システムシンキングカンファレンス

Systems Thinking in Action 2007

Amplifying Our Impact: Strategies for Unleashing the Power of Relationship
2007年11月05日~ 11月07日

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1.システムシンキング・イン・アクションについて

システムシンキング・イン・アクションは、書籍『フィフス・ディシプリン(”The Fifth Discipline”)』(邦題:『最強組織の法則』)の著者ピーター・センゲ氏(Peter Senge)の提唱するラーニング・オーガニゼーションやシステムシンキングに関する様々な組織の取り組みや新しい考え方をシェアする国際コンファレンスとして、1990年よりスタートした。

主催は、MITのダニエル・キム教授が創設したペガサス・コミュニケーションズ社である。同コンファレンスには、ラーニング・オーガニゼーションを研究するリサーチャーやコンサルタント、また企業の変革推進者、あるいは、政府関連やNGOといった団体など多様なバックグラウンドをもつ組織や社会起業家が、世界中から集結し、国や組織の垣根を超えて、よりよい未来を創りだすための話し合いが行われている。

世界各国の参加者とダイアログを行う3日間

2007年のコンファレンスは、11月5日~7日の3日間、米国ワシントン州シアトル市のウェスティン・シアトルにて行われた。今年で17回目を迎える同コンファレンスには、世界各国から、約1000名の参加者が、30を超えるセッションやワークショップに参加した。

個人・組織・社会の変革を通して、よりよい未来を築いていこうとするコミュニティの一員として、弊社からも2名(兼清俊光、川口大輔)が、同コンファレンスに参加した。本レポートでは、同コンファレンスの概要と具体的に話し合われたテーマについて報告することにする。

2.コンファレンスの概要

日程  :2007年11月5日~7日
場所  :ウェスティン・シアトル(米国ワシントン州シアトル市)
参加人数:約1,000名(※日本からの参加者は14名)
主催  :ペガサス・コミュニケーションズ

◆コンファレンスの構成

システムシンキング・イン・アクション2007(Systems Thinking in Action 2007)コンファレンスの構成は、以下のとおりであった。

1.キーノートセッション(Keynote Session:基調講演)

本年度は以下の5人により、5つの基調講演が行われた

・Debra Meyerson氏:
書籍『Tempered Radicals』の著者であり、スタンフォード大学にて教育学、及び組織行動学の助教授を務める

・C. Otto Scharmer氏:
書籍『Presence(邦題:出現する未来)』の共同著者であり、深遠で革新的な変革を促進するプロセスであるU理論を築き上げた

・Peter Weertman氏:
Boeing社のTechnical Customer Supportの副社長であり、最先端のオペレーション・センターを他のイノベーターたちと共に立ち上げた

・Van Jones氏:
カリフォルニア州オークランドにあるElla Baker Center for Human Rightsの創設者

・Peter Senge氏:
書籍『Fifth Discipline(邦題:最強組織の法則)』の著者であり、SoL(Society for Organizational Learning)の創設者

2.コンカレント・セッション(Concurrent Session)

個人・組織・社会の変革を実践・研究している各国の人々により、24のセッションが開催された。

3.フォーラム(Forum)

参加学習型のフォーラムセッションが、3つのテーマで開催された。

3.全体的な傾向とテーマ

2007年の全体的な傾向とテーマを考える上で、最も大きな影響を及ぼしていたのが、2002年以来5年ぶりに基調講演を務めたオットー・シャーマー氏であった。オットー・シャーマー氏は、リーダーシップの内面について研究してきた「Theory U(U理論)」に関する書籍を9月に出版しており、これまでの研究の集大成が発表されていた。コンファレンスの至るところで、このU理論についての引用がなされており、今年はオットー・シャーマー氏のための大会といっても過言ではないように見受けられた。

例年大きなインパクトを与えてくれる本コンファレンスであるが、今年はコンファレンスのあり方や参加者、そして話し合われている内容といったものが、深いところで大きく変わってきたように見受けられる。上述のオットー・シャーマー氏は、講演の中で、「Shift(シフト)」という言葉をよく使っていたが、まさにコンファレンス自体がシフトしていたように感じられた。そこで、ここでは以下の3つの切り口からどのような変化が起きていたのかを紹介したい。

3.1「集合的なシステムシンキング」へのシフト:
       個人・組織・社会の垣根を超えたコラボレーションへの認知の高まり

3.2「Age of Issues(問題の時代)」から「Age of Solutions(ソリューションの時代)」へのシフト:
       一人ひとりの未来に向けた行動へのフォーカス

3.3 リーダーシップの内面へのシフト:
       U理論

◆3.1 「集合的なシステムシンキング」へのシフト:個人・組織・社会の垣根を超えたコラボレーションへの認知の高まり

個人・組織・社会の垣根を超えた相互作用を生み出すコンファレンス

今回のコンファレンスの参加者は約1,000名であり、昨年と比較すると、ほぼ2倍の規模となっていた。ここ数年、同コンファレンスの参加者数は500名前後に落ち着いており、やや縮小傾向であったが、今年は定員オーバーで席が売切れてしまうほどであった。コンファレンス自体も活気にあふれていて、主催者であるペガサス・コミュニケーションズ社のスタッフも、またコンファレンスに参加している人たちも、どことなく自信に満ちているように見受けられた。来年のコンファレンスに向けてのレジストレーションもすでに受け付けているようで、今後もこの傾向は続くものと考えられる。

同コンファレンスの参加者が急増し、活力を取り戻した背景には何があるのだろうか?実際の要因について正確にはわからないが、あえて推測するとすれば、企業や政府、NPOなどのステークホルダーの間にある垣根を超えて、個人・組織・社会が真にコラボレーションしていくことの価値が、認識され始めたのではないかと考えられる。

同コンファレンスの歴史を振り返ってみると、1990年のスタート当初は、ビジネスパーソン向けの組織学習に関するコンファレンスであり、参加者も多くは企業の人たちであった。しかし、コンファレンスで扱う内容が次第に深遠になるにつれ、より根本的な解決策を模索する行政や教育関係者を中心としたコンファレンスへと変化していった。掲げられるテーマも企業の変革や成長よりも、社会的な課題を取り扱う傾向が高まっていった(そうしたことが、同コンファレンスへの企業からの参加者が一時的に減少した要因として挙げられるかもしれない)。

しかし、ここ1~2年で、社会の認知が大きく変わりつつあり、ステークホルダー間の境界を越えて、互いに学び合ったり、協働して新しい動きを起こしたりしていくことが当然の世の中へとシフトしてきている。一方、そうした環境にあっても、残念ながら現在開催されている多くのコンファレンスは、領域毎に分断されたテーマに固定された参加者が集っている状況にあるようにも感じられる。そこで、そうした多くのコンファレンスとは違って、異なる分野や国籍など、多様性を全て包含しながら、新たな未来に向かって何かを生み出していこうとする同コンファレンスのホール・システム的な姿勢に共感したり、価値を見出したりした人が増えたのではないかと考えられる。シアトルに本拠を構えるボーイング社をはじめとして、今年のコンファレンスでは特にビジネスの分野からの参加者が増えていたように見受けられた。

そうした背景もあり、今年のコンファレンスのテーマは、「Amplifying Our Impact: Strategies for Unleashing the Power of Relationship(私たちの影響力を拡大する:関係性のパワーを解き放つための戦略)」と設定され、多様なバックグラウンドや知識をもつ人たちが、個人・組織・社会の垣根を超えた相互作用を生み出そうとしているように見受けられた。

日本人参加者たちの集い

同様の傾向は、日本人の参加者が大幅に増えたことからもうかがえる。これまで、日本からは多くても4名前後の参加であったが、今年は約14名が、様々な組織(NTT、博報堂、野村総合研究所、マスターフーズ、モメンティブ・ジャパン、チェンジ・エージェント、ヒューマンバリューなど)から参加していた。この背景としては、上記のような環境の変化に対する社会的認知が日本でも高まっていることに加えて、ダイアログやワールド・カフェ、シンクロニシティなどの書籍が日本でも出版されるなど、ラーニング・オーガニゼーション的な考え方が日本でも広がっていることもあると考えられる。

コンファレンスを象徴するワールド・カフェ・コミュニティの躍進

コンファレンスの話し合いのスタイルとして、今年は「ワールド・カフェ」が全面的に取られ、人々の相互作用やネットワーキングを高めることに貢献していた。基調講演が行われる会場の全てテーブルには、ワールド・カフェのトレードマークともなっているギンガムチェックのテーブルクロスと模造紙が敷かれ、参加者はセッションの中で行われる会話の内容を自由に書き込めるようになっていた。

また、今年初めての試みとして、「Conversation Space(会話スペース)」というものも設けられていた。これは、各セッションとは別に、参加者同士がコンファレンスの期間中に学習を深めたり、内省を行ったりする場としてオープンされ、何名かのホストたちのファシリテーションのもと、多様なテーマでの会話が行われていた。

今年初めて設けられたConversation Spaceの様子 ここから様々な会話が生まれた

こうしたコンファレンスの運営をサポートしたのが、アニータ・ブラウン氏とデイビッド・アイザックス氏を中心とするワールド・カフェ・コミュニティであった。両氏の書籍『The World Cafe ~Shaping Our Futures Through Conversations That Matter~』(邦題:『ワールド・カフェ~カフェ的会話が未来を創る~』)は、昨年から今年にかけて、ドイツやスペイン、トルコや台湾、日本など6カ国語に翻訳され、それと共にグローバルのコミュニティも急拡大している。

今年のコンファレンスでは、全体の司会を同コミュニティのThomas J. Hurley氏が、そしてグラフィック・レコードをNancy Margulies氏が務めたり、ワールド・カフェ・コミュニティの世界中のメンバーが集うレセプションがコンファレンス期間中に開催されたりするなど、その躍進ぶりが顕著であった。ワールド・カフェは、人々の垣根を超えて、協働したり、知識を生成したりする話し合いの哲学・手法であり、それが今回のコンファレンスのあり方を象徴していたといえる。

6カ国語に翻訳され、世界中に広まりつつある「ワールド・カフェ」

集合的なシステムシンキングの時代へ

クロージングの基調講演を務めたピーター・センゲ氏

こうした背景の下で、例年クロージングの基調講演を務めるピーター・センゲ氏は、「Collaboration:The Human Face of Systems Thinking(コラボレーション:システムシンキングの人間的側面)」というタイトルの講演の中で、「今や『偉大なシステムシンカー』の時代ではない。これからは『Collective Systems Thinking(集合的なシステムシンキング)』が求められるのだ」というメッセージを伝えていた。また、ワールド・カフェの創始者であるデイビッド・アイザックス氏も同様に、「Systems Thinking Together(みんなでシステム的に考える)」といった表現を頻繁に使っていた。

センゲ氏らのメッセージにもあるように、今後ますます複雑化し、人々が相互依存関係にある社会においては、一人の優れたシステムシンカーを生むことよりも、社会に関わる全員が垣根を超えて共に考え、協力して相互作用を起こしていくことが必要である。そうした考え方や傾向は、今回のコンファレンスから突然現れたわけではないが、今年は単なるコンセプトの話ではなく、リアリティーをもって参加者が受け止めており、集合的なシステムシンキングの時代へと完全にシフトしたように見受けられた。

◆3.2 「Age of Issues(問題の時代)」から「Age of Solutions(ソリューションの時代)」へのシフト:一人ひとりの未来に向けた行動へのフォーカス

今年の傾向として、より良い未来を生み出すために、考え込んだり、悲観したり、誰かに訴えかけたりするのではなく、自分自身がポジティブでリアリティーのある行動を取っていこうという一貫したメッセージが見受けられた。

熱弁を奮うVan Jones氏

コンファレンスを通して、数々のすばらしい取り組みが紹介されたが、その中でも最も印象的だったのが、カリフォルニア州オークランドにあるElla Bar Center for Human Rightsの創設者であり、社会変革のエージェントとして、様々なプロジェクトやネットワークに関わってきたVan Jones氏の基調講演であった。

Jones氏の取り組みは、環境問題における貧富の分断、つまり、白熊の生態系を心配したり、オーガニック・フードやヨガに没頭したりする富裕層と、毎日の自分の住まいや食事を心配する必要のある貧困層が、車で20分の距離の地域に同居しているという矛盾に大きな疑問を抱いたところからスタートした。そこから行政を巻き込みながら「Green Job」という職業訓練プログラムを展開し、貧困層で、教育レベルもそれほど高くない若者たちが、ドラッグストアぐらいしか店と呼べるものがないような貧しい地域に新鮮な野菜を販売しに行ったり、ソーラーパネルを運んだりする仕事を支援した。今では「Oakland Green Jobs Corps Program」は、財団や政府の強い後押しを受けるまでになっている。

自分自身の体験から、強い想いと信念を抱き、環境問題と貧困層の自立を統合的に解決するソリューションを実際に生み出したJones氏の講演は、ユーモアにあふれ、気取ることなく自然に振舞う人柄への共感も合わさって、会場からは、異例の3回のスタンディング・オベーションで迎えられた。描いたビジョンをもとに、人々を巻き込みながら、変化を起こしていく本物のビジョナリストの姿がそこにあったように感じた。

Jones氏は講演の中で、「『Age of Issues(問題の時代)』は終わった。これからは『Age of Solutions(解決の時代)』だ」と強く訴えかけていた。例えとして、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの有名なスピーチを挙げ、「彼は、『私には夢がある』と語ったが、『私には文句がある』とか『私には問題がある』とは語っていない」と伝えていた。こうしたメッセージから、「今私たちはこんな危機に面している……」と悲観的に考えたり、警鐘を鳴らしたりするのではなく、「今私たちに何ができるのだろうか」という想いのもとで、ソリューションを生み出していこうとすることへ意識が変わりつつあることが見受けられる。

Tempered Radicals(緩和された過激派)

こうした傾向は、その他のセッションにおいても見受けられた。たとえば、スタンフォード大学にて教育学、及び組織行動学の助教授を務めるDebra Meyerson氏は、オープニングの基調講演で、変革に必要な「Tempered Radicals(緩和された過激派)」という存在について紹介していた。Meyerson氏は、「Tempered Radicals」を、「組織中に存在している、チャレンジと現状の改善の間のぎりぎりのラインを歩んでいる人たちのことであり、違いを指し示すと同時に組織に溶け込み、変革を効果的なものにすると同時に自身の正当性を守り、逸脱すると同時に規則を守って調和する」と説明している。

そうした人々の特長としては、たとえば、日々の服装やコミュニケーションを変えることで組織に変化の認知を与えたり、また問題や困難な状況について、問題をリフレームしたり、ダイアログをしたり、学習を引き起こしたり、関係性を構築するための機会として捉えるといったことが挙げられていた。そして、断続的で計画された変革(Episodic Change)ではなく、継続的で有機的な変革(Adaptive Change)を行うためには、こうした一人ひとりの「Tempered Radicals」が、小さな変化を積み上げ、ネットワークを築きながら大きなうねりを起こしていくことが必要であると述べていた。特に「Small Win」を積み重ねることで、より大きなシステムに影響を与えることが重要であるというメッセージを伝えていた。

また、ワールド・カフェの創始者であるJuanita Brown氏も、「Conversation as a Radical Act(急進的な行動としての会話)」というタイトルのフォーラムセッションの中で、「会話を行い、ネットワークを広げることこそが、社会を変革するための急進的な行動である」として、社会変革における会話の可能性について述べていた。

Debra Meyerson氏の講演を表したグラフィック・レコード。Tempered Radicalsについて描かれている

同コンファレンスにおける「Age of Issues(問題の時代)」から「Age of Solutions(ソリューションの時代)」への変遷

振り返ってみると、同コンファレンスも、数年前までは、Age of Issuesにいたように思う。2004年のコンファレンスでは、Peter Senge氏は、ナショナル・ジオグラフィックに発表された1973年と現在の2枚の北極の写真を見せながら、地球温暖化が進む前と後で氷河がいかに減少したかを参加者に考えさせるなど、警鐘から会話が始められていた。コンファレンス自体の雰囲気も、深遠ではあるがエネルギーに満ちているということはなかったように感じられた。しかし、今年のコンファレンスでは、Van Jones氏らの取り組みに代表されるように、今をより前向きにポジティブに捉えて、自分ができるところから行動を起こし、未来に向けてソリューションを見出していこうという姿勢が一貫して高まっていた。

2004年のコンファレンスでPeter Senge氏が使用していた北極の氷河の写真

今年(2007年)のコンファレンスでVan Jones氏が示していた Green Job Programに参加している若者たちの写真。 よりポジティブな未来やアクションが想起される

◆3.3 リーダーシップの内面のシフト:U理論の実践

U理論

上述したように、今年最も注目されていたのが、オットー・シャーマー氏が提唱しているU理論であった。ここでU理論とはどのようなものであるかをシャーマー氏の講演の内容をもとに紹介したい。

U理論は、1)Perspective(ものの見方)と2)Methodology(社会変革の方法論)の2つの側面がある。

この研究のもとになったのは、ハノーバー保険の元CEOである故ビル・オブライエン氏の次の発言であった。「The Success of the intervention depends on the interior condition of the intervenor. (インターベンションが成功するかどうかは、それを行う人の内的な状態にかかっている)」これまでのリーダーシップの研究においては、優れたリーダーが、何を行うのか(What)、またはどう行うのか(How)について多く言及されてきたが、リーダーの内面(Who)については、とても重要であるにも関わらず、多くが語られてこなかった。

シャーマー氏は、これを「The Blind Spot of Leadership(リーダーシップの盲点)」と呼んでいた。そして、リーダーシップのエッセンスとは、個人、グループ、そしてコミュニティの内面、つまり「Inner place where pereceptions happen(その人の視点が発生する内的な場所)をいかに深いレベルにシフトさせることができるかであり、Uプロセスとはそのシフトのプロセスを指している。

そして、この内面のシフトは4つのレベルで表すことができる。まず一つ目は、「Downloading」のレベルであり、ここでは、視点が「I in me」の状態、つまり自分の枠組みの内側にあって、これまでの自分の枠で捉えられるものだけを見ている状態である。

ここから、ダウンローディングをやめて「Observe, Observe, Observe(観察し、観察し、観察する)」ことを通して、次のレベルである「Seeing」に達する。ここでは、視点が「I in it」の状態、つまり自分の枠組みの外側を見ることができる状態である。
さらに次のレベルとして、「Sensing」がある。ここでは、視点が「I in you」の状態、つまり視点が自分の内側から外側へとシフトして、他者や社会、そして全体性(ホールネス)の視点から物事を見ることができている状態にある。このとき、話の聴き方も「Empathetic Listening(共感的な聴き方)」へとシフトし、自身と他者の境界もなくなっている。

そして、最後のレベルとして、「Presencing」がある。Sensingの状態から、自分自身の古いエゴを手放す(Letting go)ことにより、「Self(未来の最も高い可能性)」と「Work(自分自身の存在意義)」がわかるようになる(Letting come)。このとき、視点は「I in now」の状態、つまり今まさに起きようとしていることが見える状態にある。

そして、この4つのレベルを降りるために3つのIntelligenceを活性化することが必要であるとのことであった。その3つとは、まずSeeingのレベルに達するためには、「Open Mind」が必要であり、このとき阻害要因になるのが「Voice of Judgement(ジャッジする声)」とのことであった。そしてSensingのレベルに達するためには、「Open Heart」が必要であり、このとき阻害要因になるのが「Voice of Cynicism(冷笑の声)」、つまり他者との関係を断続する感情であるとのことであった。そしてPresencingのレベルに達するためには「Open Will」が必要であり、このとき阻害要因になるのが「Voice of Fear(恐れの声)」、つまり失うことへの恐れであるとのことであった。

ここまで、U理論について簡単に紹介してきた。2002年に発表されたときと比べて、U理論の知名度や参加者の理解度は飛躍的に高まっており、やや難解であるこのU理論をさらに深く理解したいという想いが参加者の中にも高まっていたように感じられた。

U理論の実践

今年の傾向としては、このU理論を、単なる理論ではなく、日常の中で実践していくことへの認識や気運が高まっていたと感じられた。上述のVan Jones氏などは、自身の体験を通じて視点が全体性へとシフトし、そこから自身の果たすべき役割を見出して、実践に移し、大きな変革を成し遂げており、まさにU理論を体現しているものとして紹介されていたように見受けられる。

U理論自体も、実践に向けて様々な進化が見られた。特にオットー・シャーマー氏が基調講演の最後に紹介していた14の質問は、U理論を実践に移す上で大変インパクトのあるものであった。

オットー・シャーマー氏と並んで

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