本コースでは、個人や組織の強みと価値を最大限に活かすAIの哲学・理論、メソドロジー(方法論)を体験的に理解し、AIを活用したレディネスやフォローも含めた変革プロセス全体をデザインし、実践する力を育みます。
2026年開催コースから「3日間+1日」となります。この数年は2日間+1日で開催しておりましたが、レディネスとフォローの体験的習得機会を加えて、プラクティショナーの方々が確実に実施できるようにします。
GROW THE PIEトーク #4 レポート&アーカイブ配信

ヒューマンバリューでは、書籍『GROW THE PIE』の発刊を契機に、「パーパスと利益を両立し、社会に価値を生み出し続ける経営・組織のあり方」を探求・発信しています。
本イベント「GROW THE PIEトーク」はその一環として始まったシリーズ。毎回ゲストを迎え、サステナビリティ、パーパス経営、組織変革などをテーマに、事例を交えたクロストークを展開していきます。
関連するキーワード
2025年12月1日に開催した「GROW THE PIEトーク #4」。今回のゲストは、東日本大震災で甚大な被害を受けながらも「復興のトップランナー」として、ハーバード・ビジネス・スクールをはじめ世界中から注目を集めてきた宮城県女川町で活動する、特定非営利活動法人アスヘノキボウ代表理事の後藤大輝さんです。
復興期を経て、次なる挑戦のテーマである「人口減少下で『パイ』を拡大する、新しい地方創生のあり方」。人口減少という避けられない現実を前に、いかにして地域の可能性を広げ、新しい「スタート」を次々と生み出しているのか——その核心に迫ります。
人口減少は「パイの奪い合い」ではない。震災から14年、女川町が証明した「成長」の真実
「人口が減れば市場は縮小するため、限られたパイを奪い合うしかない」——現在の日本を覆っているのは、こうした閉塞感のあるゼロサム思考なのかもしれません。
宮城県女川町。東日本大震災で町の8割が壊滅し、人口の約8%を失うという未曾有の悲劇に見舞われたこの町は、復興のプロセスを通じて新たな“希望の定義を打ち立てました。
「復興とは、単に元に戻すことではない。地方が持つ新しい可能性を世界に示すプロセスである」と。
女川町の取り組みは、ロンドン・ビジネス・スクールのアレックス・エドマンズ教授が提唱する「GROW THE PIE」の中核概念である「パイコノミクス(社会価値の創造こそが、長期的には経済的利益につながる)」とも通底しています。
本記事では、組織開発と地域創生の視点から、女川町が震災から14年をかけて示してきた「パイコノミクス」の本質を紐解きます。
1. 「還暦以上は口を出すな」――20年後の責任を見据えた究極のパイ拡大
2011年3月、震災からわずか9日後。がれきが積み上がる中、蒲鉾などの食品加工を営む地元企業「高政」が町内に呼びかけを行いました。そこで共有されたのは、日本の伝統的な序列を根底から覆す、あまりにも鮮烈なテーゼでした。
「還暦以上は口を出すな。責任が取れないから」
この言葉は、単なる若返りの推奨ではありません。そこには、組織開発における「責任と権限」をめぐる誠実なロジックがありました。復興には少なくとも20年かかる。最初の10年はインフラを整える「ハードの復興」、次の10年は町が本当に機能しているか、経済や教育の成果を検証する「評価の期間」です。
20年後、今の50代・60代は70代・80代となり、この世にいない可能性もある。自分たちがいない未来について意思決定をすることは、無責任になり得る。 2,500億円という膨大な国費を投じて行われる復興を、「今を生きる自分たちの利益(現在のパイ)」のためではなく、「100年先の子どもたちが誇れる町(未来のパイ)」のために使う。 この決断が若手リーダーたちの「当事者意識(エージェンシー)」に火をつけ、世代交代という名の究極のパイ拡大を実現したのです。
2. 「巨大な壁」を拒絶し、リスクを取って海と生きる
東北の被災地の多くが、命を守るために海を遮断する巨大な防潮堤を選択する中、女川町は「海が見える町」としての再建を選びました。
「海を怖いものとして記憶に刻むことが、本当に未来のためになるのか?」
彼らが選んだのは、安全という「守りの価値」によるパイの分断ではなく、海とのつながりという「攻めの価値」によるパイの創造でした。設計思想として採用されたのは、地盤高をA・B・Cの3段階に分ける構造です。住宅や学校がある「レベルA」は死守する一方、商業エリアの「レベルB」や水産加工の「レベルC」は、1,000年に一度の津波が来た場合に「流されること」を前提とした「減災」の設計です。
これは一見、経済的損失を許容するリスクにも見えます。しかし、防潮堤によって海の魅力を失い、緩やかな衰退を待つことは、パイコノミクスでいう「不作為の誤り」にほかなりません。女川町は、海と共に生きるという覚悟を復興の中心に据え続けることで、町としての根源的なあり方を体現したのです。
3. 人々の賑わいが育まれる「人を中心とした街づくり」
女川町の都市計画のコンセプトは、人々のにぎわいが育まれる「コンパクトシティ」。その象徴的なビジョンの一つとして、「口説ける水辺のある町」という構想が生まれました。
このビジョンが生まれたのは、会議室ではなく、町の地ビール酒場である「ガル屋」のような場所での「雑談」からでした。行政や民間の人々が集い、分け隔てなく、街づくりへの思いを語り合いました。組織開発の視点で見れば、一人ひとりの思いをつなげて描いた共有ビジョンであり、集合的な意識が醸成されたと言えます。
「デートでカップルが手をつないで歩いても、景色になじむような美しい水辺を作ろう」
「スナックや居酒屋など、漁師さんが好きなものをそろえよう」
こうした感性や体験を重視する発想は、結果として「シーパルピア女川」のような商業エリアのブランディングにもつながり、高い集客力をもたらしました。人間中心の価値を追求したことが、巡り巡って高い経済価値を生み出す結果となったのです。
4. 「定住」を捨てて「活動」を増やす。人口減少時代のパラドックス
多くの自治体が「移住定住」という名の人口の奪い合いに疲弊する中、女川町は「定住人口」という指標への固執を手放しました。
掲げたのは「新しいスタートが世界一生まれる町(スタートアップ女川)」というビジョンであり、重視したのは「活動人口」という指標です。
この町を「何かが始まる場所」と定義したことで、新たな挑戦者が次々と集まり始めました。例えば、ニューヨークのイチゴスタートアップ「Oishii」から移り住み、環境負荷の低い二枚貝の養殖技術開発に挑む若き起業家。あるいは、3年後の自立を前提に、個人の自由な活動が尊重される地域おこし協力隊——。
「スタートするなら女川がいい」というコミュニティキャピタルの蓄積は、驚くべき結果をもたらしました。2023年のデータでは、社会増(転入者が転出者を上回ること)が+20人を記録。定住を目的化しないことが、皮肉にも人口の下げ止まりに寄与するというパラドックスを生んでいます。活動というパイを広げた結果、定住というパイもまた維持されたのです。
女川町の事例から見えてくる「GROW THE PIE」の本質とは
アスヘノキボウの後藤さんとの対談を通じて見えてきた、女川町の事例に学ぶ「GROW THE PIE」の本質は、以下の3点に集約されます。
① 未来への責任:自分たちの世代の利得を握りしめず、次世代のためにリソースと権限を解放する。
② 不作為の誤りを恐れる:守りに入ることで失われる「変化のチャンス」こそが最大の損失だと認識する。
③ 対話文化を力に変える:儀礼的な会議よりも、本音をさらけ出し、違いを生かし合う対話を通じて、本質的なコンセプトを見出す。
本トークの全編は、以下のYouTubeアーカイブよりご覧いただけます。