組織イノベーション

シリーズ:組織イノベーション2

ヒューマンバリューのカフェトーク

語り手:主幹研究員 兼清俊光
聞き手:客員研究員 コーデュケーション代表 石川英明

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シリーズ:組織イノベーション2「やり続ける主体性と組織のビリーフ(信念)」

「ベンチャー・新規事業の継続的成長について語る」

やり続ける主体性と組織のビリーフ(信念)

ノウハウを共有しようとして、勉強会を社内でやろうとしても、「忙しい」というのを理由になかなか集まれないというような状況もよくあるかと思います。そのため、勉強会の出席率があまり上がらなかったり・・・。

勉強会の参加率を高めようと努力する時に、たとえば「各部署からぜひ1名」とか、「勉強会には年間10回は出ましょう」というように、推奨することによって、参加者を集めようとするアプローチがあると思います。しかし、そのアプローチだと、「参加者が集まってよかったね」とか、逆に「集まらなくて残念だったね」で終わってしまうことが多いのではないでしょうか。

一方、そうしたアプローチとは異なるアプローチもあります。参加者が集まらなかったら、「そのテーマには、みんなの関心があまりなかったのではないか」とか、「勉強会の進め方のプロセスがよくなかったのかも」などと考え、単に勉強会への参加を推奨したりするのではなく、自分たちが使える資源や手段(リソース)を使って、みんなが集まるように工夫し続けるというものです。参加率が上がらないという状況も、このような捉え方、認知の仕方によって、いろいろな工夫を生み出し続けていったら、徐々に参加者が集まるようになると思うんです。

ところが多くの場合は、そのような認知の仕方や考え方の枠組みにならずに、「うちは忙しすぎて参加者が集まらないんだ」「だから忙しさをどうにかしないと、参加者が集まらない」というような短絡的な捉え方やマインドセットになってしまうのをよく見かけます。
勉強会だったら、勉強会を主催している人たちが、みんなが集まりやすくなるように工夫をし続ける。そして、それをやり続けることで、「勉強会の参加者を増やし、価値を高めるための知識を生み出し続ける」というような枠組みをもちたいと思います。

なるほど。

もう1つ考えられるのは、組織の人々が暗黙のうちに信じていること、重要だと考えているようなもの、これらを「ビリーフ」と呼びますが、その組織にある信念や価値観みたいなビリーフの中に、「差し迫った開発をすることのほうが重要なんだ」というものが存在していて、そのために、メンバーが勉強会に参加しないのかもしれません。

もし、そうしたビリーフがあるのだとしたら、勉強会そのものの工夫ということだけではなくて、その組織にあるビリーフを変えていくという取り組みも、もう1つ必要なことになってきますよね。

近々の課題を成し遂げようとするのはすごく重要ですが、「1年後、2年後、5年後、そして30年後の自分にとっても、組織にとっても、新しい知識などを学習し続け、探求し続けることがとても重要なんだ」ということを組織内の信念にする取り組みを、勉強会に参加しやすくするというのとは別に、やり続ける必要があると思います。

その取り組みには、どちらかというと、構造的、システム的なアプローチが必要です。つまり、「近々の課題を解決することのほうが重要だ」というビリーフを生み出した背景にある因果関係を明らかにし、その構造自体を変えていくアプローチです。ただし、急に構造やビリーフは変わらないので、3年とか5年をかけてでも組織内のビリーフを変えていくという決意や覚悟をもって、仮説検証を繰り返しながら変えていくということだと思います。

これが、同時に取り組みたい2つ目のアプローチです。

1つ目は、勉強会に参加しやすいように主催側が工夫し続けるということ。2つ目は、覚悟をもって組織のビリーフを変えていくということですね。

また一般的な企業では、「誰かが主催する」という形で勉強会が行われることが多いのですが、3つ目は、仕掛ける人や管理する人、事務局的な人が存在しなくても、問題意識をもった当事者たちがコミュニティーを形成して、実践を通して学び合っていくというものを生み出すアプローチです。これを、「コミュニティー・オブ・プラクティス」、「実践のコミュニティー」というのですが、この実践のコミュニティーには主催者もいないし、全員が当事者みたいなものなので、生成的に起きてきます。

つまり特定の主催者はいないのに、いわゆるソーシャル・ネットワーク・システム(SNS)のオフ会のように、必要だと思ったら集まって参考にし合う、検討し合うというような関係や場が生み出しやすいような組織の信念や価値観、ビリーフを創り上げていくことが、重要ではないかと思います。

これだけ変化のスピードが速い時代だと、誰かが知識をもっていて、それを教えてもらうという方法が通じなくなってきています。正解が見えない時代ですから、問題意識をもった仲間たちがお互いの実践を共有し合いながら、対応方法やノウハウ、知識を生み出していく。そういうことが重要なんだ、大切なんだと信じられる組織になると、すばらしいと思います。

少し話は変わりますが、クライアント先など、社外に常駐しているスタッフと、社内で仕事をしているスタッフがいる場合、社外に常駐しているスタッフの参加率が悪いというような場面があるかと思います。

1つは、社外にいるメンバーが参加しやすくなるにはどうしたらよいかを考え、実行していくというのが、結果に結びつくクイックフィットの対応として考えられます。たとえば、開催案内をもう少し余裕をもったタイミングで出していたら、クライアントにあらかじめ説明しやすくなり、社外のメンバーも参加しやすくなるかもしれない、というようにです。

2つ目は、クライアント側の「あなたがいないと困る」という認識、つまり組織としてではなく、個人として仕事をしているというような認識を、スタッフやクライアントが強くもっているようであれば、そこは、対個人でなく組織対組織で仕事をしているという方向に変えていく必要があるかもしれません。

3つ目は、外部に常駐しているメンバーが、「クライアントの要求に応えること」と、「自分自身の力をつけていくこと」「力をつけていくための学習の機会」の3つの関係をどう認知しているかですね。

クライアントに対して自分自身が貢献し続けるには、今のクライアントの課題に応えるだけでは、そのうちクライアントのニーズに応えられなくなってしまうかもしれません。「学ぶということは、クライアントの課題を軽視するということではなく、長期的にクライアントのニーズに応えられるようにするための手段なんだ」というような認知をもつことができれば、クライアントにもきちんと説明して、勉強会にも参加できるのではないでしょうか。

2つ目の「組織対組織の認知」についてお聞きしたいと思います。「あなたがいないと困る」とクライアントに言ってもらう、そういうビジネスパーソンになれという傾向も、企業によってはあるように思います。組織対組織という認知を生み出すことが重要なのでしょうか?

営業担当者の人たちは、『「○○さんだからお願いしたんだよ」って言ってもらえるような営業になれ』と、昔はよく言われていたと思います。また、開発でも「○○さんだからまた発注するんだよ」って言ってもらえるようにと…。

そうした世界観では、自分独自の強みでクライアントと結びつくという枠組みが強化されると思います。

もちろん、そういうことでも構わない場合もあるかもしれません。たとえば、個人事業主であればそれでよいと思います。しかし、組織の中にある様々なリソースを活用してクライアントに価値提供をしていこうとした時に、「Aさんだから決めた」という極めて限られた資源によって、クライアントとコラボレーションできるかどうかの優位性が決まるということは、僕は矛盾しているなって思っています。

もちろん個性があって、一人ひとりの強みとかもあるんだけど、「○○さんだから~」では、組織であるという資源や価値が活かされていないと思います。

3つ目の、目の前の要求と学習のバランスのことですが、これはクライアント側の認知にも影響されるように思いますが、いかがでしょうか。

日本の企業の大半は、学習するということの意味が、社内の人間が学習することだという枠組みに止まっていると思います。けれど、実際にはマーケットのカスタマーたちにも、より高い価値を得られるような考え方とか、行動の仕方を獲得すること、つまり学習する必要がある。だから、クライアントやカスタマーと共に学習していくという視点をもてないと、クライアントが現在持っているニーズに応えるだけになって、企業としては受身的に、振り回される、さ迷うというふうになってしまう危険性があると思います。

これからは、コラボレーションの仕方とかパートナーシップのあり方みたいなことを、クライアントと一緒に学んでいくプロセスを構築することが、非常に重要かなと思います。

とはいえ、クライアントの中には、仕事上のパートナーを業者や下請けとか、協力会社としかみない人もいるかもしれません。けれど、クライアントと共によりよいものを作り上げていく必要があるのが今の時代で、クライアントの要求にしたがって作ればよいという時代ではなくなっているのだと思います。

ですから、クライアントとサプライヤーの関係も、発注者と業者ではなく、価値を創造するパートナーという関係の中で、より上位の目的・ゴールに向けて一緒にプロセスを作り出していくという関係性にシフトする必要がある。それをクライアントにも学習してもらう、みんなでその認知を生み出していくということを、組織内の学習の生成プロセスと同じようにやっていかないと、やっぱり難しいんじゃないでしょうか。

認知を変えていこうとするのは、覚悟のいる、長いプロセスのように思えます。

勉強会に参加してもらうということを考えても、「参加しましょう」と推奨しておしまいではなく、継続的な工夫が必要なのです。つまり、その工夫を1回やったらおしまいではなくて、目標を達成するまでやり続ける。認知を変えていこうというのも、成果を生むように取り組み続けるというところが大事であり、それこそが仕事そのものになってきているのではないかと思います。

次回テーマは

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