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システムシンキングカンファレンス

System Thinking in Action 2003

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1.システムシンキング・イン・アクションについて

「システムシンキング・イン・アクション」とは、書籍「フィフス・ディシプリン」("The Fifth Discipline"、邦題:「最強組織の法則」)の著者ピーター・センゲ氏(Peter Senge)の提唱するラーニング・オーガニゼーションやシステムシンキングに関する様々な組織の取り組みと新しい考え方などをシェアする場として、1990年よりスタートした国際カンファレンスである。

このカンファレンスには、ラーニング・オーガニゼーションを研究するリサーチャーやコンサルタント、また導入企業の推進者、そして最近では、政府関連やNGOといった団体など多様なバックグラウンドをもつ組織の人々が、世界中から集結している。その中では、実践例や具体的な効果、問題点などについて先進的な議論が組織の垣根を越えて活発に行われており、世界のラーニング・オーガニゼーションの動向を知るうえで、欠かせないものとなっている。

日本においては、ラーニング・オーガニゼーションやシステムシンキングのコンセプトが紹介され始めた当初こそ、あまり浸透していなかったが、近年、先進的な取り組みを行う企業を中心として、導入や実践が進み始めている。また、2003年9月には、「フィフス・ディシプリン」の続編である「フィフス・ディシプリン・フィールドブック」("The Fifth Discipline Fieldbook"、邦題:「フィールドブック:学習する組織5つの能力」)が発行されるなど、日本における注目度もますます高まっていることがうかがえる。

今年も、ラーニング・オーガニゼーションに関する最新動向を把握するために、弊社から2名が、システムシンキング・イン・アクション2003に参加した。本レポートでは、同カンファレンスの概要と具体的に話し合われたテーマについて報告することにする。

2.カンファレンスの概要

2.1 カンファレンスの構成

今年のシステムシンキング・イン・アクション2003(System Thinking in Action 2003)は、2003年10月8日~10月10日の3日間、米国マサチューセッツ州ボストン市のシーポートホテル及びワールドトレードセンターにて行われた。

カンファレンスの構成は以下のとおりであった。

①キーノートセッション(Keynote Session:基調講演)

本年度は以下の9人により、6つの基調講演が行われた。

・アダム・カヘン氏(Adam Kahane)
ジェンロン・コンサルティング(Generon Consulting)の創設者の一人で、多様な人々からなるグループのデザイン、及びファシリテーションの権威である

・ルイス・ハリー・スペンス氏(Lewis Harry Spence):マサチューセッツ州のソーシャルサービス部門コミッショナー、

・イレーヌ・B・ジョンソン氏(Elaine B Johnson):エムビーエム・アソシエーツ(MBM Associates)のエグゼクティブ・ディレクター
 H・トーマス・ジョンソン氏(H. Thomas Johnson:イレーヌ氏であり、ポートランド州立大学(Portland State University)の品質マネジメントの教授

・デビッド・トーマス氏(David Thomas):ハーバードビジネススクールの教授であり、メンタリング、エグゼクティブの能力開発、多様な職場の管理における権威

・モリー・ボルドウィン氏(Molly Baldwin)、ジェーソン・ゲバーラ氏(Jasson Guevara)、セーラ・ピント氏(Sayra Pinto):マサチューセッツ州におけるホームレスやギャングといった不遇な若者を支援するコミュニティ"ROCA(ロカ)"のメンバー

・ピーター・センゲ氏:書籍「フィフス・ディシプリン」の著者であり、ラーニング・オーガニゼーションの提唱者である

②コンカレント・セッション(Concurrent Session)

システム思考やラーニング・オーガニゼーションの考え方を実践・研究している各国の人々により、24のセッションが開催された。

③クリニック(Clinic)

今回のカンファレンスにおいても、例年同様、以下の2つのクリニックが開催されていた。

 ・コーチング・クリニック(Coaching Clinic)
 ・コーザル・ループ・クリニック(Causal Loop Clinic)

2.2 参加者の概要

今回で13回目を迎える同カンファレンスには、世界各国から、約750名の参加者が、30を超えるセッションやワークショップに参加した。日本からは、NTTメディアスコープ、九州大学、日本ベクトン・ディッキンソン、及び弊社(ヒューマンバリュー)から計6名が参加した。

今年の印象として、昨年度よりも米国以外からの参加者が多かったように感じられた。主な企業では、ボーイング、デュポン、GAP、ヒューレット・パッカード、インテル、シェル、サン・マイクロシステムズ、ユニリーバなどが参加していた。また、昨年から引き続き見られる傾向として、教育団体、政府機関、NPOといった社会的な組織からの参加者が増加し、参加組織が多種多様化していることが挙げられる。今年は、その中でも特に、教育関連団体の参加者が目立っており、全米の教員組合であるNEAからは70人もの参加者が派遣されているとのことであった。

こうした状況を受けて、今年は、プレコンファレンス・セッション(Pre-conference Session)においても、ノンプロフィット・ギャザリング(Non-profit Gathering:NPOで働く人々のミーティング)や、エデュケーター・ギャザリング(Educator Gathering:教育者たちのミーティング)が行われ、その中で、ヘルスケア環境、教育等に関する問題をラーニング・オーガニゼーションの手法やシステムシンキングを活用して考える機会が提供されていた。

今、様々な組織が直面している問題を突き詰めると、本質的には、企業も学校もNPOも変わらなくなってきているといえる。そういった意味で、異分野の組織が取り組んでいることから互いに学び合えることが、これからますます多くなってくるのではないだろうか。本カンファレンスにおいても、これからの企業が目指す組織における1人ひとりのあり方(リーダーだけでなく普通の人々も含む)について、企業の観点だけでなく、様々な分野からの示唆を得る良い機会となった。

2.3 カンファレンス全体の雰囲気

昨年のカンファレンスと比較して最も異なる点は、全体として、参加者間の相互作用を高めるための大がかりな仕組みが、大幅に減っていることが挙げられる。具体的には、同カンファレンスの1つの象徴であったワールドカフェ・メソドロジーを使ったカフェスタイルのテーブルが、今年はなくなっていた。また、ファシリテーターが質問をOHPに書いて用意しているというようなことも少なくなっており、劇などの派手な演出もなくなっていた(ただし、参加者用の椅子の数を適正の数に保ったり、食事や食事用のテーブルが用意されるなど、参加者に対するホスピタリティを保ち、会話を促進するために最低限必要なラインの環境整備は十分にされていた)。

この点について、カンファレンス全体のファシリテーターであるMIT教授のダニエル・キム氏(Daniel Kim)は、以下のようなコメントをしていた。

「今回、ワールドカフェ・メソドロジーの手法をカンファレンス全体に適用しなかった理由として、1つには、会場のセッティングの事情(柱が多くてテーブルが置けない)や予算の縮小といった物理的な要素があります。
しかし、より大きな理由としては、カフェスタイルのテーブルはあくまでコミュニティの象徴に過ぎず、コミュニティやダイアログのスピリットさえあれば、もうそんな設備に頼らなくてもよいのではと考えたのです。

このコメントからは、本カンファレンスの参加者が、コミュニティのメンバーとして成熟してきたと主催者側が判断したことがうかがえる。つまり、システムシンキングのカンファレンスも13年目を迎え、メンバーもカンファレンスのスピリットや価値観を十分に理解・共有してきたので、設備や仕掛けに頼らなくても、相互作用の高いダイアログを行うことができるとの判断があったといえる。

これは企業や他の組織においても、ダイアログなどを導入するときは、最初はあの手この手を使って相互作用を高める努力をするが、組織が成熟化すると、何もなくても、ただ集まっただけで日常的にダイアログが行われるのと同様のことと考えられる。
また、そういった成熟度の高い参加者の影響から、今年初めて参加するメンバーも、他のメンバーとの相互作用を十分に楽しんでいるように感じられた。そういった意味では、今回のカンファレンスは、外見だけを見ると、一見後退したようであるが、組織の成熟度という観点から見ると、実は進化したものだったと感じられた。

3.カンファレンスの全体的な傾向及びテーマ

3.1 「未来への適応」から「未来の創造」へ

昨年からのシステムシンキングカンファレンスの特徴として、システム図やシステムダイナミクス、シミュレーション、システム原型といったものが姿を消し、代わりに、多様なバックグラウンドをもつ人々と探求を行うダイアログのウェイトが著しく高まっていたことが挙げられる。

オープニング基調講演を行ったジェンロン・コンサルティングのアダム・カヘン氏は、1980年代にシェル石油においてシナリオプランニングを行っていたが、その後南アフリカやグアテマラといった紛争の続いてきた地域における民主化へ向けてのビジョン構築の支援を、現地のプロジェクトチームとともに行ってきた。

彼の講演の中で、印象的だったのが、次の言葉である。

我々は、シェルで使っていたのと同じ方法論(シナリオプランニングやシステムシンキング)を使っているにも関わらず、南アフリカのプロジェクトにおいては、何か違うエネルギーを感じました。
次第に明らかになったのは、方法論は全く同じでも、目的が基本的に違ったということです。シェルでは、どんな未来が来ても、会社がその未来にうまく適応するために、システムシンキングを使ってきました。
しかし、南アフリカのプロジェクトにおいては、よりうまく適応するためではなく、新しいよりすばらしい世界を創造するためのものだったのです。これが、根本的に違うエネルギーをチームにもたらしました。

このアダム・カヘン氏の言葉に代表されるような考え方の違いが、本カンファレンスに集まるコミュニティについても同様に起きていると考えられる。システムシンキングが注目され始めた当初は、どちらかというと、企業が社会にどう適応していくかという戦略的な側面が強かったように思われる。そこから、マイクロワールドをつくってシミュレーションを行うことで、未来を予測し、変化に適応できるようにしたり、システム原型やシステム図からレバレッジを明らかにして、頻発する問題により効果的に施策を打っていこうという動きが出てきていたと考えられる。しかし、現在では、ダイアログを中心として、自分たちが本当に描きたい新しい未来を、協働でデザインしていこうとする動きが多く出てきているといえる。

本カンファレンスにおける講演においても、企業外の取り組みから学ぼうとしているテーマが増えていた。前述のアダム・カヘン氏が行ったグアテマラでのビジョン構築プロジェクトや、マサチューセッツ州におけるホームレスやギャングといった不遇な若者の更生を支援するコミュニティである"ROCA"(ロカと発音していた)の取り組みの紹介など、社会的なテーマが増えていることからも、そのような背景がうかがえる。

しかしながら、これはシステムシンキングの考え方が、カンファレンスから薄れ始めているというわけではないと思われる。ネットワーク化が進み、ますます多様化する現在の社会において、新しい社会のビジョンを1人の人間や1つの組織がデザインするということは少ない。

アダム・カヘン氏が紹介していた南アフリカやグアテマラでのプロジェクトには、政治家、宗教家、経済人、人権運動家、軍人、一般市民など多種多様な人々がビジョン構築に関わっていた。この例のように、マルチ・ステークホルダー(多様な関係者)が関与し、彼らの想いを反映しながらビジョンを創造していく過程においては、お互いの利益や影響関係を考慮することが必要である。そのため、たとえ具体的なシステム図を書かなかったとしても、関与者が「システム的な考え方」をベースにもっていることが不可欠となる。また、変革を推進する際には、一人の蒔いた小さな種が、拡張的な広がりを見せ、結果的に多くの人に波及するというシステムを捉えておくことが必要となる。

そういう意味では、同カンファレンスにおけるシステムシンキングのパラダイムが、「未来へ適応」するための手段から、「未来を創造」するための考え方へと、重きをシフトしていることが仮説として考えられる。

3.2 ジェネレーティブ・モデル(Generative Model:生成のモデル)

前節において、システムシンキングの捉え方が、「"未来へ適応"するための手段」から、多様な人々を巻込んで、「"未来を創造"するための考え方」へとシフトしているということについて述べた。本カンファレンスにおいては、その創造がどのように行われていくかのプロセスを、ジェネレーティブ・モデル(Generative Model:生成のモデル)として明らかにし、発表している講演が多く見られた。

以下にその中から、ピーター・センゲ氏が示していた「プレゼンシング」(Presencing)(モデル自体はオットー・シャーマー氏のもの)、ディアロゴスの創始者、ウィリアム・アイザック氏の「ジェネレーティブ・スパイラル・モデル」(Generative Spiral Model)、そして、前述のアダム・カヘン氏の「話すことと聞くことの4つの方法」(Four Ways of Talking and Listening)を紹介する。

Source: Otto Sharmer(オットー・シャーマー)

オープニング・キーノートセッションのアダム・カヘン氏は、上述の"Four Ways of Talking and Listening"(話すことと聞くことの4つの方法)を使い、生成のプロセスの中で、会話の質が変化していくことについて言及していた。具体的には、会話のフェーズを以下の4象限で表現していた。

1,ダウンローディング(Downloading):今自分の頭にあること、すでに知っていることを、そのままダウンロードする(発言は儀礼的)


2,ディベーティング(Debating):自分が思っていることを率直に出し合い、現状のシステムを様々な観点から眺める(意見をぶつけ合う)


3,リフレクティブ・ダイアログ(Reflective Dialogue):相手の発言を、相手の内から相手の耳を通して聴く(お互いの異なる観点を尊重し合う)


4,ジェネレイティブ・ダイアログ(Generative Dialogue):人々の間の壁がなくなり、全体として1つの「私」となる

アダム・カヘン氏は、自身が関わったグアテマラのプロジェクトの中で、関与者の会話の質が4つのフェーズをたどっていったことを具体例として紹介していた。その中でも、第3フェーズと第4フェーズの重要性を強調し、特に第4フェーズにおける全ての人が全体として1つとなる瞬間を、"The Moment of Silence"(沈黙の瞬間)、あるいは"Communion"(精神的につながりのある共同体)といった言葉で表現することで、真に生成的なダイアログが行われる場の静寂で一体感あふれるイメージを、会場の参加者と共有していた。

ここまで、自分たちが実現したい未来を創造していくプロセスについて述べてきた。次節以降では、その創造や、創造を行うための変革を担う存在が、本カンファレンスにおいてどのように捉えられていたのかを、「個人」と「組織」という切り口から見ていきたいと思う。

3.3 Being(ビーイング)としての個人:Brilliantly Ordinary(ブリリアントリー・オーディナリー)

近年リーダーシップを、その人が行う行動(Doing)ではなく、その人自身の存在(Being)で捉える傾向があるが、本カンファレンスにおいては特にBeingの側面を強く感じることができたといえる。クロージング・キーノートセッションにおいても、ピーター・センゲ氏は"Who are you?", "Who am I?"といった言葉を多用しており、自分自身が何者であるかについての問いかけが重要な意味をもつことが強調されていた。

そうした中で、今回のカンファレンスにおける講演者達が、"Brilliantly Ordinary"(ブリリアントリー・オーディナリー:すばらしき普通の人々)というメッセージを用いて、このBeing(ビーイング)のあり方を強く打ち出していたのが印象的であった。

この"Brilliantly Ordinary" (ブリリアントリー・オーディナリー)という言葉は、キーノートセッションを行ったROCAグループのセーラ・ピント氏が使った言葉であり、ピーター・センゲ氏も自身の講演の中で取り上げていた。言葉としては、"Brilliantly Ordinary" (ブリリアントリー・オーディナリー)はこの2回しか取り上げられていなかったが、関連する考えは様々なセッションでメッセージとして打ち出されていた。

往々にして、「変革」を起こしたり、あるいは何か偉業を成し遂げることができるのは、何かしらすばらしい力をもっている特別な人たちであり、自分にできることではないと私たちは思いがちである。しかし、実際はそうではなく、特別すばらしい何かをもっているわけではない普通の人々が、すばらしいことを成し遂げるのだということがこのコンセプトの意味するところである。

その象徴的な例として、前述したROCAグループが大きく取り上げられていた。ROCAとは、マサチューセッツ州において、ホームレスやギャングとなってしまった若者たちの更生を支援するグループである。講演の中で、同グループのセーラ・ピント氏は、目立たない女性も意志をもって飛び込むとストリートギャング同士のけんかを止めることができたという出来事を取り上げ、特別すばらしい力をもっていなくても、周りの助けを借りながらすばらしい何かを成し遂げることができるのだというメッセージを伝えていた。

また、ピーター・センゲ氏はROCAと親交が深いとのことだったが、講演を行った3人は特にROCAの中で飛び抜けて特別すばらしい力をもった人たちではないということを強調していた。ROCAの人々は皆講演を行った3人と同じようにOrdinary(オーディナリー:普通)であるが、同時にすばらしくありつづける、"Brilliantly Ordinary" (ブリリアントリー・オーディナリー)であると言っている。

また、ウィリアム・アイザック氏とレズリー・スキップス氏の講演の中では、"Brilliantly Ordinary"(ブリリアントリー・オーディナリー)という言葉を使っていなかったものの、米国黒人市民権運動を起こした人物として、一般的に「特別すばらしい力をもっている」と思われているマーチン・ルーサー・キングに関して、「彼自身は、単に適切な時期に適切なメッセージを発信することができた一人の男である。」と述べている。また、彼以外にその頃活躍していた人々も、より良い生活を求めて自分自身ができるだけの貢献をした普通の人々であったとも言っている。メッセージとしては"Brilliantly Ordinary"(ブリリアントリー・オーディナリー)と同様の思想を伝えていた。

また、言葉としてこのメッセージが伝えられていただけでなく、ハリー・スペンス氏やROCAの3人の存在そのもの、つまり彼らのBeing(ビーイング)が"Brilliantly Ordinary" (ブリリアントリー・オーディナリー)を体現していたように感じた。事実、彼らの講演を聴いただけで涙を流す人が会場に多数いて、講演が終わった後に「話を聞かせてくれてありがとう」という感謝の言葉が聞かれたことも、彼らのBeing(ビーイング)が"Brilliantly Ordinary"(ブリリアントリー・オーディナリー)であったからだ思われる。

実際のところ、彼らは講演において何か特別なことをしたわけではない。つまり、何か特別なDoing(ドゥーイング)を行ったわけではない。また、講演の中身としても、「すばらしいことを一人で成し遂げた」話をしていたわけではない。何気なく毎日行っている活動について語り、そこで考え・感じたことを素直に話しているだけだった。そのような日々の活動や思いの積み重ねが、彼らのBeing(ビーイング)をBrilliantly Ordinary(ブリリアントリー・オーディナリー)にしていると思われる。

3.4 マイクロコズモ(Microcosm:小宇宙)としての組織:"Changing Our Organization to Change the World"

前節では、自分たちが実現したい未来を創造する存在としての個人のあり方(Being)として、"Brilliantly Ordinary" (ブリリアントリー・オーディナリー)というコンセプトが打ち出されていたことを紹介した。さらに、本カンファレンスにおいては、未来を創造する存在としての組織のあり方についても言及されており、それは「マイクロコズモ」(Microcosm)という言葉で表現されていた。

マイクロコズモ(Microcosm)とは、日本語では、小宇宙という意味である。これは、全世界のシステムを代表する人々の集合体(組織)のことを指している。マイクロコズモ(Microcosm)を構成するのは、1人ひとりのBe(ビー:存在)であり、このBe(ビー)の変革の積み重ねがマイクロコズモ(Microcosm)の変革へとつながる。そして、このマイクロコズモ(Microcosm)において、自分たちが実現したいと願う世界を具現化することが、全世界での具現化につながるということが、今回のカンファレンスにおいて一貫した考え方であった。それは、今回のカンファレンスのテーマである"Changing Our Organization to Change the World"にも反映されていた。

ピーター・センゲ氏も、講演の中で、ガンジーの"We must be the change we seek to create"(我々は、我々が創ろうとしている変化自身になる必要がある)という言葉を引用し、世界を変革するために、まず自分たち自身が変革することの重要性を強調していた。

以前はマイクロワールド(Microworld)という言葉が多く使われていたようだが、これはどちらかというと、自分たちの組織をマイクロワールド(Microworld)として捉え、その中で環境の変化に適応できるように学習(シミュレーション)を行うといった意味合いで使われていたようである。一方で、今回提唱されたマイクロコズモ(Microcosm)は、組織と世界をフラクタルに捉え、世界を変革したいなら、まずは自分たちの組織の中で、その実現したい世界を実現する必要があるという考え方であり、このような考え方が世界的にも浸透してきているように感じられた。

また、このカンファレンス自体にも、多様な背景をもつ人々が集まり、お互いを尊重し合いながら、よりよい世界をデザインする道を探求しているマイクロコズモ(Microcosm)であり、"Changing Our Organization to Change the World"の実現を目指していた。

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。