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Web労政時報 第1回:組織の境界線を超えて、顧客や地域社会と共に成長する~ザッポスから学ぶこと~(全12回)

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今月からこのコラムを担当させていただきます(株)ヒューマンバリューの川口と申します。このコラムでは、昨今話題になっていたり、注目されている企業の取り組みを紹介させていただきながら、今後の人・組織づくりの原則を考えていければと思います。

今年の2月にサンフランシスコで開催された「Wisdom2.0」というカンファレンスに参加しました。ビジネス、テクノロジー、マインドフルネス、脳科学といった多様な分野から、今後の知恵の在り方を探求する興味深いカンファレンスでしたが、その中で、ザッポス社のCEOトニー・シェイ氏の発表が、私の中で特に印象に残りました。

ザッポスについては、ご存知の方も多いと思いますが、全米で圧倒的な人気を誇るオンライン靴店です。同社の「Delivering Happiness(幸せを届ける)」という哲学に基づいたサービスや社員の高いエンゲージメントは、兼ねてから経営者や組織づくりの専門家からも関心を集めていました。また、多くの賞を取った『ワーク・シフト』の著者であるリンダ・グラットンの新刊『未来企業 ~レジリエンスの経営とリーダーシップ』(プレジデント社刊)の中でも、これからの企業の在り方を考えるための事例として紹介されています。

ザッポスの取り組みで、特に私が面白いなと感じたのは、自社の中だけに目を向けるのではなく、会社という境界線を超えて、地域社会と共に成長していけるようなビジネスや組織のモデルを新たに構築しようとしている点でした。

トニー・シェイ氏の講演の中では、その具体的なストーリーが語られました。自社の急成長に伴い、オフィスの移転を検討していたザッポスは、アップルやグーグルなどのエクセレント企業のオフィスを参考にしようとしたそうです。しかし、どのオフィスも社員の働きがいや生産性、創造性を高められるような素晴らしい環境だった一方で、地域社会と距離を置き、孤立していることに違和感を持ちました(実際サンフランシスコに行くと、一部のIT企業と地域住民の間の摩擦がしばしば話題になったりしています)。

そこで、ザッポスが参考にしたのがNYU(ニューヨーク大学)でした。NYUは、大学のキャンパスと街との境目が曖昧になっていて、どこからが大学なのかがよく分からないそうです。NYUの在り方にインスピレーションを得たザッポスは、自社と地域社会の境界線をなくし、地域社会と共に成長していこうというビジョンを新たに描きました。

そのビジョンやインスピレーションを基に、ザッポスは、ラスベガスのダウンタウンにある旧市庁舎を企業のキャンパスとして活用することにしました。ラスベガスといっても、私たちが想像するような華やかな場所ではなく、その傍らにある、さびれて廃虚と化したような地域です。そうした環境の中で、地域の多様なコミュニティとザッポスで働く人々が出会い、交流できるようなオープンなオフィス環境の構築を目指しました。

また、オフィスの環境をオープンにするだけにとどまらず、地域に存在する多様な人々が新たなつながりを創り、想いやアイデアを衝突させ、イノベーションを生み出し、それがさらに創造性あふれる人々を呼び、さらなるイノベーションを創造するという長期的なエコシステムを、自分たちがレバレッジ(てこ)となって築こうとしていきました。

具体的には、3億5000万ドルもの資金を投じて、「ダウンタウン・プロジェクト」を立ち上げ、地元のスモールビジネスやベンチャー企業の立ち上げ、教育、アート活動、コ・ワーキング・スペースやコミュニティ・スペースの創設などを支援していきました。講演の中では、地元を離れる寸前だった若者が想いを持って自分のビジネスを立ち上げ、成功を収めたり、使われなくなったコンテナを再利用して地域の人々が集える「コンテナ・パーク」を建設したり、ダウンタウンの街中を会場として利用した音楽フェスティバル「Life is Beautiful」に取り組む様子などが紹介されていました。そのすべてのストーリーの中で、関わる地域の人々やザッポスの社員が生き生きと、活気にあふれて取り組んでいる姿がとても印象的でした。

もちろんこうした取り組みは、まだスタート段階とも捉えられるかもしれませんが、トニー・シェイ氏からは、企業がオープンになって地域社会と共に活力を生み出していくことで、さらに自分たちも成長していけるということを、ビジネスを通じて実現していこうという本気の姿勢が伺えました。

ザッポスの例からは、今後私たちが組織づくりを行う上で、「組織」という枠組みを広げて考えていくことの重要さを学べるように思います。組織づくりを行う上では、「強い組織を創る」「組織の中に一体感を醸成する」といったキーワードがよく使われますが、複雑性や相互関連性が増している現在においては、「自分たちだけがよければいい」という考え方では持続的な成長は望めません。組織の境界線を越えて、顧客や地域社会など、多様なステークホルダーと一体となって共に価値を創出していくといったマインドセットをどう育てていくが重要になってくると思います。

Web労政時報HRウォッチャー2014年10月17日掲載

第1回:組織の境界線を超えて、顧客や地域社会と共に成長する~ザッポスから学ぶこと~(2014年10月7日)

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