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【Co-creation Career】共創によるキャリア開発

【Co-creation Career】共創によるキャリア開発
〜 変化の時代の中で、キャリア開発のあり方を問い直す

人生100年時代と言われる今日、キャリア開発は変化の局面を迎えています。働く一人ひとりの価値観や仕事観は多様化し、組織の人材マネジメントも変化が求めれています。社会的な変化の機運は高まる一方で、職場でのキャリア開発の現実に目を向ければ、閉塞感を感じる場面も少なくありません。本レポートでは、職場におけるキャリア開発のあり方として「Co-creation Career」という考え方を打ち出し、これからのキャリア開発の実践やアプローチを考えてみたいと思います。

執筆:株式会社ヒューマンバリュー 内山 裕介

目次
1. はじめに:変化の時代における、キャリア開発のあり方とは
2. キャリア開発の変化の潮流
3. 生成的キャリア開発を実現していくためのアプローチ
4. 終わりに:Co-creation Careerのさらなる探求に向けて

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1. はじめに:変化の時代における、キャリア開発のあり方とは

 人生100年時代といわれる今日、働く人々のキャリア開発も変化の局面を迎えています。一生のうちで働く期間が長期化する中、望むキャリアを自律的に築いていくことや様々な経験、学習を重ねることが奨励され、副業やパラレルキャリアをはじめとした多様な働き方が広がっています。また、2020年から始まった世界的なパンデミックは、既存の雇用や職業の不確実性を一層高め、リモートワークによる働き方を広げるきっかけにもなり、多くの人にとって自分自身の働き方や生き方を見つめ直す機会となりました。こうした社会的状況の中で、キャリア開発を新たなものへ転換していく機運は、さらに高まっているように感じます。

 今日におけるキャリア開発に対する世の中の高い関心もあり、インターネットや書籍で「キャリア開発」に関する情報を調べれば、多くの知見や理論を知ることができます。その反面、実際の職場では、働く人が自身のキャリア・ビジョンを描けず閉塞感をもっていたり、経営・人事の方にとっては、自組織において新たなキャリア開発の施策をどのように進めたらよいのかわからず、行き詰まりを感じている場面にも多く出会います。人と組織の学習や成長に向き合う私たちは、変化の時代の中で、キャリア開発をどう見つめ直し、どのように取り組んでいくことが大切なのでしょうか。

 私たちヒューマンバリューは、ATDをはじめとした海外のカンファレンスに参加することで、米国や世界的な潮流を調査したり、企業の人事部の方々や人材開発に関わる方々の集う場において事例研究や対話、実践を重ね、今日の組織で働く人々のキャリア開発について探究を続けてきました。

 本レポートでは、これまでの調査や探究、実践的な学びから得てきたインサイトを生かしながら、特に組織で働く人々に焦点を当てて、豊かな経験や成長を育んでいくキャリア開発のアプローチを考えていきたいと思います。まず前半において、計画的なものから生成的なものへと変化する、現在のキャリア開発の大きな潮流について整理し、後半では、その潮流を踏まえ、組織で働く人々が豊かな経験や成長を実現していくレバレッジとなるアプローチを考えていきます。そして最後に、職場でのキャリア開発の今後のあり方として、「Co-creation Career(共創によるキャリア開発)」という考え方や実践について打ち出してみたいと思います。

2. キャリア開発の変化の潮流

 はじめに、組織で働く人たちのキャリア開発のあり方について、現在のビジネス環境からみえてくる傾向・潮流を整理し、個人と組織に求められる変化の方向性について、社会で行われている議論の整理も兼ねながら、あらためて考えてみることにします。

2-1. ビジネス環境の変化から捉える、キャリア開発のあり方(計画的キャリア開発から生成的キャリア開発へ)

║ 計画的キャリア開発の限界

計画的キャリア開発のイメージ(ラダー型)

 未来のビジネスの成長を見通すことができた過去の時代、日本企業では終身雇用を前提とした長期的な展望に基づき、組織がポストやキャリア・パスをつくり、人々は一律的な昇進・昇格を目指していく「計画的キャリア開発」が進められてきました。そうした環境においては、個人は組織内の昇進・昇格といった外的基準を軸に、長期的に能力やスキルを積み上げていくことで、安定的にポストを上っていくことができました。

 しかしながら、未来のビジネス環境を見通すことができない今日において、組織で働く誰もが、終身雇用を前提にしたり、昇進・昇格・昇給といった上方向へ長期的展望をもつことは難しくなっています。また、デジタル化やテクノロジーの進化、目まぐるしいビジネス環境の変化によって、これまで必要とされてきた知識や専門性、スキルの価値が失われることも増え、個人が長期的に計画を立て、直線的に能力やスキルを積み上げていくことも難しくなりました。

║ 生成的キャリア開発への転換

生成的キャリア開発のイメージ(ボルダリング型)

 上方向への長期的な計画に基づくキャリア開発が難しい現在、キャリア開発はより生成的なものへの転換が求められています。変化に対応しながら豊かな経験・成長を育むためには、常に上への一方向(昇進・昇格)を目指すのではなく、それぞれの多様なキャリアゴールに向けて、臨機応変に組織内外の上下横を移動して、柔軟に経験を積んでいくことが大切になります。従来のように組織内でより高い責任をもつ役職へ昇格したいときもあれば、現在の仕事の中で新たなチャレンジに取り組むことや、自身の視野とネットワークを広げるために別の部署やプロジェクトに横移動してみることが、自分自身の成長機会になることもあります。また、制度上では降格や後退とみなされるシフトが、自身のキャリア・ビジョンにとっては豊かな経験につながる場合もあるでしょう。

 エンゲージメントやキャリア開発において米国で著名なビバリー・ケイ氏は、こうした変化の潮流を以下のように述べ、キャリア開発のあり方が「ラダー(はしご)型」から「ボルダリング型」へ変化していると表現します。

 「キャリア開発についての新たな考え方を手に入れましょう。上方向(キャリア・アップ)だけではなく、一度役職を手放してみたり(キャリア・ダウン)、寄り道をしたり、今とは違った経験をしてみるといったことも含まれます。あるいは今のポジションにとどまったまま、戦略的に成長するというのもあるでしょう。今日のキャリア開発は、はしごというよりはむしろ、ボルダリングの壁のようなものです」 

出典:『会話から始まるキャリア開発』ビバリー・ケイ&ジュリー・ウィンクル・ジュリオーニ(著) ,佐野シヴァリエ有香(訳)、ヒューマンバリュー、2020年、p.78

 能力・スキルのあり方も同様に変化し、一つの専門性・スキルを長期的に積み上げるというよりは、小さく実験してみたり試行錯誤を重ねるなど、柔軟に経験や能力を育んでいくことが大切になります。このように、環境変化を前提とした多様なキャリアゴールへ向けて、柔軟に経験や成長を育んでいくキャリア開発のあり方をヒューマンバリューでは「生成的キャリア開発」と呼んでいます。

キャリア開発の変化の潮流(図1)

2-2. 個人と組織に求められる変化

 では、従来の「計画的キャリア開発」から、今日的な「生成的キャリア開発」へ転換していくために、個人や組織は、どのように変化していくべきでしょうか。

║ 働く個人のマインドセットの転換

 個人にとっての変化の一つとして、自分自身のキャリア開発を、所属する組織に依存した受動的なものから自律的なものへと変えていく必要があります。「キャリア自律」という言葉が頻繁に使用され、キーワードとなっているように、自分自身のキャリア・ビジョンを明らかにし、いかに自らのキャリアにオーナーシップをもつことができるかが、働く一人ひとりにとって重要なテーマとなっています。

 そのために、柔軟に成長・学習するマインドセットを育んでいくことが、一層大切になっています。環境や組織が変化している中で、自分自身の現在の能力や過去に描いたキャリア・プランに固執していると、変化に適応できなかったり、自身の可能性や成長機会を固定的に小さく限定してしまうことになります。実現したいキャリア・ビジョンに向けて、変化に伴って生じた偶然の機会や、自身の多様な可能性を生かして、柔軟に学習していくマインドセットを高めていくことが大切です。環境変化によって恐れや不安が高まると、他者からの評価を必要以上に気にしたり、失敗やチャレンジを恐れてしまう「フィックスト・マインドセット」になりやすい傾向もあります。自身の能力や資質を変化するものと捉え、失敗や評価を恐れないで柔軟に学習・成長を楽しんでいく「グロース・マインドセット」を育むことがより一層大切になっているといえます。

 加えて、働く動機・仕事観の転換を図っていくことも重要です。上記に挙げたように、自らのキャリア・ビジョンをもち、柔軟に学習・成長を育んでいくためには、自分自身の内なる価値観が軸となります。そのためには、仕事観や働く動機は、組織や他者から与えられるもの(外発的動機)ではなく、自ら大切にしている価値観に基づくもの(内発的動機)を、中心に据えていくことが必要でしょう。

働く個人の変化(図2)

║ 組織は多様な人材が活躍できる人材マネジメントへ

 個人の変化と同様に、企業の人材マネジメントも生成的キャリア開発を支援するものへと変化する必要があります。

 その一つとして、組織は終身雇用を保障し人材を囲い込むのではなく、人材の流動化を前提にしたキャリア自律の支援が求められています。

 人材育成のあり方も転換する必要があります。従来は、組織によって定められたスキルマップをもとに、段階的に育成する階層別研修やOJTが中心にありました。変化の激しい今日の環境では、新しい分野や領域に関する計画的育成は困難であり、社員それぞれが、研修やeラーニング、越境体験など、様々な学習機会を活用できるように支援していくことが大切になっています。

 また、異動や配置に関わる人事制度についても、組織主導の序列・規則による一元管理から、働く人それぞれの多様なキャリア・ビジョンを前提に検討していくことが必要です。
 
 こうした変化に伴い、組織の仕組みや施策はもちろん、職場の人材育成や人事に関わるマネジャーのあり方もシフトしていくことが求められ、各職場でも、生成的キャリア開発を支援するマネジメントに取り組んでいく必要があります。

組織の人材マネジメントの変化(図3)

3. 生成的キャリア開発を実現していくためのアプローチ

 ここまで、キャリア開発が計画的なものから生成的なものへ変化していることを踏まえ、個人と組織に求められる変化について、大きな傾向を整理してきました。後半では、組織の中で「生成的キャリア開発」の取り組みを進めていく上での阻害要因を明らかにするとともに、それらを乗り越え、生成的なキャリア開発を実現していくアプローチについて考えていきます。

3-1.個人と組織の変化を阻害するもの

 キャリア開発のあり方の変化に伴い、新たなアプローチを具体的に取り入れ始めている企業もあります。たとえば、従業員が自身のキャリア・ビジョンに向けて働いていけるように、内省を促すキャリア開発研修を取り入れたり、副業や時短といった多様な働き方を支援する制度を導入している組織が見受けられます。また、昨今注目度の高い「ジョブ型雇用」を推進する中で、終身雇用や年功序列を前提としない人事の仕組みへ転換する企業も増えています。
 そうした制度や施策の展開が進む一方で、前述したように、個人と組織の双方が、自律的・生成的なキャリアを推進する中で、旧来の考え方や組織風土の側面から「行き詰まり」を感じている状況・場面にも多く出会います。変化の必要性は広く認識されつつありますが、今後キャリア開発のあり方を革新していく上では、実際の組織の取り組みにおいて、何が阻害要因となっているのかを考え、向き合う必要があるのではないでしょうか。

║ キャリアに関する古いメンタルモデルに基づく「恐れ」

 阻害要因の一つに、キャリア開発に関わる古いメンタルモデルとの対立が挙げられます。『学習する組織』(枝廣淳子他(訳)、英治出版、2011年)の著者ピーター・センゲ氏が言うように、人や組織が新しい見識を実行に移すことができない原因の多くは、新しい見識が、慣れ親しんだ考え方や行動に縛りつける無意識の固定観念(=メンタルモデル)と対立することにあります。

 働く個人はこれまで、「計画的キャリア開発」に基づき、組織に従うことで安定してポストを上り、安心して働くことができるという考えに慣れ親しんできました。「生成的キャリア開発」では、こうした組織での受け身の安定・安心を手放す必要があります。組織はこれまで、「計画的キャリア開発」に基づいて、経営ビジョン実現の手段として、育成や配置に関わる人材マネジメントをコントロールすることができました。「生成的キャリア開発」を支援していくには、組織の意向のみに基づいた人材のコントロールを手放す必要があります。「働く個人の安心・安定と組織の経営ビジョン実現は、計画的キャリア開発に基づくことで得られる」というような、人と組織に関する従来のメンタルモデルと向き合う必要があるのです。

 従来のキャリア開発のメンタルモデルが強固であればあるほど、生成的キャリア開発に向けた新たな取り組みは、組織内での恐れや反発を高め、結果的に取り組みにブレーキがかかります。人や組織に潜むメンタルモデルは、頭でわかれば変えられるといったものではなく、探求的な対話や内省的な振り返りを通して、認識を深め、腹落ちすることで徐々に変えていくものです。短期的に変化や成果を求めたり、一方的に変革を進めることは難しいでしょう。

║ 個人と組織、マネジャーの分断が生み出す「諦め」

 さらには、個人と組織の間にある分断が、自社での新たな取り組みへの諦めを生み出している可能性もあります。働く個人だけが、自らの想いで生成的なキャリア開発を進めようと取り組んだり、あるいは、組織やマネジャーだけが新たな人材マネジメントに転換しようとしても、職場で取り組めることには限界があり、変化を阻害します。

 たとえば、働く個人が、自分自身のキャリア・ビジョンに向けて職場で成長したいと思っていても、職場で担う業務や役割が、自分自身の実現したい成長にはつながっていないと感じている場面があるかもしれません。また、自身の望んでいない昇進・昇格を職場のマネジャーに期待されてしまったり、背景の説明もないまま、組織から一方的に自分の意向とは関係のないように思える部署に配属されたり、役割を任されるといったこともあります。自身のキャリア・ビジョンと実際の職場での業務や経験とのギャップがあり、行き詰まりを感じる場合には、個人は自分のキャリア・ビジョンを諦めるのか、退職するかという二択を迫られることになります。

 また、組織が新たな人材マネジメントへシフトし、仕組みを変えようと働きかけても、働く個人にその仕組みを生かしてキャリア開発を進めていけるようなマインドセットが育まれていなければ、仕組みは形骸化していきます。従来のキャリア観やメンタルモデルに慣れ親しんでいる場合には、働く人たちの中に意図せぬ解釈・理解が生まれてしまい、恐れや不信感が蔓延したり、予想外の人材流出といったこともあるでしょう。

 同様に、一人のマネジャーが、職場のメンバーの多様なキャリアを支援しようと努めても、メンバーや組織との共通理解がなければ、その実践には限界があります。
 こうした状況を鑑みるに、生成的なキャリア開発を実現するためには、個人・組織・マネジャーそれぞれを別々に捉えるだけではなく、三者のつながりや関係性にも焦点を当てる必要があるのではないでしょうか。

║ 変化を阻害する、従来の個人・組織・マネジャーの関係性

 こうした分断や諦めが起きる構造およびその中での個人・組織・マネジャーの関係性を、従来型の「計画的キャリア開発」の枠組みとして下図に整理してみました。この構造の特徴は、矢印が一方向的に向き、行き詰まっていることです。

従来型の枠組み(図4)

 組織は個人にポストとキャリア・パスを提示し、一方的に人事異動を行い、個人はそれに従ってポストを上っていくことでキャリアを築いてきました(図4①)。そのため、マネジャーは、個人が段階的なキャリア・パスを歩めるよう先導することや、メンバーである個人のロールモデルとなり、組織の考えや現状をもとに個人を説得することを期待されます(図4②)。そして、マネジャーと個人の間では、組織の段階的なキャリア・パスにあてはめた会話が行われていきます。(図4③)。

 こうした従来的な関係性がある中で、個人だけ、あるいは組織だけ、マネジャーだけが、それぞれ単独で新たな取り組みを進めようとしても限界があり、逆に従来のメンタルモデルをさらに強化したり、「自社では新たなキャリア開発の取り組みや施策は難しい」といった諦めの声を生み出しやすくなります。

3-2.個人と組織をつなぐアプローチ

 では、こうした構造から脱却し、個人・組織・マネジャーが共にメンタルモデルに向き合い、生成的キャリア開発を進めていける関係性を築くには、どのように取り組めばよいでしょうか。以下では、具体的なアプローチを考えるとともに、実現したい関係性のあり方について考えてみます。

║ 個人とマネジャーの「キャリア・カンバセーション」

 アプローチの一つは、メンバーとマネジャーによる豊かな「キャリア・カンバセーション」です。生成的キャリア開発を進めていくには、職場での日々の仕事を自身のキャリア・ビジョンにつなげて、経験や成長を育んでいくことが大切になります。

 そのためには、上方向への段階的キャリアを目指すことを前提にせず、自身の実現したい成長や取り組みたいチャレンジについて、マネジャーや職場の同僚と共有し、その支援ができる状態をつくっていくことが必要です。キャリア・ビジョンについて豊かに会話ができると、働く個人は日常的に自分自身の成長機会を組織で探していくことができます。

 従来においても、メンバーとマネジャー同士でのキャリアに関わる会話は、ある程度なされていたかもしれません。生成的キャリア開発を進めていくためには、具体的にどのようなキャリア・カンバセーションに取り組み、そこでのマネジャーの役割はどう変わる必要があるのでしょうか。ここでは『会話からはじまるキャリア開発』を参照し、著者ビバリー・ケイ氏とジュリー・ウィンクル・ジュリオーニ氏の考えを紹介します。

 従来的な枠組みにおいては、半年あるいは1年に1回程度の面談を行い、組織の上方向のポストへ長期的展望をもたせるような会話となる傾向がありました。そこではマネジャーがロールモデルとなり、自身の経験から答えをもってメンバーを導いてきました。

 生成的なキャリア開発を実現していくためには、短く頻繁に継続的に会話を行うことで職場の仕事とメンバーの実現したい成長をつなぎ、上・下・横・全方向へ多様なキャリア・ビジョンを描く支援していきます。たとえば、メンバーの将来的な希望やキャリア・ビジョンに耳を傾けながら、その実現に向けて、今取り組んでいる仕事からどんな学びを得られるとよいか、どんなチャレンジを行っていくことがメンバーにとってのキャリア・ビジョンにつながるかを共に考え、仕事への意味づけを丁寧に行えるようにしていきます。そこでのマネジャーの役目は、答えをもつ必要はなく、問いをもってメンバーの好奇心やインサイトを育んでいくことが大切になるでしょう。

キャリア・カンバセーションのあり方の変化(図5)※『会話からはじまるキャリア開発』を元に筆者が図で整理

 こうしたキャリア・カンバセーションは、個人と組織のビジョンをつないでいくとともに、働く個人が新たなチャレンジに踏み出すための安心感を生み出し、グロース・マインドセットや内発的動機も高めていきます。

║ マネジャーと組織の「人材共有ミーティング」

 個人とマネジャーの間に豊かな「キャリア・カンバセーション」を育むことに加えて、マネジャー間、そして組織全体においても豊かな対話を行っていくことが大切となります。
 たとえば、ヒューマンバリューがクライアントに行っている支援として、マネジャー同士が集って、自組織全体の人材育成やキャリア開発支援について話し合う対話の場を構築することが多くあります。私たちはそうした会議を「人材共有ミーティング」と呼んでいます。

 企業によってそのやり方や規模、位置づけは異なりますが、たとえば、評価結果の調整や各メンバーの評価付けの妥当性の確認だけでなく、各マネジャーが担当するメンバー一人ひとりが、どんな課題を抱えているのか、どんなキャリア・ビジョンをもっているのか、今後どんな経験を積んでいくと本人の成長につながるのか、そのためにどんな支援を行っていくことができるかといったことをマネジャー同士が対話し、組織的な育成やキャリア開発に結びつけていきます。会社によっては、トップ・マネジメントや人事も招き、会社の経営戦略や人事戦略を踏まえながら、そこで得られた情報を人材配置に生かしていくケースもあります。マネジャー自身もそうした場に参画することで、視野が広がったり、育成やキャリア開発支援への意識が高まったりします。

 こうした場をうまく構築していくことで、組織主導による一方向的で閉鎖的だった人員配置も、双方向・生成的なものへとシフトしていくことが可能となります。

║ 個人・組織・マネジャーによる共創のエコシステム

 このような対話に基づくアプローチは、上述したもの以外にも多様な機会があるかと思います。ここまでの具体的なアプローチも踏まえて、先ほど示した個人・組織・マネジャーの三者の関係性を、生成的なキャリア開発の枠組みとして再構成してみると、下図のように整理できるのではないでしょうか。

「生成的キャリア開発」を実現する枠組み(図6)

 個人が自身のキャリア・ビジョンに向けて成長していくために、個人とマネジャーは「キャリア・カンバセーション」をはじめとして、自身のキャリア・ビジョンと職場にある成長機会をつなげ、豊かな経験・成長を育んでいきます(図6①)。組織とマネジャーの間では、「人材共有ミーティング」のような場を活用することを通して、双方向の対話に基づく人材配置・育成方針を検討していき、個人と組織のビジョン・ニーズをつなげていきます(図6②)。そうすることで、組織と個人の間では、それぞれ多様なキャリア・ビジョンをもつ個人が、組織のビジョンにつなぎ合わせていき、組織は多様なキャリア・パターンを支援していくことができます。たとえば、多様な働き方やキャリアを柔軟に選択できるような人事制度やキャリアの仕組みを整えていったり、従来のキャリア開発研修も、固定的なキャリアゴールを描かせる計画的なものではなく、個人のマインドセットを柔軟にし、育んでいける生成的な学習機会へと再構築していくことが大切になるでしょう(図6③)。

 このように、個人・組織・マネジャーの三者が相互に関わり合うことで、生成的なキャリア開発が実現し、人々の多様なキャリア(成長や経験)を柔軟に育んでいくことができます。

 先に述べたように、メンタルモデルや関係性は、数回の研修で考え方がインストールされたり、新たな仕組みを導入するだけで、短期間で変えられるものではありません。こうした共創的関係性は、対話や関わり合いを通した相互依存のネットワークであり、少しずつ育んでいくものになるでしょう。言い換えると、「キャリア・カンバセーション」や「人材共有ミーティング」をはじめとした相互の関わり合いの場を通して、エコシステム(生態系)のように徐々に築いていくことが大切になるのではないでしょうか。

3-3.共創によるキャリア開発:Co-creation Career

 最後に、アプローチと関係性の変化を以下の図であらためて振り返り、根底にある職場でのキャリア開発のあり方の変化を考えていきます。
 従来の計画的キャリア開発では、組織が主導し、マネジャーと個人はそれに従っていくことでキャリア開発を進めていきました。そこでは、組織とマネジャーと個人の間に、常に主従関係がありました。働く一人ひとりが生成的キャリア開発を進めていくためには、個人・組織・マネジャーの三者は相互に関わり合っていくことが大切になります。すなわち、個人・組織・マネジャーの三者は共創的な関係性を築いていくことになります。

キャリア開発のアプローチと関係性の変化(図7)

変化の時代の中で生成的キャリア開発を進めていくためには、働く人たちのキャリア開発を、個人・組織・マネジャーで「共に創り出すもの」として捉えていくことが必要ではないでしょうか。私たちヒューマンバリューでは、働く職場での共創によって豊かな経験や成長を育んでいくキャリア開発のあり方を「Co-creation Career」と名づけ、今後も具体的な実践の可能性を探求していきたいと考えています。

4. 終わりに:Co-creation Careerのさらなる探求に向けて

 本稿では、「計画的キャリア開発」から「生成的キャリア開発」への変化について大きな潮流を整理し、組織で働く人々が「生成的キャリア開発」を進めていくためには何が大切になるのかを考えてきました。そこでは、個人や組織の変化だけに焦点を当てるだけでなく、個人・マネジャー・組織の関係性の枠組みに目を向け、共創的なキャリア開発のあり方(=Co-creation Career)について、論じました。

 今日のキャリア開発に関わる議論の一部では、「キャリア開発は個人のもの」であることが強調され、働く個人は自分自身の市場価値・専門性・スキルを高めることへ、組織は適合できる人材だけを選別する方向へ関心を向けるような、「個人」の枠組みに閉じた議論が非常に多いように筆者は感じています。

 しかしながら、ここまで論じてきたように、豊かな経験や成長の源泉の一つは、共に関わり合う豊かな関係性にあります。もし、働く個人が自分だけでできることにフォーカスしたり、自分の内側に閉じて学習や成長を試みれば、得られる経験に限界をつくることになります。また、組織がキャリア開発を個人の責任にしたり、個人のマインドセットの変化だけに焦点を当てることは、社員の可能性を小さく限定し、離職を傍観し、価値創出の基盤となるエンゲージメントやカルチャーを失うことになります。キャリア開発は従来のように「組織のもの」でもなければ、「個人のもの」でもなく、「共に生かし合う関係性」の中で進めていくことが大切ではないでしょうか。

 私たちヒューマンバリューも、メンバー一人ひとりのキャリア・ビジョンに共に向き合い、共創的なキャリア開発の実践を重ねるプロセスの中にあります。筆者は今年から、ヒューマンバリューでの仕事を続けながらも、自身の新たなチャレンジを始めるために、週4日勤務に働き方を変えて、パラレルキャリアに踏み出すことにしました。この文章を推敲している上田さんは、大手の製造業人事部で20年以上勤務していましたが、大学院への進学を経て、約2年前にヒューマンバリューに入社し、セカンドキャリアとして新たなチャレンジに取り組んでいます。こうした一人ひとりの多様なキャリア・ビジョンに向けて、共に働く仲間たちと日々どう支え合うのか、多様な働き方の中で価値をどう共創できるのか、対話を重ねながら、組織としてもチャレンジを続けているところです。

 一方で、自社だけでなく、今日の日本企業の取り組み事例による検証や具体的実践の可能性に関する検討は、私たちの大きな課題です。人と組織に向き合い実践する方々と今後もさらに対話させていただき、今日のキャリア開発について、さらなる探求を続けていけたらと思っています。

<参考文献>
『会話からはじめるキャリア開発』ビバリー・ケイ&ジュリー・ウィンクル・ジュリオーニ著、佐野シヴァリエ有香訳、ヒューマンバリュー、2020年
『学習する組織――システム思考で未来を創造する』ピーター・M・センゲ著、枝廣 淳子訳 , 小田 理一郎訳, 中小路 佳代子訳、英治出版、2011年
『「働く居場所」の作り方‐あなたのキャリア相談室』花田 光世著、日本経済新聞出版社、2013年
『21世紀のキャリア論―想定外変化と専門性細分化深化の時代のキャリア』高橋 俊介著、東洋経済新報社、2012年

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私たちは人・組織・社会によりそいながらより良い社会を実現するための研究活動、人や企業文化の変革支援を行っています。