ATD(The Association for Talent Development)
意味を紡ぎ続ける学び 〜AI時代の Collective Insights, Lifelong Learning〜
<ATD25レポートChapter3>
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株式会社ヒューマンバリュー 研究員 萩森聖香
<AI時代にあらためて問われる「学びとは何か」>
ATD25のテーマは「Collective Insights, Lifelong Learning」でした。AIの進化が加速度的に進む今、ATDのセッションもAIに関するものが急激に増加し、学びの世界にも大きな変化が訪れていることを実感しました。
そうした時代の中で、私たちはあらためて問いかけられているのかもしれません。
「人はどのように学び続けられるのだろうか?」
「AIと共存する時代に、学びの本質はどう変わっていくのだろうか?」
今年のATD25では、こうした大きな問いが、さまざまなセッションや対話を通じて静かに流れていたように思います。
学びとは、知識やスキルの習得にとどまらず、揺らぎの中で問いを立て、意味を紡ぎ続ける営みでもあります。AIの進化が加速する今、その営みのあり方が、これまで以上に問われているのではないでしょうか。情報をまとめ、効率よく活用することはAIが助けてくれる一方で、「どんな問いを立て、何に意味を見出すのか」は人間に委ねられ続けるからです。
だからこそ、私たちは「学びのあり方」そして「AIとともにある人間のあり方」を、改めて見つめ直す必要があるのかもしれません。本レポートでは、ATD25の各セッションで得た学びや考察を紹介しながら、この問いを少しずつ掘り下げていきたいと思います。
<これからの学びのあり方:体験から意味を紡ぐプロセス>
昨年のATDで大きく取り上げられたバーンアウト(燃え尽き症候群)。今年はセッションタイトルとして見られる数は減っていましたが、引き続き多くの参加者の関心を集めていました。「Burnout to Balance: Prioritizing Wellness in L&D(バーンアウトからバランスへ:L&Dにおけるウェルネスの優先)」には会場に入りきらないほどの参加者が集まり、ファシリテーターを務めた方は、「この部屋にこんなに人がいていいのだろうか?」と冗談混じりに話していました。
印象的だったのは、参加者同士の対話を通じて学びを深める場づくりです。ファシリテーターから、「ストレスが効果的だったのはどんな時?逆に破壊的だったのはどんな時?」「我々のウェルネスに影響を与えているものは?」「ストレスを抱えた時、あなたのサポーターとなってくれる人は?」など、構造的な問いが次々と投げかけられ、参加者が自身の体験を語り合いました。
バーンアウトについて、これまで上記のような問いに対する解決策を提示するセッションは多かったように思います。しかし今回は解決策を教わるのではなく、体験を語り合いながら意味を紡ぎ、すでに自分たちの中にある知恵に気づいていく、という学びのあり方に変化していました。 そのプロセスによって、「答えはすでに私たちの中にあるのかもしれない」といった感覚とともに、参加者同士、互いの知恵を生かして助け合う関係性が育まれていくようでした。これは、AIがサポートすることはできても、人が自らの体験を語り、他者と響き合う中で生まれていく、人間ならではの学びの営みだと感じました。
<キャリア開発における「関係性」の力>
このように、他者との関係性の中で体験から意味を紡ぐ学びは、私たちのキャリアや日々の成長の場面にも深くつながっています。キャリア開発のレジェンド・スピーカーであるビバリー・ケイ氏は「Fixing Career Development at Last: “It’s the Relationship, Stupid”(キャリア開発の突破口:“それは関係性に尽きる”)」において、AIやテクノロジーが急速に進化する中で、キャリア開発における人と人との関係性(Human Interaction)の重要性を強調しました。彼女の著書『Help Them Grow or Watch Them Go』の第3版でもこのテーマは中心に据えられています。
彼女はキャリア開発における3つの誤解と、その転換を提起しました。
・イベント(Event) → 探求(Explore)
一度きりの面談や研修イベントではなく、日々の経験を通じた継続的な探求のプロセスへ
・ミーティング(Meeting) → マインドセット(Mindset)
情報交換の場ではなく、成長を支援し合う好奇心と関心を持つ姿勢へ
・責任(Accountability) → 関係性(Relationship)
個人の義務や役割責任ではなく、信頼を基盤に共に成長を支え合う関係性へ
さらに、こうした関係性を支える要素として、ケア(Care)・会話(Conversation)・責任(Accountability)の3つが挙げられました。
ケア(Care)については、慈悲(Benevolence)、敬意(Respect)、共感(Empathy)など、9つの特性が示されました。中でも、信頼(Trust)、コミュニケーション、フィードバックは特に重要性が高いとされています。これらを高めようとする前に、まずは「自分が日頃どのようにこれらを実践できているのか」を自己認識することの重要性が強調されていました。
会話(Conversation)については、自己理解を深めるための3つの問いのステップが紹介されました。
- ハインドサイト(Hindsight):過去を振り返り、そこから学びを得る
- フォアサイト(Foresight):現在起きていることを理解し、状況を把握する
- インサイト(Insight):自分の強みや才能を新たな形で活かす方法を見出す
特にこの会話を行う際は、リーダーの好奇心(Curiosity)が欠かせないとし、「マネジャーが好奇心を持てないなら会話をする必要はない」とも語られていました。
最後に責任(Accountability)については、リーダーとメンバーが共に責任を持ち合う姿勢の大切さが示されました。そこには、3つの要素が含まれます。1つ目のOversight(見守り)は、メンバーの成長のプロセスを見守り、必要なフィードバックや支援を届ける姿勢を指します。これによって安心して挑戦できる土台が生まれます。2つ目のOwnership(責任感)は、メンバー自身が自らのキャリアや成長に主体的に取り組む意識を持つことを意味します。3つ目のOpportunity(機会)は、成長につながる挑戦の機会や経験の場が適切に用意されていることを示します。これらの3つがバランスよく整うことで、キャリア開発は一方的なものではなく、リーダーとメンバーがともに育むプロセスとして成り立っていくのだということでした。
ケア(Care)・会話(Conversation)・責任(Accountability)という3つの要素をもとに、リーダーが好奇心を持ち、信頼に基づく対話を積み重ねる中で、メンバーは自らの経験を振り返り、意味づけながら成長していく。まさに、こうした関係性の積み重ねの中に、キャリア開発の本質があり、人が学び続ける営みもあるのだと感じました。
<日常業務を学びの場に変える実践>
こうしたリーダーとメンバーの関係性は、一方的に支援する/されるというものではなく、互いの関わりと、メンバー自身の主体的な学びが両輪となって育まれていきます。その意味でも、一人ひとりが日常の中で学びを生み出していくプロセスは欠かせません。ジュリー・ウィンクル・ジュリオーニ氏らは、「Going Deeper: From Onto In-the-Job Learning(より深く掘り下げる:仕事の上での学びから、中での学びへ)」の中で、日常業務を活用したIn-the-Job Learning(仕事の中での学び)の実践を提案しました。
それは4つのプロセスに沿って進めるのだと提示されました。
- 目的のある実践(Purposeful Practice)
自ら伸ばしたいスキルを明確にし、日々の仕事の中で小さく試し、振り返り、学びを積み上げる。
- プルコーチング(Pull Coaching)
成長のためのフィードバックを受け身で待つのではなく、周囲に自らフィードバックを依頼し、成長機会を自ら創り出していく。
- 意図的な会議の活用(Meeting-Based Learning)
会議も学びの場に変え、日々の業務の中に問いと振り返りを組み込んでいく。
- AIの活用(AI-enabled learning)
AIをセルフコーチングや振り返りの支援ツールとして活用し、学習サイクルを加速する。
学びは日常のいたる所に存在します。ジュリオーニ氏のセッションからは、まさに学びは誰かに与えられるものではなく、自ら意図を持って作り出していく営みである、という確信を得られるものでした。
ビバリー・ケイ氏が描いた「関係性に根ざしたキャリア開発」と、ジュリオーニ氏らが提示した「日常業務の中で学びを創り出す実践」は、まさに支え合う存在のように思えました。リーダーとメンバーが信頼に基づく対話を育みながら、メンバー自身も日々の業務の中で目的を定め、学びを深めていく。AI時代において、こうした共に支え合い、同時に自らも学び続ける文化がますます重要になっていくのではないでしょうか。
<感情的つながりとエンゲージメント>
そうした関係性や支え合いが、エンゲージメントを高めるという点でも重要であると語られていたのが、「Cultivating Connection–The Critical Key to Workplace Engagement(つながりを育む-職場のエンゲージメントを高める重要な鍵)」でした。このセッションではエンゲージメント低下の一因として、バーンアウトやストレス、孤独感などが挙げられ、その背景に、さまざまなデバイスに意識を奪われ、その結果人との関係が希薄化したり、本来の人間性を隠して生きる(Covering)状態になっていることへの危機感が示されました。
そこで、本来の自分(Authentic self)を大切に、他者と感情的なつながりを築くことが重要だと強調され、ここでも体験を語り合うワークを通じて、その価値を体感していきました。
初めに参加者は自分を定義する要素(国籍や性別、宗教、性格など)を書き出し、それぞれについて「誇りに感じること(Proud)」と「痛みを感じること(Painful)」を語り合います。書き出した要素は同じでも、それについての語りは多様です。しかし不思議なのは、まったく異なる背景を持つ相手の語りであっても、「そのストーリーの中に自分を見ることができる」という共感のプロセスが自然に生まれていたことでした。スピーカーも「ストーリーの中に共感できる部分を見出すことで、つながりが育まれるのだ」と語っていました。
このセッションはまさに、「感情を分かち合いながら、安心と信頼が育まれていくプロセス」を体感的に学ぶ場となりました。Coveringという現象が示すように、現代の職場では「自分を出さないこと」が当たり前になりがちです。しかし、互いに自分の体験や感情を開き、相手の語りに耳を傾けることで、そこに自然な共感やつながりが生まれていきます。こうして生まれる感情のやり取りの積み重ねが、安心感と信頼を育み、自然とエンゲージメントへとつながっていくのだと、あらためて感じるセッションとなりました。
<AI時代におけるEQ(感情知性)の重要性>
エンゲージメントを育むうえでも重要となる「感情のやり取り」。こうした感情との向き合い方は、AIの進化が進む時代において、より一層その必要性を増しているのかもしれません。まさにその整理が行われていたのが、「Emotional Intelligence in the AI Era: 4 Must-Train Strategies(AI時代の感情知能:トレーニングすべき4つの戦略)」のセッションでした。
ワールドエコノミックフォーラムの『Future of Jobs Report 2025』においても、AI時代のコアスキルのうち多くがEQに関連しています。従来、EQは「自己認識・自己管理・動機づけ・共感・対人関係スキル」という5つの要素に整理されてきました(ダニエル・ゴールマンによる分類)。今回のセッションでは、このEQの基盤を踏まえつつ、AI時代における新たな実践の4領域として再整理されていました。
① 自己認識と動機づけ(Self Awareness & Motivation)
AIによってあらゆる情報が手に入る時代だからこそ、ますます問われるのが、「自分は何を大切にして生き、働くのか?」という価値観の明確さです。環境変化が激しい中で、自分の価値観に沿って意思決定できる力は、迷いを減らし、行動の納得感と倫理性を高めます。セッションでは、具体的な選択場面ごとに「これは私にとって何を意味するのか?」と価値観(Values)を内省するワークが紹介され、リーダーシップにおける判断のブレない軸として役立てていく重要性が語られました。
② 創造性とフロー(Creativity & Flow)
創造的な仕事で集中力や柔軟な発想を発揮するためには、感情の扱い方が鍵になるという視点が提示されました。ストレスや不安に囚われると創造性は発揮されません。そこで有効なのが感情ラベリング(Emotion Labeling)です。Emotion Wheelを活用し、怒り・悲しみ・不安といった大まかな分類を超えて、自分の感情を細やかに名付ける。このプロセスにより脳のストレス反応は抑えられ、集中力や創造性が高まるのです。
③ 社会的認識とリーダーシップ(Social Awareness & Leadership)
リーダーは自分の内面だけでなく、「他者の感情」にも感度を持つことが求められます。特に感情感染(Emotion Contagion):リーダーの感情が無意識に周囲へ波及し、職場全体の空気をつくっていく影響力の大きさが語られました。さらに重要なのが、「他者へのストーリー」を自覚的に見直す実践です。私たちは相手の言動に対して、無意識に解釈や思い込みを抱きがちです。事実をもとにした行動観察を積み重ねることで、こうした偏見を緩め、オープンな対話と共感を高めていくことができます。
④ レジリエンスと関係性のマネジメント(Resilience & Relationship Management)
レジリエンスとは「孤独に耐え抜く力」ではなく、「支援を生み出す力」であるという再定義が示されました。困難に直面したとき、自ら周囲にサポートを求め、協力を依頼する行動が、ストレス耐性や学びの継続性を支えていきます。
ここでは、支援ネットワークを設計することが提案されました。どんな場面で誰に何を頼むのかを事前に整理し、実際にサポートを依頼する経験を重ねることで、個人のレジリエンスだけでなく、組織全体の協働的文化を育むことにもつながります。
AIは膨大なデータを処理し、提案や分析を支援する存在になっていきます。けれども、「私は今どんな感情にいて、どんな意味を紡ごうとしているのか?」 という問いは、今もこれからも、人間が自らに問い続ける営みであり続けます。むしろAIが進化することで、人間はより自らの感情や意味に自覚的になる必要が高まる。そのような人間ならではの学びの在り方を、あらためて考えさせられるセッションでした。
<内面の実践知:Positive Intelligenceのアプローチ>
こうした内面的なあり方を整えるための実践フレームとして、Positive Intelligence(ポジティブ・インテリジェンス、PQ)が紹介されていたセッションもありました。PQは、EQの土台の上に構築される実践的な内面マネジメントのアプローチです。「Unleash Your Leadership Superpower: Harnessing Positive Intelligence for Excellence(リーダーシップの超能力を解き放て:ポジティブ・インテリジェンスを卓越性のために活用する)」では、リーダーとして「今まさに自分の内面で何が起きているのか?」に気づき、意図的により建設的な反応を選択していく具体的なフレームを提供していました。
PQ(ポジティブ・インテリジェンス)においては、私たちの脳の働きを、否定的な思考をする妨害者(Saboteur)とポジティブで建設的な思考をする賢者(Sage)にわけて考えます。
妨害者(Saboteur)とは、私たちの強みが過剰に発揮されることで裏目に出る「内なるクセ・反応パターン」で、例えば、Stickler(完璧主義)、Controller(過度なコントロール欲)、Hyper-Achiever(成果依存・常に次を求める)、Hyper-Vigilant(常に不安・危険を探しすぎる)などがあります。これらは無自覚に繰り返すことで自分や周囲にネガティブ感情や疲弊をもたらします。
一方、賢者(Sage)は、創造的で建設的に状況へ向き合うモードです。共感(Empathize)や好奇心(Explore)、新たな可能性を生み出す創造力(Innovate)、価値観に沿って進路を定める力(Navigate)、前向きに行動を起こす推進力(Activate) の5つの力が発揮され、こうした姿勢を育むことで、リーダーは自らも成長し続けながら、周囲の成長を支援する在り方を築いていくのだと語られていました。
PQでは、この2つのモードを意識的に切り替える実践プロセスが紹介されました。
- Saboteur → Interceptor(妨害者への気づき・遮断)
「今の自分は妨害者のパターンに入っていないか?」と自覚する。
- Interceptor → Sage(賢者モードへ移行)
状況を再解釈し、可能性や学びの側面を見出していく。
- Sage → Command(意図的な選択)
今ここで自分がどの反応・行動を選びたいかを主体的に選択する。
このプロセスはまさにリーダーのメンタルフィットネスを高める実践知となります。
印象的だったのは、「リーダーは新たなスキルや資質を付け加えるのではなく、すでに自分の中にある力を整え直し、引き出していく存在である」というメッセージでした。私たちは日常の中で、つい妨害者モード(Saboteur)に無自覚に入ってしまう瞬間がありますが、そうしたクセに気づき、意図的に自らの建設的なあり方(Sage)を選び直していく─そのプロセスこそが、リーダーとしての成長を支える実践知であると感じました。リーダーがまず自分の内面世界に誠実であることが、結果としてメンバーとの信頼や対話の質を高めていく。そこに人と人が共に学び続ける文化の土壌が生まれていくのだと思います。
<多様性と実践としてのD&I>
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)もまた、制度や枠組みを超えて、「感情や内面のマネジメントを通して自分自身に向き合い、日常の人との関係性の中で学び続ける営み」として捉え直すことができるのかもしれません。
今年のATDでは、D&I関連セッションの数はやや減少していたものの、その本質を静かに探究するセッションが行われていました。その一つが『Cross-Cultural Consulting and Facilitation: Stories From Abroad(異文化コンサルティングとファシリテーション:海外体験談)』です。
登壇したのは、異文化の中でコンサルティングやファシリテーションを行ってきた5人の実務家たち。「D&Iの取り組みについては色々言われているが、僕たちの異文化体験を話すことには価値がある」とリアルな現場経験を語ってくれました。
彼ら自身、計画的に異文化に飛び込んだわけではなく、偶然の流れの中で文化を越えた場に身を置くようになってきたと言います。そうした経験から、「実はすべてのプログラムは本質的に異文化的である」という気づきが共有されました。国や文化を問わず、私たちは日々の誰との関わりにおいても“異文化”と向き合っているのだと再認識させられました。
5名のスピーカーの体験談からは、シンプルな実践の中で自分自身を常に振り返り、目の前の相手を真に理解しようとする姿勢が感じられました。例えば、相手の文化に敬意を示すために少しでも現地の言葉で挨拶をする、文化的な話題(音楽やスポーツ、食べ物など)を少しでも調べておく、話すスピードを調整する─こうした「興味を持つのではなく、興味があることを示す」ささやかな配慮が、長い時間をかけてD&Iの文化を育んでいくのかもしれません。
AIが文化情報や背景知識を容易に手に入れられる時代にこそ、D&Iとは、1つの正解を持つのではなく、揺らぎの中で理解し続けようとする営みであり、目の前にいる相手の言葉に、その瞬間どんな敬意をもって耳を傾けるのか、という人間こそ担える学びの営みとも言えるのではないでしょうか。
<揺らぎを生きるLifelong Learning>
ここまで整理してきたように、問いを立て、感情や関係性に向き合い、相手と対話を重ねていく学びは、常に揺らぎの中で続ける営みでもありました。変化の中で正解を持たず、迷いながらも意味を紡ぎ続ける─こうした「揺らぎを生きる力」こそが、これからの学びの本質なのかもしれません。
ATD25の中でも、まさにこの本質を静かに照らしていたのが、「Embracing Disruption: Holding On, Letting Go, Moving On(混乱を受け入れる:耐える、手放す、前進する)」のセッションでした。ここではトレーニング・人材開発の専門家として業界を牽引してきたエレイン・ビーチ氏、Whole Brain® Thinking(ホールブレイン・シンキング)の第一人者として知られるアン・ハーマン=ネディ氏、Grounded®などの理論を提唱した心理学者・組織変革とリーダーシップ開発の専門家であるボブ・ローゼン氏、キャリア開発・エンゲージメントのレジェンドスピーカーであるビバリー・ケイ氏というATDのレジェンドスピーカーたちが、それぞれの長いキャリアを通じて、「変化とともに在り続ける力」について語りました。
彼らが提示したのは、次の3つの内面的プロセスです。
- Holding On(持ち続ける)
変化の中でも、自らの価値観や大切にしたい信念を抱え続けること。
- Letting Go(手放す)
執着や過去の成功パターンを手放し、新たな現実に開かれていくこと。
- Moving On(進み続ける)
新たな現実の中で意味を紡ぎ直し、次の一歩を選択し続けていくこと。
これらは、まさにここまで整理してきた「問い続け、意味を紡ぎ、揺らぎを抱えながら学ぶ営み」そのものと言えるでしょう。セッションでは「混乱は現実であり、安定は幻想である」と語られ、変化をコントロールしようとするのではなく、揺らぎを抱えたまま共に生きていく在り方こそが、これからの時代に必要とされているように感じました。
セッションの最後には、こんな言葉が投げかけられました。
「自分自身を愛して進化し、変化し、一緒に立ち上がってください。」
揺らぎや迷いの中であっても、自らを責めたり、孤立させるのではなく、愛をもって変化と向き合い続けること。それこそが、学び続ける存在としてのリーダーシップであり、人間としての成長の本質なのかもしれません。
<まとめ>
ここまで整理してきた学びの営みは、まさにATD25が掲げた「Collective Insights, Lifelong Learning」というテーマそのものだったように思います。
Collective Insights とは、正解を固定することではなく、互いの経験やストーリーを響かせ合い、対話の中から新たな気づきを生み出していく営み。
Lifelong Learning とは、知識を積み重ねるだけではなく、問いを立て直し、揺らぎを抱えながら意味を紡ぎ続ける生き方。
これらは、AIが私たちの知識獲得や意思決定を大きく支援する時代になっても、人の学びの営みの中心に残り続けます。むしろAIという存在があったからこそ、人間の学びの本質がより鮮明に浮かび上がってくるようにも感じました。
AIと人は、それぞれが異なる特性を生かしながら、共に問いを紡ぎ、新たな可能性をひらいていく学びのパートナーになっていけるのではないでしょうか。 ATD25で体験した数々のセッションや対話は、まさにそうしたこれからの学びの可能性を確かに照らしてくれていたように思います。
<ATD25レポート>
Chapter1:AIとヒューマニティ、その間で見つめたもの (取締役主任研究員 川口大輔)
Chapter2:心理的安全性を培い、学びに伴う“恐れ”に向き合う (研究員 市村絵里)
Chapter3:意味を紡ぎ続ける学び 〜AI時代の Collective Insights, Lifelong Learning〜 (研究員 萩森聖香)