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アジアにおける人材・組織開発の動向

日本の人材開発・組織開発の状況を欧米ではなく、アジアと比較するとどうだろうか。今回は、アジアにおける人材開発・組織開発の動向を紹介しつつ、日本の人材開発・組織開発の位置づけを確認したい。

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アジアの人材マーケットをどう捉えるか

私たちはアジアの人材マーケットをどう捉えているだろうか。テレビや新聞のニュースで、外国人研修制度を悪用した低賃金労働の報道などが、「アジアと言えば、低技能の安価な労働力」というイメージをもたらしているかもしれない。そのためか、アジアにおける人材開発というと、どうしても技能訓練、技能教育をイメージしがちで、組織開発に至ってはイメージしづらいかもしれない。もちろん、アジアには多くの技能労働者がいるが一方で、ナレッジワーカーと呼ばれる知識労働者も数多くいる。

将来の国力を測る先行指標ともいえる学力水準において、日本は10年ほど前からアジア各国の後塵を拝している。例えばアジア各国におけるTOEFL総合点を比較すると、5年前の2003年時点で、日本はアジアの23カ国中22位である。

シンガポールの高学歴者のスタンダードなキャリアパスは、大学卒業後、海外の大学院に留学し、卒業後にその国で数年ビジネスを経験してからシンガポールに戻ってくるというものであるが、その留学先の対象には日本は含まれていない。

アメリカの Institute of International Education によれば、アメリカへの日本人留学生は03-04年度から減少傾向にある。94~97年度まではアジアの国別では第1位にあったが、02年度以降、アジアの国別順位は4位へと下降している。さらに06-07年の最新データを見ると、日本からの留学生は前年に比べて8.9%減少し、インド・中国・韓国の半分ほどにまで落ちている。

しかも、アメリカで学ぶ留学生全体では、大学院課程への留学生数が学部課程を上回っているが、日本人は学部課程への留学生数が大きく上回っていて、2年制大学に占める日本人の割合は全留学生の15%と最も高い。つまり、日本から留学する学生たちの多くは、短期留学で語学習得や異文化理解を主目的としていること意味している。

アジアで開催される人材開発・組織開発カンファレンス

欧米の大学院で、世界中の仲間たちと学び合った者同士がグローバルなネットワークを形成しても不思議ではない。実は、アジアの人材開発・組織開発もグローバルなネットワークを形成し、互いに学び合っている。アジア圏で開かれている人材開発や組織開発のカンファレンスは、アジア圏の多くの国々が参加し、スピーカーもアジアを超えてグローバルである。日本でも数多くの人材開発や組織開発のカンファレンスや大会が開かれているが、参加者のほとんどが日本人であるのと対照的である。

例えば、02年から開催されている『アジアHRDコングレス』という国際会議は、毎年アジア圏の各国を回りながら開催されている。昨年はマレーシアで開催され、今年はインドネシアのジャカルタで7月22~24日に開催される。今年のカンファレンステーマは以下のとおりである。

・グローバルな競技場における人的資本管理
・リーダーシップ
・コンピテンシー・マネジメント
・タレント・マネジメント
・従業員ブランドマネジメント

また、組織開発に関するグローバルアジアのカンファレンスも存在する。「2008 Asia OD Summit !」で、今年は10月1日から4日までの4日間、タイのバンコックで開催される。スピーカーには、フューチャーサーチの生みの親であるサンドラ・ジャノフ氏とマーヴィン・ワイスボード氏をはじめ、欧米の著名な方々が名を連ねている。

私たち日本人が外資系と呼ぶグローバルカンパニーでは、日本に置いていたアジアパシフィックの本社機能をシンガポール、香港へとシフトしつつある。この原因の1つに、日本におけるグローバルマネジャー、グローバルリーダーの人材の薄さがある。中国の民主化の動きが安定したことによって、欧米で高等教育を積み、ビジネスを学んだ華僑の2世、3世が、中国・香港などのアジア圏に戻り、グローバルカンパニーのマネジャー、リーダーを担い始める動きも加速している。

実際のところ、国力にしても、台湾は08年度中に国民1人当たり国内総生産(GDP/購買力平価換算)が日本を抜く勢いにある。ちなみに香港は00年にすでに日本を抜いていて、シンガポールも06年に日本を抜いている。

台湾で開催されたワークショップ

このような状況において、アジアにおける知識労働者を対象とした人材開発・組織開発の水準は、現在どのような状況なのだろうか。

2008年3月8日、台湾の台北の台湾天母国際会議センターにて、オープンクエスト社が主催する2日間のワークショップが開催された。テーマは「参加型意思決定のファシリテーション」で、ファシリテーターは米国人のサム・カーナー氏である。
ワークショップの内容は、利害関係者が一堂に会し、主体的に話し合い、全員の意思でアクションプランと合意を生み出す考え方・方法であった。この考え方・方法は、後述する「ホールシステムアプローチ」と言われるもので、人材開発や組織開発において先進的なアプローチの1つである。サム・カーナー氏は、欧米を中心に企業やNPO、政府といったさまざまな団体において、全員による意思決定のプロセスをサポートし、大きな成果を得ている。

ワークショップには50人を超える人々が参加していたが、台湾からの参加者以外に、香港、シンガポール、中国からも多くの方々が参加していて、その数は全参加者の半数近くに達していた。人材開発や組織開発に関するワークショップを日本で開催したとしたら、アジア各国からこのように多くの参加者が集まることがあるだろうか。

私たちがこのワークショップに参加することになったきっかけの1つは、アメリカで開かれたカンファレンスで、同僚がアジアからの出席者と次のような会話をしたことであった。

アジア各国の人材開発、組織開発を行っている仲間たちがネットワークを作って、お互い学び合っている。でも、日本人はそのネットワークになぜ入ってこないんだろう……

アジアの人材開発・組織開発担当者の現状

ワークショップは非常にインタラクティブな進め方で、参加者はお互いの仕事や今の取り組み課題、そして人材開発や組織開発に関する自分の思いなどを語り合う機会に恵まれた。驚いたことに、まだ日本では一部の人材開発・組織開発に携わっている人たちが取り組み始めたばかりである先進的な考え方や手法を、50人の参加者の多くがすでに実践していた。例えば、現在の取り組み課題も、「OST(オープン・スペース・テクノロジー)を実施した後の取り組みをいかに組織のイノベーションにまで結実させるか」とか、「全員の意思で決めたアクションプランの実践を、組織開発担当者としてどうやって支援するか」といったようなものであった。

日本で人材開発・組織開発の担当者たちが集まって会話をしたとしたら、ホールシステムアプローチやOST、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)、ワールドカフェといった言葉を誰かが発したとき、多くの反応は「それって、何ですか?」だろう。ところが、このワークショップに集まったアジアの人々は、すでに実践していたのである。

ホールシステムアプローチは、特定の課題やテーマにかかわるすべてのステーク・ホールダーまたはその代表者たちが一堂に集まって話し合い、全体の文脈を共有しながら、創造的な意思決定やアクションプランを生成する方法論の総称である。これは、組織を生き物という枠組みで捉え、人々の自己組織化能力(誰かが命令したり、コントロールしなくても、自分たちで主体的に環境適応していく能力)を信じ、それを開放させることで、前に進む主体性と創造性と情熱を生み出そうとするものである。

OSTもホールシステムアプローチの1つであるが、数人から千人を超える人々によって実施することが可能である。私たちヒューマンバリューでは昨年1,850人の参加者によるOST実施を支援させていただいたが、300を超える課題が提出され、話し合いが行われた。そして、すべての話し合いのレポートが共有され、重要と思われるレポートに対して1,850人がモバイル携帯で投票を実施し、最も投票が多かったテーマから順に、全員で話し合い、アクションプランの意思決定を行った。OSTが終わった時の参加者のコメントの1つに、「2,000人近い人々参加者全体で話し合い、アクションプランを生み出すことができたことに感動した」というものがあったが、OSTはそれを可能とする方法論の1つである。

また、AIもホールシステムアプローチの1つである。私は大手自動車会社の組織イノベーションの支援をさせていただいているが、この会社ではAIとOSTを組み合わせ、部門全員が参加するラージスケールミーティングを行いながら組織のイノベーションを推進している。ある部門では、600人が2日間泊まり込んでラージスケールミーティングを開催し、AIやOSTを実施した。このミーティングを機に主体性と情熱、そして創造性が生み出されている。
アジアの各国で、同じような取り組みがすでに数多く実践されている。こちらの姿こそが、技能教育とは異なる領域における人材開発・組織開発のアジアにおける現実の姿かもしれない。

ホールシステムアプローチ類の多くは、グローバルなネットワークを実践者たちで形成し、相互の実践から得られた教訓などを共有し合いながら、進化し続けている。日本の人材開発・組織開発の担当者も、国内でネットワークを形成して学び合うのではなく、アジアの一員としてネットワークを拡張していく必要性があるだろう。

「企業と人材(産労総合研究所)」2008年7月5日号掲載

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