インサイトレポート

【Rethink -組織開発を再考する対話会 実施レポート】第1回:エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発

【Rethink 組織開発を再考する対話会】の第1回目を、2023年3月22日(水)にオンラインにて実施いたしました。第1回目のテーマは「エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発」でした。こちらでは、対話会当日の様子や参加者の皆さま同士の対話から生まれた気づきを実施レポートとして紹介できればと思います。

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ビジネスの環境の変化や働く人々の多様化に伴い、組織開発のあり方が昨今大きく変わりつつあることを実感しています。2023年は、ヒューマンバリューでもこれまでの実践を振り返りながら、現在の変化に適応したこれからの組織開発のあり方を問い直していきたいと考えています。

その一環として、2023年3月22日に、多様な組織開発の実践家の皆さまと、オンラインでの対話を通して探求を深める「組織開発を再考する対話会」を開催しました。

第1回は、「エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発」をテーマに、47名の参加者の方々が体験や知見を共有し合い、組織開発を特別なイベントではなく、日常の経験としてデザインしていく方向性について話し合いを行いました。

対話会の流れと生まれたインサイト

本対話会では、事前に参加者に配布した「エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える組織開発」のレポートを素材としながら、ヒューマンバリューから問いを投げかけ、小グループでの対話や全体共有を進めていきました。

【1つ目の問い】組織開発のこれまでと今:なぜ再考が必要なのか

-対話① 私たちが今向き合っているリアリティは何か?

最初の対話は、「組織開発のリアリティ」をテーマに掲げました。今、企業において組織開発に取り組む上では、さまざまな課題や変化があります。たとえば、以下のようなものが挙げられるかもしれません。

実際に企業で組織開発を進めている実践家の方々が、どんな課題と直面しているのか、そのリアリティを共有するところから、組織開発を再考する意義を考えました。

そして、皆さまの対話から以下のようなインサイトが共有されました。(オンラインホワイトボードで気づきを出し合いました)

対話の中では、さまざまな気づきが共有されましたが、特に「価値観の多様性が高まっている」ことや「世代間ギャップが深まってきている」といった変化を感じている方が多いことが印象に残りました。そのギャップは世代間だけでなく、マネジャーとメンバー、個人と組織といった関係性においても深まってきており、お互いを生かし合うためには、対話がより重要になってきているという認識も共有されました。一方で、スピーディーな社会状況の変化に伴い、仕事の時間感覚がどんどん短くなっている中で、じっくり対話を行うことの難しさも感じられているようでした。その中で、マネジャーや管理職が抱える負荷が大きくなっており、彼らに寄り添い、向き合う必要もあるのではないかという気づきも得られていました。

【2つ目の問い】組織開発のこれから:エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える

-対話② 組織開発はどのように変わるのか?可能性はどう広がるのか?

次の対話では「組織開発のこれから:エンプロイー・エクスペリエンスの視点から考える」について、以下のような織開発のパラダイムシフトが起こっていることや、日常の経験として組織開発を埋め込んだ企業事例など、エンプロイー・ジャーニーのさまざまな経験の中で、どのような組織開発の機会があるのかについて考えるための情報提供を行いました。

その上で、2つ目の問いである「これからの組織開発はどう変わっていくのか?」をもとに、その可能性についてさらなる対話を通して探求しました。そして、得られた気づきをオンラインホワイトボードに記入して、全体で気づきや発見、今後の組織開発のレバレッジを収穫しました。

対話の中でも、さまざまな変化や可能性に関する気づきが共有されましたが、対話に参加して、特に「組織開発の民主化」と「組織開発の日常化」という言葉が印象に残りました。
「組織開発の民主化」に関しては、今後の組織開発は特定の部署や特定の人がやるものではなく、ましてやマネジャーだけに負わせるものではなく、全員で関わるものに変わっていくということが共通で認識されたようでした。
「組織開発の日常化」では、オンラインホワイトボードに、「組織開発ではなく社会開発、家庭開発、自己開発である」「日常の取り組みを『それって組織開発だよね」と価値づけ、意味付けして背中を押し合っていくことが大切」と書かれていたように、組織という枠組みに限定されない取り組みや、組織開発とはこうあるべきであるといった思考の枠組みから解放され、日々の中に組織開発の要素が埋め込まれていると考えることができれば、組織開発の可能性は広がるという気づきを得られた方が多かったように思いました。

終わりに:全体を通しての感想・インサイト

2時間という短い会でしたが、2つの問いをもとに、組織開発の今とこれからについて、有意義なダイアログができました。最後に、参加者の皆さんがチェックアウトで共有したコメントを抜粋して紹介し、今後の探求を深める視点としてみたいと思います。

(コメント抜粋)


・「事業戦略を実現する手段としての組織開発」というストーリーをきちんと掲げながら、まずは人事部門のスタンス、現場との関わり方のパラダイムシフトに着手したいと改めて感じました。


・組織開発が特別なものではなく、日常に寄ってきたように感じられました。


・組織開発だけではなく、これからのマネジメントの在り方や人材開発の方向性についてもたくさんの気づきが得られました。


・ODの日常化、マイクロ化、ODという言葉を使わないなど、現場で生まれつつあるリアリティを共有できました。とても価値ある時間となりました。


・私はブランディングの専門で、組織開発が専門ではありませんが、今探求しているフロンティアはほぼ同じ(従業員体験起点の組織文化づくりの方法論が未確立)だと思いました。フォーカスポイントが明らかになり、確信が持てました。


・組織開発という言葉を使わずに、みんなに組織開発を広げて行けたらいいなと思いました。


・自分のバイアスに改めて気付かされました。


・「組織開発の民主化」という言葉が特に印象に残り、今後のテーマにさせていただきたいと思います。


・日常の経験、民主化などのキーワードから、より幅広い領域への組織開発の広がりを感じることができました。


・組織開発と表現されていない取り組みや価値に光を当てて育てていくためにも、する人とされる人の分断を生み出さない民主的な対話が大切だなと感じました。


・付け焼き刃な取り組みが続いてきた日本で、組織という単位ではなく、社会、コミュニティー、個人の開発を考えたいと思いました。


・現場にある力を日常の中でどう開花させていくか、そのプロセスを共に創っていく必要があると再認識しました。


・組織開発やコーチングの対話が、専門知識を持つ人が行う特別なものから、誰でもできる当たり前のものへと変化していくのかなと感じました。


・社内にいるとできていないことばかり気になるのですが、社外の皆さまとの対話を通じて、少しは組織開発的なことに取り組めているのかもと再確認でき、前向きな気持ちになれました。



以上、組織開発を再考する対話会第1回の様子をレポートしました。ヒューマンバリューでは、今後もこうした対話会を継続していきたいと思います。テーマは現在検討中ですが、以下のようなレポートの発行と対話会を企画していきたいと考えています。

▷ESG時代における組織開発の可能性:
 アプリシエイティブ・インクワイアリーの再考
▷心理的安全性の側面から見るOST(オープン・スペース・テクノロジー)
▷ハイブリッドな時代において、知恵を創発するとは
 〜ワールド・カフェの再考〜
▷統合思考とシステム思考
▷…etc.

また、組織開発の具体的な方法論について、より学びや探求を深め、実践につなげる機会として、今年度も下記のプラクティショナー養成コースを開催予定です。ご興味のある方はご覧ください。

『プラクティショナー養成コース』の概要はこちら
https://www.humanvalue.co.jp/wwd/practitoner/

『プラクティショナー養成コース』の開催日程一覧はこちら
https://www.humanvalue.co.jp/news/2022/12/2023/

これからも多様な組織開発の実践家の皆さまとともに、組織開発やカルチャーの変革、価値創造のあり方について、探求できればと思います。

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私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

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