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研修効果測定のノウハウ

効果測定を行うには、研修の目的に対しての達成度を見ることが要になる。研修目的が業績の向上にあるのなら、それを測定するし、態度・行動の改善が目的なら、その態度・行動の変化を測定すべきである。そして目的に沿ったシンプルな評価方法・評価項目を選んで行うことが重要である。

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効果測定が求められる理由

研修を行って本当に効果があったのかどうかを明確にしようという試みはかなり以前からあった。今までの研修に対する考え方は、研修費用をコストとして捉えるのが一般的であった。そのため効果を見る目的も、より受講者に評判がよく、効果の高いプログラムに改善しようという意図になりがちだった。また、測定するための評価手段としては、受講者アンケートや感想文が一般的だった。

しかし、最近よく言われている「研修の効果測定」という言葉が意味するのは、従来と異なっている。研修の効果を測るために何をどのように見ていくのか、その深さと緻密さが進化している。その背景としては、今日では研修をコストとして捉えるのではなく投資として見ようという動きが顕著になってきていることがあげられる。つまり投資に対してどれだけのリターンがあるのかで、研修予算や研修の実施を検討するということである。欧米の企業では、1999年ぐらいから盛んに研修の効果測定やROIということが言われるようになってきた。今年になると欧米では、研修の効果測定を行うのは当たり前で、効果測定を行って効果があることを実証しないと、研修予算はカットされるし、HRDのスタッフはリストラされるといった状況になってきている。

そこで、研修の効果測定が重視されるようになったのだが、その理由として米国のウィスコンシン大学名誉教授ドナルド・カークパトリックは、次の5点を挙げている。

1.プログラムを継続するのか、やめるのかを判定するため
2.目的に合っているかを判定するため
3.どのように改善できるかを知るため
4.プログラムの予算を正当化するため
5.このプログラムが必要であることを証明するため

ご存知の通り、研修のテーマには、知識・技能・態度から価値観といった幅広い分野がある。その中には効果測定しやすい内容もあるが、中には効果測定がほとんどできないものもある。深い気づきや洞察力・思考力・創造性といった内容を扱った研修は、効果測定が極めて難しいと思われる。今の風潮ではあまりにも効果測定が全面にでているために、欧米のHRDスタッフはこういった具体的な効果が出ない研修を避ける傾向になっているのではないだろうか。もちろん企業の経営トップが、人材開発に深い理解をもっていて、人々の相互作用によって体験的に学習して獲得できる研修の重要性を支持している場合は問題がないのかもしれない。しかし、そういった場合でも全く効果測定をしないのではなく、かなりポイントを押さえた評価を行っている場合が多い。

長年人材開発に携ってこられたHRDスタッフは、「研修や学習の効果測定なんかはできるわけがないじゃないか」と言ってはばからなかった体験をお持ちかもしれない。しかし、こういう時代になったら、そんなことは言ってはいられない。効果測定をきちんと行うことで、企業のトップに研修を投資として捉えてもらい、投資に見合うことを証明して、研修予算をどんどん獲得していただきたいと思う。

今日、人材育成を行うのは当たり前の投資行為であり、いかに人材開発を行うかという方法が企業の戦略そのものになってきている。的確な投資を行えるように、また人材開発戦略が正しく運用されているかの情報を経営トップにフィードバックする重要な役割を効果測定は担っているのである。

研修効果の測定をどのレベルで行うのか

HRDスタッフが苦労して、素晴らしい研修プログラムを実現しても、浸透せず定着も水平展開もしないことが多い。これはいくつかの阻害要因を無視しているからである。1つは学習内容の転移率を無視して、研修効果を測定するレベルを考慮していないこと。2つ目は、臨界点を無視していること。3つ目は、定着までの時間を無視していることである。

これらのことがよくありがちな例として、営業部門の研修を実施した場面を想像してみたい。
ある営業部門がセールススキルの研修を実施したとしよう。すると研修を実施したスタッフは翌月早速、経営トップから質問を受けることになる。「研修の効果は上がったかね。数字はどれくらい伸びたかな?」そうするとスタッフは「いえ、まだ数字には上がっていませんが...」と答えざるをえない。そこで経営トップは「それじゃ効果はなかったんだ。」という。また、隣の営業部門長は「隣は研修をやったけど、さっぱり研修効果がでていないね。うちの方が成績が良いじゃないか。あの研修は役に立たないから、うちは止めにしよう。」というかもしれない。

実際よくよく考えてみれば、気合を入れて元気づける研修ではなく、セールスの考え方ややり方を具体的に変革していくことを意図した研修であれば、その効果が急に成績に反映してこないのは誰でも分かりそうなものである。それではなぜ、すぐに成績に反映しないのであろうか。その理由としては、1つは研修を受けて受講者が内容を理解しても新しいやり方を一度で受け入れることが少ないからである。

「抵抗がなければそこに変革はなかったのだ」という言葉があるが、今までの慣れ親しんできたやり方を変えるのには、高い学習意欲が必要だ。多くの人は学習内容を理解しても実際に現場で使おうとはしない。つまり転移しにくいのである。一般的な研修の場合、受講者が研修で理解したことを実行してくれる率はおよそ20%から30%と言われているが、皆さんの企業ではいかがだろうか。

また、職場の皆が新しいやり方を使い始めるには、その拠点や職場の20%から30%の人が使っていないと定着しないといわれている。これを臨界点という。臨界点の20%を下回ると、従来のやり方がそのまま行われ、新しいやり方はやがて死滅してしまうのである。そこで対象となる職場や拠点は小さくてもよいから、早めにそのシェアの30%を確保することが大切である。

研修の集め方としては、この臨界点を無視した方法が取られがちである。例えば、各拠点の代表者を1人か2人ずつ集めて研修を行う方法は、受講者が各拠点に戻った途端に、その職場の臨界点を割っているので、実際に定着を望むことが難しい。

もしも、受講者が実際に新しい方法を試みてくれても、1回チャレンジしてそれで成果がでることは少ない。スポーツの例を考えたらすぐ分かるが、フォームを変えるには練習が必要である。今まで平泳ぎしかしなかった人が、突然クロールで泳ごうとしたら一瞬沈むかもしれない。つまり、新しいやり方を導入するなどの変革を行うと一時的に成績が下がることがあるのである。

この現象を理解しないために、組織の変革プロセスを誤る企業が多いと思う。また単純に見ても、研修を行った当月と翌月の成績を研修を行ったチームとその時稼動していたチームで比較をしたら、稼動していたチームの方がその分成績が高くなりがちである。そこで、効果が遅れて出てくるのはいつごろなのかをあらかじめ把握しておくことが重要である。つまり定着までの時間的な遅れを理解し、それを周囲の関係者と意識合わせをしておくことだ。

そこで研修を行う前に、いつごろどのような成果が現れるのかを経営トップと確認し合っておくとよい。例えば次のような質問が効果的だろう。「社長、こういった研修で成果が実際の成績に現れてくるのはいつごろだと思いますか?」すると社長は「それは急には出てこないだろう。よくて半年後じゃないかな。」と普通は考えてくれるだろう。
そこで研修スタッフすかさず「半年ですね。それでどのくらい成績が向上すれば良いとお考えでしょうか?」と聞いてみる。社長は「まあ、5%も向上したら良いね。」と現実的な数字を言ってくれるだろう。
またスタッフは「5%ですね。」と確認しておく。

これによって成果は半年後に 5%アップということで評価がされることが決まったことになる。この質問をしておかないと、突然研修の翌月にトップから成果を問われることになり、誤った判定が下されて研修プログラムが頓挫したり、受講者達もこの研修のやり方は駄目なのではないかと不安になって、せっかくの良いプログラムが定着しなくなるのだ。

しかし、現実問題として半年後までどんな成果が出ているのかを確認しないのでは、研修がうまくいったのかどうかが判断できない。もしかしたら予定した通りの効果はでていないかもしれない。そこで、研修を行ったら最初にでてくる成果が何かを予想し、それが出てくるかどうかを確認しておく必要がある。例えば「社長、研修が終わったらまず何が変わればよいでしょうか?」すると社長は「まあ、皆が元気になってもう少し意見を言うようになったらいいんじゃないかな。」などと言ってくれるかもしれない。すると最初に測定することは皆の発言が増えたか、元気になったと思うかという点かもしれないという仮説ができる。

こういった要因は、最終的な業績を達成する過程で生じる成果なので、プロセスパフォーマンスという。最終的な業績が後から遅れて出てくる結果の指標なので遅効指標と考えると、このプロセスパフォーマンスはそれに対する先行指標といえる。この研修の効果での遅効指標と先行指標を事前に十分検討しておくことが、研修の効果測定を行いやすくさせ、また研修の質の改善を促進させるのである。

効果測定のレベル

では、具体的にどういったレベル・段階で効果を測定したらよいのだろうか。それには、ドナルド・カークパトリックが提唱した「レベル4」が参考になる。

カークパトリックは、研修研修を次の4つのレベルで評価することを提唱してきている。レベル1というのは反応レベル(reaction)、レベル2は学習レベル(learning)、レベル3は行動レベル(behavior)、レベル4は、結果レベル(results)である。

私どもヒューマンバリューでは、この考えをもとに発展させたレベル5を紹介している。レベル1というのは反応レベルといって、受講者はプログラムについてどのように感じたのか、参加して良かったか、役に立ったかを評価する。レベル2は学習レベルである。これは、受講者が提示した学習内容を理解したのか、実際にどの程度知識やスキルを身につけたのかを評価する。レベル3は実行レベルである。これは学習した内容を実際に現場で使っているかを評価する。行動の変化や態度の変化を見るのである。レベル4は成果レベルである。このレベルは最終的な業績に現れていなくても、プロセスパフォーマンスがどのように変化したかを評価する。個人の達成感や喜び、お客様の反応の変化、先行指標の改善などを見る。レベル5はROIレベルである。ここでは実際に成績がどのように伸びたのかを評価する。

レベル1:反応レベル:研修は面白かったか。
レベル2:学習レベル:知識やスキルが理解されたか。
レベル3:実行レベル:学習内容を実行したか。
レベル4:成果レベル:プロセスパフォーマンスが変わったか。
レベル5:ROIレベル:結果としての業績が上がったか。

今後日本の企業においても、パフォーマンスの評価、および研修の効果測定に対するニーズは年々高まっていくと思われるが、効果測定そのものにかなりの労力が必要であることは否めない。こういった研修のROIを測定する方法は最近いくつか紹介されているが、非常に手間やコストがかかり、データを取るのが難しいものが多い。そこで、研修のテーマやねらいによって、どこまでの研修効果測定を行うかを予め決めておく必要がある。効果測定を行うには研修の立ち上げの段階から、いつ何を測定するのかを決めておかないとうまくいかないからである。

研修によっては、レベル3以降を測定する必要がないものがある。例えば同和教育やセクシャルハラスメントの研修を行って、苦情の減少率を取ることは無意味である。これは本来件数が0であるべきだからだ。またこういった研修や安全教育にROI分析を行っても意味はない。計測するとしたら受講率や理解度であろう。 そこで効果測定に必要な項目を洗い出しておき、コースのねらいや特性によって、どの項目を使うかの基準を作っておくと良いだろう。

研修の効果測定方法

では研修の効果測定にはどのような方法があるのか、それには大きく分けて次の6つの測定方法がある。

1.アフターアンケート
2.事前事後テスト
3.ヒアリング
4.コントロールグループとの比較
5.360度アンケートによる比較
6.ROI分析

アフターアンケート

アフターアンケート(受講アンケート)は、従来から行われている一般的な測定方法である。この場合のアンケートのとり方としては、全体的な印象を聞くだけでなく、細かなセッション毎に聞いていかないと、プログラムの改善ができにくい。評価をする際には5段階評価では、トップ2ボックスの割合を比較するのが分かりやすい。また、客観的な評価を聞くだけではなく、何にどのように気づいたのかの感想を引き出すようなコーチング・クエスチョン的な質問もインパクトを見るのに重要である。

事前事後テスト

事前事後テストを行うには、研修の前に受講者の知識、技術のレベルをテストによって確認する。そして、受講後に再度テストを行い、どのくらい向上したかを確認する方法である。受講後すぐにテストを行う方法と3ヶ月後ぐらいにテストを行って定着度合いを見る方法がある。知識やスキルの習得をねらいとする研修では、是非行いたいものである。

ヒアリング

ヒアリングは、受講者に対して研修を受けてどのような気づきや態度の変容があったかを直接聞いていく方法である。研修の事前にも、どんな学習目標を持って研修に望むのか、研修に期待していることは何かなどを、ニーズアセスメントの形で講師や事務局が直接電話などでヒアリングすることは、研修を主催する側にも役立つだけでなく、受講者のレディネスといわれる学習への準備態勢を整え、モチベーションを強化するのに極めて効果的である。

コントロールグループとの比較

コントロールグループとの比較は、研修終了後に受講者群と非受講者群(コントロールグループ)との業績などの差を計測し、比較するものである。業績に影響する要因には様々なものがあるので、業績が高いからそれが必ず研修の効果だと実証するのは難しい。しかし、いくつかのデータが集積されれば高い説得力を持つので、是非行いたい評価である。逆説的ではあるが、少なくても研修の効果がないということは、すぐに実証できる。

360度フィードバック(アンケート)

360度フィードバックは、事前に受講者の周りを囲む上司や部下・同僚などから本人の行動や知識、技能、態度についてどう見えるかのアンケートを収集しておき、研修後、一定期間を経て再度アンケートを採り、その変化を測定するものである。これも何十項目のアンケートを採るような大掛かりなものも良いのだか、コストや手間を押さえるために、最近のITの技術を使ってメールやWebを使って簡単に10項目以内の絞られた設問でテーマを絞り、こまめに簡単に聞くというような配慮が欲しい。

ROI分析

ROI分析は、研修に要した費用に対して、それがどのくらいの業績を生み出したかを測定する。それには比較するためのコントロールグループか前年のデータが必要である。しかし、ROI分析で問題となるのは、費用(投資)にどこまでを含めるのかということである。一般的には、研修費用として講義料+テキスト代+交通費、その他、会場費、宿泊食事代程度を含める。そして、人件費及び研修参加中に稼げたはずの利益は含めない場合が多い。しかし厳密に言えば、人件費や研修に参加したため仕事ができなかった期間の利益上の損失も含めて分析しなければならないだろう。また、営業以外の分野では、業績を数字として測りづらいため、この方式は使いにくい。スタッフ部門では、稼動削減度合いを人件費に換算するなど、業績を測定する指標を金銭に置き換えられる形で設定する工夫が必要である。

米国のトレーニングハウス社のスコット・パリーは、効果測定をするための項目をかなり詳細に明らかにしている。パリーのモデルでは、研修の前にまずニーズアセスメントを行い、次に、研修の効果として何を測定するのかを定める。たとえば、プロジェクト・マネジメントがテーマであれば、プロジェクトの予算・時間、それらの超過に対するペナルティ、ゴールを修正した回数、問題の発生回数など、かなり細かい設定を行う。さらに、研修にかかわるコストの計算を行う。パリーはコストを大きく7つに分類している。1.コース開発費、2.学習教材費、3.研修備品費、4.会場費、5.研修交通費・宿泊食事代、6.人件費(研修期間中の受講者の人件費・スタッフの人件費・講師謝礼)、7.研修期間中の生産性の減少分などである。そして、ROIを分析するためには、次に挙げる実行性に影響する5つの変数を考慮する必要があるとしている。

1.準備時間(立ち上げまでの)
2.棚上げ時間(変化への抵抗)
3.利益を回収するまでの期間
4.受講者の数
5.コースの期間

そして、計測すべきベネフィットを大きく分類して、1.時間の減少、2.生産力の向上、3.品質の向上、4.個人のモラル向上の4つを挙げている。

これらは、かなり詳細な項目になっているので、全てについて測定することは現実的ではないように筆者は考える。これだけ細かい数字をまとめても経営トップは見ないであろうから、経営トップに関心がありインパクトのある数項目に絞った方が、影響力は高い。しかしこれも、明確な比較ができるように、研修の設計準備段階から容易をしておかないと、終わった後からでは間に合わないことが多い。

以上効果測定のノウハウについて概説してきたが、効果測定を行うには、研修の目的に対しての達成度を見ることが要になる。研修目的が業績の向上にあるのなら、それを測定するし、態度・行動の改善が目的なら、その態度・行動の変化を測定すべきである。そして目的に沿ったシンプルな評価方法・評価項目を選んで行うことが重要である。少ない評価項目でも、具体的なデータであれば十分な測定効果を期待できるのではないだろうか。その測定結果は、経営トップに報告するだけでなく、受講者にもオープンにすることで、受講者のモチベーションを高め、さらに研修効果を上げることにつながると思われる。

「企業と人材」(産労総合研究所)2002年10月20日号掲載

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