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TechLearn2002の全体的な傾向と議論の内容

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1.ワークプレイス(職場)でのEラーニングの活性化

TechLearn2002が開催される1カ月前にアナハイムで行われた、Online Learning2002は、前年度のOnline Learning2001と比べると著しく盛り上がりに欠けていた。その一方、TechLearn2002は、参加人数こそ昨年度と同程度であったが、会場の雰囲気は昨年同様盛り上がっており、参加者の熱気に包まれていた。

この背景としては、Online Learningが、主にベンダーを中心としたカンファレンスであるのに対し、TechLearnは、ユーザー中心のカンファレンスであることがあげられる。ITバブルの崩壊や、LMS販売市場の成熟化などの影響を受けて、活力を失いつつあるEラーニングベンダーに対し、企業のユーザーは、システム導入を既にすませ、これからインプリメンテーションの中で様々な取り組みを行って、成果を上げていく必要がある。

TechLearnは、そのようなEラーニングを企業で展開するHRD担当者が、ナレッジ、ヒント、ツール、ネットワークなどを求める場として活用されている。TechLearn主催者のElliot Masieは、この点に関して、オープニングセッションの中で、次のようなコメントを残していた。

現在Eラーニングを見るとき、マーケットプレイス(市場)でのEラーニングとワークプレイス(職場)でのEラーニングには大きな差がある。


マーケットプレイスは瀕死の状態にあるが、ワークプレイスでは莫大な量のEラーニングが展開されようとしている。


多くの企業は2年前にEラーニングのインフラを購入した。現在はそのインプリメンテーションの段階に入っている。


Eラーニングの成長を測るときには、特にワークプレイスでの成長に注目したい。なぜならこれがEラーニングがどこに向かうのかのリードインディケーターだからである。

Elliot Masieのコメントにもあるように、数年前まではEラーニングベンダーはシステムの販売を大きな利益源の1つとしてきた。しかし、一応のシステム導入が進み終わり、インプリメンテーションの段階に入った現在、システム導入以上の付加価値をユーザー側に提案できていないのが、現在ベンダーが苦しい状況にいる1つの要因であると考えられる。

一方、ユーザー側は、インプリメンテーションに必要なノウハウを、特に他のユーザーから学ぶことを目的として、TechLearnを位置づけており、こういった状況がTechLearn2002カンファレンス全体の雰囲気を盛り上げているようであった。

2.ダイアログ・セッションへのシフト

今年のカンファレンスでは、昨年以上に、「ダイアログ」や「パネルディスカッション」など、正解のないテーマに対して、ユーザー間、あるいはユーザーとベンダー間で話し合うというスタイルのセッションのウェイトが高まっていた。この傾向は他のカンファレンスでも共通にみられるものである。その背景には、既にある知識を伝授してもらう場としてではなく、多くの人との相互作用の中で、問題を喚起したり、互いのノウハウをシェアしたり、新しいナレッジを生み出したりする場としてカンファレンスを活用するといったニーズが高くなってきていることが考えられる。

TechLearnも既に5年目を迎え、その間にユーザーもシステム導入の段階からインプリメンテーションの段階に入り、ユーザー自身のEラーニングに関する知識レベルも高まってきた。そのため、Eラーニングの初歩的知識や一般的なノウハウを基礎から学ぶというよりも、実際に職場で展開する際に必要な具体的な知識を得る場としてカンファレンスが活用されているという印象を受けた。

ダイアログ・セッションの中では、実際にEラーニングの展開を行っているユーザーが、特定のテーマに関して、それぞれの考えやノウハウを共有していた。Eラーニングの先進企業がどういうところに問題意識をもっているかということの参考として、以下に具体的に挙げられたテーマを示すことにする。

・Making content compelling: Culture and language
        (人をひきつけるコンテンツを作る:文化と言語)
・E-learning in healthcare
        (ヘルスケア業界におけるEラーニング)
・Customer learning and supply chain learning
        (カスタマー・ラーニングとサプライ・チェーン・ラーニング)
・Knowledge management and E-learning
        (ナレッジ・マネジメントとEラーニング)
・E-learning in financial services
        (ファイナンシャル・サービスにおけるEラーニング)
・What is the true cost of developing E-learning?
        (Eラーニングを開発するのにかかる実際のコストは?)
・What are the hurdles in getting compelling content?
        (人をひきつけるコンテンツを手に入れる際の障害にはどんなものがあるか?)
・E-learning in government and military
        (政府と軍隊におけるEラーニング)
・Compelling content: The invitation process
        (人をひきつけるコンテンツ:学習者を招くプロセス)
・E-learning in manufacturing
        (製造業におけるEラーニング)
・ROI calculators: Do they work?
        (ROIを計測する:それはうまくいくのか?)
・Learning strategies: What do they get you?
        (学習戦略:戦略を立てることで何を得られるか?)

話し合われていたテーマを見ると、「製造業におけるEラーニング」のようにEラーニングを展開する場を具体化して、より詳細なノウハウの共有が行われていることがわかる。また、後述するが、「Compelling Contents(人をひきつけるコンテンツ)」というテーマが多くダイアログの中で取り上げれているのが目立っていた。

3.Compelling Contents(学習者をひきつけるコンテンツ)

今年のカンファレンスでは、コンテンツに関するキーワードの1つとして"Compelling"という単語が大きく取り上げられ、様々なセッションの中で使用されていた。このCompellingという単語は、「学習者をひきつけるような」といった意味合いをもち、同義語として、Engaging、Forceful、Demanding、Attention、Convincingなどといった単語も挙げられていた。

例年、コンテンツのクオリティに関する言及はなされているが、今年度は特に、コンテンツの「面白さ」に焦点が当たっていた。Eラーニングを実際に展開するHRD担当者にとって、受講者の履修率の低さは悩ましき問題となっており、受講者に積極的に学習に取り組んでもらうには、どのようなコンテンツを作成すればよいのかということに高い問題意識があるようにうかがえる。

そこで、今回のカンファレンスでは、これまでの反省を踏まえながら、一度原点に戻って、「面白いコンテンツ」、「学習者をひきつけるコンテンツ」というものは、どのようなものかということを、問い直している場面が多かった。

参加したダイアログセッションの中で、実際に挙げられていた"Compelling Contents"の条件を以下に列挙する。

・学習者にフォーカスがあたったもの(個別化されたスタイル、ニーズ、文化など)
・情報量に圧倒されないもの
・タイムリーで学習者にとって重要なもの
・受講者を巻き込むもの
・学習者が経験を通して喜びを得ることができるもの
・アクティビティベースなもの
・事例やリファレンスをもったもの
・キャラクター、物語、ゲーム、アクティビティをもったもの
・受講者のニーズ、ビジネスニーズの両者に合ったもの
 ...etc

以上のことについては、アナハイムで行われたOnlineLearning2002においても同様の議論がなされており、その中でも、コンテンツを魅力的なものにする手段として、ゲームやシミュレーションを活用するなどのアイデアが多く出されていた。しかしながら、一言に「面白いゲーム」といっても、簡単なゲームを面白いと感じる人、挑戦のしがいがあるゲームを面白いと感じる人、自分の成長のプロセスがわかると面白いと感じる人、ゲームを通して探求を推し進めることができると面白いと感じる人など、人によってその嗜好性は多種多様である。したがって、やみくもにコンテンツを設計していたのでは、受講者が面白いと感じるようなものを作成するのは極めて難しいといえる。

そこで今後Compellingなコンテンツを作成するには、受講者が現在どのような状況のもとで学習しようとしているのかを把握し、そういった状況の中で「面白い」とは何を意味するのかを探求し、その「面白さ」を実現するためには具体的にどういった手段をとればよいのかを、深く問い続けていく必要があると考えられる。

4.Strategy(戦略)の必要性

今年のカンファレンスでは、昨年と比較して、"Strategy"に関するセッションが、大幅に増えている印象を受けた。Elliot Masieのオープニングセッションにおいても、システム導入からインプリメンテーションへ、パイロットチームへの展開からエンタープライズワイドの展開へとEラーニングのステージが移るにつれて、「戦略」がこれまで以上に重要になってくると強調されていた。

その中でも特に、McDonaldやHome Depotといったグローバルに莫大な数の店舗を有する企業が、いかにEラーニングを効果的に展開してきたかにフォーカスが当たっていた。
具体的にどういったテーマで戦略に関する議論が行われていたかを下に列挙する。

・チーム編成に関する戦略
・どのようなチームでEラーニングを開発していくのが効果的か、その際どのような役割が求められるかに関する戦略
・アーキテクチャ構築、及びそれに伴うインフラ整備に関する戦略
・効果的に学習を配信するアーキテクチャの構築と、それを支えるインフラを整えるための戦略
・社内マーケティング戦略
・いかに、受講者にEラーニングについて告知するか、あるいはトップをいかに巻き込むかといったことに関する戦略
・コンテンツ開発戦略
・コンテンツを質の高さや制作可能なスピードで分類したり、テンプレートを有効に使ったりという、効果的なコンテンツの開発体制に関する戦略
・ROIに関する戦略
・効果測定をどのように行うかといったことに対する戦略

ここに挙げられたテーマを見ると、話し合われていた項目のほとんどは、Implementation Strategy(導入戦略)であり、Eラーニングを効率的に展開するための戦略についての関心が高かった。

一方で、学習プロセスや学習環境を最適にデザインするにはどうしたらよいかといったLearning Strategyに関しては、具体的な話は余り出ていなかった印象を受けた。そのため、学習コンセプトの議論(学習とはどうあるべきか)が、昨年に比べて少なくなっており、昨年は大きく取り上げられていたEコーチングやEコミュニティに関してのセッションも大幅に減少していた。このことから、新しく将来性はあるが、実践がまだ伴っていない目新しいコンセプトよりも、まず当面実施する必要のある現実的な課題に関心が寄せられていることが、仮説として考えられた。講演を行ったスピーカーに関しても、昨年まで同カンファレンスで講演を行っていたMarc Rosenberg、Allison Rosett、James Liといったコンセプトメーカーたちが姿を消し、Ciscoで大規模なEラーニングを展開するTom Kellyの戦略のセッションに大きな注目が集まっていたのも特徴的であった。

また、基調講演においては、原理の異なる学習が、全て同じ「ラーニング」として認識されており、学習コンセプトに関する議論が希薄であることを感じさせた。具体的には、まずバスケットボール・コーチのDave Hoplaは、バスケットボールにおいてフリースローを外さないために、いかに日々の反復練習が大切かという、行動主義的なテーマの講演を行っていた。
また、Home Depotの講演では、Eラーニングを受講している店舗従業員がビデオで紹介されていたが、その中でElliot Masieは「彼のスキルを高めるために我々は何を提供すべきか」といったテーマで議論のファシリテーションを行っていた。これは、知識のある人から、知識のない人へ教授を行う客観主義的な考えが背後にあるように考えられる。
ラーニング・オーガニゼーションの提唱者のPeter Sengeの講演では、学習者が主体的に、あるいは他者と協働する中で知識を生み出していくという社会的構成主義的な考えが背後にうかがえた。

これら学習の原理・理論の異なるテーマが、特に分別もされずに全て同じ「ラーニング」として取り扱われていることから、全体的に学習をタイプによって切り分けることがうまくできておらず、混乱が生じているように感じられた。

今後は、インプリメンテーション・ストラテジーに加えて、学習者がパフォーマンスを向上させるためには、どのような学習環境がデザインされ、どういったスタイルで学習を行っていくべきかという学習コンセプトを明確にしたラーニング・ストラテジーを構築していくことが必要であると考えられる。

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