社員サーベイはなぜ組織の変革につながらないのか?<第2回>:組織を探求し、自律的な変革を促す「対話型のサーベイ活用」の取り組み

前回のコラムでは、企業が陥りがちな「社員サーベイが組織の変革につながらない」という悩みについて、その背景や要因を紹介しました。
第2回の本コラムでは、その解決策として「対話型のサーベイ活用」のポイントをご紹介します。社員サーベイを「評価・診断」と捉えず、現場が実現したい状態に向けて、自ら現状の組織を探求し、変革の打ち手を生み出せるような生成的な対話を促していくアプローチです。
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自分たちで意味をつくり、変化を生み出す「対話型のサーベイ活用」
前回のコラムでは、社員サーベイが組織の変革につながらない背景として、
- スコア向上の目的化
- 対症療法的な打ち手
- 当事者の不在化
という3つの状態を整理しました。
一見するとそれぞれ別の問題に見えますが、実はこれらには共通する前提があります。
それは、サーベイを「結果」や「診断」として扱い、
そこにある数値をどう改善するかという“外側の正解探し”に終始してしまっていることです。
その結果、
- 点数を上げること自体が目的になり、
- 表面に見えている項目に対して対症療法的に手を打ち、
- 現場は「与えられた結果」を受け取る立場になってしまう。
こうした構図のもとでは、サーベイは組織を変えるための素材にはなりません。
では、どうすればよいのでしょうか。
私たちは、サーベイを「結果」ではなく、
組織を探求し、意味をつくり、次の一歩を共に生み出すための“プロセス”として捉え直す必要があると考えています。
それが、ここで紹介する「対話型のサーベイ活用」です。ここでいう「対話型」とは、特別なサーベイ商品や新しいフォーマットを指すものではありません。
今あるサーベイを、評価や診断のためではなく、
- 自分たちのありたい姿を描き
- 現状の背景や構造を探求し
- 自分たちで打ち手を生み出していく
ための“向き合い方”への転換を意味しています。
この転換によって、
- スコア向上の目的化は、
「ビジョンに近づくための現実との対話」へと変わります。 - 対症療法的な打ち手は、
「構造を見極めたレバレッジへの集中」へと変わります。 - 当事者の不在化は、
「自分たちで意味をつくるプロセスへの参加」へと変わります。
つまり、対話型のサーベイ活用とは、前回挙げた3つの問題を“別々に解決する方法”ではなく、その背後にある前提そのものを転換するアプローチなのです。
では、その転換をどのように実践していけばよいのでしょうか。
私たちは、そのための土台として、次の3つを大切にしています。
- ありたい姿を共に描く
- 組織を構造的に把握する
- 当事者意識を育む
これらは個別の施策ではありません。「対話」という土台の上で相互に連動しながら、初めて力を発揮します。以下では、それぞれについて具体的に見ていきます。
1. ありたい姿を共に描く
対話型のサーベイ活用の出発点は、「ありたい姿」を自分たちで描くことです。
ここでいう「ありたい姿」とは、会社から与えられた目標を理解することではありません。
「私たちは、どんな価値を生み出す組織でありたいのか」
「どんな関係性の中で仕事をしたいのか」
「お客様や社会に、どのような意味を届けたいのか」
といった問いに、組織のメンバー自身が向き合い、言葉にしていくプロセスです。
なぜこれが重要なのでしょうか。
前回触れた「スコア向上の目的化」は、 自分たちの基準がないまま、外側の基準に反応してしまうことから生まれます。
ありたい姿が曖昧なままサーベイ結果を見ると、 人は無意識に「平均より低い項目」や「他社との比較」に目が向きます。 その結果、「とりあえず改善すべき項目」を探すことが目的になってしまいます。
しかし、自分たちのありたい姿が明確であれば、サーベイを見るときの問いが変わります。
「私たちが目指す姿に照らして、この結果はどう見えるか」
「このスコアは、私たちの仕事にどう影響しているのか」
点数を上げるためではなく、ビジョンに近づくために現実を捉え直す。
このとき初めて、サーベイは通知表ではなく、 “創造的な緊張”を生み出す素材になります。
ビジョンと現実のギャップは、 不安の種や解消すべきことではなく、変革への前向きなエネルギーへと変わるのです。
では、「ありたい姿」はどのように描けばよいのでしょうか。
ここで大切なのは、抽象的なスローガンを掲げることではありません。
「私たちは挑戦する組織である」「心理的安全性を高める」といった言葉だけでは、行動は変わらないからです。
重要なのは、一人ひとりの言葉を大切にすることです。
ありたい姿を描く場面では、最初から組織としての答えをまとめようとすると、「会社として正しそうな言葉」や「きれいな表現」に収束してしまいがちです。その結果、誰のものでもないスローガンが出来上がってしまいます。
そうではなく、まずは一人ひとりが、自分の言葉で「ありたい姿」を考えることから始めます。
そして、それぞれが描いた姿を共有しながら、
「なぜその姿を望むのか」
「どんな経験からそう思ったのか」
といった背景にあるストーリーを語り合っていきます。
このプロセスの中で、
「自分はこう思っていたけれど、そんな見方もあるのか」
「実は、私たちは同じことを大切にしていたのかもしれない」
といった気づきが生まれます。
こうして、それぞれの想いや経験の意味が重なり合うことで、「自分たちのありたい姿」は少しずつ形を持ち始めます。そのとき、ありたい姿は単なる言葉ではなく、「自分たちの経験から生まれた実感のある未来像」へと変わっていきます。
例えば、次のような問いが、ありたい姿を具体的に描く助けになります。
- 私たちのチームが最高の状態にあるとき、どんな会話が交わされているか
- 意見がぶつかったとき、どのように扱われているか
- お客様に価値を届けられたと感じる瞬間は、どんなときか
- 若手はどんな表情で仕事をしているか
こうした具体的な情景を語り合うことで、ありたい姿は「言葉」から「実感」へと変わっていきます。それをレンズとしてサーベイ結果を見ることで、評価の道具ではなく、未来をつくるための対話の素材へと変わるのです。
ビジョン共有から共有ビジョンへ
こうして生まれたビジョンは、誰かから与えられた目標とは異なります。
ピーター・センゲらが『学習する組織』で述べているように、トップが示したビジョンを浸透させる「ビジョン共有」と、人々の想いや経験の中から生まれる「共有ビジョン」は本質的に異なります。
後者の場合、ビジョンは単なる目標ではなく、「自分たちが実現したい未来」として捉えられます。
だからこそ、そこには行動を生み出すエネルギーが宿るのです。
2.組織を構造的に把握する
自分たちの「ありたい姿」が見えてきたら、次に大切になるのは「なぜそのような結果になっているのか」という現状の探求です。
「対症療法」から抜け出し、変化の「レバレッジ(急所)」を見つける
組織の課題は、目に見える一つの事象だけで独立して存在しているわけではありません。様々な要因が複雑に絡み合う「システム(構造)」として成り立っています。
しかし、サーベイ結果が共有されると、私たちはつい「スコアが一番低い項目」を改善しようと動きがちです。
例えば、
「評価の公平性」が低い → 評価者研修を実施する
といったように、スコアと直接結びついた施策を打とうとします。
もちろん、こうした施策にも意味はあります。 しかし多くの場合、それは表面的な対症療法にとどまり、しばらくすると同じ問題が再び現れてしまいます。なぜなら、表面に見えている問題の背後には、メンバーの意識やチームの関係性、仕事の進め方など、より深いレベルの影響関係が存在しているからです。
こうした背景にある影響関係を探っていくことで、問題を生み出している構造が明らかになり、ありたい姿に近づく「レバレッジ(急所)」を見つけることにつながります。こうしたアプローチは「システム思考」と呼ばれ、組織の本質的な変革には不可欠です。
では、具体的にどのようにしてその構造を把握していけばよいのでしょうか。
現場の体験とデータを重ね合わせる
構造を理解するための出発点は、サーベイデータを見ながら現場の体験を持ち寄ることです。例えば、「評価の公平性」のスコアが低かったとき、まず現場で感じていることを共有します。
「評価面談では、メンバーが目標そのものにモヤモヤしていた」
「忙しくて日常のフィードバックが十分にできていない」
といった、日々の仕事の中で感じている違和感や経験です。こうした声を持ち寄ることで、問題の背景にある仮説が少しずつ見えてきます。
その探求をさらに深める一つの手がかりとして、サーベイの解析で用いられる、相関分析(※)や回帰分析(※)の結果も現場での読み込みに活用していきます。
例えば設問間の相関を見ると、「評価の公平性」に対する不満は、評価の仕方そのものではなく、
- 期初の目標設定の明確さ
- 日常の成長に向けたフィードバック
といった項目と強く関連していて、背景にある仮説を裏づけてくれる場合が多くあります。
そうした視点を材料として、
「なぜこの関係が生まれているのだろうか」
「私たちの仕事の進め方の中で何が起きているのだろうか」
といった問いを立てながら、現場の体験と照らし合わせて読み解いていくことです。
構造への気づきが、行動を変える
そうしたプロセスの中で実は「評価への不公平感は、評価スキルの問題というより、目標設定と日常のフィードバックの不足から生まれているのではないか」といった、より現場の実感に近い気づきが生まれてくるのです。
このように、表面に見えていた問題の背後にある「構造」や「暗黙の前提(メンタルモデル)」に気づくことができると、打ち手の選択は大きく変わります。
例えば、評価者研修を行うよりも、
- 期初の目標設定を丁寧にすり合わせる
- 日常のフィードバックの時間を意識的に増やす
といった取り組みの方が、組織全体にとってより大きな効果を生む可能性があります。
つまり、組織の構造が見えてくると、「どこに働きかければ変化が生まれるのか」というレバレッジが見えてくるのです。そして、この理解を自分たちで発見するプロセスそのものが重要です。
「なるほど、ここが根本原因だったのか」
という洞察が生まれると、人は納得感を持って行動できるようになります。自分たちで組織の構造を読み解き、真の課題を見つけ出す。このダイナミズムこそが、やらされ感ではない主体的な変化を生み出す力になるのです。
3. 当事者意識を育む
ここまでは、共有ビジョンを描き、組織の構造を探求する大切さを解説してきました。これらを組織の変革につなげるためには、現場の一人ひとりが「自分たちが職場を変えるんだ」という当事者意識を育むことが不可欠です。なぜなら、組織の状態を日々つくっているのは、現場の一人ひとりだからです。
「他者依存」から「自分たち」へ意識を向ける
サーベイ結果が返却された時、現場で時折見られるのが「当事者の不在化」です。スコアが低い項目を見つけると、「会社の評価制度が悪いからだ」「経営陣の方針が見えないからだ」、あるいは「会社の報酬が低すぎるからだ」と、問題を自らの外側に置いてしまうことがあります。
これは無意識のうちに「誰か(本社や経営、または上司)が解決してくれるはずだ」「誰かが動くべきだ」という依存の構図に陥っています。自分たちでは解決できないという意識がつながることもあります。もちろん会社として、従業員が働きやすい状態を作るために動くことは必要です。ただし、この意識のままでは、どんなに立派な改善策が上から降りてきても、現場にとっては「やらされ感のあるタスク」でしかなく、組織の変革にはつながりません。
「小さくても自分たちで進める一歩(仮説)」を決める
では、どうすれば当事者意識は育まれるのでしょうか。それは、ここまで述べてきた「ありたい姿」を共に描き、組織の「構造」を自分たちで紐解くプロセスそのものになります。
組織の構造を探求するプロセスを通じて、「評価の公平性がない背景には、自分たちの日々の目標設定やフィードバックの不足があったのか」と気づくことができれば、「誰かがやってくれる」のを待つのではなく、「目標の場づくりの仕方を工夫すれば、チームは良くなるかもしれない」という「構図の転換」が起きます。
その上で重要なのは、壮大な計画を立てるのではなく、「小さくても自分たちで進める一歩を必ず決める(仮説・実験を設定する)」ことです。例えば、全社的な評価制度の変更を期待するのではなく、「まずは日々の1on1で、目標に関して気になったことを話す時間をつくろう」といった、自分たちができる範囲で「実験」を始めることができます。
自分たちで決めた小さな一歩を試し、その結果をまた振り返ります。そこで得られた気づきや学び、生み出せた価値や変化を捉えて、さらに組織をよくする次の打ち手を実践します。
このサイクルを回すことで、現場には「自分たちの手で職場は変えられるんだ」という実感が生まれます。これこそが、当事者意識が育まれた結果として得られるメリットであり、対話型のサーベイ活用が実現する「自律的な組織変革」となります。
以上、ここまでのコラムを通して、社員サーベイを組織変革に活かすための「対話型のサーベイ活用」のポイントを3つ紹介しました。
要約すると、社員サーベイに取り組む中では、結果の受け止め方が「評価・診断」に留まり、表層的な課題潰しや当事者意識の欠如に陥ることがあります。これに対して、対話型のサーベイ活用とは、組織のメンバーが「ありたい姿」を共有し、結果を共に探求することで、自律的な変革を生み出していくアプローチです。

図:サーベイ活用のアプローチの違い
この考え方を軸にサーベイのあり方を見直すことは、自分たちでより良い組織をつくるための確かな一歩となるのではないでしょうか。続く最終回のコラムでは、このためのより具体的なアプローチと実践事例を紹介していきます。
社員サーベイはなぜ組織の変革につながらないのか?
<第1回>組織変革にサーベイ結果を活かしきれない理由
<第2回>組織を探求し、自律的な変革を促す「対話型のサーベイ活用」の取り組み
<第3回>変革の仮説を生成する「対話型のサーベイ活用」の実践プロセス