エンゲージメント・サーベイの活用
ヒューマンバリューでは、1990年代後半から徐々に企業の中で取り上げられ始めた「エンゲージメント」という概念について、研究と実践を積み重ね、2003年にエンゲージメント・サーベイを活用した組織変革の取り組みを始めました。
そして、2020年には、個人と組織がより対等な関係を築くようになった時代の潮流を踏まえ、「個人と組織がありたい関係性を共に育むこと」を目的とした対話ツールとして、エンゲージメント・サーベイをアップデートしました。
具体的には、「個人が主体となって多様な働き方や生き方を実現すること」「変化の激しい時代の中で、組織が変化し続ける力を育むこと」に重きを置いて、指標、レポート、活用プロセスをデザインしています。
サーベイの改訂にあたっては、これまで蓄積してきたエンゲージメントに関わる過去のデータやリサーチから見えてきた仮説をもとに、ビジネスパーソン1万人を対象としたアンケート調査を新たに行い、モデルを検証しました。
関連するキーワード
エンゲージメントが求められる社会的背景
現在の企業を取り巻くビジネス環境は、VUCAという言葉で表されるように、不安定で変化が激しく(Volatility)、先が読めず不確実性が高く(Uncertainty)、複雑で(Complexity)、曖昧(Ambiguity)です。そのような環境の中では、一部の優秀な人材が、正解を導き出し、その他の人々はそれに従うというような従来のピラミッド型の企業形態や企業文化では、新たな価値を創造し続けることや継続的に成果を高めることが難しくなってきています。
また、個人の働き方においても、現在は「人生100年時代」と呼ばれ、単に所属する組織に身を委ねるのではなく、自分自身に合った働き方・キャリアを、自律的に構築していくことが求められる時代となりました。
こうした時代の中で、変化を捉え、進化し続けている企業は、人と組織の新たな関係性を模索しています。それは、従来のような「雇用される側」と「雇用する側」に分かれ、組織に対して人が従属するような関係性から、組織のビジョンやバリュー、人・組織のあり方・哲学を軸に、人と組織が対等な立場で関わり合う関係性へのシフトでもあります。
新たな関係性へシフトしていくには、組織は、一人ひとりの主体性が生かされ、多様な人々の力が最大限に発揮されるように、組織形態、チームの関係性、マネジメントのあり方といった企業文化を問い直す必要があります。また、個人は自身の「仕事・生き方・働き方」に対する捉え方などのマインドセットを認識し、自分らしく組織や社会に関われる状態を探求する必要があります。
そうした変化の中で、「エンゲージメント」が今、あらためて注目されています。
エンゲージメントとは
ヒューマンバリューでは、エンゲージメントを『「組織」と「個人」が共に成長し、貢献しあう関係』と定義しています。
エンゲージメントの概念も、時代とともに変化しています。「エンゲージメント」は当初、自組織の生産性を高めることやパフォーマンスを発揮してくれる人材を引き止めるための重要な指標、つまり、企業を中心においた関係性(カンパニー・センタード)の概念として捉えられる傾向にありました。しかし、組織のあり方が多様化し、人と組織がより対等な関係で価値を生み出していく現在の状況では、「組織と個人が共に成長する」ことが重要となってきています。こうした変化を受けて、エンゲージメントの概念も、個人の多様な強み・価値観・人間性の発揮や人々との関わり合いを中心においた関係性(ピープル・センタード)から、捉え直すことが大切になっています。
こうした、個人と組織が共に成長に貢献しあう関係性(エンゲージメント)は、どちらか一方の努力だけでは、継続的に育むことはできません。
組織で働く多様な人々が、「自身はこの組織でどのように貢献したいのか」「自組織に求められている変化とは何か」「組織や個人はどのようにつながり、関係を育んでいくのか」を共に探求し、個人と組織が生成的に変化していくことが大切です。
エンゲージメント・サーベイの構造
エンゲージメントを探求するためには、「個人の状態」と「組織の状況」の2つを明らかにし、影響関係を明らかにすることが大切です。
そのためエンゲージメント・サーベイでは、エンゲージメント・マインドセット(個人の状態)に関する5項目と、エンゲージメント・カルチャー(組織の状況)に関する9項目を定義し、それらを数値化したレポートを出しています。
エンゲージメント・サーベイを活用して、関わるステークホルダーがそれぞれのありたい姿や大切にしていることを描き、皆で様々な影響関係を捉えながら、「個人と組織のありたい関係性」を探求することで、「個人」と「組織」の両方の取り組みを生み出していきます。
エンゲージメント・サーベイ組織版レポートのサンプル ※個人版のレポートもあります
<エンゲージメント・マインドセットとは>
仕事・働き方・生き方に対する捉え方など、エンゲージメントを育む「個人の思考様式や心理状態」のことです。その結果を用いて、自身のありたい働き方や生き方、個人の強み、価値観を探求することができます。
<エンゲージメント・カルチャーとは>
組織に根付いている行動様式・価値観・人々の関係性など、エンゲージメントを育む「組織の文化」のことです。現状に対する理解を深めた上で、組織のありたい姿の実現に向けて、阻害要因となっているところはどこなのかといったことやレバレッジについて、皆で探求することができます。
エンゲージメント・マインドセットとエンゲージメント・カルチャーの2つの結果を活用して対話を行うことで、生み出したい個人と組織の状態を探求し、共に関係性(エンゲージメント)を育むことを目指します。
エンゲージメント・マインドセット
"仕事・働き方・生き方に対する捉え方など、エンゲージメントを育む「個人の思考様式や心理状態」”
Engagement Mindset
<グロース・マインドセット>
「誰もが自分の努力によって能力を高めたり、成長することができる」と考え、仕事や周囲の人に向き合えている度合い。「グロース・マインドセット」が高ければ、失敗を恐れず、他者からの評価よりも自分自身の成長や価値を生み出すことに注力し、学びや成長が楽しくなります。
<組織への共感>
自分の大切にしていることと、組織のミッション・バリューがつながっていることが大事だと考え、そのつながりを実感できている度合い。「組織への共感」が高ければ、組織のミッションやバリューを日々の仕事の中で体現し、自分の成長が組織の成長につながっている実感をもてるようになります。
<心身の健全性>
肉体的、精神的に健やかで、自分らしくいられると感じている度合い。「心身の健全性」が高ければ、自分が本来もっている力を十分に発揮できるようになります。
<貢献感>
顧客、組織、周囲の人々へ貢献できているという実感をもてている度合い。「貢献感」が高ければ、強みを生かし、自分の可能性を高め続け、価値を生み出そうとする傾向が強くなり、自分自身の存在意義を感じやすくなります。
<仕事の充実感>
仕事に対する使命感や働く意味、情熱が高まり、楽しさや喜び、人生の充実感を感じている度合い。
エンゲージメント・カルチャー
”組織に根付いている行動様式・価値観・人々の関係性など、エンゲージメントを育む「組織の文化」”
組織の状況 (Engagement Culture) |
内容(私自身が組織の状態をどのようにして捉えているか) |
||
1 | (はぐくみ) 成長支援 |
成長機会 | 組織がメンバーの成長を支援し、メンバーが自身の成長機会を生かしている状態。ここでの成長とは、単に昇進昇格を目指したり、 専門 知識やスキルを身につけることではありません。さまざまな経験を成長の機会と捉え、一人ひとりの成長に生かす支援を行うことです。 |
2 | エンパワーメント | 上司が、メンバーの主体的な行動により生み出される価値や未来の可能性を信じて、メンバーに関わっている状態。 |
|
3 | 価値・成長志向の人事評価制度 | 人事評価がメンバーの意欲や成果の向上に役立っている状態。制度の良し悪しだけではなく、上司とメンバー間の目標設定や、振り返り、 評価のフィードバックが、価値を生み出すことや成長のために行われていることです。 |
|
4 | (いかしあい) ダイバーシティ |
チームの共創力 | 組織の一人ひとりが互いの想いや背景を共有し合い、チームとして学び合えている状態。単に仲が良いだけではなく、 苦しんでいることを素直に伝えたり、気軽にアイデアを提示し、より良くするためのフィードバックをし合える関係のことです。 |
5 | インクルージョン | 一人ひとりの異なる特性や個性を認め合い、互いの強みや価値観を共有、尊重し、質の高いコラボレーションが実現できている状態。 |
|
6 | 多様な働き方 | さまざまな状況にあるメンバーが、働きやすいと感じている状態。制度や福利厚生等の仕組みの充実ではなく、多様な働き方に対し、 本人および周囲の状況を考慮し、多様な働き方の促進を支援することです。 |
|
7 | (しなやかさ) 組織力 |
共有ビジョン | 日々の仕事の中で、組織のミッションやビジョンが具現化され、実現したい状態に向けて、メンバーが協働している状態。 |
8 | 変化を生かす力 | 不透明で複雑性の高い状況の中で、変化を機会として生かし、素早く柔軟に対応している状態。ここでの対応とは、変化を予測し、 着実に準備を行うというものではありません。自組織の強みを生かして、変化を機会として捉えることです。 |
|
9 | パーパスの探求 | 組織や自分自身のありたい姿、自分たちの価値観や行動を、社会や環境との関係から見直し、変え続けている状態。 |
エンゲージメントを育むポイント
ありたい姿を描く:未来志向のプロセスデザイン
「毎年サーベイを取っているが、活用できていない」「課題は明らかになっても、改善・改革にはつながらない」ということをよく聞きます。仮に、サーベイ結果をもとに、あるべき基準に照らして、問題点を指摘しても、課題が外側から与えられるだけで、「個人と組織をより良いものにしていこう」という個人の主体性や、組織が変わっていく力は育まれません。
主体的に変化し続ける組織になるためには、外側から与えられる「あるべき姿」を目指して行動するのではなく、自分たちが実現したい「ありたい状態」を描くことが大切です。「ありたい状態」を描くことで、「ビジョンに近づきたい」という主体的な力が生み出されます。
個人と組織の影響関係を捉える
一人ひとりの思考や行動は、組織の文化に影響を及ぼし、組織の文化もまた、一人ひとりの思考や行動に影響を及ぼします。そのため、サーベイ結果の得点を見るだけでは、個人や組織の真の状態を把握することはできません。
サーベイ結果を見ながら、関わる人々で、得点の背景にある想いや捉え方、組織の文化等について共有し合うような対話を行い、個人と組織の影響関係を捉えることで、次第に組織の全体像が明らかになっていきます。その上で、皆でアクションを生み出すことが、組織を本質的に良くしていくことにつながります。
診断ではなく、自律・生成・探求を支援するサーベイの活用
サーベイには、「分析・診断」を目的としたものもありますが、ヒューマンバリューのエンゲージメント・サーベイは、自分たちの「自律・生成・探求」を支援することを目的としています。「分析・診断」型のサーベイのように、組織に正解があるという前提の上で、正解との差分を分析・診断して課題とするのではなく、組織のありたい状態や取り組みは、自分たちで生み出すことを前提としています。
エンゲージメントを育むためには、対話のプロセスを通じて自分たちで「ありたい姿」を描き、現状を捉え、自分たちで取り組めるアクションを生み出していくことが大切です。エンゲージメント・サーベイは、こうした営みをサポートする対話のツールとして活用していきます。