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雑誌掲載記事

ファシリテーターのBe(あり方)~海外の優れたファシリテーターから学ぶ姿勢・信念~

ファシリテーション」や「ファシリテーター」という言葉が日本で一般に使用されるようになって5~6年が経過しようとしている。企業や団体で働く人々のファシリテーションのレベルも、スキルを学習し、現場での実践を重ねることで、着実に進化しているように思う。
企業や社会が抱えている問題がますます複雑化する中、一部の人たちが力で解決するということは難しく、関わるすべての人々が知恵を出し合い、新たな解決策を生み出していくことが求められている。
そこで、一人ひとりの主体性や参画意識を高め、相互作用を促し、集団としての思考を深めるといったファシリテーターの役割は、今後ますます重要になってくるといえる。

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そうした中、ファシリテーターとして何が最も大切なのだろうかと考えさせられる機会も多い。例えば、ある会社で戦略立案のワークショップを行った際、その組織のマネジャーがファシリテーションすることになり、私たちもサポートという立場で関わらせていただいた。そのマネジャーは、ワークショップのファシリテーションを行うのは初めてで、決してテクニックに優れているわけではなかった。しかし、参加メンバーがオープンに議論できる場を一生懸命につくろうとしている熱意が伝わり、非常に活き活きとした場がつくられ高い成果を生み出した。
その一方で、多くのスキルやテクニックを学習した人がファシリテーションを行っても、参加者にやらされ感や、強制されているという思いがある場合、気持ちよく話し合いを行うことができていないということもある。これらの違いは何から来るのだろうか。

1つにはファシリテーターが、ファシリテーションにのぞむ姿勢にあるのではないかと思う。どんなに優れた手法を使っても、ファシリテーターが、「コントロールしよう」とか「目立ちたい」、「賞賛されたい」という意識が強いと、それが参加者に伝わってしまい、受身にさせてしまうこともある。真にオープンな場づくりをするためには、技術以上にファシリテーターの姿勢や信念を高めていく必要があるのではないかと実感している。

ヒューマンバリューでは、海外で実践されている組織変革や人材開発の方法論や実践のあり方を研究する中で、海外で活躍する著名なファシリテーターとお会いする機会がある。そうした方々は、素晴らしい成果を出しているだけでなく、人格的にも学ぶことが実に多い。そうした"グル"と呼ばれるようなファシリテーターの姿勢や行動を紹介することで、私たちがファシリテーションを行う際に何を大切にすべきなのかのヒントを得てみたい。

「何が起ころうと、起こるべきことが起きる」という原則

ハリソン・オーエン氏は、5人から1,000人の関係者が一堂に会して話し合い、自己組織化を促進する手法であるオープン・スペース・テクノロジー(OST)の創始者である。OSTは、現在、世界各国の企業、行政、教育、NPOなどで高い成果を上げている。彼の著書『Open Space Technology』(邦題『オープン・スペース・テクノロジー』 ヒューマンバリュー出版)は、OSTの実践書として、世界の組織開発やコミュニティ開発に携わる人々に読まれている。

OSTの原則の1つとして、オーエン氏は「何が起ころうと、起こるべきことが起きる」ということを挙げている。つまり、真の学習は、予定していた計画を超えた驚きの瞬間にある。そして、そのような瞬間を大切にして、何が起ころうと、起こるべきことが起きたと捉えることが重要である。

私たちは、つい自分の思いどおりに話し合いが進められないとストレスを感じてしまうものである。しかし、ファシリテーションが、話し合いのプロセスを事前に計画し、そこから逸脱しないようにコントロールすることとして活用されたならば、それはファシリテーターの自己満足であり、人々の真の力を解放することにはならないであろう。そうではなく、参加したすべての人が、今そこで起きていることに集中し、何が起きてもその意味を受け止め、そこから学び、意思をもって一歩を踏み出していくことが重要だということを、彼は教えてくれる。

ヒューマンバリューでは、06年にオーエン氏を日本に招聘し、ワークショップを行った。オープニングのセレモニーが終わった後、オーエン氏がその場から実際にいなくなってしまったことが印象的であった。真にオープンな場が築かれたら、そこでどんな話し合いが行われようと、すべて素晴らしい未来につながるという彼の信念を実感した瞬間でもあった。参加者としての感想になるが、ファシリテーターがその場にいなくても、オーエン氏によってその場がホールドされている感覚があり、いつも以上に心地よい会話を実現できたように思う。

コントロールを手放し、「何が起ころうと、参加者の素晴らしい未来につながる」ということを誰よりもまず自分自身が信じて、実践することがファシリテーターとしてのBeを高める第一歩かもしれない。

学び続ける姿勢

『Solving Tough Problems』(邦題『手ごわい問題は、対話で解決する』 ヒューマンバリュー出版)の著者であるアダム・カヘン氏は、「学習する組織」の研究者や実践家から最も尊敬されるファシリテーターの1人である。彼は、アパルトヘイト廃止後の南アフリカにおいて、それまで敵対し合っていた異なる人種の人々が、互いに協力し合って国家を形成していく支援を行った。

世界中が「回復の見込みがないほどの行き詰まり」と思っていた状況で、カヘン氏のファシリテーションのもと、白人と黒人、既存の権力集団と野党が一斉に集い、深い使命感に燃えたリーダーがひざを突き合わせて話し合い、互いに耳を傾け、未来のシナリオを共に生み出した。それが、南アフリカの国家形成に大きな役割を果たしたのである。

カヘン氏はシナリオプランニングという手法の権威でありながら、講演や著書の中ではそうした理論やノウハウについてはほとんど触れていない。彼が語るのは、コロンビアの内戦、アルゼンチンの経済危機にグアテマラの内紛など、世界的な難題に取り組む中で、自分が体験してきた物語である。
著者は、03年にボストンで開催されたシステムシンキングをテーマとしたコンファレンスで、初めて講演を聴く機会に恵まれた。カヘン氏が、グアテマラの取り組みの中で、敵対し合っていた人々が対話を通じて1つになった瞬間のストーリーを話すと、会場が静寂に包まれ、そこに集う誰もが、内面的に多くの気づきや共感を得ていたのが印象的であった。

お互いの話に耳を傾け、共通の目的やビジョンを描くということは、理屈では誰しもがわかる。しかし、対立した人々がそれを実践に移すのは大きな困難や痛みが伴う。カヘン氏は、決してきれいな成功例だけではなく、多くの失敗の物語を語った。著者は、カヘン氏自身がそうした失敗の中からも、対話の本質が何かを学び、自分を高め、実践し続けていく姿勢に最も感銘を受け、ファシリテーターとして勇気付けられた。そして同様に、彼のそうした姿勢や存在そのものが、実際の話し合いの場づくりに大きな影響を与えていたのではないかと思う。彼の語る物語からは、ファシリテーター自身が学び続ける姿勢を持つことの重要性を学ぶことができる。

「すべての人に素晴らしいところがある」という信念

『The Power of Appreciative Inquiry』(邦題『ポジティブ・チェンジ』 ヒューマンバリュー出版)の著者であるダイアナ・ホイットニー氏は、アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)の提唱者の1人である。AIとは、「肯定的な思考がモチベーションとエネルギーを高め、より良い結果を生み出す」(マーティン・セリグマン等)というポジティブ心理学の考えに基づいたアプローチであり、一人ひとりの強みや価値に焦点を置き、組織の真価を肯定的な質問によって発見し、可能性を拡張させるプロセスである。

AIを構成する原理のなかに、「言葉が世界を創る」という社会構成主義の考えがある。それは、私たちがどんな言葉を使い、何を質問するかによって、未来や行動も方向付けられるというものである。この原理によれば、ポジティブな質問を投げかければ、ポジティブな世界が実現され、ネガティブな言葉を使えば、人々や組織もどんどんネガティブになっていく。それでは世界を創る言葉はどこから生まれてくるのであろうか。それは、言葉を発した人の想いからではないだろうか。

以前、ホイットニー氏に、「どういう想いを持ってワークショップを行っているのか」と尋ねたことがある。その際、彼女からは、「私は参加者に『I LOVE YOU』と伝えたいと思いながらファシリテーションしている」という答えが返ってきたことが、強く印象に残っている。彼女の言葉からは、一人ひとりが持つ力を誰よりも信じ、認め、ありのままを受容しながらその人の更なる成長を願っているというメッセージがあるように読み取れた。

以前、日産自動車のカルロス・ゴーン氏が、自分自身よりも自分を信じてくれる神父の存在が、今の自分を形作ったと語る記事を読んだことがある。ファシリテーターが、「すべての人に素晴らしいところがある」という信念をもって接することが、人々の真価を解放する上で重要なのではないかと思う。

ここまで3人のファシリテーターの姿勢・信念について紹介してきたが、共通して言えることは、3者とも自身の哲学や世界観にもとづく一貫したBeを持っているということではないだろうか。今後ファシリテーターとして成長していくためにも、スキルやテクニックを磨くこと以上に、自分はどんな信念を大切にしたいのか、またどんな想いをもって人々と接したいのかを常に探究し、日々の中でそれを実践していきたいと思う。


「企業と人材(産労総合研究所)」2008年12月5日号掲載

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