだ」という、ダニエル・キムさんのメッセージと重なるところを感じました。*それをご自身で体感され、支店経営を任されている中でも、取り組んできていらっしゃるんですね。
*参照元:成功は、関係性から始まる 〜ダニエル・キム博士とたどる「成功の循環」の軌跡〜
自分たちでつくるパーパスが、組織の土台になる
竹村さん:そうですね。「会社が言ってるから、やらなければいけない」とか「これをやったら、あなたの成績・評価がどうなる」とか、そういう言葉は内発的動機を下げてしまいます。数字でプレッシャーをかけても、それではモチベーションが続きません。「なぜやるのか」とか、「どういう思いでやるのか」というところを大事にする。特に、若い世代の人たちは、「自分のため」とか「会社の独りよがり」な動機を敬遠する傾向にあると思います。
ですから、組織開発の取り組みを始める際は、まず自分たち(支店)のパーパスを皆で検討するところから始めています。実際に、これまで支店のメンバーと検討してきた支店のパーパスは、地域社会やお客様への貢献に根差したものです。自分たちが自ら掲げたパーパスが、根源的に追求するものであれば、普段の発言や行動もそれに沿うものにしようとする規律が生まれます。
霜山さん:「会社が言ってるからやれ」じゃなくて、「これに取り組むのは、お客様へのこういう貢献になるから、この地域のこういう貢献になるから」という思考に変わっていくんですね。
竹村さん:はい、おっしゃる通りです。パーパスを軸に、関係・思考の質が上がっていきます。ですから、パーパスを作るというのも、それ自体大事なことではあるんですが、本来的にはその作るプロセスを「皆でやる」ということが非常に重要です。皆で検討すれば、当然支店のパーパスが皆のものになるし、同時に関係の質、思考の質が上がっていく起点になります。パーパスは、成功の循環サイクルを回していく、組織づくりの源泉になりうるものです。
信頼と規律を併存する。自己規律の組織をつくる
—— 竹村さんが成功の循環サイクルを回し、日々高めていくなかで、特に大切にされていることや考え方はありますか?竹村さんご自身のコア・セオリーと言えることかもしれません。
竹村さん:私自身、特に関係の質を大切に「成功の循環」モデルをコア・セオリーにマネジメントしています。その時に、成功の循環がサイクルとして実現する核にあるのは、信頼と規律が併存していないといけません。
組織開発にありがちなのは、研修とかワークショップの場では熱を帯びても、現場の変化には繋がらないということがあると思います。そうした時によくあるのは、こうした取り組みが「息抜き」とか「緩い取り組み」という捉え方になってしまっています。
しかし本来的には、関係の質を高めていくことは全く緩いものではなくて、中長期で成果や価値につなげていくタフな取り組みです。
信頼と規律をどう調和させるか、バランスさせるか。それができる組織に、成功の循環サイクルが回っていきます。
霜山さん:なるほど。たとえお互いの相互理解があっても、規律がないと組織として同じベクトルを持って発展していけない、成長していけない。他方、組織の規律だけ強くあっても、働き続けるうちに働く人が疲弊してしまう。
お互いの関係の質を高めながら、規律をつくっていくことがすごく大切になりますね。
言い換えると、組織で働く人たちが自己規律を働かせられるような状態をつくっていると言えるかもしれません。それは、ただ仲良くなればいいってわけじゃなくて、結構負荷がかかることですし、自分自身も問われるってことですね。
今藤さん:お話を伺って「自己規律」という意識はすごく大切だなと思いました。現状では、私たちはまだスタートラインに立っているくらいかなと思います。「自分たちで組織をつくっていかないといけない」という意識を、誰もが当たり前に思うようになれば、支店は今以上に大きく変わっていけるように感じました。
—— ありがとうございます。最後に、これまでの実践を振り返ってみて、あらためて、組織づくりに取り組んでいるマネージャーや、組織開発を推進している方々に、ぜひメッセージをお願いします。
竹村さん:一つひとつの取り組みは、とても簡単です。まずは挨拶する。誰でもできます。そういう小さなことを、成果が出るまでやり続ける。こうありたいという組織になるまで、やり続けるということですね。
加えて、もし組織開発に100%情熱をかけている場合には、最終的に組織の結果にこだわる強い意志を持って取り組むことが大切です。組織開発だけに注力したら、ふわっとした取り組みになってしまいます。一方、結果ばかり追っているとすれば、それでは組織の持続性がありません。関係の質から高めていく地道な取り組みが必要です。
一つひとつやればできる当たり前の取り組みを、長い時間軸で取り組んで、結果につなげていく。地道な実践と、結果へのコミットメントを両輪で進めていくことが大切だと思います。

2026年4月24日 野村證券奈良支店にて
終わりに(組織経営の要諦としての「成功の循環」モデル)
「成功の循環」モデルは今は広く一般的に知られた理論と言えます。一方で、それを単に知識として知っているか、組織経営のコア・セオリーとして内面化しているのかに、大きな違いを感じられるインタビューになりました。
野村證券奈良支店における竹村さんの組織づくりのプロセスにおいて、特に印象的だったのは、取り組みには常に複層的な意図があり、繋がりあっていることです。
例えば、パーパスを考える際も、パーパスをつくることだけを目的にするのではなく、その裏側には、パーパスに関する対話を通してお互いの相互理解を高め、関係の質を高めていくねらいがありました。
行動変容を促す取り組みにおいても、行動だけを目的にするのではなく、KGI向上といった具体的成果(結果の質)につなげることで、職場で働く人の自信を高め、さらなる相互信頼(関係の質)という次の循環につなげています。
何かの取り組みを行う時に、常に、短期的なねらいの先にある長期的な「成功の循環」を意識して取り組む姿勢が、持続的に成果を高め続ける組織経営の要諦であると実感しました。
そしてその実践の根底には、変革のプロセス指標(Ocapiのプロパティ)を内面化し、地道な実践も厭わない、揺るぎない「あり方(Being)」があります。
竹村さんや野村證券奈良支店で働く方々の実践には、「成功の循環」モデルの意義や可能性、マネジメントのあり方を考える上での多くのヒントが散りばめられておりました。こうした素晴らしい実践を続けていかれた先にどんな価値がさらに生まれていくのか、奈良支店の皆さんが紡いでいくこれからのストーリーが楽しみです。
ヒューマンバリュー 霜山・内山
