社員サーベイはなぜ組織の変革につながらないのか?<第1回>:組織変革にサーベイ結果を活かしきれない理由

現在、多くの企業が働く人々の思いや考えを聞く、様々なサーベイに取り組まれています。
具体的には従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイ、360度サーベイなど目的や位置付けは異なりますが、そういったサーベイが組織や人の変革につながらないという声が聞かれます。
本連載では、社員サーベイがなぜ組織の変革につながらないのかを探りながら、組織にいる人たち自身が、サーベイを活用して組織で起きていることを探求し、変革の種を生み出していくための考え方や実践を紹介していきます。
第1回となる本コラムでは、サーベイ活用がうまくいかない背景や要因について整理していきます。
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現在、多くの企業で活用されている社員サーベイですが、例えば「結果だけ返されても何をしたら良くなるのかわからない」「悪い項目の改善に取り組んでもらっても、組織が良くなる感じがしない」「数値が改善しても、目指す姿に近づいている気がしない」といった声を聞きます。 また、回答する人がその後の変化を感じておらず、マネジメント層が結果をうまく活用できずに変革が停滞している、といったご相談を受けることもあります。
これは、社員サーベイが「組織を探求する営み」ではなく、「結果の良し悪しを判断するイベント」になってしまっていることが大きく影響しているのではないでしょうか。
なぜ、そういったことが起きてしまうのでしょうか。サーベイ活用がうまくいっていない状況を聞きながら、3つの理由があるのではないかと考えています。
理由1:「スコア向上」の目的化
理由2:対症療法的な打ち手
理由3:当事者の不在化
以下では、3つの理由を解説していきます。
サーベイ活用がうまくいかない3つの理由
1. 「スコア向上」の目的化
社員サーベイがうまく活用されないケースでは、サーベイのスコアそのものが目的になってしまっていることがあります。「点数を上げること」や、5段階評価であれば「5がついている状態」を目指すことが、いつの間にかゴールになってしまうのです。
しかし、社員サーベイは本来、人や組織の現状を把握し、よりよくしていくための打ち手を考えるためのものです。また、サーベイの回答は主観的な認知の集積であり、同じ回答でも、その背景にある理由は人や組織によって異なります。加えて、回答する人の理想や目標が変化すれば、スコアのつけ方自体も変わっていきます。そのため、スコアが高ければ良い、低ければ悪いと単純に評価できるものではありません。
それにもかかわらず、サーベイの目的や組織が実現したい状態が十分に共有されないまま数値だけを追いかけてしまうと、サーベイ結果は「組織を考える材料」ではなく、単なる通知表のように受け取られてしまいます。
その結果、
「点数は上がったが、組織が良くなっている実感がない」
「目指す姿に近づいている手応えが得られない」
「現場の実態とはずれた、点数合わせのための本末転倒な施策が打たれる」
といった状態が生まれ、社員サーベイに取り組むプロセスそのものが形骸化してしまいかねません。
これが、「スコア向上」が目的化することの弊害だと考えています。
2. 対症療法的な打ち手
サーベイ結果が表層的に受け取られており、打ち手が対症療法的になっていると感じることはないでしょうか。具体的にはサーベイ結果を見たとき、まず「点数が低い項目」を探して、そこにダイレクトに対策を打とうとしてしまうことはないでしょうか。その結果、起きていることの背景まで十分に探求されないまま、打ち手のピントがずれて、場当たり的になることがあります。
組織内で起きている事象の背景や、要素同士のつながりを探求しないまま手を打っても、問題の根本解決には至りません。なぜなら、見えている事象の中には、組織の価値向上にとって実は重要ではないものも混在しているからです。組織によって置かれた環境や状況は異なるため、何が根本的な問題で、何が重要な影響要因なのかを見極める必要があります。
しかし現実には、 他項目や他組織と比べてスコアが低いというだけで、それを安易に「課題」と認識してしまうケースが少なくありません。そのような捉え方では、組織の価値向上に資する要因を把握できないまま、単にスコアを改善するための「対症療法的な打ち手」に終始してしまいます。
例えば、エンゲージメント・サーベイにおいて、「上司とのコミュニケーション」が重要な鍵だと分かったとしても、単にコミュニケーションの「量」を増やせばよいとは限りません。コミュニケーションの量だけではなく、質が大切になるという場合もあります。また、そもそも上司とメンバーの日頃の関係性やマネジメントプロセスが影響を与えている場合もあるでしょう。低い所に着目するだけではなく、そういったことの影響関係を深掘りして、探求していく必要があります。
3. 当事者の不在化
社員サーベイの活用がうまくいかない背景には、組織の中で当事者意識が育ちにくい構図があると考えています。
よくある状況として、
人事や一部の担当者、あるいは外部パートナーがサーベイ結果を分析し、
その内容を現場に共有したうえで、
「あとは現場で改善に取り組んでください」という進め方になることがあります。
このような進め方では、組織の中に「分析する人」と「結果を受け取る人」という役割分担が生まれます。それが、サーベイを実施する人事や経営と、サーベイ結果を受け取る現場との分断につながりやすくなります。現場からするとサーベイは「自分たちが関わったもの」ではなく、「与えられたもの」として受け止められ、当事者意識が育ちにくくなってしまいます。
さらに、ここにもう一つの分断が重なります。
社員サーベイの結果は「人や組織の問題」として扱われる一方で、現場では日々「ビジネスや業務の問題」に追われています。本来は、組織の状態とビジネスの成果は相互に影響し合っているにもかかわらず、この二つが十分につながって語られないと、サーベイの結果は「人事の話」「自分の仕事とは別の話」として受け止められてしまいます。
このように、
考えるプロセスから切り離されていること
仕事の文脈と結びついていないこと
という二つの分断が重なることで、社員サーベイは現場にとって「自分ごと」になりにくくなり、結果として、当事者の不在化が起きてしまうのではないでしょうか。
3つの理由の背後にある、私たちの思考様式とメンタルモデル
ここまで、社員サーベイの結果がうまく活用されない理由として、「スコア向上の目的化」「対症療法的な打ち手」「当事者の不在化」の3つを示してきました。
これらは一見すると個別の問題のように見えますが、その背景には、私たちが無意識に前提としている共通の思考様式やメンタルモデルが影響しているのではないかと考えています。
多くの組織では、「正解を見つけること」「効率的に成果を出すこと」、「専門的に分析し、最適な答えを導くこと」が重視されています。こうした姿勢は、製品開発や業務改善など、正解が比較的明確な領域においては、非常に有効です。
しかし、この考え方をそのまま社員サーベイにも当てはめてしまうと、サーベイは「組織を探求する営み」ではなく、「壊れた箇所を特定し、修理すれば元に戻るもの」として捉えられやすくなります。
その結果、
「どこが悪いのか」「何を直せばよいのか」という問いが先行し、
対症療法的な取り組みに終始してしまい、具体的な変化を起こすことが難しくなります。
また、正解を見つけることや効率的に進めることに焦点を当ててしまうと、サーベイを診断結果として受け止めることからスタートするため、当事者意識を阻害していきます。
ここで問題なのは、効率や専門性そのものではありません。それらが人や組織の変化という、正解が一つではなく、時間をかけて育まれていく領域においても、同じ前提で使われてしまうことなのではないでしょうか。
だからこそ、自組織の実現したい状態に向けて、社員サーベイを活用しながら自分たちが日頃感じていることやその背景を共有し、組織の現状を深く探求することが大切です。その対話の中から、自分たちの次の一歩が生まれます。そのためには、社員サーベイへの向き合い方、さらには根底にあるメンタルモデルそのものを捉え直す必要があるのです。
次のコラムでは、組織の人たちが当事者意識を持ち、実現したい状態に向けて起きていることや影響関係を探求しながら組織をより良くしていく「対話型サーベイ」の取り組みを紹介します。
社員サーベイはなぜ組織の変革につながらないのか?
<第1回>組織変革にサーベイ結果を活かしきれない理由
<第2回>組織を探求し、自律的な変革を促す「対話型サーベイ」の取り組み
<第3回>変革の仮説を生成する「対話型サーベイ」の実践プロセス
※『社員サーベイ活用セミナー』を2026年2月26日(木)に開催します。