ATD(The Association for Talent Development)

ATD2015事前レポート

ATD2015 International Conference & EXPOが、2015/05/17~20日に米国フロリダ州にて開催されます。本レポートでは、ATD2015公式ホームページに掲載されている内容を参考に、今年のコンファレンスではどのようなことがテーマになるのか、どのような人が講演を行うのかといった見どころをご紹介していきたいと思います。

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ATD2015 International Conference & EXPO

このコンファレンスは、Workplace Learning & Performance(職場における学習・パフォーマンスの向上)に関する世界最大の会員制組織であるATD(2014年にASTDから名称変更)が、毎年開催しているものです。このコンファレンスでは、世界中から集まった先駆的企業や教育機関・行政体のリーダーたちが、現在直面している諸問題にどのように取り組んでいるかを企業や国の枠を越えて学び合います。世界における人材開発の最新動向に触れながら、これからの組織・人材開発のあり方について、多くの人との情報交換や課題の探求をしていく貴重な場であるといえます。

今年のキーノート・スピーカー(基調講演者)

ATDでは、毎年様々な分野におけるオピニオン・リーダーや有識者、経営者や実践家などによる基調講演が行われます。そして、この基調講演者たちの語る言葉やメッセージに耳を傾けていくと、いまの人材開発や組織開発、マネジメントやリーダーシップのトレンドとして、何が起きているかを探る手掛かりを得ることができます。今年は以下の3名によって基調講演が行われます。

アンドレア・ジュング

アンドレア・ジュング氏はエイボン(Avon)社の元取締役会会長兼CEOであり、彼女のキャリアを通して、フォーチュン誌の「ビジネス界でもっともパワフルな女性(Most Powerful Women in Business)」や、ファイナンシャル・タイムズ紙の「世界ビジネスのトップ・ウーマン(Top Women in World Business)」など、世界のトップ・リーダーの一人として認められてきました。女性のロールモデルであり、第一人者である彼女は、化粧品会社エイボン社の126年の歴史上で初めての女性CEOであり、化粧品会社では、創立者を除いて初めての女性CEOです。また、史上最も長く在籍するフォーチュン500のCEOでもあります。ジュング氏は、現在グラミン・アメリカ(Grameen America)のプレジデント兼CEOであり、マイクロ・ローンや、トレーニング、サポートを通して国中の女性やその家族の経済問題を解決するため、組織の拡大に取り組んでいます。また、ゼネラル・エレクトリック社とアップル社の取締役会にも属しています。

ジュング氏はグローバル・ビジネスのリードや、ビジネス戦略とイノベーション、マーケティングとブランディング、そして、チームのモチベーション向上について、迫力のあるスピーチを行います。エイボン社の取締役会会長兼CEOとして、会社の戦略開発、ブランド・イニシアチブ、そして女性の経済機会モデルを世界100カ国以上の国々に広げるという職務を担っていました。彼女は、エイボン社を単なる化粧品会社ではなく、女性のための会社への再定義をリードし、世界中の何百万もの女性が自足できる経済的自立を可能にしたという功績を持っています。

ジュング氏は、経済収入機会を通しての女性のエンパワーメント、また女性に対する暴力を終わらせ、乳がんの蔓延を防ぐための、公私にわたるパートナーシップの追求に対する熱心な貢献で、世界中で称賛を浴びています。

スガタ・ミトラ

TEDの受賞経験もあるスガタ・ミトラ氏は、今日のテクノロジー時代の子どもたちへの教育方法に異議を唱える、教育への新しいアプローチの最前線にいる人物です。彼は英国ニューキャッスル大学の教育テクノロジーの教授で、それ以前はMITの客員教授でもありました。

スガタ氏は、現在、世界中で行われている10年以上もの研究と観察の集大成である、クラウド上の学校(School in the Cloud)の運営に取り組んでいます。The School in the Cloudとはカオスの縁で学ぶことです―自己組織システムとしての子どもの学習を発見し、探求するためのコミュニティ、場所や経験のことです。

デリーのNIITにおける壁の穴(Hole in the Wall)プロジェクトでSOLEs(Self-organized Learning Environments)の立ち上げに取り組んでいた初期の実験段階から、スガタ氏は子どもの生まれながらの学習感覚は、小さなグループでインターネット上を探検する自由を与えられたときに拡大されるということに気づきました。

このような環境に置かれた子どもたちは、誰であろうと、話す言語にかかわらず、「壮大な問題」への答えを探し出し、そこから合理的な結論を導き出せる能力を持っています。これらの問題というのは、学校のカリキュラムで求められるものよりずっと高度なものであってもです。

1999年、スガタ氏はNIITの仲間と共にデリーの都会にあるスラム街の壁に穴を開け、インターネットにつながるPCをインストールし、どんなことが起きるか見てみるためにその場を後にしました。ほとんど同時に、スラムの子どもたちがコンピュータを使って遊び始め、その使い方やインターネットへのアクセスの仕方を互いに教え合いました。

オスカーも受賞した「スラムドッグ・ミリオネア」という映画や、小説の元になったこの実験は、インド各地の都会や田舎で繰り返され、同じような結果を得ました。このことは、教師からの直接的なインプットがない中でも、好奇心を刺激する環境さえあれば、独学と仲間との知識の共有を通して学習が起こるということを実証し、フォーマル・エデュケーションの中でも重要となるいくつかの前提に異議を唱えるものでした。

さらなる研究で、このような状況の中で励ましてくれる大人の存在の重要性が証明され、スガタ氏は英国で退職後の教師を集め、スカイプを通してインドの子どもたちと交流するように協力を仰ぎました。このようにしてグラニー・クラウド(おばあちゃんクラウド)が始まったのです。

エリック・ワール

エリック・ワール氏は、国際的に有名なグラフィック・アーティストであり、作家であり、また起業家でもあります。彼のクリエイティブな経歴とともに、「基調講演者」という言葉の意味をも変えてしまい、ビジネスマン、アーティストとしての経験から、今や絶大な人気を誇る講演者となっています。エリックのステージ上での絵描きは彼のメッセージの核となる部分の視覚的メタファーとなり、組織がイノベーションやより優れたレベルのパフォーマンスを通して、さらなる利益を上げることを促進しています。彼のクライアントには、AT&T社や、ディズニー社、ロンドン・ビジネス・スクール、マイクロソフト社、フェデックス社、エクソン・モービル社、アーンスト&ヤング社、エックスプライズ社などがあります。また、エリック氏はTEDのプレゼンターとしてもフィーチャーされ、観客からの反応として、信じがたいほどのスタンディング・オーベーションがその素晴らしさを物語っていました。

エリック氏のビジョンに対する理解は、初期の失望から来ています。企業のパートナーとしてのキャリアを歩んで8年が経った頃、イノベーティブな思考や、それに答えるビジネスの収益がないことに苛立ちを覚えました。彼は会社に対して、考え方を変えるように意見するようになり、同時に彼自身の情熱を追いかけ始めました。その中で、エリック氏はアートへの情熱を再発見し、今ではアートを通してビジネスの世界で活動しています。

この10年の間、エリック氏は世界中の多くの、そして最も影響力のある企業に素晴らしいメッセージを発信し、彼の画期的な思考に対する情熱を思い出せるよう、彼の作品をそれらの場所に残してきました。

ATD2015のトラックとセッションの見どころ

ATDでは、基調講演の他に数多くのコンカレント・セッションが行われます。3月2日時点で公開されている情報によると、今年は全体で296のセッションおよびワークショップが行われる予定です(※セッション数は常に更新されていくため、今後セッション数が増減することもあります)。また、同時並行で行われるEXPOにおいては、例年300以上のブースの出展が見込まれ、学習とパフォーマンスの向上をサポートする様々な商品やサービスの紹介が行われます。

以下に今年掲げられた14個のセッション・トラック、および各トラックのセッション数を紹介します。

・ラーニング・テクノロジー(Learning Technologies):44セッション
・リーダーシップ・ディベロップメント(Leadership Development):37セッション
・トレーニング・デリバリー(Training Delivery):31セッション
・インストラクショナル・デザイン(Instructional Design):31セッション
・ヒューマン・キャピタル(Human Capital):28セッション
・キャリア・ディベロップメント(Career Development):27セッション
・グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメント(Global Human Resource Development):23セッション
・ラーニングの測定と分析(Learning Measurement & Analytics):21セッション
・ラーニングの科学(The Science of Learning):17セッション
・セールス・イネーブルメント(Sales Enablement):14セッション
・マネジメント(Management):9セッション
・ガバメント(Government):6セッション
・ヘルスケア(Healthcare):5セッション
・ハイヤーエデュケーション(Higher Education):4セッション

今年は、Healthcareのトラックが新しく加わり、以下の3つのトラックの名称が変更されています。

・Training Design & Delivery(2014年) → Training Delivery(2015年)
・Training Design & Delivery(2014年) → Instructional Design(2015年)

Workforce Development for Non-Training Professionals(2014年) → Management(2015年)
以降、各トラックのセッションの見どころを紹介します。

ラーニング・テクノロジー

このトラックでは、様々なテクノロジーを用いて学習を効果的に行う方法や事例などを取り上げています。

この分野の近年の傾向として、ソーシャル・ラーニングやモバイル・ラーニングなどが多く取り上げられていましたが、今年もその傾向は引き続いているように思います。

その中で今年は「バーチャル」という単語がタイトルに含まれるセッションが比較的多く見受けられました。バーチャルという言葉自体は以前から使われていましたが、近年グローバル化が加速し、働く人々が物理的に集まるのが難しい状況が高まっている中で、バーチャル上で、ミーティングをファシリテートしたり、リーダーシップを発揮していくことの重要性がこれまで以上に高まっていることと、簡単かつ安価で使える効果的なテクノロジーが活用しやすくなってきたことによるかもしれません。

たとえば、「TU410:The Global Virtual Classroom: Five Keys to Success(グローバル・バーチャル・クラスルーム:成功への5つのキー)」や「W303:Facilitating Virtual Leadership Workshops With Confidence(自信をもってバーチャルのリーダーシップ・ワークショップをファシリテートする)」などのセッションでは、バーチャルでの学習機会を効果的にデザインし、運営するためのポイントが紹介されています。

また、昨年のコンファレンスでは、5分程度の短い学習コンテンツを日常の仕事の中で活用できるようにし、モバイル化することで、誰もが、いつでも、どのような形でも、ラーニングがしやすい環境を創る取り組みが紹介されていましたが、今年もそうした傾向が垣間見られます。たとえば、「SU314:Bite-Size Content and the New E-Learning(一口サイズのコンテンツと新しいEラーニング)」では、ソフトスキルを中心とした短いEラーニング・コンテンツをデザインする際の戦略やポイントが、リサーチに基づいて紹介されるようです。

その他には、「SU221:Nano-Coaching: Using Mobile to Make On-the-Job Learning and Coaching Practical(ナノ・コーチング:オン・ザ・ジョブ・ラーニングとコーチングを実用的にするために、モバイルを活用)」では、モバイル・テクノロジーを用いたナノ・コーチングという概念やアプローチが紹介されるようで、注目してみたいと思います。

また、昨今話題になっているウェアラブル端末に代表されるような最新のテクノロジーを扱ったセッションも散見されます。たとえば、「M115:Wearables: Just a Fad or the Future of Talent Development?(ウェアラブル:それはただの流行りか、それともタレント・ディベロップメントの未来か?)」などのセッションでは、今後進化していくテクノロジーをいかに学習の中で活かしていくかを考えるヒントが提示されるかもしれません。

また、その他の見どころとしては、人々の具体的なストーリーや経験の共有ができるラーニング・システムをテーマにした「SU220:Implementing Story and Experience-Based Learning Systems(ストーリーと体験に基づいたラーニング・システムを導入する)」や、「W210:Where Will E-Learning Be in 2020?(2020年、Eラーニングはどこにあるのだろうか)」といったセッションが挙げられます。こうしたセッションでは、未来の学習体験のあり方を探求する上でヒントが得られるかもしれません。

リーダーシップ・ディベロップメント

このトラックでは、リーダーシップ研究から、スキル獲得、プレゼンテーションに至るまで、リーダーシップに関するテーマ全般が扱われています。
昨年は、このトラックに、リーダーシップ開発とニューロサイエンスを絡めて扱うセッションが多数登場したのですが、今年はそうしたセッションはThe Science of Learningに集約されたようで、タイトル上ではニューロサイエンスの言葉はなくなっています。しかし、「TU305:Things About Leadership We Never Would Have Said Three Years Ago(3年前には話されていなかったリーダーシップに関する事柄)」というセッションなど、3つほどのセッションの説明では神経科学について言及されています。

このトラックにおいては、ケン・ブランチャード・カンパニー社のケン・ブランチャード氏、ゼンガー・フォークマン社のジャック・ゼンガー氏と、DDI社、フランクリン・コヴィー社など、毎年のように登場している個人や団体が今年も多くのセッションをもっており、彼らが去年までと比べてどのような違いを見せるのかには注目していきたいと思います。
また、今年は、アイルランドのビーミッシュ・アソシエイツ社が、「SU204:There Go the People, I Must Follow, I’m Their Leader(そこに人がいれば、私は寄り添う。私は彼らのリーダーである)」というセッションを持ち、またフィンランドのビジネス・コーチング・インスティテュートが「W206:Positive Team Coaching: Helping People, Teams, and Organizations(ポジティブ・チーム・コーチング:人々、チーム、組織をサポートする)」の発表を行うなど、ヨーロッパ系の団体がいくつもセッションを持っており、どのような発表が行われるのか興味深いところです。

企業によるセッションや事例では、グローバルな展開を行っているIT系企業のアムドックス社が「M118:Where’s the Passion? An Innovative Approach to Global Leadership Development(情熱はどこにある?グローバ・ルリーダーシップ開発のイノベーティブなアプローチ)」を、そしてSAP社が「TU404:Change Your Leaders From the Inside Out: SAP’s Social Sabbatical(インサイドアウトでリーダーを変える:SAPのソーシャル・サバティカル)」というセッションを行います。どちらのセッションにおいても、インサイドアウトや情熱の重要性が触れられており、こうした要素をグローバルなリーダーシップ開発においてどのように展開しているのかをうかがい知ることができるかもしれません。その他の事例としては、ビル&メリンダ・ゲイツ財団やAIG社、毎年評価の高いジョンソンビル・ソーセージ社のセッションがあります。

トレーニング・デリバリー

このトラックは、デリバリーの技術や学習効果を高めるゲームやアクティビティ、技術学習のためのデリバリー、 ファシリテーションスキルに関するセッションからトラックが構成されています。昨年の該当トラックTraining Design & Deliveryからインストラクショナル・デザインが分かれて別トラックとして新設されていることに加え、昨年度こちらのトラックで多く見られたキーワード「神経科学」は見られず、そういったラーニングに対する科学的なアプローチを扱うセッションはScience of Learningに移行しているようです。今年度は、よりスキルやアクティビティ、コンテンツに内容が絞られています。

そういったデリバリーに特化した内容の中で見られる傾向としては、バーチャルのミーティングやトレーニング、そのファシリテーションに関するセッションの増加が挙げられます(「W115:Citi Case Study: Creating Global Virtual Training (vILT) Programs(シティのケーススタディ:グローバルのバーチャル・トレーニング・プログラム(vILT)を作る)」「TU207:Facilitating Engaging Virtual Training Sessions(参加者を惹きつけるバーチャル・トレーニングのセッションをファシリテートする)」「TU111:Building Collaborative Webinars and Virtual Meetings(協働的なオンラインセミナーとバーチャルミーティングを創りあげる)」「W203:Exciting New tools for Cutting-Edge Virtual Training(最先端のバーチャル・トレーニングのための、刺激的な新しいツール)」)。バーチャル・トレーニングの事例として注目されるのは、Citiのケーススタディのセッションでしょう。ファシリテーションについては、リチャード・スミス氏がテクノロジーと人間性の両方の視点から、ファシリテーションに大切なポイントを伝えてくれることが期待されます。

「バーチャル」というキーワードが頻出する一方で、「Eラーニング」というキーワードが見られなくなってきていることも今年度の特徴です。Eラーニングという言葉では、現在の様々な機器の活用や、学習方法の進化によって起きている新しいラーニングの構築や実践を適切に表現できなくなっているのかもしれません。実践の具体的な例として、写真を使用したワークの仕方を取り上げたセッション「W111:Photo Jolts! Increasing Clarity, Creativity, and Conversation Through Photo Activities(フォト・ジョルツ!写真のアクティビティを通じて、明確さ、創造性、そして会話量を増す)」が登場していることも興味深いです。バーチャルでのコミュニケーションが当然となった今、言葉で伝わりにくい情報をいかに視覚的に補完するかということに関するスキルや知識がさらに発達していくことが考えられます。

また、インプロヴァイゼーション(インプロ)についても、今年度の傾向の1つとして触れておきたいと思います。
インプロに関するセッションは「TU400:Introducing Applied Improvisation Techniques for Truly Engaging Training(真に魅力的なトレーニングのための応用インプロ技術の紹介)」「W105:Yes, And! How Improv Training Strengthens Collaboration, Communication, Creativity and Adaptability(イエス、アンド(そう、それで)!インプロ(即興)を使ったトレーニングがいかにコラボレーション、コミュニケーション、創造性、適用性を高めるか)」の2つのみと、決して数が多いわけではありませんが、長年コンファレンスにおいて継続的に取り上げられてきたキーワードかと思います。ただ、これまでインプロは、個人のプレゼンテーション・コミュニケーションスキルの向上を図るためのアプローチの1つとして扱われることが多かったのではないでしょうか。今年度は、現在の変化の多い環境において、チームの一人ひとりが変化に適応し、組織としてクリエイティビティを高めるアプローチとしてインプロが再定義されている感じがします。

インストラクショナル・デザイン

昨年のTraining Design & Deliveryが、今年は「トレーニング・デリバリー」と「インストラクショナル・デザイン」のトラックに分かれました。
「インストラクショナル・デザイン」には、31セッション(3月2日時点)が属しており、成果を高めるための学習やトレーニングのデザイン、学習とビジネスとの結合、Eラーニング、企業内大学の事例など、幅広いテーマで構成されています。

インストラクショナル・デザインの最新トレンドとベスト・プラクティスについては、「SU104:Best Practices and Trends in Instructional Design: Results of Research by ATD, IACET, and R&A(インストラクショナル・デザインにおけるベストプラクティスとトレンド:ATD/ IACET/ R&Aによるリサーチ結果)」にて、ATDが国際人財継続教育・研修協議会(IACET)と提携し、Rothwell & Associates (R&A)にインストラクションデザインのコンピテンシー調査を行った結果が紹介されます。

ここ数年の傾向として、パフォーマンス・コンサルティングを用いたインストラクショナル・デザインのセッションが増えています。
たとえば、「SU415:When Instructional Design Met Performance Consulting(インストラクショナル・デザインとパフォーマンス・コンサルティングが出会うとき)」や「M318:Training That Delivers Results: Instructional Design That Aligns With Business Goals(成果をもたらすトレーニング:ビジネスのゴールと協調するインストラクショナル・デザイン)」では、学習の効果を測定し、ビジネスの目標・業績といかに結びつけるかというテーマが扱われます。

昨年に引き続き、デザイン思考を扱うセッションも散見されます。
「SU200:Design Thinking for the Instructional Designer(インストラクショナル?デザイナーのためのデザイン思考)」では、デザイン思考を取り入れてクリエイティブなインストラクショナル・デザインを行う方法を紹介しています。
「TU408:Innovating Learning Through Design Thinking Interview Techniques(デザイン・シンキングのインタビュー技術を通してラーニングを革新する)」は、インタビューの質問を通してデータを収集するといった側面でのデザイン思考を活用し、新しいアイデアを生み出すテクニックが扱われるようです。

また、視覚的に参加者の関心を引きつけることを目的としたセッションは過去にも多く開催されてきましたが、そのための新しいアプローチや手法が紹介されています。
「TU316:Make Powerful Infographics Fast(迫力のあるインフォグラフィックを速く作る)」や「W315:Visual Storytelling: Engaging Learners Using Pictures(ビジュアル・ストーリーテリング:写真を使って学習者を引き付ける)」では、言葉や数字などの情報を参加者の目を引き付ける形へとデザインする、インフォグラフィックを活用するテクニックやツールが紹介されます。
手法の効果については、「SU211:Does Eye Candy Matter?: Determining the Importance of Visual Design(「見ため」は重要ですか?:ビジュアル・デザインの重要性を考える)」で、グラフィック・デザインとビジュアル効果が学習者に及ぼす影響の研究結果に触れています。

今年の特徴とまでは言えないかもしれませんが、環境変化に素早く柔軟に適応する学習の
あり方も模索されているようです。
「TU307:The Challenge of Scale: Designing Learning Experiences for a Growing Global Audience(スケールの挑戦:増加している世界中の聴衆のために学習経験をデザインする)」「SU401:Crowdsourcing: Changing How People Share and Measure Knowledge Across Organizations(クラウドソーシング:組織を越えてナレッジを共有し、測定する方法を変える)」「TU214 :Pragmatic Product Training: Faster Global Delivery in the Face of Constant Updates(実用的な製品トレーニング:絶え間ない改良に対応する、より素早いグローバル展開)」などのセッションでは、成長に伴う規模の拡大に学習をいかに対応させるか、離れた場所にいる人々のナレッジをいかに結びつけて学習を起こすか、といった事例が紹介されるようですので、何かしらヒントを得ることができるかもしれません。

ヒューマン・キャピタル

このトラックでは、Human Capital(人的資本)を最大限に高め、パフォーマンスの向上や変革を推進するためのアプローチや取り組み例などが紹介されています。扱われているテーマとしては、タレント・ディベロップメントやチェンジ・マネジメント、イノベーション、エンゲージメント、コーチングなど幅広いものが挙げられます。

今年の傾向として、HRD(ヒューマン・リソース・ディベロップメント)やOD(オーガニゼーショナル・ディベロップメント)といった言葉が少なくなり、代わりにタレント・ディベロップメントという言葉が大幅に増えているように見受けられました。この背景には、団体の名称が、ASTD(American Society for Training & Development)からATD(Association for Talent Development)に変わったことが影響しているのかもしれません。

昨年のコンファレンスでは、ATD側から、名称変更の背景に、同コンファレンスに参加する人々の役割や取り組み領域が「トレーニング」を超えて、より幅広い観点から人々のタレントや能力を高めていくことにシフトしてきていることがあるとのメッセージが発信されていました。今年のコンファレンスで扱われているセッションの傾向を見ても、従来まで見受けられたような、必要なコンピテンシーやスキルを特定し、それらを研修やEラーニングでどう高めていくかといった個別的なアプローチが減少し、組織全体にタレントのエコシステムやラーニング・カルチャーをどう築いていくか、イノベーションをどう起こしていくかといった、より全体的なアプローチに広がりを見せているように感じられました。

今年の具体的な見どころとして、たとえば、「SU209:Beyond Competence: The Journey From Novice to Master(コンピテンシーを越えて:初心者から達人への旅路)」では、これまでのようにコンピテンシーや能力を固定的なものとして捉えるのではなく、流動的に動くものとして捉え、それに合わせた学習をデザインすることをテーマに掲げています。Eラーニングやラーニング・システムの権威であるマーク・ローゼンバーグ氏が、コンピテンシーを超えた学習のあり方をどのように捉えているのか、注目してみたいところです。

また、「M117:Exploring the Expanded Talent Development Ecosystem(拡大したタレント・ディベロップメント・エコシステムを探る)」では、タレント・ディベロップメントの枠組みを広げて考え、組織を様々な要素や構造が関連し合うエコシステムとして捉えて、タレント・ディベロップメントの戦略を築いていくアプローチが紹介されるようです。今年全体の傾向が感じられるセッションになるかもしれません。

同様に興味深いセッションとして、「SU218:Understanding What’s Next in Talent: The People Cloud Future(タレントにおける次を考える:ピープル・クラウドの未来)」があります。ITの世界のクラウドの概念を広げて捉え、タレントの領域において「ピープル・クラウド」を形成し、オープン・ソースのタレント・シェアを行ったり、グローバルでのコラボレーションを瞬間的に行うなどの考えや取り組みが紹介されるようです。タレント・ディベロップメントの枠組みを自社に閉じて考えるのではなく、広げて捉える点で、注目されます。

また、ラーニング・カルチャーの構築を扱ったセッションとして、「W102:Become an Organizational Learning Anthropologist(組織学習の人類学者になる)」があります。文化人類学的な観点から、実際に企業の中で組織学習がどのように生まれているのか(あるいは阻害されているのか)を明らかにし、学習を促進する文化をいかに築いていくかをテーマとしているようです。デザイン思考的な観点からも楽しみなセッションです。

具体的な企業の取り組みを扱ったセッションとしては、「M109:Executing the Talent Strategy by Democratizing and Leveraging Development(人材開発を民主化し、活用することでタレント戦略を実行する)」において、フェイスブック社の事例が、同社のリーダーシップ開発の推進者から紹介されます。フェイスブックがいかにタレントを集め、開発し、エンプロイー・ブランドを高めているかといった全体のストーリーが紹介されるようです。

また、昨年も発表を行ったW.L.ゴア&アソシエイツ社が、「M206:Driving Capability for Innovation and Influence in Adaptive Organizations(適応組織において、イノベーションと影響の能力を促進する)」のセッションを行います。イノベーティブな組織やマネジメントのあり方で有名な同社が、昨年に引き続いてどんな刺激的なコンセプトを投げかけてくれるのか、楽しみです。

その他のテーマとして、多世代コミュニケーションや世代間ギャップを取り扱ったセッションも、過去に引き続きいくつか見受けられます。たとえば、「SU320:Creating Opportunities: Mentoring for Multi-Generational Communication, Development, and Succession(機会を創る:多世代コミュニケーション、ディベロップメント、サクセッションのためのメンタリング)」や「W302:Talent Gap 2020: Building Bridges Between Millennials and Boomers(タレント・ギャップ2020:ミレニアル世代とブーマー世代の架け橋を築く)」といったセッションでは、2020年にはミレニアル世代がベビーブーマー世代の数を追い抜くと言われている中、どのようなコミュニケーションが効果的か、また世代間ギャップをどう乗り越えていくかを考えるヒントが得られるかもしれません。

キャリア・ディベロップメント

このトラックでは、個人のキャリア開発や組織におけるキャリア開発について扱っています。
昨年に引き続き、今年も個人の視点からみたキャリア開発に関するセッションが多くを占めているようです
。たとえば、「TU101:Solving Your Talent Equation: The Moment Is Now(タレントの方程式を解く:今がその時だ)」「TU416:A Simple 7-Step Method to Attain Success at Work and Life(仕事と人生において成功を収めるための、シンプルな7つの方法)」「SU302:Learn to Love the Job You Hate: Take Control and Recharge Your Career(大嫌いな仕事を愛する事を学ぶ:あなたのキャリアに責任を持ち、回復させる)」をはじめ、多くのセッションで個人がキャリアを構築していくためのフレームワークを提供しているようです。

また、今年の特徴的な傾向として、テクノロジーの進化を受けて、未来の仕事がどう変化し、その中でキャリア開発のあり方がどう変化するのかを探るセッションが見られます。具体的には、「SU416:Sell-by-date: How to Avoid Becoming Obsolete and Prepare for the Future of Work(有効期限:期限切れになるのを避け、将来の仕事に備える方法)」「W117:The Future of Work, Skills, and Careers in a Technology Driven World(テクノロジー主導の世界における仕事、スキル、キャリアの未来)」というセッションがあります。

特に、SU416のスピーカーであるキャリー・ウィルヤード(Karie Willyerd)氏は、書籍”The 2020 Workplace”の共著者でもあり、2020年にミレニアム世代がベビーブーマー世代の数を上回った際の職場の姿についてのリサーチを行い、イノベーションを起こす組織がどのようにタレントを惹きつけるのかについての講演も行っています。

ウィルヤード氏は、現職のサクセス・ファクター(Success Factor)社のCLOになる以前は、サンマイクロシステムズのCLO、ソレクトロンでのCTO(チーフタレントオフィサー)、ロッキードマーティンの人材開発のリーダーなど大手企業での実績があり、豊富な経験とリサーチに基づく示唆に富んだセッションが期待できます。
また、企業事例としては、米国に本社を置くバイオベンチャー企業のジェネンテック(Genentech)社による「SU402:The value of a Corporate Career Development Center(企業のキャリア開発センターの価値)」と、毎年セッションを行っているTELUS社(カナダのワイヤレス・インターネット・サービスを提供する企業)の「TU205:Developing Careers With a Purpose(目的をもってキャリア開発を進める)」というセッションがあります。

ジェネンテック社のセッションタイトルにある「キャリア開発センター」は、通常学生の就職支援をするために大学に併設されている組織のことを指していることが多く、企業におけるキャリア開発センターはそれほど一般的ではありません。また、これまで、企業にキャリア開発センターが設置されることがあっても、大規模なレイオフの際に再就職を支援する簡易のものや、マイノリティーや女性のキャリア支援といった限定的な位置づけのものが多かった傾向もあります。
今回のジェネンテック社の事例では、組織の成功と従業員のキャリア開発をつなげていくことを目指したサービス提供を行っており、あらためて従業員のキャリア開発を支援する価値について扱っています。従来と異なる位置づけのキャリア開発センターでの実践事例から、企業のキャリア開発支援に関する様々な示唆が得られるかもしれません。

また、TELUS社では、2008年に、コラボレーションのカルチャーを構築することを目指して取り組み始めました。学習をイベントではなく、フォーマル、インフォーマル、ソーシャルというブレンドにすることを目指して、2010年には、人材開発予算の40%をソーシャル・テクノロジーやインフォーマル・ラーニング関連の投資へと変えたそうです(前年は10%の投資のみでした)。
スピーカーのダン・ポンターフラクト(Dan Pontefract)氏は2012年以降、毎年ATDでセッションを行っており、過去のセッションでは「コネクテッド・リーダーシップ」や「コラボレーティブ・リーダー/コラボレーティブ・ラーナー」といったキーワードでプレゼンテーションしています。TELUS社のように、先進的な取り組みを行っている企業での経験を背景に、学習、組織や職場の環境が変わる中で、一人ひとりがどのようなキャリアを開発していくのかということについて、興味深い話が聞けるかもしれません。

また、毎年セッションを行っているベバリー・ケイ氏は「TU221:Cracking the Code on Career Development: Curiosity, Conversation, and Creativity(キャリア開発の難題をひも解く:好奇心、会話、クリエイティビティ)」というタイトルで、マネジャーがどのようにキャリアを支援できるかを扱っています。
また、キャリア開発とは内容が少し異なるかもしれませんが、ダグ・スティーブンソンは「M312:5 Steps to Effective Storytelling(効果的なストーリーテリングのための5つのステップ)」というタイトルで、演劇的な要素を取り入れながら記憶に残るストーリーの伝え方について扱います。

グローバル・ヒューマン・リソース・ディベロップメント

このトラックは、グローバルの変化の動向を踏まえた人材育成のアプローチや取り組み事例を扱ったセッションによって構成されています。ここ数年、セッション数が増加傾向にあるトラックであり、昨年の18セッションから23セッションへと増加してます。今年の傾向は、ある特定の国の取り組み事例に加え、グローバルな活動をする企業の人材開発や組織開発のあり方を扱うセッションが増加しています。
昨年に引き続き、グローバルな環境にチームがどのように対応するかを扱うセッションがいくつかあります。
たとえば、「SU201:Leading Virtual Teams: The New Normal in a Global World(バーチャル・チームをリードする:グローバルワールドにおける新標準)」は、遠隔環境にあるメンバーが「バーチャル・チーム」でチームワークを発揮する方法がテーマになっています。
「W318:Global Agility: Working With Diverse Cultures Around the World or Just Across the Hallway(グローバル・アジリティ:世界中にしろ、社内にしろ、多様な文化の中で働く)」では、文化的な違いを認識して受容するためのマインドセットの重要性が扱われ、「TU103:Accelerating Inclusion: Global Approaches to Creating an Inclusive Workplace(インクルージョンを促進する:インクルーシブな職場を作るグローバルなアプローチ)」では、グローバル・カルチャーでの行動様式を学ぶダイバーシティとインクルージョン教育が紹介されます。

また、そのようなグローバルなチームで活躍するリーダーに求められる柔軟な思考を育成する重要性については、「W207/TU304:How Global Leaders Think: Development Strategies From New Research(グローバル・リーダーはどのように考えるのか:最近の調査に見る開発戦略)」があります。これらのセッションからは、ダイバーシティを越えたインクルージョンの実現に向けたヒントを得ることができそうです。

また、世界中の従業員を育成するコーポレート・ユニバーシティ(企業内大学)のあり方も変化してきているようです。「TU201:9 Success Factors for Building a Corporate Universit(企業内大学設立における9つの成功要因)」では、ヒューレット・パッカード社の事例が紹介されます。
「M219:MAPFRE Corporate University: MAPFRE Goes Even More Global(MAPFRE企業内大学:MAPFREのさらなるグローバル化)」および「TU317:Corporate University Design in the 21st Century(21世紀における企業内大学のデザイン)」のフィリップス社の事例では、それぞれの企業がラーニング自体を再定義した事例が紹介されます。これらのセッションからは、コーポレート・ユニバーシティの変化の方向性が見えるかもしれません。

グローバル・タレントマネジメントのトレンドやベストプラクティスは、「TU107:Global Talent Development: Best Practices and Trends(グローバル・タレント開発:ベスト・プラクティスとトレンド)」において、グローバル・タレントマネジメントに関するATD出版社の講演や、「M107:The Future Shape of Talent Development: From Valued to Valuable(タレント開発の未来形:「高く評価された」から「高い価値のある」へ)」で紹介される研究調査や最新理論が参考になりそうです。
具体的な事例としては、POSCO社の「SU103:Develop Global Talents as Future Leaders Through Action Learning(アクションラーニングを通して将来のリーダーとなるグローバル・タレントを開発する)」「M209:Developing Talent Using Strategic Storytelling(戦略的ストーリーテリングを使用したタレント開発)」「TU417:Leadership and Organizational Development for Sustainable and Profitable Growth(持続可能で収益性の高い成長のためのリーダーシップと組織開発)」などがあります。

ラーニングの測定と分析

このトラックは、ラーニングに関する様々な施策の効果測定や、より成果を高めるための分析に関するセッションで構成されています。
例年、セッションの大半はカークパトリックの4段階モデルやジャック・フィリップスのROIモデルなどを扱うベーシックなもの、学習の定着化などトランスファーにフォーカスしたもの、またそれらの具体的な事例紹介で占められていますが、今年度は、それらに加えて新たなモデルを提唱しようとするセッションもいくつかあるようです。

ベーシックなセッションとしては、例年通りカークパトリック一家やジャック・フィリップス一家が、数多くのセッションを開催する予定です。「M307 / TU314:What Don Kirkpatrik Wanted Every Learning Professional to Know(故ドナルド・カークパトリックがすべてのラーニングの専門家に知ってほしいと望んだこと)」は、昨年亡くなったこの分野の第一人者であるドナルド・カークパトリック氏の功績をたたえるようなメモリアルなセッションになるかもしれません。

学習の定着化やトランスファーというテーマでは、「SU403:Training Transfer and Embedding Learning: An Evidence-Based Model(トレーニングの転移と学習の埋め込み:エビデンスベースド・モデル)」にて、職場での学習の転移に最も影響のある要因の研究結果などが紹介されるようです。また、この分野で毎年多くの人気を集めているアンドリュー・ジェファーソン氏も、「SU208:What’s New in Training Effectiveness? (トレーニングの有効性における最新情報)」というセッションを行う予定です。

今年の新たな傾向としては、「W119:Using Lean Start-Up Methodology in lterative Design of Training Assessment(トレーニング・アセスメントの反復設計おいてリーン・スタートアップの手法を使う)」にて、リーン・スタートアップの手法をトレーニングデザインに取り入れる方法が紹介されるなど、これまでにないモデルを生み出そうとする動きも見受けられるので、注目していきたいと思います。
その他に、昨年度から登場したビッグデータに関しては、今年度も引き続き2つのセッションで取り上げられており、この分野においてどのような発展の可能性があるのか注目を集めそうです。

ラーニングの科学

昨年新設されたこのトラックでは、心理学・神経科学(脳科学)の理論や研究を活用することで、人の思考や行動、学習のあり方を変容させるアプローチを主に取り扱っています。昨年は11セッションだった本トラックが今年は17セッションに増加するなど、この分野への関心が高まりつつあることがうかがえます。

その中で、ニューロサイエンス(一般的には脳科学と呼びますが、科学者は神経科学と呼ぶようです)を取り上げるセッション数は9セッションあります。過去4年間のニューロサイエンス関連のセッション数の推移を振り返ると、2011年:1セッション、2012年:1セッション、2013年:4セッション、2014年:11セッションと、昨年に大幅な増加傾向が見られましたが、今年はやや落ち着いてきたようです。

今年の傾向としては、自発的な行動変容を促すためのアプローチが注目されているようです。たとえば、「SU107:Create Training to Promote Learning Transfer and Behavior Change(ラーニング・トランスファーと行動変化を促進するためのトレーニングを作る)」「SU212/M221:The Science of Behavior Change(行動変化の科学)」「SU308:Fostering a Learning Culture: Six Strategies for Enabling People to Drive Their Own Learning(ラーニング・カルチャーを育てる:人々が自分の学習を推進できるようになる6つの戦略)」「TU118:12 Rules of Respect: The Neuroscience of Employee Engagement(リスペクトの12のルール:従業員エンゲージメントについてのニューロサイエンス)」などが挙げられます。

一方、人々の行動にかかるブレーキにどのように対処するか、といったセッションも見受けられます。
「M304/TU106:The Neuroscience of Why Bias Persists and What to Do About It.(なぜバイアスが持続するのか、そのために何をすべきかの神経科学)」や「SU214:The Neurosience of Fatigue: How It Affects Workplace Learning(疲労についてのニューロサイエンス:ワークプレイス・ラーニングにどのような影響を与えるか)」に共通するのは、すべての人間が影響を受ける存在を見極め、阻害要因を適切にマネジメントすることで、より良い方向に思考や行動を導いていこうというテーマのようです。

また、ニューロサイエンス以外で少し変わったところで「TU300:Rethinking Performance Management (case studies and trends)(パフォーマンス・マネジメントの見直し(ケーススタディとトレンド))」というセッションが注目されます。ここでは、パフォーマンス・マネジメントのためのテクノロジーや測定手法に重点を置くのではなく、経営陣と従業員の心構えや対話の質、新たな習慣づけといった相互作用や集団の行動を変容させていくことの重要性が強調されているようです。

一部の人が変わるのではなく、組織で働く人々が相互に影響し合いながら変化することで組織のパフォーマンスを高めていこうとするアプローチからは、これからの人材開発や組織開発へのヒントが得られるかもしれません。

セールス・イネーブルメント

このトラックは2012年に創設されたもので、セールスを取り巻く事象全般を扱っており、セールス・システム、セールス・トレーニングなどに関するセッションで構成されています。

膨大な情報が飛び交い、複雑性がますます高まる環境の中で、いかにチームレベル、組織レベルで変化していくかということについて、このトラックの中でも重要視されており、このトラックのオピニオン・リーダーであるティム・オハイ氏が「SU413:The Future of Selling and Buying: How the Information Age Is Changing Everything(販売と購買の未来:情報化時代がどうすべてを変えるのか)」の中で、どのような全体像を提示するのかには注目していきたいと思います。

また、これは昨年から続いている傾向ですが、ビッグデータや社内情報システムの活用をメインに扱ったセッションもいくつか見受けられ、他のトラックと同じようにこれらのテーマへの注目度は高いように見受けられます。
見どころとしては、「M213:Big Data Can Transform Sales Enablement(ビッグデータはセールス・イネーブルメントを変えることができる)」が挙げられます。このセッションでは、SAPのCLO(チーフ・ラーニング・オフィサー)がビッグデータとセールス・トレーニング戦略を結び付けるステップや効果的なツールの発表を行う予定です。

その他に、GEキャピタル、オラクル、ヒルトン・ワールドワイド、白物家電メーカーのワールプール社が事例を発表するなど、今年は例年よりも企業事例が多くなっており、トラックが設けられてから4年目を迎えて、どのような具体的な取り組みが行われているのか、注目していきたいと思います。
ガバメント
このトラックは、ATDが行政における人材・組織開発にも力を入れていこうとしているところから2012年度から創設されたものです。連邦政府や州政府、地方自治体など、あらゆるレベルの行政体で働く人々による学習とパフォーマンス向上に関する取り組みが紹介されています。

今年は、例年評価の高いNASAの取り組みが2つ取り上げられています。「M320:Program Evaluation at the NASA Goddard Space Flight Centert(NASAゴダード宇宙飛行センターのプログラム評価)」では、ゴダード宇宙飛行センターで行われている構造的なプログラム評価手法が、具体的な事例とともに紹介されます。
また「W120:Leveraging First-Line Supervisors to Influence Change and Innovation(第一線のスーパーバイザーを活かして、変化とイノベーションに影響を与える)」では、重要な役割を担うファースト・ライン・スーパーバイザーを起点として組織に影響を与え、イノベーションを生み出していくことを目指した取り組みが紹介されます。
行政体の組織における構造立てられたアプローチに注目してみたいと思います。

関連するメンバー

私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。

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